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ザ・ビートルズ『Anthology 3』DISC1収録曲解説:“ビートルズ版アンプラグド”と評された3作目

1995年から1996年にかけて3回に分けて発売されたザ・ビートルズのアルバム『Anthology』が、最新リマスターだけではなく、未発表や最新ミックスされた音源が追加され、2025年11月21日に『Anthology Collection』(8CD/12LP)として発売された。
新規追加された単独としても発売された新作アルバム『Anthology 4』も話題となっているが、今回は、リマスターされたアルバム『Anthology 1』から『Anthology 3』までのDISC1について、『レコード・コレクターズ 12月号』に掲載された作品解説を許諾を得たうえで順次公開。Disc2を含めた全文解説については、11月14日に発売されたザ・ビートルズが表紙の『レコード・コレクターズ 12月号』をご覧ください。雑誌の購入はこちらより。
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「MTVアンプラグド」が人気だった1996年に発売された『Anthology 3』(以下、本作)は、“ビートルズ版アンプラグド”と評された。インド滞在中に書きためた曲を1968年5月後半にジョージ・ハリスンの家で録音したイーシャー・デモ(ディスク1の2曲目、4曲目から9曲目)などは、まさにアンプラグドだ。
1968年の録音で占められるディスク1は、デモ以外はすべてEMIスタジオ録音。ほとんどの曲は『The Beatles』に収録されるが、4曲目と5曲目は『Abbey Road』に、7曲目は『McCartney』、19曲目は『George Harrison』のソロ作に。ディスク2は1969年の録音で占められる(22曲目は1970年、23曲目には1967年「A Day in the Life」のピアノが追加)。
1曲目から9曲目、11曲目、12曲目はアップル・スタジオでのゲット・バック・セッション(以下、GBS)。それ以外はEMIスタジオ。ジョージが自分の誕生日に録音したのが10曲目、13曲目、16曲目。2曲目、9曲目、14曲目〜17曲目、20曲目は『Abbey Road』、1曲目、3曲目、4曲目、5曲目、8曲目、12曲目、21曲目、22曲目は『Let It Be』に。6曲目は『McCartney』、10曲目は『All Things Must Pass』とソロ作。録音日とテイク数を最初に記した以下の解説では、録音時の状況やユーモア溢れるしゃべり、完成版に使われなかった歌詞を中心に拾った。
ディスク1
1曲目「A Beginning」1968年7月22日:「Now and Then」で始まるはずだった本作は、代わりにジョージ・マーティン作曲のインストで幕を開ける。この録音の数日前に公開された映画『イエロー・サブマリン』では、オープニング・クレジットの後にこの曲が挿入されている。リンゴ・スターが何年も世に出させてもらえなかった初の自作曲「Don’t Pass Me By」をどう調理するか悩んだ末に出たのが、このインストを冒頭に追加するというジョン・レノンのアイディアだったが、奇妙すぎるとボツに。
2曲目「Happiness Is a Warm Gun」: 完成版のヴァース1がない分、文学色が薄まりドラッグとヨーコ色が強い。途中コードを間違えたと悪態をつきつつ、ジョンがアコギを弾いて一人で歌う。
3曲目「Helter Skelter」1968年7月18日 テイク2(edited): スロウなブルースのヴァージョン。この日、3テイク録音され、いずれも10分を超すジャムだった。“ヘルター・スケルター”はイギリスの遊園地にある大型滑り台で、私も乗ってみたが歌詞の動きそのままだった。卑猥な意味も含ませているのだが、さらにここでは「滑り台のてっぺんにまたよじ登っても、満足にハイになれない」と、ドラッグのイメージも登場する。
4曲目「Mean Mr. Mustard」:ホームレスのマスタード氏のセリフ「あんちゃんこっちに来なよ。太もも握ってやるよ」をジョンがささやく。
