Join us

Columns

10周年となるThe 1975のデビュー・アルバム『The 1975』。当時の評価やマシューが語ったこと

Published on

The 1975のデビュー・アルバム『The 1975』の発売10周年記念盤が、4LP、2CD、2LP、カセットの4形態で2023年9月1日に発売されることが発表となった。それぞれの収録内容は以下の通り。

4LP:オリジナルの『The 1975』
『Facedown』『Sex』『Music For Cars』『IV』4枚のEP

2CD:オリジナルの『The 1975』
今年2月1日にマンチェスターのGorillaで行ったアルバム再現ライヴの音源

2LPカセット:オリジナルの『The 1975』

このアルバムについて、音楽ライター/ジャーナリストとして活躍されている粉川しのさんに寄稿いただきました。

<関連記事>
The 1975がリスナーを魅了する5つの理由
The 1975、過去のインタビューからの発言集
マシューが語る、5作目の新作『Being Funny In A Foreign Language』


 

The 1975のデビュー・アルバム『The 1975』の10周年記念盤、『The 1975 (10th Anniversary)』がいよいよリリースされる。同リイシューの4枚組アナログ盤には『The 1975』の前後、2012年から2013年にかけてリリースされた4枚のEP(『Facedown』『Sex』『Music For Cars』『IV』)からの音源が全て収録され、The 1975の黎明期の風景が改めて完全なかたちで浮かび上がってくることになるだろう。

もちろん、周年記念のリイシューを行うこと自体は全く珍しくない。『The 1975』の10周年リイシューも、想定の範囲内だったファンも多いだろう。また、The 1975が今年のレディング・フェスティバルで行ったような、過去のアルバムを完全再現するライヴもここ十年で人気の企画として定着した。

The 1975 – Robbers (Reading Festival 2023)

 

単なる回顧作ではない10周年アルバム

しかし、『The 1975』10周年における彼らのアクションは、そうしたレトロスペクティブだけに終わらない別の意図を感じさせるものでもある。The 1975の『The 1975 (10th Anniversary)』は、10年の歳月をかけた「答え合わせ」のようなリリースになるのではないか。そう思うのだ。

今思えば、The 1975は昨年から『The 1975』の10周年に向けて周到な準備をしていた。前作『Notes on a Conditional Form(仮定形に関する注釈)』で一つの時代(Music for Cars)の終わりを宣言し、『Being Funny In A Foreign Language(外国語での言葉遊び)』は「再び原点のモノクロに戻り、新たな時代を始める」一作だとマシュー・ヒーリーは語った。

ここで彼が言うモノクロが、『The 1975』と『Being Funny In A Foreign Language』のアルバム・ジャケットに共通するテーマであるのは言うまでもない。また、今年2月には地元マンチェスターのライヴハウスGorillaでいち早く『The 1975』の完全再現ライヴを行なった彼らだったが、当日のパフォーマンスはこれまたモノクロで撮影され、現在ショート動画として定期的に公開されている。

The City Live from Gorilla, Manchester 2023 #the1975

 

楽曲「About You」の存在

『The 1975』10周年に向けて最も周到で、前述の「答え合わせ」の意図を感じさせたのが、『Being Funny In A Foreign Language』に収録された「About You」の存在だろう。「About You」は今、The 1975の最も愛される曲となっていて、Spotifyで彼らの人気曲のトップをずっと維持している。

The 1975 – About You Live from Madison Square Garden | Amazon Music

「About You」がこれほどファンに支持される大きな理由の一つが、同曲が『The 1975』収録の「Robbers」の続編と位置付けられるナンバーであることだろう。直近ツアーでは「About You」〜「Robbers」が常に中盤のハイライトとしてプレイされており、この2曲を用いて現在と過去を改めて接続し、自分たちの10年間に滑らかな循環をもたらそうとする彼らの意思が見て取れる。

かつて刹那の青春映画(マシュー曰く「『俺たちに明日はない』もしくは『トゥルー・ロマンス』のイメージ」)のワンシーンに思えた「Robbers」が、「About You」によって普遍的な価値を与えられていくその様は、The 1975と彼らのファンが2013年の自分たちが「正しかった」ことを共に噛み締める風景でもある。

