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1984年のブラック・ミュージック:40年前の時代を定義した7つの名盤と名曲

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ヒップホップやR&Bなどを専門に扱う雑誌『ブラック・ミュージック・リヴュー』改めウェブサイト『bmr』を経て、現在は音楽・映画・ドラマ評論/編集/トークイベント(最新情報はこちら)など幅広く活躍されている丸屋九兵衛さんの連載コラム「丸屋九兵衛は常に借りを返す」の第47回。

今回は、今から40年前となる1984年のチャートで話題となったブラック・ミュージックの名盤/名曲について。

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1980年代は、振り返ると複雑な思いにならざるをえないディケイドだ。

Apple社の共同設立者で、「ウォズ」の愛称で知られるスティーヴ・ウォズニアックが82年と83年に大規模音楽祭”US Festival”を催したのは、「70年代は利己的で個人主義だった(”Me” generation)が、80年代はもっとコミュニティの時代となりますように。だから我々(us)のフェスを」という思いを込めてのことだったという。しかし21世紀から振り返ると、このウォズの希望に皮肉なものを感じる人は多いかと思う。

こと我々のジャンルに関しては、80年代を「テクノロジーがアーティストのイマジネーションに追いついた」と肯定的に捉える向きもいる一方で、「R&Bが最も荒廃した時代」と言い切る評論家もいる。
少なくとも、機材の進歩もあって全てのパートを一人でこなしてしまう自己完結天才型ミュージシャンが出現しやすくなった時代だったのは事実。

そんなことも含めて、ウォズの願いとは正反対の個人主義に爆走したのが80年代だったような。さらに拝金主義と物欲至上主義が開花し、レーガノミクスでいろいろとワヤクチャになったのもこのディケイドだ。

とはいえ、そんな時代に生まれた音楽には、そんな時代ならではの魅力がある。というわけで今から40年前にあたる1984年のブラック・ミュージック界を見てみよう。取り上げるのは、ビルボードの「Top Black Albums」チャート(現在のTop R&B/Hip-Hop Albumsに相当)で首位まで上り詰めたアルバム(10枚のうち)4枚と、Hot Black Singlesチャート首位となったシングル3枚、計7作品。この組み合わせで、時代のムードを読み解いてみたい。

 

1. Rockwell「Somebody’s Watching Me」

※3月3日〜3月31日:シングル・チャート首位

以前、「1983年の秋から冬はモータウンの季節だった」と書いた。翌1984年もやはりモータウンの存在感は健在で、この年の大ヒットとしてロックウェルによるこの曲がある。投げやりラップのような歌い出し、パラノイアな歌詞、異常なMVが飛び抜けて印象的なうえに、主役たるアーティストは創業社主の息子、さらにバックで歌うのがマイケル・ジャクソン、という特殊なものだ。

本名「ケネディ・ゴーディ」から程遠い芸名なのは、父親が持つレーベルからのデビューを身びいきと思われたくなかったからだが、そんな深謀遠慮も虚しく、今や彼はほぼ本曲のみで記憶される存在となっている。が、今でもアメリカではハロウィン時期の定番ソングとして親しまれているという。

Rockwell – Somebody's Watching Me (Official Music Video)

 

2. キャメオ『She’s Strange』

※4月27日〜5月5日:アルバム・チャート首位

冒頭で個人主義と拝金主義と物欲至上主義と書いたのは伊達や酔狂ではなく、ちょうどこの頃から“yuppie/ヤッピー”という表現が見受けられるようになる。そのこころは“young urban professional”、若くて都市に住んでいる高級取りサラリーマンだ。そんな“yuppie”の黒人版が“buppie/バッピー”、つまり“black urban professional”である。

この時期のキャメオは、おそらく世界で初めてのバッピー向けファンクというものを作っていた。直前までは「ファンクとはワーキングクラスのブラック・ピープルのための音楽」だったろうが、ここに来て「アファーマティヴ・アクション導入以降の世代(*)」を見据えたアプローチを取ったのがキャメオ、と言おうか。題材は都会に住まうミドルクラス(=相当リッチ)男女の恋愛であり、笑いのツボはクレジットカードであり、おまけにフランス語で歌い切る曲まである!

*アファーマティヴ・アクション(affirmative action)=積極的格差是正措置:黒人などの被差別グループのために進学や就職面で一定数の優遇採用枠を設けること。1965年、ジョンソン大統領によって本格始動

この時点でのキャメオ自体も特殊で、もはやバンドとは形容しづらい存在だ。レコーティングの単位としてのファンク・バンドというものが絶滅に瀕していた時代を代表するユニット、と表現すべきか? 何といっても本作のキャメオは4人組。リーダーにしてマルチ奏者のラリー・ブラックモン(ドラム類とベース)と副将にして超マルチ奏者のチャーリー・シングルトン(ギター、鍵盤、パーカッション)、純シンガーのトミ・ジェンキンズ、コーラスも担当するトランペッターのネイザン・レフトナント、という構成だ。バンド機能があまりに偏っている……。

Hangin' Downtown

 

3. ティナ・ターナー『Private Dancer』

※7月21日:アルバム・チャート首位

音楽史上、これほど見事な復活劇が他にあるだろうか?