5曲目「Polythene Pam」:完成版にない歌詞「ちょいとばかばかしいかもしれんがあの娘育ちはいいんだよ」に注目。ジョンいわく「リヴァプール伝説のふしだら女」の歌なので、強烈なリヴァプール訛りで歌われる。
6曲目「Glass Onion」:完成版にある「セイウチはポールだった」や「レディ・マドンナがどうにかやりくりしようとしている」はできていない。完成版にない歌詞「(ストロベリー・フィールズと)同じくらい現実の場所があるぞ 実際に行くこともできる すべてが光る場所だ」があり、誘うように歌っていて、「助けて!」の言葉が聞こえる。
7曲目「Junk」:このデモから何か月も経ったGBSでは、ポール・マッカートニーが自虐気味に「“Teddy Boy”と“Junk”覚えてる?」と言い、ジョンとシャンソン風にこの曲を歌うのだ。
8曲目「Piggies」:歌詞で豚さん夫婦がフォークとナイフで食べるのが完成版ではベーコンだったが、ここではポーク・チョップ。
9曲目「Honey Pie」:完成版にある英北部出身の娘がハリウッド女優になる物語のイントロと古いエンタメ色満載のブリッジはないが、後半のふざけた盛り上がりが良い。
10曲目「Don’t Pass Me By」1968年6月5、6日:テイク3オケを利用したテイク5にヴォーカルを乗せた。完成版のフィドルがなくとも、リンゴがカントリー歌手になりきったしゃべり「待ってるよハニー、急いで来ておくれ。通り過ぎないで。泣かせないでおくれ。ハッピーにしてくれよ」が味わい深い。
11曲目「Ob-La-Di, Ob-La-Da」1968年7月3~5日 テイク5:ジョンのしゃべりを編集で追加。曲前は「こちらはユナイテッド・ジャンボ・バンドによるテイク1でございます!」、曲後は「オブ・ラ・ディ、オブ・ラ・ダだぜ、ブラザー!」と、どちらも爆笑もの。完成版で登場人物の男女の役割が逆になっていたのが、この段階では正しく歌われている。
12曲目「Good Night」1968年6月28日/7月22日:ジョン「始まり方がすごくいい」、ジョージ「出だしが変わったね」、ジョージ・マーティン「さあやろう」と、冒頭の会話からもやる気が感じられるリハに、テイク34のオーケストラを追加。
13曲目「Cry Baby Cry」1968年7年16日 テイク1:曲名自体マザー・グースの同名詩を元にしたCMから借用。マザー・グース「6ペンスの唄」も歌詞に引用。ジョンが10年以上後に書いた「Cleanup Time」でも同詩は引用され、どちらも詩と逆で、王は料理、女王は本曲でピアノを弾いていたのが、金勘定に。
14曲目「Blackbird」1968年6月11日テイク23:この日の映像が残されているが、ポールは恋人フランシー・シュワルツと、ジョンはヨーコと一緒に同じスタジオにいる(ジョージとリンゴはアメリカ)。
16曲目「While My Guitar Gently Weeps」1968年7月25日テイク1:他のメンバーのこの曲にかける熱意の薄さに失望したジョージが、完成版で聴けるエリック・クラプトンのギターを投入することになる。アコギとポールによるハーモニウムで演奏される本作では、「あなたが上演する演劇を舞台袖から私は見守る」の歌詞が聴ける。
17曲目「Hey Jude」1968年7月29日テイク2:演奏前のしゃべりで、ジョンが「僻地ブラック・カントリーから」と厳かに宣言すると、ポールが「俺がボストン・プレイスで強盗してた頃君が寄ってきて優しく抱きしめてくれた」とキャバレーの弾き語り風に応じる。前者の地名はイギリスの工業地帯で、後者はアップル・エレクトロニクス(責任者はマジック・アレックス)の所在地。
18曲目「Not Guilty」1968年8月8、9、12日 テイク102(edited):ジョージいわく、ジョンとポールとアップルの錯乱状態を歌った曲。インドで嫌な目にあったのは俺のせいじゃない、 “not guilty” =無罪だと。100テイク以上重ねてもジョージはヴォーカルに満足できず、様々な場所を試す過程で「Yer Blues」を小部屋で録音する案が浮上。
19曲目「Mother Natures Son」1968年8月9日 テイク2:ポールが一人で録音。曲の前に「声にスピーカーみたいなのがかかってるのが聞こえるんだけど、外してくれる?」「ああ、ならそのままでいいよ」とコントロール・ルームに確認する声。曲の後で「今宵続けてお届けするのは、私めの演奏で“Londonderry Air”」とおどけている。
