イマジン・ドラゴンズ最新作『Mercury – Act 1』:親しい5人の死、哀しみや絶望を歌った新境地

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Photo: Gary Miller/Getty Images

2021年9月3日に自身5枚目となる最新アルバム『Mercury – Act 1』が発売となったイマジン・ドラゴンズ(Imagine Dragons)。このアルバムで歌われていることについて音楽ライター/ジャーナリストとして活躍されている粉川しのさんに寄稿いただきました。

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イマジン・ドラゴンズのニュー・アルバム『Mercury – Act 1』は、ダン・レイノルズ(Vo)の痛切な心境が赤裸々に吐露されたナンバー、その名も「My Life」で幕を開ける。例えば、歌い出しはこうだ。

生まれ変わりたいと星に祈ってもいいだろうか
今夜は孤独が見に染みるから
いつの間には俺はボロボロになっていた
テーブルには錠剤が散らばり 頭から妄執が離れない
昔誰かに連れて行かれたホールを歩く
心の中で言い訳ばかり繰り返しながら
My Life

アルバムのテーマは「死」

『Mercury – Act 1』のリリースから約1か月が経ち、歌詞と照らし合わせながら繰り返し聴く中で浮かび上がってくるものは、驚くほどに無防備な哀しみであり、打ち砕かれた心であり、絶望の淵に微かに差し込む光でもある。

もちろん、同作が「死」をテーマにしていること、そして先行シングルの「Follow You」では離婚寸前までいった妻と関係修復に至った喜びを歌っていたように、トラウマからの回復を描いた物語を含んでいることは、事前の情報として見聞きしていた。それに、そうしたシリアスな感情を歌った曲は、イマジン・ドラゴンズの過去のアルバムにも当たり前に収録されていた。しかし、その哀しみの、打ち砕かれた心の、絶望の解像度がこれほどまでに高いアルバムになるとは正直想像していなかった。メジャー・デビューから約10年、『Mercury – Act 1』は間違いなくイマジン・ドラゴンズが新境地を刻んだアルバムだ。

活動休止の理由

前作『Origins』(2018)のリリース後、イマジン・ドラゴンズはバンドの一時活動休止を宣言した。彼らは「戻ってくるのは1年か、5年後になるかはわからない」としていて、その理由について「ずっとぶっ通しで働いてきたし、少し休むタイミングだと思った」と説明していた。確かにそれは納得のいく理由だった。2010年代後半の彼らのワーカホリックぶりは驚異的だったからだ。

しかし、彼らが活動休止に至った本当の理由が、『Mercury – Act 1』のリリース前後のバンドのインタビューで徐々に明らかにされていった。結局1年と少しのブランクで彼らが新作を作り始めた理由も、そして『Mercury – Act 1』が前述のようなコンセプトを持つアルバムになった理由も、全てが繋がっていたのだということが、主にダンによって語られていった。

理由の一つは、ダンが長らくセルフ・ディプレッション、鬱状態に苦しんでいたことだ。そして彼の苦しみをさらに深く抉ったのが、直近3、4年の間に親しかった5人の人々を次々に亡くした悲劇だった。バンドを長らく支え続けたビジネス・マネージャー、元恋人、そして義理の妹は、皆がんで命を落としたという。

例えば「時が経てば癒えると人は言う / 痛みも消えるはずだと / だが何を見ても君を思い出す」と歌う「Wrecked」は義妹に捧げたナンバーだ。ダンは彼女の夫である弟と共にその臨終にも立ち会ったという。そうした経験が本作のテーマを決定付け、イマジン・ドラゴンズの音楽を見つめ直すきっかけになったことは想像に難くない。

鬱に苦しむ自分を受け入れる

近しい人々、愛する人々の受け入れがたい死は、彼をより深い鬱へと引きずり込んでいくものだった。しかしその奈落の底で死は誰にとっても避けがたいものだという冷ややかな真実に触れた時、それでも生きているこの1秒1秒を無駄にしたくない、後悔はしたくないという意思が芽生え、その意思が彼らを『Mercury – Act 1』へと駆り立てたのではないか。ダンは言う。