そしてそれは、10年前には正しく評価されなかった『The 1975』の本当の価値を、今こそ取り戻すムードだとも言えないだろうか。

The 1975 – Robbers (Official Video) (Explicit)

 

2013年当時のThe 1975の評価

2013年のThe 1975は、当時のUKロックの本流からは大きく外れた場所でポツンと佇んでいたバンドだ。筆者が初めて彼らを知ったのは2012年の『Sex』EPだったが、LCDサウンドシステムの「All My Friends」をあからさまに参照した「Sex」が、当時は既に下火になりつつあったエモの躁鬱状態を憑依させてドライヴしていく様に、「これは何かポップ・アート的なパスティーシュの試みなのか? それとも売れ線ポップ・ロックのアイロニカルなパロディー?」と目を白黒させつつ、とにかくヘンテコで面白いバンドが出てきた(しかもマンチェスターから)と思ったのを記憶している。

言うまでもなく、彼らは確信犯だった。『The 1975』が「The 1975」のアンビエントで幕を開け、「The City」のインダストリアル、「Chocolate」のヒップホップのバックビート……と一曲毎に気まぐれな表情を覗かせつつも、最良のポップ・ソングのフォルムに速やかに集約していくしたたかさも、マイケル・ジャクソンやプリンスから頂戴したソウルポップや、デペッシュ・モードのイントロをそのままやったようなニューウェイヴ、ジョン・ヒューズの青春映画をインスピレーションとしてあげる80Sサウンドetc.、その全てが恥知らずなほどキャッチーなことも、当時のインディー・ロックのタブーを踏み抜いていくものだったし、彼らはそれこそが今ロック・バンドがやるべきものだと確信した上で、全力で踏み抜いていたからだ。

2013年のサマーソニックで初来日を果たしたThe 1975に、筆者はインタビューする機会があった。そこで「“Girls”はあまりにもシンディー・ローパーの“Girls Just Want to Have Fun”に似すぎでは?」と聞くと、「当たり! だってあの曲を参考にしたんだから」としれっとのたまう彼らに、呆れを通り越して感心してしまったのを思い出す。

The 1975 – Girls (Official Video)

ただ、マシューは「他のアーティストからの影響を最大限もらえるだけもらって、曲を書く。そしてそれを繰り返していけば、最終的には独自の音楽を生み出すことができる」とも言っていて、影響源(参照元)を開けっぴろげに語りながらも「The 1975サウンド」としか言いようがない名曲の数々を生み出してきた彼らのマナーは、10年前から不変であることが伺える。

何はともあれそんな『The 1975』であったから、当時のメディアの反応はやはり芳しくはなかった。英高級紙Guardianのようにポップ・アルバムとして順当に評価したメディアもあったが、「アルゴリズムで生成したようなポップ・ソングばかり」と評したDIYを筆頭に、ことインディー・ロック系のメディアに関しては辛口レビューが多かった。

The 1975 – Heart Out (Official Video)

NMEはThe 1975の存在自体をほとんどスルーしていたし、Pitchforkも「ポップ・レコードのようなプロダクションとありきたりな曲」と手厳しい点数をつけた。なお、後年にNMEはセカンド・アルバム『i like it when you sleep, for you are so beautiful yet so unaware of it(君が寝てる姿が好きなんだ。なぜなら君はとても美しいのにそれに全く気がついていないから。)』を2016年の年間ベスト・アルバムに、Pitchforkはサード・アルバム『A Brief Inquiry into Online Relationships(ネット上の人間関係についての簡単な調査)』収録の「Love It If We Made It」を2018年のベスト・ソングに選出している。見事な手のひら返しというよりも、インディー・メディアの認識がようやく彼らに、そして時代に追いついたということだろう。

ちなみにイギリスでは『The 1975』の翌週にアークティック・モンキーズの『AM』がリリースされ、セールス&評価共に2013年最高のUKロック・アルバムとしての地位を瞬く間に確定、The 1975のデビュー・アルバムの話題はメディア上からかき消された。後にマシューは「当時のメディアは皆アークティック・モンキーズみたいな“革ジャン・ロック”に夢中で、僕らには全く興味がなかった」と述懐している。