ティナ・ターナー、当時44歳。昨年、83歳で亡くなった彼女の人生のほぼ半分が本作以降にあるという事実が意外に思えるのは、それほどに93年の伝記映画でアンジェラ・バセットが演じた若き日のティナの苦難が我々の脳裏に重く刻まれている、ということか。

ここから生まれた大ヒット「What’s Love Got to Do with It」は、Hot Black Singlesチャートで最高2位だが、シングル総合チャートである「Hot 100」では1位。このランキングからも分かるように、以降はR&Bやソウルよりもロックやポップの一部として位置付けられ聴かれていくティナだが、それでも彼女はソウル・クイーンの一人なのだ。

What's Love Got to Do with It (2015 Remaster)

 

4. プリンス・アンド・ザ・レヴォリューション『Purple Rain』

※7月28日〜12月1日:アルバム・チャート首位

黒人音楽とは中華料理のようなものである。

中華料理は——それを言い出したら全ての料理がそうなのだろうが——当初は異物のように見えた食材(例えばカシューナッツやトウガラシ)を巧みに取り込んでメインストリーム化していく様子が見事で、その本質として流動的で変幻自在だ。まさにthe changing sameである。

特に『戦慄の貴公子』こと『Controversy』から本作くらいまでのプリンスの音楽性は「アメリカ黒人音楽というよりUK白人のニューウェーヴに近い」と評されていたらしい(日本だけか?)が、そんな作風でもTop Black Albumsチャートの首位を4ヶ月以上も爆走するのだ。

こうして、「異分子」と思えた音楽性とて、いったん「ブラック・ミュージックの一種」として受け入れられれば、それを目標に精進する後輩たちが出現する。2020年にザ・ウィーケンドが残した発言を見たまえ。曰く「僕が常にR&Bというジャンルに挑戦するのはプリンスの影響」。

我々がブラック・ミュージックに惹かれ続けるのは、やはり「変わりゆく同じもの」だから、なのだと思う。

Purple Rain

 

5. ビリー・オーシャン「Caribbean Queen (No More Love on the Run)」

※9月8日〜9月29日:シングル・チャート首位

大西洋を股にかけるのは、西側からは容易でも東側からはなかなか難しい……特に黒人アーティストにとっては。その逆、つまり米黒人アーティストの作品は他のアメリカ産文物同様に世界を駆け巡るし、UK進出もスムーズだが、同じ英語圏とはいえUK黒人がアメリカのチャートで成功した例は多くないのだ。

シャーデーを別格とすると、ジュニア(Junior Giscombe)、エディ・グラント、そこからだいぶ飛んでマーク・モリソンあたりか? そんな中でも突き抜けてポップな活躍を見せることになるのが、トリニダード生まれ(しかしグレナダ系)で、ロンドンのサヴィル・ローにてテイラーとして働いていたビリー・オーシャンだ!

もともとは「European Queen」としてリリースしドイツのみでヒットした曲を、「Caribbean Queen」として歌い直したら世界中で大ヒット! 「African Queen」というバージョンもあり、南アフリカでは大ヒット!……あれ? まだアパルトヘイト時代か!

Billy Ocean – Caribbean Queen (No More Love on the Run) (Official HD Video)

 

6. スティーヴィー・ワンダー『The Woman in Red』

※12月8日〜12月29日:アルバム・チャート首位

反アパルトヘイト曲「It’s Wrong (Apartheid)」を含むスティーヴィーの次作『In Square Circle』は翌1985年。一方、この84年作は彼のディスコグラフィの中でも特殊なアルバムということになるだろう。そもそもサウンドトラックというだけでレアなのに(しかもラブコメ映画だ)、8曲中2曲がディオンヌ・ワーウィックとのデュエット、1曲はディオンヌがソロで歌う曲なのだ。この「企画盤」感!

80年代を通じてスティーヴィ曲の特徴となるシンセベースの不自然なフレージング(かつての十八番であるクラヴィネットの役割をマッシュアップ?)が目立つタイトル曲や、「キャメオ以降」的なアレンジにうまく適応した「Love Light in Flight」などの好曲があるが、やはり「I Just Called to Say I Love You」の大ヒットで記憶されるのだろう。

The Woman In Red

 

7. ミッドナイト・スター「Operator」

※12月22日〜12月29日:シングル・チャート首位

80年代にトークボックスを前面に押し出して人気を博したのはザップ/ロジャー・トラウトマン。一方、ヴォコーダーがトレードマークのファンクといえばミッドナイト・スターである。この21世紀にあってはロボ声的なヴォーカル表現のほとんどが手軽なオートチューンであり、「もう一つ選択肢があるとすれば、職人の意地を感じさせるトークボックスかな」状態だが、オートチューン発明前の80年代はヴォコーダーも熱かった。

ラジオ業界周りで発達したトークボックス、(実は)地震測定と関連するオートチューンに対して、ヴォコーダーの起源は電話にある。それも第二次世界大戦中、チャーチルとルーズヴェルトが密談するために開発された大西洋ホットラインという20世紀史の重さを感じる逸品だ。そして、このミッドナイト・スターの「Operator」は、まさに電話交換手(テレフォン・オペレーター)をテーマにした曲なのだ! 何という自己完結ぶり!

Hot Black Singlesチャートの首位のみならず、Hot 100でもヒット(18位)を記録したこれは、彼らにとって唯一のトップ40ソングとなった。

Midnight Star – "Operator" (Official Video)

Written By 丸屋九兵衛


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