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ヤングブラッドとは?:オジーとスティーヴンの双方から新たな翼を授かった21世紀のロックスター

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Photo: Tom Pallant, Courtesy of Live Nation

エアロスミス(Aerosmith)約13年ぶりの新曲を含む全5曲入りの新EP『One More Time』が2025年11月21日に発売される。このEPはエアロスミス単独ではなく、UK出身の若手ロッカー、ヤングブラッド(YUNGBLUD)との共演作品となっている。

オジー・オズボーン最後のライヴで披露した「Changes」や、MTV Video Music Awardsでのオジーの追悼コーナーでエアロスミスと共演したことが大絶賛され、来年2月に発表されるグラミー賞では3部門に初めてノミネートされるなど、現在評価が急上昇している彼について、音楽評論家の増田勇一さんに解説いただきました。

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才能と可能性に満ちた新星の登場はいつも未来への希望を抱かせるものだが、その当事者が「次代の担い手」といった期待を集めながらも時流からの援護を得られず、迷走を重ねた末に主役になれぬまま失速、というケースも実のところ少なくない。せっかく広く注目を集める機会を得たのにそれが次に繋がらない、というのもよくある話だ。いきなり気が滅入るような話をするようで恐縮だが、これは音楽の世界に限らずよくあることだと思う。

ただ、幸いにもヤングブラッドがそうしたネガティヴな渦に巻き込まれることはなさそうだ。近頃あちこちで名前と顔を目にするこの人物は、まさに今現在の音楽シーンを象徴するアイコン的存在のひとりだといえる。しかも興味深いのは、彼の創造するものや言動といったものが奇天烈なようでありながら普遍的、飛び道具のようでありながら王道的だったりするところだ。

実際、筆者にとって、数年前にこの人物を知った時の第一印象は「いまどきのロックスター」といったものだった。その「いまどき」という言葉は「ブリング・ミー・ザ・ホライズンがロック・ミュージックの基準になっている時代」と言い換えても差し支えないかもしれない。そのたたずまいはパンクでポップでカラフルで、ステージ上での動きには落ち着きがなく、4文字言葉の連発でオーディエンスを煽る叫び声はやたらとけたたましい。「ちっとも褒めていないじゃないか」と言われるかもしれないが、いつの時代も若い世代の代表となり得るのは、行儀のいい優等生的なスターではなく、お決まりのルールを蹴散らす暴れん坊のほうだったはずだ。僕はそんな理由からも、彼がシーンを引っ掻き回すことを期待するようになっていた。

 

『Back to the Beginning』でのパフォーマンス

しかし、まさか2025年のヤングブラッドがこんな局面を迎えることになるとは思ってもみなかった。読者のなかには、たとえば去る7月5日に英国はバーミンガムで開催された『Back to the Beginning』でのパフォーマンスを切っ掛けに彼に興味を持つようになった人たちも少なからずいることだろう。ブラック・サバスとオジー・オズボーンのキャリアを締め括るその大舞台にて、彼はサバスの名曲「Changes」を丁寧かつ力強く歌い上げてみせた。

メタル界隈の大御所がひしめく出演者たちのなかで彼は明らかに異色であり、ぶっちゃけ、彼のパフォーマンスを目当てにあの場に赴いた観客はほぼ皆無だったに違いない。しかし彼は、その1曲で4万人を超えるオーディエンスと、配信を通じてその様子を見守っていた世界中の音楽ファンを味方につけたのだった。あくまで個人的な感想ではあるが、そのインパクトには、1992年にロンドンで行なわれたフレディ・マーキュリーの追悼コンサートで、ジョージ・マイケルが「Somebody to Love」を完璧に歌い上げた際の驚きにも匹敵するものがあった。

結果、その「Changes」のライヴ音源は同公演の2週間後には配信リリースされ、さらに反響の輪を拡げることになった。そして、オジーが天に召されたのは、それからわずか4日後にあたる7月22日のことだった。

Changes (Live From Villa Park / Back To The Beginning)

 

エアロスミスとのオジー追悼

しかし物語はそこでは終わらない。それから1ヵ月半ほどを経た9月7日に開催された『2025 MTV Video Music Awards』授賞式の場に設けられたオジー追悼の時間枠にも彼は登場し、その場でオジーの看板曲のひとつである「Crazy Train」と前述の「Changes」のメドレーをヌーノ・ベッテンコートらと共に披露するのみならず、「Mama, I’m Coming Home」をエアロスミスのスティーヴン・タイラー、ジョー・ペリーと共演してみせたのだった。

その際の模様はYouTubeでも公開されているが、当日行なわれたすべてのパフォーマンスのなかでも最多視聴回数を記録している。その事実はこのコラボの注目度の高さに加え、この映像を繰り返し見た人たちいかに多かったかを裏付けている。そう断言できるのは、筆者も何度もそれを見てきたからだ。

