Join us

Stories

未発表アルバムを収録したビーチ・ボーイズ『We Gotta Groove』プロデューサーが語る制作秘話

Published on

Cover: Courtesy of UMe

2026年2月13日に海外では[3LP+3CD仕様ボックスセット]で、日本盤のみ3CDで発売されたビーチ・ボーイズ(The Beach Boys)のWe Gotta Groove: The Brother Studio Yearsは、この伝説的なバンドの70年代半ばの状況を物語っている。

当時は、『Endless Summer』や『Spirit Of America』といったベスト・アルバムがリリースされて大ヒットし、ビーチ・ボーイズもスタジアムを満員にするライヴ・バンドへと成長したころだ。また、ブライアン・ウィルソンが活動に復帰し、『15 Big Ones』やファンに人気の『The Beach Boys Love You』、そして珠玉の未発表アルバム『Adult/Child』を録音していた。

今回のWe Gotta Groove』には、ブライアンが復帰する前の1974年から1975年にかけて録音された未発表音源を収録している。その中には、デニス・ウィルソンの名曲「Holy Man」の初期テイク(カール・ウィルソンがリード・ヴォーカルを担当)、カールのソウルフルな「It Could Be Anything」、そしてブライアンが深夜に録音した「In The Back Of My Mind」(1965年の『The Beach Boys Today!』収録のオリジナル・ヴァージョンでは、デニスがリード・ヴォーカルだった)。また、ブライアンがプロデューサーとして復帰した『15 Big Ones』のアウトテイクもたくさん収録されている。その例としては、オールディーズの大名曲「Shake, Rattle & Roll」や威勢のいい「On Broadway」が挙げられる。さらに『15 Big Ones』の主要な楽曲については、プロデューサーのジェームズ・サエスが新たなリミックスを制作している。

1977年の『Love You』は、ブライアンが真に創作の主導権を握ったアルバムとなった。彼は全14曲中11曲を単独で作り、残りの曲も共作している。また、全曲でプロデュースを手がけ、ほとんどの楽器も演奏していた。そうして生まれたのは、ブライアンの最も遊び心あふれる作品だった。ヴォーカルは荒々しく、アレンジはファズをかけたモーグやARPシンセサイザーが中心となっていた。その歌詞には、宇宙的なテーマ(「Solar System」)、失恋(「I’ll Bet He’s Nice」)、あからさまに奇妙奇天烈な題材(「Johnny Carson」)といったものを取り上げていた。

『We Gotta Groove』には、ジェームズ・サエスがリマスタリングを施した『Love You』全曲に加え、バッキング・トラック、別テイク、ヴォーカルのみのミックスが収録されている。さらにブライアンが吹き込んだ『Love You』の楽曲のピアノ・デモも収録され、彼の創作のプロセスを驚くほど深いところまで垣間見ることができる。

『Love You』の制作を終えたあと、ブライアンは新たな活力を得た。そして『Adult/Child』として知られることになるアルバムのレコーディング・セッションに臨んだ。今回発売された『We Gotta Groove』はそのセッションで録音された特に優れた音源(たとえば驚異的な「Still I Dream Of It」や「It’s Over Now」)と共に、バッキング・トラックを収録しており、ブライアンの巧みなアレンジと音楽的ビジョンが浮き彫りになっている。

この度uDiscoverでは『We Gotta Groove』のプロデューサーであるハウィー・エデルソンとジェームズ・サエスにインタビューし、この作品の制作過程について詳しく語ってもらった。

<関連記事>
ビーチ・ボーイズ特集記事一覧
ビーチ・ボーイズの新キュメンタリーを観て分かる10の真実
ビーチ・ボーイズ、1976~77年音源を73曲収録した『We Gotta Groove』発売

The Beach Boys – Carl's Song 1 – It Could Be Anything (2025 Mix / Visualizer)

 

プロデューサーが語る発掘の過程と当時の再評価

―― 『We Gotta Groove』は、もともとどのようなものにする予定だったんでしょうか?

