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ポール・モーリア、今年100周年を迎えたフランスを代表するアーティストの軌跡や魅力とは

「オリーブの首飾り(El Bimbo)」や「恋はみずいろ(Love is Blue / L’amour est bleu」など、今でも日本で愛される楽曲をリリースしたイージーリスニング界のトップに君臨する音楽家、ポール・モーリアが今年生誕100周年となった(2025年3月4日がちょうど100年の誕生日)。
本人は2006年に81歳で亡くなってしまったが、今年は生誕100周年を記念して7月と8月に、東京国際フォーラム・ホールAで3回、大阪フェスティバルホールにてポール・モーリア “ラヴ・サウンズ” オーケストラによるコンサートが開催され、ソールドアウトとなる盛り上がりを記録している。
この100周年の記念して、ポール・モーリアの魅力について日本公式ファンクラブの代表・小渕隆志さんに寄稿いただきました。
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2025年は、ポール・モーリア生誕100周年記念
2025年は、全世界のイージー・リスニング界を席巻し、日本で“ラヴ・サウンズ”の一大ブームを巻き起こしたフランスの音楽家、ポール・モーリアが生誕100周年を迎えたメモリアルな年である。彼が手掛けた作品は1,000曲をはるかに超え、世界中に愛される名曲を多数残し、今でも人々のこころを魅了し続けており、その音楽的功績と偉大さは計り知れない。その祝年に日本では『ポール・モーリア生誕100周年記念プロジェクト2025』が始動し、2大イベントとして、ファン待望のコンサートと本記念CDの制作が実現した。
このビッグ・プロジェクトに際し70年代にキョードー東京とレコード会社によるタイアップで展開された “LOVE SOUNDS” の統一ロゴを再び復活させることになり、日本で「ポール・モーリア“ラヴ・サウンズ”オーケストラ(PAUL MAURIAT “LOVE SOUNDS” ORCHESTRA)」が結成され、世界で唯一のオリジナル・スコアによる公式のガラ・コンサートが開催された。そして、同時に構想から2年、この生誕100周年記念のベスト・アルバムCDとして『ポール・モーリア/夢のラヴ・サウンズ』がリリースされた。
ポール・モーリアの生涯
ポール・モーリアは、1925年の3月4日に南仏マルセイユで生まれ、4歳からピアノを本格的に習い、16歳でマルセイユ音楽院を首席にて卒業し、地元で18歳の時にマルセイユのダンス・ホールの楽団のピアニスト兼編曲家としてプロ・デビュー。その後、パリで活躍中の仏歌手達の編曲を担当しキャリアを積み重ねていく。
1965年には“ポール・モーリア・グランド・オーケストラ”を結成。1968年に「恋はみずいろ」が全米ヒット・チャート5週連続第1位を獲得し、世界的に有名なアーティストとなった。1969年より日本公演を開始して約30年間にわたって22度来日、約870回の公演で約200万人を動員する偉業を成し遂げ、その間に「蒼いノクターン」「エーゲ海の真珠」「涙のトッカータ」「オリーブの首飾り」等の数々のヒット曲を世に放っていく。1998年にステージから引退、2006年11月3日、別荘のある南仏ペルピニャンにて逝去。音楽に捧げた81年の生涯だった。
ポール・モーリアがファンを魅了し続けた理由は?
ポール・モーリアが名声を博すきっかけとなったのは、そのオリジナリティが発揮され大ヒットした「恋はみずいろ」であり、以降「チェンバロ」と「ピアノ」をユニゾンにしてメロディを煌びやかに奏でて、様々な楽器を駆使するとともにクラシカルなストリングスにエコーを効かせて透明感ある響きを生み出し、ロック・ビート等のリズム・セクションを前面に出しながら、強力なブラス・セクション(ホーン・セクション)のアクセントを加える独自のスタイルを確立させていった。
ポール・モーリアは、自分のスタイルを堅持しながらも常に新しいサウンドを求めて時々の流行を取り入れるなど様々な音楽的な試みを果敢にチャレンジして有言実行してきた。作曲家、編曲家、指揮者、ピアニスト等までこなすマルチな音楽家というだけではなく、サウンド・デザイナーやエンターテイナーとしての才能にも溢れた希代なアーティストであった。
特に、レコーディングに関してポールはスタジオ・ミキシングの技術者としての顔を合わせ持っていた。レコード制作には自らがミキシングに必ず携わり、サウンド・エンジニアとともにステレオや録音技術を巧妙に活用し、各パート別のマルチ・トラック・レコーディングを細かく行い、楽器ごとの特色をより鮮明にさせながら繊細な音に仕立て、レコード芸術としての作品を数々創作してきた。
そして、同じ曲でもコンサートでは新たなアレンジを施し、公演回数を重ねていくごとにアレンジを変えて進化させていった。さらなるショー・アップを図るため、演奏には多様な楽器を加え、ゲストやソリストをフィーチャーしてサウンドや演出内容をがらりと変えてファンを決して飽きさせない工夫を施し、多彩なサウンドを提供し続けてくれた。
おかげでファンは公演の度に一味違ったポール・モーリア・サウンドに出会えるという楽しみを味わえた訳である。これはアレンジャー(編曲者)としての豊かな感性と才能はもちろんのこと、観客を楽しませたいというサービス精神からのモーリア流エンターテインメントのこだわりだったのかもしれない。
