【全曲徹底解説】リアーナのスーパーボウル ハーフタイムショー:世界は、リアーナを愛している

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Photo by Kevin Mazur/Getty Images for Roc Nation

日本時間2023年2月13日に行われ、リアーナ(Rihanna)が出演した第57回NFLスーパーボウルのハーフタイムショー。今年からApple Musicが初のスポンサーとなり「Apple Music Super Bowl Halftime Show」という名称となったこのショーについて、ライター/翻訳家の池城美菜子さんに寄稿いただきました。

パフォーマンスはApple MusicYouTubeFacebookにて全編公開中。

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世界は、リアーナを愛している。アメリカ中が日本の元旦状態になるNFLの決勝、スーパーボウル。第57回目は、ラスヴェガスからもロサンゼルスからも車で約5時間のアリゾナ州フェニックスのステート・ファーム・スタジアムで行われた。対戦カードはカンザスシティ・チーフスとフィラデルフィア・イーグルス。キックオフの前に、R&Bの巨匠、ベイビーフェイスが星条旗の柄のギターを手に、「America The Beautiful」のアコースティック・ヴァージョンを披露。木曜日の記者会見で「どちらのチームを応援しますか?」と聞かれ、「リアーナ!」と答えたおちゃめな大御所である。国歌を歌ったのは、先週のグラミー賞における、スティーヴィー・ワンダーとの「Higher Ground」のパフォーマンスも記憶に新しいカントリーのクリス・ステイプルトンだった。

ゲームの勝敗と同じくらい、話題と注目を集めたのが2016年の『ANTI』以来、7年間新作をリリースしていないリアーナだ。今年からスポンサーがペプシからApple Musicに交代し、名前もApple Music Super Bowl Halftime Showになった。フットボールのルールはわからなくても(筆者だ)、ハーフタイムショーの13分を心待ちにしている世界中の音楽ファンのために、ティーザー映像や記者会見など音楽プラットフォームとしての強みを見せた。

間が空いているとはいえ、メガヒットの数々を放ってきたリアーナのこと、どの曲をパフォーマンスするのか、セットリストに注目が集まった。記者会見で10代のファンに「一番好きなアルバムは?」と聞かれ、「レコーディング作業が楽しかったのは『Loud』と「Diamonds」(この曲が収録されている『Unapologetic』と言いたかったのだろう)。アルバムとして好きなのは『ANTI』」と答えて、大きなヒントをドロップ。当人の衣装は真っ赤なジャンプスーツで、大勢のダンサーは真っ白いフーディーとパンツ。地上に赤く光るステージと、上下に移動するプレート型のフローティング・ステージを配した立体的なセットは、赤と白のアートワークだった『ANTI』の世界観の延長線上だ。2016年の『ANTI World Tour』のミニマムでスタイリッシュなセットの拡大版とも言える。

パフォーマンスを見ていこう。

 

Bitch Better Have My Money

オープニングは2015年のシングル、別名「この野郎、金返せ」ソング。会計士に収益を持ち逃げされた経験からできた曲だ。7年強が経った現在、世界的な物価高や重税に怒りを感じる人々の—私たちの—のアンセムとなった。

じつは、終わった直後から「リアーナのお腹、ぽっこりしていない?」疑惑が噴出した。リアーナの関係者は、終演後早々と妊娠を認めた。登場した瞬間に軽くお腹を撫で、昨年、配信を含めて2億人の視聴者数を突破したスーパーボウルで第2の懐妊を報告をしたのだ。これは、2011年のMTVビデオ・ミュージック・アワーズ(以下、VMA’s)のパフォーマンスでブルー・アイヴィーちゃんを妊娠しているのを示したビヨンセと同じだ。

Where Have You Been 〜 Only Girl (In The World)

6作目『Talk That Talk』の「Where Have You Been」と、5作目『Loud』の「Only Girl (In The World)」の、もっとも盛り上がるコーラスを続けて。前者の「いままでどこにいたの?」というタイトルが、いまのファンの心情と重なるが、運命の人に出会ったときのセリフである。「世界で私以外の女性がいないみたいに愛して」とのコーラスは、絶対ディーヴァとしての勝利宣言に響いた。