ハウィー・エデルソン:まあ、だいたいいつも、「テープ倉庫にある音源をどれくらい外に出せるだろう?」という考えから出発するんだ。ビーチ・ボーイズは実に質の高い音源をたくさんお蔵入りにしていたからね。そんなバンドは他にない。つまり、こうしてボックス・セット ―― 『Feel Flows』や『Sail On Sailor』、そして今回の新作を出してきたけど、そのそれぞれのボックスごとに第二弾を作ってもいいくらいなんだ。

一方ジェームズのほうは、たぶん「どうすればできる限り最高の音質にできるだろう?」と思っているんじゃないかな。僕は、最初の段階ではその点にこだわらない。僕にしてみれば、「こうした音源をどれだけ詰め込めるだろう?」という感じだね。個人的には、さらにCD3枚分くらい追加したかった。いつか実現するかもしれない。すぐには無理だけど、間違いなく、まだまだたくさんあるんだ。

だから、最初はそういう考えで出発する。それに、こうしたボックス・セットには素晴らしいメリットがある。というのは、楽曲をひとつの時代として提示できるからね。だから当時不当にこき下ろされたアルバムであっても、作品そのものの価値に基づいて再評価できる。「これは新作アルバムで、12曲収録されていて、それを今すぐ評価しなきゃならない」という状況とは違う。むしろ、アルバムに収録されていた楽曲はより大きな「家族」、別の言葉で言えば「時代」の一部であって、その時期のポジティブな側面に注目することができる。こうした楽曲を集め、それにまつわる物語を再構築し、ほとんど記念碑のような作品にできるのは喜ばしいことだね。

―― 今回の新作に収録された中で最も初期の楽曲は、1974年にカールとデニス・ウィルソンが中心となったセッションで録音されたものですね。もしかするとビーチ・ボーイズは別の方向に進んでいたのかもしれない……と思わされる曲です。つまり、あのままカールとデニスがビーチ・ボーイズのリーダーとなっていたら、いったいどうなっていたんだろう?と考えてしまいます……。

ハウィー・エデルソン:彼らは基本的に『Holland』に続く作品をまとめようとしていた。マイクもアルも、曲を練り上げつつあった。やがて彼らは一歩引いて、ブライアンが戻れるようにしたんだ。まず第一に、あれは最高のセールスポイントだったからね。カムバックのストーリーとしては完璧だった。ちょうど結成15周年だったし、ブライアンも創作面で少し低調になっていた。NBCで特番をやるにしても、雑誌の『ピープル』に登場するにしても完璧なタイミングだった。

短期的に見れば、あの時期のアルバムはチャートではパッとしなかった。もし1975年にデニスとカールが中心になったアルバムが出ていたら、ビーチ・ボーイズもシカゴやスティーリー・ダンやフリートウッド・マックと互角に戦えたはずだ。『Surf’s Up』『Carl & The Passions』『Holland』と同じように、FMラジオ向けの路線で作られたアルバムになっていただろうね。でも『15 Big Ones』はFM向けじゃなかったし、実のところAMラジオ向けでもなかった。『Love You』も似たような雰囲気で、ラジオというよりレコード・プレイヤーで楽しむような作品だった。

とはいえ、当時準備されていた曲は『Pacific Ocean Blue』で聴くことができる。たとえば「Rainbows」「Pacific Ocean Blue」「River Song」あたりだね。そういった曲を、カールやブライアンが手がけていた楽曲と組み合わせれば、『Holland』より優れたアルバムになったと思う。でも、そういうかたちにはならなかった。

『15 Big Ones』の第1弾シングル「Rock And Roll Music」は、1976年のあの長く続いた暑い夏、アメリカ建国200周年を彩る曲になって、ピーター・フランプトンの曲やウィングスの「Silly Love Songs」と一緒によく聴かれていた。でもアルバムについて言えば、『15 Big Ones』も『Love You』も売れなかった。その結果、ビーチ・ボーイズはFMラジオでの人気が落ちたし、アルバムに対する評価も下がって、活動の中心はライヴになった。とはいえブライアンが復帰して、あんなにもたくさんの楽曲が生まれたのは奇跡だった。1年半で録音された曲が、40曲もあるんだ。信じられないよ。

 

―― もしブライアンが生きていたら、『We Gotta Groove』のリリースについてどう思うでしょうね?