「今ここにいる自分がもしも明日にはいなくなってしまうとしたら、考えてしまうんだよ。『僕はやりたいことを全部できているだろうか』って。(中略)アートにおいても一緒だ。このアルバムで僕は完全に正直になって自分の真実を言いたいって思ったんだ」

大丈夫じゃなくても大丈夫(It’s okay to be not okay)」と繰り返す「It’s Okay」は、そんなダンのある種の開き直った境地、鬱に苦しむ自分を、悲劇の連続に打ちのめされた自分の人生を受け入れて腹を括った境地の曲にも思える。ライブ感たっぷりで陽気なナンバーだが、その奥底には達観が見え隠れするとでも言うか。

『Mercury – Act 1』を聴いていると、どの曲にも「いつ終わってもおかしくない」と感じる瞬間がある。プロデューサーとして参加したリック・ルービンをして「残酷なほど正直なアルバムになった」と言わしめた同作は、ギリギリに張り詰めたテンションの際を伝い歩くような作品だからだ。どの曲にもこれまでのイマジン・ドラゴンズのそれと比較すると贅肉を削ぎ落とした簡潔さもあるが、それもまた「余計なことをするほど人生は長くない」という彼らのメッセージにも思える。

敬虔な宗教家庭とロック・バンドの祖語

ちなみにルービンがプロデュースし、過去のバンドのイメージを一新するダーク&ヘヴィな1曲となった「Cutthroat」は「自己嫌悪の悪魔払い」をテーマにした曲で、セロトニンや抗うつ剤に頼りながらなんとか自分と折り合いをつけていこうとするダンの生々しい姿が描かれている。曲中には「俺の先祖は巡礼の行進をしながらユタ州の平原を横切っていた」という一節があるが、ユタ州は彼らの故郷ラスベガスのあるネバダ州のお隣であり、モルモン教の本拠地でもある。

敬虔なモルモン教徒の家庭に育った彼は、宗教的な束縛と世俗的なロック・バンドをやっている自身との齟齬に苦しんできたわけだが、ここで彼は「命をかけて立ち上がる」「生きて帰れるのは一人だけ」のだと歌い、長きにわたる葛藤に決着を見出そうとしている。

しかし、そんな「Cutthroat」に比肩するカタルシスティックなラウド・チューン「Dull Knives」では「切れ味の悪いナイフが俺の命を奪う、ゆっくりと時間をかけて俺は正気を失う」と歌われ、彼が内なる悪魔と決着をつけるにはまだ道半ばであることが示されている。根の深さを感じずにはいられない。

喪失や絶望、哀しみを原動力とした名盤

ニック・ドレイクの『Pink Moon』からエリオット・スミスの『Either/Or』、スフィアン・スティーヴンスの『Carrie & Lowell』から、もちろんジョイ・ディヴィジョンの『Closer』まで、喪失や絶望から生み出された名作はあまた存在する。むしろ喜びよりも哀しみを原動力とした名盤のほうが多いのではないかとすら思うし、それがポップ・ミュージックというアートフォームの素晴らしさでもある。イマジン・ドラゴンズがその領域に足を踏み入れたことも、ポップ・ミュージックの長い歴史の中ではなんら不思議ではないのだ。

3年というバンド史上最長のブランクを要して完成した『Mercury – Act 1』は米ビルボード・チャートで初登場9位。過去のイマジン・ドラゴンズのアルバムと比較すると地味なセールスとなった。それでも彼らが本作を作り上げた意味は大きいし、作らなければ先に進むことができなかっただろうターニングポイントの一作だ。

「いつの日か/君を幸せにできるように/常に君が笑っていられるように」と願う「One Day」で締めくくる『Mercury – Act 1』の真価は、これからの彼らの日々が証明してくれるはずだ。

Written by 粉川しの



イマジン・ドラゴンズ『Mercury – Act 1』
2021年9月3日発売
CD&LP / iTunes / Apple Music / Spotify / Amazon Music




 

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