We Found Love

最初の花火が上がり、カルヴィン・ハリスが作った『Talk That Talk』の代表曲「We Found Love」へ。今回のステージは、テレビやモニターの前の視聴者を意識したカメラ・アングルと、実際にスタジアムにいる観客を飽きさせないステージ・チェンジの両方を同時に高いレベルで行った点がすごい。白いフードを被ったダンサーたちはゲームのキャラクターのようにも映り、階段状に並ぶステージはアメリカでも2021年にヒットした韓国ドラマ、『イカゲーム』を彷彿とさせた。

https://twitter.com/NFLonFOX/status/1624944221475213312

Rude Boy

4作目『Rated R』からのヒット。サードの『Good Girl Gone Bad』で一旦、削ぎ落としたカリビアンの要素を取り戻し、より攻めたレゲエを作ってヒットさせた。テンポを落とした正統派ダンスホールであるせいか、ダンスフロアでもまったく色褪せない。だが、レゲエのダンスではなく、マス・ゲームのようなお揃いの振り付けだった。妊娠中で激しく踊れないリアーナに合わせているのだろうが、結果的にスタイリッシュだった。

本来、リアーナはやる気がなさそうなまま、めちゃくちゃ上手に踊る人である。最後の股倉をつかむジェスチャーはマイケル・ジャクソンへのオマージュ。さらにお行儀の悪い動きを加えたのがリアーナらしい。

Work

『ANTI』のドレイクを招いた大ヒット曲。ドレイクも前年にダンスホール・レゲエを取り入れた「Hotline Bling」をヒットさせていたので、相乗効果が高かった。ふたりは、リアーナのデビュー時からの知り合いだ。デートをしている噂が出たり、ドレイクが曲やインタビューでしょっちゅうリアーナの名前を出したり、極めつけで2016年のMTVのVMA’sでみんなの前で告白めいたことをしたり。その都度、軽くいなしてきたリアーナだが、いまは仲があまり良くないらしい。だが、この曲や「What’s My Name?」(2010)、ドレイクの「Take Care」(2012)での相性の良さは抜群だ。ダンサーたちが腰を落としたり、突き上げたりするレゲエ・ダンスがセクシー。

Wild Thoughts

ブライソン・テイラーとリアーナが歌った、DJキャレドの『Grateful』(2017)からのシングル。フージーズのワイクリフ・ジョンと腹心のジェンリー“ワンダ”デュプレスが作った、サンタナの1999年の大ヒット「Maria Maria」を大胆に使っているところがポイント。この曲が収録された『Super Natural』は2000年にグラミー賞で最優秀アルバムを含めて9部門を受賞している。ラテン調のギターが肝であり、バルバドス人のリアーナ、ハイチ人のワイクリフ、メキシコ系のサンタナ、そしてパレスチナ系のDJキャレドのアメリカ音楽への貢献を数秒間で示していた。また、今回のステージでもギターを担当していた、ヌーノ・ベッテンコートはポルトガル系である。

https://twitter.com/NFL/status/1624944985790627840

Pour It Up

『Unapologetic』のサード・シングル。2012年の時点でヒップホップのトラップのビートと、ストリップ・カルチャーを大胆に取り入れて、保守層から少しひんしゅくを買った曲である。11年後、ポール・ダンスを男性ダンサー陣と一緒に踊ってジェンダーの流動性を表現し、拝金主義と言われた歌詞はK-Popでも当たり前のように歌われている。リアーナの先進性を端的に伝えたセクションだろう。

All of the Lights

リアーナは、コーラスを担当した曲をビッグ・ヒットに導く客演クィーンでもある。エミネム「Love The Way You Lie」(2010)と「Run This Town」(2009)のどちらか、もしくは両方がセットリストに入るだろう、と予想していたネイヴィー(リアーナのファンダム)は多かった。そこをあえて、大問題児、元カニエ・ウエストことYeの存在をはっきり意識させるセクションを作ったのは、さすが怖いもの知らず。

「All of the Lights」は元カニエの『My Beautiful Dark Twisted Fantasy』の収録曲。リアーナとキッド・カディがクレジットされているが、じつはアルバム・バージョンのコーラスには、ジョン・レジェンドやアリシア・キーズ、ドレイク、エルトン・ジョンなど多くのアーティストが参加している。