ハウィー・エデルソン:ブライアンと話したとき、彼はこの時期の活動をとてつもなく誇らしく感じていた。だから、今作にもきっと興奮していただろうね。彼は、『Love You』がいろんな面で『Pet Sounds』と同等の作品だったと何度も語っていた。だからきっと興奮していただろうし、『Adult/Child』の楽曲が広く一般に届くことにもきっと興奮していたと思う。

ビーチ・ボーイズのメンバーは大量の仕事をこなしながら、たくさんの作品を残していった。それに、たとえリリースしたアルバムの曲であっても、3曲だけ3カ月間セットリストに入って、その3曲もやがて外されてしまった。だからブライアンはこの時期の曲の多くを覚えていなかったね。「That Special Feeling」(『We Gotta Groove』にはソロ・ピアノ・デモを収録)のことも覚えていなかったから、思い出してもらおうと歌って聞かせたことがある。するとブライアンは「素晴らしい曲だね!」みたいなことを言うんだ。それで「あなたの曲ですよ!」と返した。これは、もう10年くらい前のやり取りだよ。

That Special Feeling (Demo)

マイクも、あのころの曲はあまり覚えていないね。何年も前に、「“Running Bear”(『15 Big Ones』のアウトテイク。『We Gotta Groove』にようやく収録された)のレコーディングについて何か覚えていることは?」って尋ねたら、彼は「“Running Bear”を録音した記憶なんて全然ない」って言うんだ。というわけで、今では冗談めかして、マイクはこんな風に言っている。「まあ、そうだな。確かに僕がやったんだろうね。だってあれは僕だから」って。

Running Bear (2025 Mix)

マイクとアルは、かつてガラクタ扱いされていた曲が今や熱狂的な支持を得ていることをすごく喜んでいる。ああいう曲に、特に若者たちが熱中しているんだ。たとえば、ビーチ・ボーイズのアーカイヴ管理者であるジョン・ブロードもそういう若者のひとりでね。ジョンはビーチ・ボーイズの曾孫世代と言ってもおかしくない年齢なのに、1977年当時の人間と同じくらいあのへんの曲に心を揺さぶられている。そこには懐古趣味もないし、キワモノ好きのキッチュな雰囲気もない。

あのへんの曲について彼と話しても、年齢の違いはまったく感じられない。ある人間がビーチ・ボーイズの真の信奉者であって、それに情熱を傾けているのなら、その人の年齢なんか関係ない。もうお互い対等なんだ。

 

ブラザー・スタジオの逸話

―― 今回の作品では、ビーチ・ボーイズのブラザー・スタジオについての話も取り上げられていますね。あのスタジオは短命に終わりましたが。

ハウィー・エデルソン:あのスタジオについては、(写真家の)エド・ローチから本当にたくさんの逸話が聞けたよ。あのスタジオについて書かれた文献はあまりないし、スタジオそのものもあまり長く続かなかった。

設立は1973年で、ビーチ・ボーイズがあそこで最初にやった作業は同じ年の『Beach Boys In Concert』のミキシングだった。その時点ではコントロール・ルームにミキシング・コンソールがなくて、仮設スタジオのような状態になっていた。ビーチ・ボーイズ以外のアーティストがあそこで最初にやった録音は、エルトン・ジョンの『Don’t Let The Sun Go Down On Me』のバック・コーラスだった。

スタジオを切り盛りしていたのはエド・ローチの妻のトリシャでね。彼女は秘書であり、修道院長であり、あのスタジオの魂だった。だからエドと(エンジニアの)ジョン・ハンロンから、あの場所の雰囲気を感じ取ることができた。あそこがデニスにとってどういう場所だったのかもわかった。あの3人は、午前中はブライアンのために働いていた。そして夜になると、徹夜でデニスの作業に付き添っていた。デニスはスタジオでの作業に全精力を注ぎ込んで、ノンストップで録音していたんだよ。そんな場所はイカレた乱痴気騒ぎになっていたに違いない……と思う人もいるだろうけど、デニスはそこでいつも音楽作りをしていた。たとえ何か別のことも行われていたとしてもね。

デニスがいつも録音していたから、夜になってもあのスタジオは明かりが消えなかった。あそこで録音されたものを聴いて、僕はこう思うようになった。デニス・ウィルソンがテープに録音したものは、すべてリリースされる価値がある……ってね。彼の落書きでさえ、素晴らしい作品だと思っているよ。

―― ブラザー・スタジオで撮影された映像はアーカイヴに残っているんでしょうか?