Steven Tyler, Joe Perry, YUNGBLUD, & Nuno Bettencourt Perform Ozzy Tribute Medley | 2025 VMAs

 

エアロスミスとの新曲発売

そして彼が次に注目を集めたのは、言うまでもなくエアロスミスとの合体だった。去る9月17日に公表されたのは、彼らとヤングブラッドとの共作による新作EP『One More Time』が11月にリリースされるという衝撃の事実。その2日後には同作からの先行シングルとなる「My Only Angel」が配信リリースされ、話題を独占することになった。

エアロスミスとしては2012年11月発表のアルバム『Music from Another Dimension!』以来、じつに13年ぶりの新曲ということになる。同バンドはスティーヴン・タイラーの喉の回復の遅れによりフェアウェル・ツアー継続を断念し、2024年夏の時点でツアー活動からの引退を表明していただけに、ファンの多くは「ツアーは無理でも単発的なライヴや創作活動を続けていくのは可能ではないか?」という微かな希望を抱いていたことだろう。それがまさかこんなにも画期的なコラボ作品として実現することになるとは、誰も想定できずにいたに違いない。

Aerosmith, YUNGBLUD – My Only Angel (Official Visualizer)

もちろんこうした出来事は、一朝一夕に起こり得るものではない。ジョー・ペリーの公式コメントによれば、彼らは2024年のうちにヤングブラッドの側から、一緒に曲を作りたいと持ち掛けられていたのだという。

ジョーは彼について「彼のシングルを聴いて、この男には本物の力があると思った」と語り、また、ヤングブラッドの側はこのプロジェクト実現について「エアロスミスは僕にとってロックンロールとショーマンシップの象徴のような存在。ずっとこの瞬間を待っていた」と語っている。そして、他ならぬオジーが両者の繋がりをいっそう強固で意味深いものにしたという事実もまた興味深い。ご存知のとおりスティーヴンもまた『Back to the Beginning』に突如登場してオーディエンスと視聴者を驚かせ、健在ぶりをアピールしていた。

 

偶然×偶然=奇跡をつかみ取ったヤングブラッド

事実関係の流れについて改めて整理してみると、こうして今、ヤングブラッドの動きから目が離せなくなっていることについて、僕自身もまんまと彼らを巡るプロモーション計画に乗せられているのだと気付かされもするが、そこには戦略的な匂いではなく、むしろ偶然が偶然を引き起こしながら奇跡的な物語を紡いでいくかのような、あまりにもナチュラルな感動がある。

ヤングブラッド自身にとっての最新オリジナル作は去る6月にリリースされた『Idols』だが、このアルバムには彼が改めて自らのルーツと向き合い、自身の音楽のメカニズムを分解掃除し、アイデンティティを再確認しながら、彼自身の音楽観をそのまま物語として構成したかのような趣がある。

なにしろそこには90年代のブリット・ポップから70年代に生まれた普遍的なハード・ロック、さらにはエルトン・ジョンとバーニー・トウピンのコンビによる作風を思わせる要素が混在しているのだ。そうした自己探求の過程にあった彼に、エアロスミスとのコラボ、オジーとの出会いと別れという運命的な出来事が巡ってきたのは、本当に奇跡レベルのことだと思えてならない。

YUNGBLUD – Hello Heaven, Hello (Official Music Video)

 

ヤングブラッドの作品

こうした一連の出来事を機にヤングブラッドの存在を知った人たちには、まずその『Idols』に触れてみて欲しい。1997年8月5日生まれの彼は、本名をドミニク・リチャード・ハリソンといい、これまでに同作を含む4枚のアルバムをリリースしてきた。しかも第2作の『weird!』(2020年)以降は3作連続でUKアルバム・チャートの首位に輝いているほどの実績の持ち主だ。

また、エネルギッシュどころではなくハイパーなライヴ・パフォーマンスにも定評があり、日本でもこの夏には『サマーソニック』への2回目の出演(前回は2022年)を果たしているし、2023年には単独公演を成功させるのみならず、ブリング・ミー・ザ・ホライズンの呼びかけによる『NEX_FEST』にも出演し、強烈なインパクトを残している。

YUNGBLUD – Happier (feat. Oli Sykes of Bring Me The Horizon) [Live From Japan]

彼は自らの音楽的背景について、アークティック・モンキーズ、ザ・ビートルズ、ザ・キュアー、スージー&ザ・バンシーズ、クイーン、ニルヴァーナ、ザ・クラッシュ、アヴリル・ラヴィーン、マイ・ケミカル・ロマンス、マリリン・マンソン、レディー・ガガ、ポスト・マローンといったさまざまなアーティストからの影響を認めている。

