ヴィキングル・オラフソン、新作『リフレクションズ』について語る最新インタビュー公開

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©Ari Magg / DG

演奏やリワークは、自分を“反映(リフレクションズ)”させ新たな生命を吹き込むこと。

レコード芸術誌の読者投票「リーダーズ・チョイス2020」器楽曲部門で第3位を獲得、高い支持を集めた2020年3月発売のアルバム『ドビュッシー-ラモー』の続編/追加曲となるリワーク・アルバム『リフレクションズ』を2021年3月12日に発売した注目のピアニスト、ヴィキングル・オラフソン。ユニークで突出した活動を展開する彼にとっての「演奏」や「リワーク」の意義や、日本公演について聞いた。



―今回リリースされる『リフレクションズ』は、前作『ドビュッシー-ラモー』の続編的な性格を備えたアルバムと言えますね。

もともと『ドビュッシー-ラモー』は、ドビュッシーの《ピアノのために》を中心にアルバム全体を構成する予定でした。アルバムの仮タイトルを「Pour le piano(ピアノのために)」と呼んでいたくらいです。

バロック音楽の影響が色濃く出ている《ピアノのために》は、いわゆる印象派的な語法をふんだんに盛り込みながら、ベートーヴェンのソナタのような密度の濃さも持った作品ですね。それなのに、演奏機会は《映像》《子供の領分》《版画》のような有名曲に比べて圧倒的に少ない。

確かに演奏は至難ですが、これほどの名曲の演奏頻度がなぜ少ないのか、私にはわかりません。ところが、アルバム録音の準備を進めていくうちに新たなアイディアが続々と生まれ、CD1枚ぶんに収録できないほど多くの作品を録音してしまったので、すでに録音していた《ピアノのために》を『ドビュッシー-ラモー』から泣く泣くカットすることにしたんです。

でも、それではあまりにも惜しいので、当初の構想に立ち返り、今度は別の形で《ピアノのために》が中心となるようなアルバムを作ろうと思いました。それが今回の『リフレクションズ』です。

―『リフレクションズ』、つまり“反映”とか“反射”は、自分の解釈を楽譜に“反映”させていくクラシック演奏において、非常に重要な概念ですね。

まさにその通り。バッハでもドビュッシーでもラモーでも、私がクラシック作品を演奏する時、必ずそこに自分を“反映”させます。もちろん、作曲家が書いた音楽は神聖ですが、ただ神棚に祀って手をつけてはいけないというものではない。ちょうど、シェイクスピアの戯曲が、新たな演出によって新解釈が生まれるようなものですね。

シェイクスピアを17世紀に上演されたまま守り抜くというのは同意できません。同じように、ラフマニノフがショパンを演奏した時、音符そのものは楽譜に従っていますが、ダイナミクスやフレージングなど、多くの要素を新たに付け加えています。

それによって、ラフマニノフ自身のショパン像が生まれたわけです。つまり、さまざまなアーティストによって曲に新たな生命を吹き込まれ、新たな意味付けがなされることが重要なんです。

©Ari Magg

―だから『リフレクションズ』には、『ドビュッシー-ラモー』の収録曲をさまざまなアーティストがリワークしたトラックも収録したんですね?

ええ。今回はポーランドのハニャ・ラニ、アイスランドのヘルギ・ヨンソンとヒューガー、イギリスのクラーク、テキサスのバルモレイ、それにDGの私のプロデューサーでもあるクリスチャン・バズーラをゲスト・ミュージシャンに招き、ドビュッシーとラモーの私の演奏をリワークしてもらいました。

いったんリワークをお願いしたら、あとはすべてアーティストの自由。歌を作ろうが、バンドで演奏しようが、何をやっても構いません。つまり、私の演奏を一種の楽譜として扱ってもらうことにしたんです。

そこから、こちらが予想もしない結果が生まれてくるのですが、同時に私自身の“ゴースト”も聴こえてきます。それこそがリワークの意義であり、また面白さではないかと思っています。とても嬉しいですね。