ハウィー・エデルソン:エドは、あそこで「River Song」のビデオ用の映像を撮影していた。それから、NBCの特番(*1976年に放送された『The Beach Boys: It’s OK』)では、ブラザーで撮影した映像が使われている。たとえば、ブライアンがカールとデニスをバック・コーラスにつけて「I’m Bugged At My Old Man」を歌っているシーンがある。

また、マルコム・レオのドキュメンタリー『An American Band』(1985年)でも少し見ることができる。あれはピアノを囲んで「Surfer Girl」を歌う映像で、画質がとても良い。あの映像は、別テイクがさらにいくつかあるんだ。ああいう映像では室内の様子がよくわかるけど、撮影では映画用の照明で明るく照らされていた。でも実際のブラザーでは、暗くてカーペット敷きの落ち着いた雰囲気が求められていたんだよ。

The Beach Boys – I'm Bugged At My Old Man

 

―― ブラザー・スタジオには、スティーヴン・モフィット、アール・マンキー、ジョン・ハンロン、ジェフ・ピーターズといったエンジニアたちがいました。そうした先達の仕事を引き継ぐということについて、どう感じていますか?

ジェームズ・サエス:今回のような作業に携わると、当然ながら当時の録音の舞台裏を垣間見ることになるし、エンジニアごとの作業スタイルの違いもわかってくる。でも、それと同時に、かつてのエンジニアたちが成し遂げた素晴らしい仕事に対して最大限の敬意を払うように努めているんだ。

作業に取りかかると、すぐに当時のラフ・ミックスやアウトテイク、残っている断片をすべて聴き込んでいく。たとえば音像の移動とか、魅力的な楽器の編成に耳を傾けることになる。すると、「もし僕がエンジニアだったらドラム・キットを今の普通のやり方で録音しただろうけど、この音源にはハイハットが入っていない。どうしてだろう?」とか思ったりする。あるいは、「ここではスネア・ドラムをアンプを通して録音していて、リバーブが既に入っている。そのおかげで、歪んでシャリシャリした音になっているな」といったことに気づく。

そういうところをよく聴き込んでいくと、「みんなで、一生懸命これに取り組んでいたんだ。あの人たちが目指していたのはこれだ」となる。そこに焦点を当てないといけない。だから、あの人たちをお手本にして、それに従う必要がある。なぜなら、あの人たちが元の音源の一番近くにいたわけだからね。

というわけで、僕も精一杯頑張った。あの人たちが目指していたものにできるだけ近づけようとして、失敗した部分もあれば、成功した部分もあったと思う。なぜなら、マンキーもモフィットもハンロンも凄かったからね。あの人たちに直に質問できて、本当にワクワクしたよ。尋ねたいことは山ほどあった。

たとえば、いくつかの曲ではコーラスがかかったフランジャーっぽいギター・サウンドが使われている。それらの曲に共通して、まったく同じギターの音に聞こえてくるんだ。だから、こんな風に尋ねたくなった。「あなた方はこのサウンドをたまたま発見して、”これはすごくカッコいい! これの見せ場を別の曲でも用意しなきゃ”ってなったんでしょう?」という風にね。だから、ああいうサウンドをどうやって編み出したのか、質問したくてたまらなかった。なぜなら僕自身の出発点も、そういうところにあったからね。

毎日マイクを人の前に置く仕事をしているけど、僕にとってはそれが一番楽しくて、最高にズバッと本能に訴えかけてくる部分なんだ。そういう作業は一瞬で状況が変わるし、その場に絶対に居合わせないといけない。あの人たちも、とにかくただただ楽しんでいただけだと思う。スタジオはあの人たちにとって公園の砂場であり、遊び場だった。あの時代にそういう状況が存在したのは幸運だったよ。そうでなければ、こうした楽曲は存在しなかっただろうから。

 

当時の音源を今に届ける

―― この『We Gotta Groove』のブックレットでは、当時のエンジニアたちの功績が正当に評価されています。これは、実に素晴らしいことだったんじゃないでしょうか?