幼少期に注意欠陥・多動性障害と診断されたという彼は、当然のように問題児扱いされてきたが、常に強い意志を持ち、型に嵌まることを嫌い、きっぱりとした主張を続けてきた。音楽の道を歩み始める以前には俳優としての活動歴もあり、現在28歳の彼の人生はこれまでの段階ですでに充分すぎるほど波乱に富んでいる。

そんなヤングブラッドに対する世の認識は、昨今の一連の動きや、今回のエアロスミスとのコラボ作品などによって、従来とは違ったものになってくることだろう。しかもその兆候はすでに表れ始めている。なにしろ先頃発表された2026年度のグラミー賞において、彼は「Changes」で最優秀ロック・パフォーマンス、『Idols』で最優秀ロック・アルバム、そして「Zombie」で最優秀ロック・ソングという計3部門でノミネートされているのだ。

【和訳】YUNGBLUD – Zombie / ヤングブラッド

そしてここで重要なのは、彼の存在に注目するのは今からでも決して遅すぎはしないということ、そして若い世代の代弁者たる彼が、決して若者たちだけのための存在ではないということだろう。

オジーとスティーヴンの双方から新たな翼を授かったともいうべき彼が、この先どんな飛翔を見せてくれるのかが楽しみでならない。ロック史に残るさまざまな成功例も失敗例も蹴散らしながら、彼だけの未来を手にして欲しいものである。

Written By 増田 勇一


エアロスミス&ヤングブラッド『ONE MORE TIME』
2025年11月17日発売
CD&LP / iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music

1. My Only Angel
2. Problems
3. Wild Woman
4. A Thousand Days
5. Back In The Saddle (2025 Mix)

スティーヴン・タイラー コメント

「ヤングブラッドと出会い、彼と音楽を作ることを決めた瞬間は…まるでまだピュアな電流に繋がったみたいだった!ジョーと僕にとっては、別惑星の衝突のような出来事だったんだ…スタジオでドムという名の、信じられないほど才能にあふれ、そしてまったくもって野性的な動物のような存在と一緒にいるなんて。彼は自分の人生を全力で生きていて…僕らのレコードやブリティッシュ・インヴェイジョンで育ってきた。そして今、世代を超えて繋がるものを一緒に作っているんだ。彼も僕らと同じ偉大なアーティストたちを貪るように聴き、憧れ…そして夢見るようになったんだ。結局のところ、それがすべてなんだよ。初めて一緒に歌い、演奏した瞬間、スタジオ全体に言葉では表せない波動が走ったんだ…それは50年前、仲間たちと一緒にボストンへ向かう車の中で、シートに伝わる振動を感じた時を思い出させた。あの時と同じような、深く切実な“必要性”を強く感じたんだ。何か素晴らしいものを作りたい…新しくてフレッシュなものを…そして永遠に残るものを。それがロックンロールのやり方だよ、ベイビー! ヤングブラッドはロックの歴史の次の章を欲していて、僕らにその一部になってほしいと頼んでくれた。僕らはすぐに意気投合して…最初から部屋の雰囲気は最高だった。本当に楽しかったし、彼と一緒に曲を書けたことを心から光栄に思っている。ロックンロールは、心と魂を注ぎ込んだときにこそ時代を超えるものになる…そこで魔法が起こるんだ」

 

ジョー・ペリー コメント

「1年前、ヤングブラッドがフロリダ州のサラソタに来て一緒に曲を書きたいって連絡を受けた。彼のシングルを聴いて“くそっ、そうだ、この男には本物の力がある”と思ったんだ。スタジオで4日間を過ごして、彼やチームと親しくなった。そこでスティーヴンに電話して『このヤングブラッドって奴を聴いてくれ。マジで本物だ』と言ったんだ。それから数か月後の5月、僕らはスティーヴンと一緒にスタジオに入って新しい音楽を録音していた。結果は、エアロスミスとヤングブラッドによる驚くべきコラボレーションになった。あとは音楽に語らせればいい」

 

ヤングブラッド コメント

「エアロスミスは僕にとってロックンロールとショーマンシップの象徴のような存在で、ずっとこの瞬間を待っていたんだ。スタジオに入った瞬間、ケミストリーが爆発して、曲が次々と溢れ出してきた。子供の頃の僕なら夢にも見なかったようなコラボで、今こうして“AEROSMITH & YUNGBLUD”と書かれたレコードを手にしていることが本当に信じられない。スティーヴンとジョーは今もなお絶頂にいて、彼らと一緒に音楽を作れることはとてつもなく光栄なことなんだ。ヒーローたちとレコードを作り、毎晩の僕のライブは狂気的に盛り上がっている。ロックンロールは君たちが好きだろうが嫌いだろうが、確実にこの世に目を覚まし始めているんだ。僕はそのすべてを全身で楽しんでいるよ」




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