20曲目「Glass Onion」1968年9月11、12、13、16、26日:完成版でストリングスに置き換わる前の、様々なSEが聴ける。ジョンが一人で取り組んだもので、ガラスが割れる音や、サッカー実況の「ゴールを決めた!」の言葉が入っている。
21曲目「Rocky Raccoon」1968年8月15日 テイク8:この曲を1日で完成させたのは驚異的。ジョンの厳かな宣言「彼は自業自得の馬鹿者でした」で始まる。完成版にない歌詞では、「自分の愚かさを認めたがらない」主人公について「忘れちゃいけないのはですね ミネソタの小さな町の出身ということです 本来ならそんな若者がああいうこと(好きな女を取られて発砲)をすべきじゃない」と大げさなアメリカ訛りでボブ・ディランお得意のトーキング・ブルースにしながら、ミネソタ出身のディランを茶化している。途中「匂う」を言い間違えたポールが、笑ってしまい歌詞がぐだぐだに。
22曲目「What’s The New Mary Jane」1968年8月14日 テイク4:ジョンの曲でジョージとヨーコ(絶叫が楽しい)とマル・エヴァンズと共に録音。エキゾチックな響きの名詞がたくさん出てきて、途中、外国人風の発音で歌われる。プラスティック・オノ・バンド名義で出そうと69年にリミックスするも、本作まで日の目を見なかった。
23曲目「Step Inside Love / Los Paranoias」1968年9月16日:「I Will」録音の合間のジャムで、シラ・ブラックに提供した曲を歌った後でポールが、ジョー・プレーリーズ&ザ・プレーリー・ウォールフラワーズと、リヴァプールのバンド風に長い架空のバンド名で自分たちを呼ぶ。するとジョンが、パラノイアの集団のようなバンド名、ロス・パラノイアス(自分たちをよくこの架空のバンド名で呼んでいた)で応酬し、「ご参加お待ちしております。何でも歌いますから」とポールが即興で歌う。ジョンが女性の声で「もう無理よ」と言うのが笑える。
26曲目「Why Don’t We Do It In the Road?」1968年10月9日 テイク4:演奏後に「みんな(この時、他のメンバーは不在)どう思う? もっと良くなるかな」とポールが言っているが、会話の続きは『The Beatles』スーパー・デラックス・エディションのテイク5で聴け、「静かなヴァースとラウドなヴァースにしたいんだ」と言っている。硬軟混ぜる歌い方は、完成版では不採用に。この曲に関して、ジョン「ポールが俺たちを入れずに一人でやると、いつも傷ついた」、ポール「後でこの曲をジョンが歌っていた。気に入ってるみたいで、一緒にやりたかったようだ。ジョンっぽい曲だしね」の発言が残されている。
27曲目「Julia」1968年10月13日 テイク2:冒頭の歌詞以外はほぼインストで、ジョンの非常に美しい演奏。演奏後にコントロール・ルームにいるポールとの、仲睦まじい会話が聴ける(交互にポール→ジョン)「最高のテイクだったね」「途中まではね」「また挑戦する? 一つか二つ、つまずいてたから」「1箇所あったな」「ともかく、本当にすごい演奏だった」「そっから始めてもいいよね」「お望みなら」「ノー」「すごくいい調子! ものすごく!」「今の完璧だったよね」「最高だったよ。なんなら編集してもいい」
Written by 朝日 順子

ザ・ビートルズ『Anthology Collection』
2025年11月21日発売
① 8CDボックス・セット
品番:UICY-80700/7
価格:22,000円税込/完全生産限定盤
予約はこちら
② 12LPボックス・セット
品番:UIJY-75340/51
価格:69,300円税込/直輸入盤仕様/完全生産限定盤
予約はこちら

ザ・ビートルズ『Anthology 4』
2025年11月21日発売
2CD / 3LP
ザ・ビートルズ『Free As A Bird / Real Love』
7インチ・ヴィニール:2025年11月28日発売
CDシングル:2025年12月3日発売
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