ハウィー・エデルソン:今回の作品には、この音源を録音したエンジニア全員に関わってもらいたかった。そういうことをやるのは今回が初めてだった。あの人たちは、ブラザー・スタジオをああいうスタジオにしていた立役者だったからね。デニスがスタジオに来ても、あのエンジニアたちがいない状態では、曲の録音ができなかったはずだよ。だから、こういう決断をしたというわけ。まあ、他の誰かを誉め讃えても、自分の価値を貶めることにはならないからね。

―― 今作のリミックスでは、どのようなアプローチをしたんでしょうか?

ジェームズ・サエス:膨大な知識の蓄積があったのはとても良かったよ。つまりハウィー、アラン・ボイド、ジョン・ブロードといった人たちが、このアーカイヴの発掘作業に何十年も取り組んでいたからね。この音源に必要なものは何か、あるいはどういう方向性で作業を進めるべきか、といった点では、こういった先人たちの考えを尊重している。ハウィーたちの話に耳を傾け、立ち止まって注意を払い、考え方を尊重しなければならない。長年この仕事に携わってきた人たちだから、そういうところをまず第一に優先しなきゃいけない。

そして、今回まとめられた音源を聴き込んでいくと、今作が実はさまざまなエンジニアが3つの異なる方法で録音した3セットの楽曲で構成されていることがわかる。共通しているのは、すべて同じスタジオ、あるいはほぼ同じスタジオで録音されたという点だね。これはビーチ・ボーイズにとって一服の清涼剤となったし、これがきっかけで本当に長い間ご無沙汰だった全員揃っての演奏が復活した。だから、この点を強調したかったんだ。これらのレコードでは、ドラムを叩くデニスが隅っこに追いやられずに前面に出ている。そのことをはっきりさせたかった。デニスがこの中で大きな役割を担っていたことを感じてもらおうと思った。なぜなら、この時代の録音とブラザー・スタジオでは彼が非常に重要な存在だったからね。

もうひとつの特徴は、『15 Big Ones』のほうがはるかに豪勢なレコーディングだった点にある。使う楽器もより大編成で、セッション・ミュージシャンも多めだった。その変化を尊重したいと思った。つまり、そういうところを隠すことなく、「なるほど、”On Broadway”みたいな曲は壮大な感じにできそうだ。なぜならもともとそういうかたちで作られていて、ビーチ・ボーイズもそれを狙っていたんだから」という風に取り組みたかった。

その一方で、『Adult/Child』の楽曲はまったく違う。非常に生々しく、ある意味パンク・ロックみたいなところがある。それはむしろ、曲作りのプロセスが初期段階にあるような感じだね。そして、それもまた本当にワクワクする部分なんだ。

今作にはもうひとつ素晴らしい点があって、カセットテープのデモ音源も収録されているんだ。そこでは『Love You』が最高に素朴なかたちで聴ける。ブライアンがまだテンポを模索していたり、曲の組み立てに少し手こずっていた時期の録音だよ。こうした音源はまさしくスケッチのようなもので、そういう録音を完成した楽曲と並べて聴けるのはいつだって最高だね。それぞれを聞き比べながら「うわ、こんな発想は僕には絶対無理だ」ってなるんだ。

On Broadway (2025 Mix)

―― 『Love You』をリミックスではなくリマスターにすることに決めた理由は?

ハウィー・エデルソン:リマスター後のアルバムを聞いてみたら、リミックスされたのかと思ったよ。これは本当の話なんだけど、ジェームズに電話して「リミックスはやらないんじゃなかったの?!」って尋ねたくらいだ。

リマスターというとたいていは単に音圧を上げるだけで、耳がおかしくなりそうなくらいうるさい音になっている。でも今回は、ついに「リマスター」という言い方にふさわしいリマスターができている。まるで雲泥の差だったから、本当に驚かされたよ。今作の『Love You』は、完成後に何度も聞き返すことはないと思っていた。でも、実際は何度も聞き返してしまった。

―― ジェームズに伺いたいんですが、そんなリマスターを作り出す秘訣は?