The 1975 – Settle Down (Official Video)

 

動画共有サイトと音楽ストリーミングの時代

しかし、そんなメディアや一部のインディー・リスナーからの冷遇とは別のところで、『The 1975』は着実に新たなリスナーを取り込みつつあった。それは2010年代前半という時代性と無関係ではない。2013年当時、メディアやレコード会社の影響力が急速に低下し、新たなDIYの道がバンドに拓かれつつあった(The 1975も自ら「DIRTY HIT」を立ち上げている)。

ダウンロードとMySpaceの時代は終わり、動画共有サイトと音楽ストリーミングの時代が到来しつつあった。The 1975はそんな端境期に登場し、今後10年の趨勢を的確に読み取って勝ちにベットできたバンドだった。音楽体験の主軸がストリーミングに移り変わったことで2010年代はジャンルの解体が加速し、ポップ・ミュージックの文脈はぶつ切りにされていくことになったが、その曖昧な領域の誕生をいち早く察知したバンドがThe 1975であり、見事に活写した「ロック・アルバム」が『The 1975』であったと今ならわかるだろう。

例えば、「Sex」のMVには、マイケル・ジャクソンやホイットニー・ヒューストンからトーキング・ヘッズにブラー、さらにはシガー・ロスまで、旧来のポップ・ミュージックの文脈ではおよそ交わらないアーティストの写真やポスターがペタペタ貼られた部屋が登場する。当時は強いメッセージ性を孕んでいたそれは、マイケル・ジャクソンとシガー・ロスを当たり前に並列で聴いている2020年代の私たちからすると、特に変わった光景には見えないのではないか。

The 1975 – Sex [EP Version]

 

『The 1975』の歌詞世界

The 1975がポップ・ミュージックの端境期の曖昧さを明確に慣らしたように、『The 1975』の歌詞もまた2010年代初頭の若者たちの、思春期の始まりからインターネットがあった最初の世代である彼らの気分を克明に刻みつけたものになっている。

ロック・アルバムのお決まりであるセックスとドラッグを背景としながらも、『The 1975』の主人公たちは社会に反抗するにはシニカルで、なぜかセックスで孤独を深めた。人と簡単に繋がって世渡り上手なようでいて、「君」の不確かな温もりを前にどうしようもなくナイーヴだった。そんな『The 1975』の歌詞について、マシュー・ヒーリーは「ポジティブでもネガティブでもない、ただ正直なだけ」と語った。

『The 1975』が今、自分たちのアンビバレントな青春をTumblrにスクラップしてきた世代にとっての聖典とみなされているのも、同作が彼らの当時抱えていた曖昧な気分を整理することなく、正直に曝け出したアルバムだったからではないか。

The 1975 (10 Year Anniversary) will be released September 1st 2023. #the1975

 

2020年にマシューが語った『The 1975』

マシューは2020年のインタビューで「今振り返って、『The 1975』が体現していた2010年代の時代性とは何だったと思うか?」と訊かれ、「カルチャーが自分自身を参照し始めて、超自己言及的になってきた時代」だと答えた。

「ポップ・カルチャーは常に人々の持っていた情報の反映だったわけだけど、あの時代に誰もがあらゆる情報に無尽蔵にアクセスできるようになった。インターネットが全てを変えたんだよ。そうなる60年代、70年代、80年代にあったようなポップ・カルチャーの明確な切れ目はもはや生まれないっていう」

彼の言う超自己言及的なポップ・カルチャーの時代は今も続いている。2023年に聴く『The 1975』が予言のように聞こえるのは、それゆえかもしれない。

Written by 粉川しの



The 1975『The 1975 (10th Anniversary)』
2023年9月1日発売
4LP / 2CD / 2LP / カセット


外国語での言葉遊び【来日記念盤】The 1975『Being Funny in a Foreign Language』[来日記念盤]
2023年4月14日発売
CD+Goods
iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music



 

Share this story
Share
日本版uDiscoverSNSをフォローして最新情報をGET!!

uDiscover store

Click to comment

Leave a Reply

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

Don't Miss