―その他にも、今回はドビュッシーの《前奏曲集 第2巻》~第5曲<ヒース(ヒースの茂る荒れ地)>と第10曲<カノープ>の新録音が収録されていますね。

《ピアノのために》よりもリワークしやすい、反復語法を用いた作品ということで、この2曲を選びました。それぞれ、コンサート・ピアノによる通常のスタジオ録音と、自宅のアップライト・ピアノで録音した“ホーム・セッション”の2ヴァージョンを収録しています。

“ホーム・セッション”は、ピアノの内部にマイクを設置したので、メカニカルなノイズや私の息遣いなど、演奏中のすべてが聴こえてくると思います。この2曲にふさわしいインティメートな感じを伝えながら、同時にコロナ禍でステイホームを余儀なくされた状況を録音に反映させたかったんです。

―そのコロナ禍の真っ最中に奇跡的に実現した、昨年12月の庄司紗矢香さんとの日本ツアーはいかがでしたか?

とても幸運でしたね。普通に考えれば、ツアーなど不可能な状況ですから。でも重要なのは、不可能を可能にすることなんです。パンデミックにも関わらず、演奏会場はどこも満席で、まるで冬が夏に変わったようでした。日本のような素晴らしい国の聴衆を前に演奏出来る時は、特にそう感じます。

―公演前の2週間、在日アイスランド大使館で自主隔離したそうですね。

大使館はゲスト滞在やパーティなどに使用するピアノ付のアパートメントを所有しているのですが、現在はもちろんパーティなど開催されませんから、アパートをまるまる使用させていただくことが出来ました。

そのアパートと同じ通りに庄司さんが住居を借りていたので、政府の許可をいただき、毎日3~4時間のリハーサルを2週間一緒にしたんです。隔離後は、非常に内容の濃いプログラムを全国8箇所で演奏することが出来たので、本当に素晴らしい体験となりました。

自主隔離中は、Uber Eatsでいろんな日本食を注文しましたよ(笑)。特に鰻はたくさん食べました。あと、高価な神戸牛も。和食は、世界で最も美味しいと思っています。唯一残念だったのは、自分の家族と離れ離れの生活を強いられたことですが、現在はどの国に行くにしても、自主隔離のための日数は必要不可欠な犠牲です。

例えば、ノルウェーは7日間の自主隔離が義務付けられていますが、それに従ったら、また2週間演奏出来る。この状況下で演奏出来る喜びに比べれば、そんな犠牲など些細なことです。私は世界で最も恵まれた人間のひとりだと思っています。こうして仕事があり、各地で演奏出来るのですから。

―今年10月には、ソリストとしてまた日本に戻ってくるそうですね。そのタイミングで新しいアルバムをリリースされるとか?

モーツァルトをテーマにしたアルバムですが、実際にはモーツァルト以外の作曲家、ガルッピ、チマローザ、ハイドン、C.P.E.バッハ、それに私が手掛けたトランスクリプションなども含む予定で、とてもカラフルなアルバムになると思います。

例えばチマローザは、現在はほとんど忘れられた作曲家ですが、18世紀当時は世界で最も著名な音楽家のひとりでした。そういう同時代の作曲家たちとモーツァルトを並べることで、「何がモーツァルトをモーツァルトにしたのか?」というテーマを明らかにできればと思っています。

これまで私が録音してきた中でも最も野心的なアルバム、たぶん他に類を見ないモーツァルトのアルバムになるでしょう。録音は4月の予定です。DGの録音チームからは、10月の来日記念盤としてリリース出来ると返答があったので、楽しみにしていてください。

Interviewed & Written By  前島秀国(サウンド&ヴィジュアル・ライター)


ヴィキングル・オラフソン
『リフレクションズ』
2021年3月12日発売
CD / iTunes / Amazon MusicApple Music / Spotify




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