ジェームズ・サエス:教えられないよ(笑)! いや、実は事前の準備を少ししておいたんだ。クリーンなサウンドにするためにね。本番のマスタリングの作業に入る前に、音像の奥行きについて処理しておきたい部分がたくさんあった。僕はちょっと映画っぽい志向性の人間だから、音像を広く柔らかく、それでいて力強さも感じさせるようにしたかった。うまく言い表せる言葉がなかなか見つからないけどね。

マスタリングを担当したロバート(・ヴォスギーン)は本当に大きな働きをしてくれたよ。彼とは、かなり話し合った。どういう方向性で進めるのか、昔のミックスの中にあるどの部分を残したいのか、そしてどの部分を際立たせたいのかについて、ずいぶん議論した。彼は以前ビーチ・ボーイズの作品を扱った経験があるから、そういうところもわかってくれた。

それから、こういう話もした。「マスタリング中に変更が必要だと感じる部分があるかもしれない。たとえばヴォーカルを0.5dB上げたいとか、何かおかしいと感じる部分があるかもしれない。もしそういう場合は、24時間365日、いつでもいいから電話してほしい。そうしたら数時間以内に修正ヴァージョンを送るから」ってね。

だからこれもまた、まさしくチームワークの賜物なんだ。みんなが素晴らしい仕事をしてくれた。それぞれが自分の担当する段階で最高の仕事をやるように心がけてくれたからね。衝突することもない、愉快な仕事だった。とにかく楽しくて創造的でね。こうした経験が最終的な仕上がりにも反映されているんだと思う。

 

未発表アルバム『Adult/Child』を形にする

―― 今作の全体の構成、特に『Adult/Child』セッションの曲順は、どういう風に決めたんでしょうか?

ジェームズ・サエス:長い話し合いを何十回も繰り返したんだ。ハウィーと僕のふたりだけじゃなくて、アラン・ボイドも交えてね。この音源がここにある、つまり何十年にも渡ってたくさんの音源が保存されていたのは、彼の功績が大きいんだ。そうしてみんなで、長い時間をかけて曲順をあれこれ試した。僕は最初のうち、細かい部分にこだわるあまり、曲のつなぎ方をリストにしてほしいと頼んでいた。当初の打ち合わせでは「進めていくうちに自ずと決まるだろう」というような雰囲気でね。でも僕は「いやいや、順番通りにミックスしたい」という感じだった。

ディスク1の曲は早い段階でやった。たとえば「Hey There Mama」や「Clangin」といった曲だよ。それは、進化の過程を感じてほしかったからなんだ。僕としては、ある時代の音源を丸ごとまとめて並べた直後に、いきなりまったく違う時代の音源を配置したりするのは嫌だった。

あるいは、1975年にミックスされた音源の隣に、2025年に最新の機材でミックスしたまったく異なるサウンドの音源を配置したりするのも避けたかった。だから、ミキシングで使う機材もかなり簡素な状態にまで絞り込むことにした。アウトボード機材も変えたよ。ブラザー・スタジオにあったアウトボード機材のリストをチェックして、当時のスタッフに実際にあった機材がどんなものだったのか聞いてみた。

Hey There Mama (2025 Mix)

そうして『Adult/Child』の楽曲に取り掛かった段階で、その主要部分になる音源を移動させたんだ。すると、ミックスしたものの「これは合わないだろう」となって外す音源も出てきた。長時間に渡って議論したよ。あのセッションに合うものが何なのか、各セッションを結びつける要素は何なのか、ずいぶん話し合った。全体がまとまるようにするためにね。

そうして6~7カ月かけて何度も試行錯誤を繰り返した。かつてウエスタン・スタジオだった場所まで行って、スタジオ3のスピーカーでこの音源を再生したこともある。あそこは、『Pet Sounds』が録音されたスタジオだった。すると、そこにいた全員が「うわっ!」って驚いていた。それでモチベーションが上がったよ。正しい方向に進んでいるという感じがあった。