その上、何よりファンを大切にし、来日公演のツアーの合間にファンとのミーティングを行い、サウンドや選曲などについての意見を求め、それを自分の音楽に反映させていった。この、音楽に対する熱意や真心が、ファンを魅了し続けてきた最大の理由だと思う。
ポール・モーリア“ラヴ・サウンズ”オーケストラ公演について
この度の日本のトップ・ミュージシャンによる「ポール・モーリア“ラヴ・サウンズ”オーケストラ(PAUL MAURIAT “LOVE SOUNDS” ORCHESTRA)」は予想をはるかに超え、期待以上の演奏を披露してくれた。
タクトを引き継いだ次世代を代表する新鋭のマエストロ佐々木新平氏はポール・モーリアが当時、実際に使用していたステージ衣装を着用し、ポール・モーリアを彷彿させるスリムなスタイルとエレガントな指揮によって、ポール・モーリアの華麗なる“ラヴ・サウンズ”をステージで若々しく鮮やかに蘇らせてくれた。ポール・モーリアがステージから引退後の2000年以降のコンサートで、これだけ観衆に感涙を呼んだ演奏はなかったのではないだろうか。
オープニングから一気に時計の針が戻り、映画音楽からフレンチ・ポップス、シャンソンの名曲など懐かしのナンバーから6大ヒット曲、アンコールの「オリーブの首飾り」の演奏に至るまで往年のファンは皆、当時の想い出が蘇ったのであろう、感極まって終始涙していた。それはオリジナル・スコアに忠実な演奏によって、かつてポール・モーリア自身が指揮していた頃と同じテンポやサウンドに再会できたからかもしれない。
中でも心沸き立つ圧巻の演奏であった「剣の舞」や「ハンガリー舞曲第5番」はその典型であった。そして日本人ミュージシャンがポール・モーリアのスコアに対して真摯に向き合い、1曲1曲を大切に心のこもった演奏を繰り広げ、かつ“楽しそうに演奏する喜び”がストレートに観衆へ伝わったことも、その理由の一つだ。
またポールが来日していた頃からの舞台監督がミュージシャンのステージ衣装から舞台となる雛壇、バックステージを彩る装飾に至るまで大切に保管し、16年ぶりにこの度のステージで再現したことが司会から紹介されると会場からは懐かしさとともに拍手と歓声が上がった。これらの演出とともにポール・モーリアの音楽スピリッツが時を超え、観衆の心を強く揺さぶる感動の公演となったのではないかと確信する。
ベスト・アルバム企画『ポール・モーリア/夢のラヴ・サウンズ』について
この度の記念ベスト・アルバムCDのテーマは「もしポール・モーリアが今、来日公演を行うとしたら、どんな演目になるだろう?」であり、本アルバムは大勢のファンからの意見や熱い要望を考慮した上で、ポール・モーリアが1970年代~1990年代に日本公演で取り上げた新旧の名演を中心に編集されている。
過去のヒット曲と貴重な音源等と共に“夢の公演”を2枚のディスクに収録することになった。ボーナス・トラックには、1993年にポールが夕暮れの虹から着想を得て作曲した「レイン・アンド・レインボー(ロング・ヴァージョン)」と1975年にポール・モーリアのスタジオにおけるサウンド・デザイナーたる音楽制作の過程が、ポールとサウンド・エンジニアのドミニク・ポンス達との語りで分かる「ラブ・サウンズの誕生/愛は夢の中に」が収録された。
特に「レイン・アンド・レインボー(ロング・ヴァージョン)」はファンの間では“幻の音源”と言われていたが、ポールが某ファンに託したとされるDATが日本で発見され、世界初リリースとなった。殊に曲の配列は工夫を凝らし、曲奏の静と動のものを交互に並べ抑揚をつけて全体を通じて聴くと、まるで音楽によるドラマが繰り広げられるような“起承転結”の構成となるポール・モーリアのコンサート・スタイルを踏襲しており、あたかもポール・モーリア本人が選曲、監修してプロデュースしたのではないかと思えるライヴの臨場感を味わえる内容となっている。これらの音源を通じてポール・モーリアがいかに新しいサウンドを追求していたかがダイレクトに伝わるに違いない。
ブックレットには本CD収録トラックの日本盤シングル・ジャケットや1986年の来日公演以降のバックステージ・パスの写真の全公演分が掲載されている。そしてディスク・ホルダーには「恋はみずいろ」の日本版シングルの盤面を再現した豪華仕様で懐かしさとともにファン泣かせのアルバムが出来上がり、思わず感嘆の声を上げる方もきっと多いはずである。
本生誕100周年の機会に、ポール・モーリアの音楽財産の素晴らしさが再認識され、伝説となって次世代に継承されていくとともに、この“夢のラヴ・サウンズ”がこれからもワールド・ワイドに躍進していくことを大いに期待したい。“LOVE SOUNDS” Forever and ever!!
Written By 小渕 隆志

2025年6月25日発売
CD
- フランスを代表するアーティスト、シャルル・アズナヴールが94歳で逝去
- ダスティ・スプリングフィールドの隠れた名盤『Dusty…Definitely』
- シナトラの最も悲しいアルバム『Frank Sinatra Sings For Only The Lonely』
- ドクター・ドレーのベスト・ソング19
- ドクター・ドレーによるエミネムの“ロックの殿堂入り”紹介スピーチ全文




