カニエの曲をパフォームした理由について、ベイビーズ・ファーザーのエイサップ・ロッキーがスウェーデンでしつこいファンに手を出して逮捕された際、元カニエがトランプ元大統領に働きかけたことを挙げる媒体を見かけた。だが、タイラー・ザ・クリエイターやリル・ヨッティたちも、ロッキーが釈放されるまでスウェーデンでパフォーマンスしないと公言するなど、刑の重さが話題になった。世論が高まるなか、トランプ元大統領の介入はマイナスに働くかも、とロッキーがコメントしたので、あまり関係ないはずだ。

それよりも、今回の上下するフローティング・ステージが最初に大々的に登場したのが、カニエの「The Saint Pablo Tour」(2016)であったのが大きいと思う。ポール・マッカートニーを加えて「FourFiveSeconds」(2015)を作るなど、もともとリアーナとカニエは仲がいいのだ。ちなみに、私はリアーナの真っ赤なロングジャケットの素材で、Yeezy Gapがバレンシアガと作ったダウンジャケットを思い出した。

Run This Town

中央のステージに待ち構えたバンドに合流して、ジェイ・Zの『The Blueprint 3』のセカンド・シングル「Run This Town」になだれ込む。元カニエ・ウェストと、彼の師匠筋のノーIDのプロデュース曲。このハーフタイムショーは、ジェイ・Z率いるロック・ネイションのプロダクションだ。2010年後半、分断が激しくなったアメリカで、NFLは人種問題への姿勢を巡って炎上した。リアーナも含めて大物アーティストが出演を断る時期があり、それを乗り越えるためにロック・ネイションを起用したのだ。

2003年、バルバドスで高校を出たばかりだったリアーナの才能を信じて契約したのが、当時デフ・ジャムの社長だったジェイ・Zである。産後3ヶ月でオファーを受けて散々、迷ったと話していたリアーナ。これは兄貴分への恩返しであり、「街を牛耳る(Run This Town)」どころか、彼らがアメリカのエンターテイメント界を牛耳っている宣言でもある。

Umbrella

花火が上がり、ロックの轟音とともに大団円へ。リアーナの大転換点となった2007年の大ヒット。「いつでも私の傘に入っていいよ」と歌う、友情がテーマの曲である。ここまでスタイリッシュに作り込んでいたらその隙がなさそうだな、と思いながら、ジェイ・Zのゲスト出演を心待ちにしてしまった。が、黒幕は出てこなかった。そういえば、グラミー賞でも嫁のビヨンセにスポットライトが当たるときは、サポートに徹していた。

Diamonds

最大のヒット曲。コンサートの最後もこの曲だ。リアーナがひとり乗った、ワイヤーで吊ったフローティング・ステージがせり上がり、かなりの高さの地点でストップ。そこでコーラスの「ダイヤモンドのように輝いて」と熱唱するリーリーは、神々しかった。

#FentyBowlとのハッシュタグがSNSを席巻し、リアーナが真のアイコンであることが証明された13分間。途中で自身のコスメ・ライン、フェンティ・ビューティーのパフを出して軽く化粧直しをしたり、直前にNFLのロゴが入った製品や新しいパフュームを発売したりと実業家としても抜け目のないところを見せた。

以前から「(ハーフタイムショーと)新作は別物」と発言してもいた。9枚目のアルバムは難しくても新曲を披露するのでは、と期待したファンは多かった。だが、ふたり目の子どもがお腹にいる状態であの高さまで昇ったのだから、もう十分だ。この映像をくり返し観ながら、気長に朗報を待つことにしよう。

Written By 池城美菜子(noteはこちら


Setlist : Rihanna at Super Bowl LVII

1. Bitch Better Have My Money
2. Where Have You Been
3. Only Girl (In The World)
4. We Found Love
5. Rude Boy
6. Work
7. Wild Thoughts (DJ Khaled)
8. Pour It Up
9. All Of The Lights (Kanye West)
10. Run This Town (JAY-Z)
11. Umbrella
12. Diamonds



 

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