完成させたミックスはたくさんあったんだけど、ミキシングが済んで2カ月も経つと改めて少し手を加えることがよくあったね。というのも、その時点になると前後の曲の配置が決まっていたからなんだ。だから流れをより上手く表現するために、別のミックスを作ることにした。

たとえば「勢いを削ぎたくない」とか、「このあとはもっとダイナミックな曲に続くから、ここをもっとソフトにしておけば場面転換が際立つだろう」といった具合に考えていた。「次の章へのつなぎはどうしよう?」とかね。そういう作業には時間がかかるんだ。

―― 『We Gotta Groove』をファンの皆さんに聴いてもらえるのは、楽しみですよね。

ジェームズ・サエス:こうした制作プロセス全体の中で最も恐ろしかったのは、すべてのミックスと楽曲をビーチ・ボーイズに送る瞬間だったと思う。僕たちスタッフ全員が仕上がりに満足していたとしても、結局のところ、アーティスト自身に自信を持ってもらうことが一番重要なんだよ。こちらの気分としては、まるで誰かのためにスーツを作っているような感じだね。そのスーツを着て、最大限の自信を持ってもらいたいんだ。そのスーツを着て部屋に入るときに、胸を張って最高な気分になってもらいたい。そのスーツに、こちらが自分なりのセンスを少しだけ加えることはできる。なぜならその誰かさんは何か理由があってスーツを発注してきたわけだからね。

でも結局のところ、こちらはサポート役でしかない。既に大成功しているものをさらに輝かせる役割なんだ。そういうわけで、ビーチ・ボーイズの側から「素晴らしい音だ」という感想をもらった瞬間が、僕にとって一番の決定的瞬間だった。あれは大きなハードルだった。

それに、ファンの感想を見るのもワクワクするよ。ビーチ・ボーイズのファンを完全に満足させることは絶対に不可能だと思うし、それは仕方がない。でも僕としては、ファンの皆さんをワクワクさせたいんだ。妙な話に聞こえるかもしれないけど、時には粗探しと言ってもいいくらい細かいところまで文句を言われることもあって、正直言うとそういうところにすごく感心してしまう。なぜならそれは熱意ゆえのことだし、それほど重要な作品だということも伝わってくるからね。

もしファンの側がそこまで気にしてくれないのなら、僕たちが色々議論を重ねることもなかったはずだよ。ファンの人たちはこうした作品を本当に深くまで掘り下げ、まるで自分の一部のように感じている。もはやDNAの一部なんだ。だからファンの側が楽曲を味わい尽くす姿を見ると、こちらとしては少し家族とのプライベートな時間を犠牲にしたかもしれないけど、ある意味、正しいことを成し遂げたんだという気分になるよ!

―― それから『Pet Sounds』なんですが、さらに新しいリリースの計画はあるんでしょうか?

ハウィー・エデルソン:『Pet Sounds』は今年発売60周年だ。今のところ、言えるのはそれだけだね。

Written By Jamie Atkins


ビーチ・ボーイズWe Gotta Groove: The Brother Studio Years
2026年2月13日発売
日本独自企画3CD / 3LP+3CD

◆Disc 2には、1977年制作の未発表アルバム『Adult/Child』(1977)の音源が初めて正式収録。
◆日本のみ3CD仕様でのリリース。
◆英文ライナー翻訳、歌詞・対訳付
◆収録内容
Disc 1:『The Beach Boys Love You』1977ミックス、『The Beach Boys Love You』アウトテイク
Disc 2:『Adult/Child』セッション、1974-1977 アウトテイク
Disc 3:『15 Big Ones』アウトテイク&オルタネイト・ミックス、『The Beach Boys Love You』オルタネイト・ミックス、『The Beach Boys Love You』ブライアン・カセット・デモ


Share this story
Share
日本版uDiscoverSNSをフォローして最新情報をGET!!

uDiscover store

Click to comment

Leave a Reply

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

Don't Miss