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ジョン・レノン&オノ・ヨーコ『Power To The People』発売決定。唯一のフルライブなどが収録

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ニューヨークへ移住し政治性を強めていった時期のジョン・レノンとオノ・ヨーコの活動を深掘りして称える12枚組(9CD+3ブルーレイ)の豪華ボックス・セット、『Power To The People』が2025年10月10日に発売されることが発表となった。名義はジョン&ヨーコ/プラスティック・オノ・バンド(John & Yoko/Plastic Ono Band, with Elephant’s Memory and Special Guests)となる。予約はこちら

ザ・ビートルズ解散後、1972年8月30日にニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンで開催された無料チャリティ・ライヴ、”ワン・トゥ・ワン・コンサート(One To One Benefit Concerts)”に全面的なリミックスを施した音源も収録。このライヴはジョン・レノンがフルで行った唯一のものであり、彼がオノ・ヨーコとともにステージに立った最後のイベントでもあった。

92の追加トラックを含むボックス・セット仕様のスーパー・デラックス・エディションには、政治色が前面に出た彼らの1972年作『Sometime In New York City』を再構築・リミックスした『New York City』も収録。そのほかにも、デモ音源、アウトテイク、宅録音源、スタジオでのジャム・セッション、各曲のエヴォリューション・ドキュメンタリー、追加のライヴ・パフォーマンスなどの未発表音源が多数。

そしてこの”ワン・トゥ・ワン・コンサート”より、新たにミックスされたザ・ビートルズの「Come Together」の未発表ライヴ・パフォーマンスが先行公開された。

Come Together (live) – John & Yoko/Plastic Ono Band with Elephant's Memory

この作品のプロデューサーはショーン・オノ・レノンが担当、5度のグラミー賞受賞歴を誇るチームが構成・ミックス・選曲を行っている。

発売形態

国内盤/輸入国内盤仕様
9CD + 3ブルーレイ [輸入国内盤仕様/完全生産限定盤][SHM-CD]
2CD [UNIVERSAL MUSIC STORE限定][生産限定盤] [SHM-CD]
1CD [国内盤 SHM-CD]
4LP [UNIVERSAL MUSIC STORE限定][直輸入盤仕様/完全生産限定盤]
2LPカラー [UNIVERSAL MUSIC STORE限定][直輸入盤仕様/完全生産限定盤]
2LP [直輸入盤仕様/完全生産限定盤]

輸入盤
9CD + 3Blu-Ray
1CD
4LP[UNIVERSAL MUSIC STORE限定盤]
2LP

収録内容

CD1 / ブルーレイ1:『One To One Benefit Concerts』ハイブリッド“ベスト・オブ”ショー
CD2 / ブルーレイ1:『One To One Benefit Concerts』アフタヌーン・ショー
CD3 / ブルーレイ1:『One To One Benefit Concerts』イヴニング・ショー
CD4 / ブルーレイ2:『New York City』アルティメイト・ミックス
CD5 / ブルーレイ2:『New York City』エヴォリューション・ドキュメンタリー
CD6 / ブルーレイ2:『New York City』スタジオ・ジャム&エレメンツ・ミックス
CD7 / ブルーレイ3:『Live Jam』
CD8 / ブルーレイ3:『Live Jam 2』
CD9 / ブルーレイ3:『Home Jam』

*『New York City』は1972年作『Sometime In New York City』を再構築・リミックス
* ブルーレイ:HDステレオ、HD 5.1サラウンド、ドルビーアトモス
* 2CD/4LPにはアフタヌーン・ショーとイヴニング・ショーの31曲を収録
* 1CD/2LPには ハイブリッド“ベスト・オブ”ショーの17曲を収録

【9CD + 3ブルーレイ】収録物
・3Dレンチキュラー・カヴァー
・204ページ・ブックレット付
・ポスター/ポストカード2枚/ステッカー2枚/レプリカ・チケット2枚、VIPバックステージ・パス&VIPアフターショー・インヴィテイション付

<日本盤のみ>
英文解説翻訳/歌詞対訳付/SHM-CD仕様

POWER TO THE PEOPLE ⋆ Deluxe Box Set ⋆ Out 10 October ⋆ Preorder Now.

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Photo by Michael Negrin © Yoko Ono Lennon

作品概要とコメント

ジョン・レノンとオノ・ヨーコはイギリスの田舎から最先端の文化の発信地であるグリニッジ・ヴィレッジに移住したのち、非暴力的な政治活動に傾倒し、平和と抵抗の象徴となった強力なアンセムの数々を発表。ニューヨークで過ごした最初の数年のあいだに、彼らはアーティストとしての活力を取り戻すとともに、政治活動にものめり込んだ。

そしてこのたび、当時の2人の活動を深掘りして称える『Power To The People』が、12枚組(9CD+3Blu-ray)の豪華ボックス・セットや様々な形態、デジタル配信でリリースされる。発売日は、ジョンが85歳を迎えるはずだった日の翌日にあたる2025年10月10日。

本作のプロデュースを担当したのはショーン・オノ・レノンと、5度のグラミー賞受賞歴を誇る彼のチーム。彼らは最近でも、革新的かつ手の込んだボックス・セットである『Mind Games』のアルティメイト・コレクションを制作。業界で求められる水準をさらに高めるようなその仕事ぶりが認められ、2025年のグラミー賞では最優秀ボックス・セット/スペシャル・リミテッド・エディション・パッケージ賞を受賞した。そして、このたびリリースされる『Power To The People』は、ジョンとヨーコが政治性を特に強めていた時期の活動を纏め、90トラックの未発表音源を含む123トラックを収録した網羅的で愛情のこもったコレクションだ。

そこには1969年の”ベッド・イン”の際に録音されたプラスティック・オノ・バンドの反戦アンセム「Give Peace A Chance(平和を我等に)」から、議論を呼んだ1972年の重要作『Sometime in New York City』の新ヴァージョン、同年にニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンで行われた歴史的なイベント”ワン・トゥ・ワン・コンサート”、―― ザ・ビートルズ解散後にジョン・レノンがフルで行った唯一のライヴであり、ジョンとヨーコが同じステージで演奏した最後のイベント――の音源まで幅広く収録している。さらに本作には、未発表のデモ音源、宅録音源、ジャム・セッション、ライヴ音源、各曲の特別なミックスなども多数収められている。

ジョン・レノンは1972年、NME紙にこう語っている。

「マディソン・スクエア・ガーデンでの演奏はキャヴァーンやハンブルク以来、一番楽しめた。ザ・ビートルズとして音楽にのめり込んでいたころと同じような感覚になれたんだ」

ヨーコ・オノ・レノンは本作『Power To The People』の序文にそう綴っている。

「“ワン・トゥ・ワン・コンサート”は、私たちの“草の根政治”の取り組みの一環だった。あれは、ジョンと私が強く信じていた“平和と啓蒙のためのロック”を体現したものだった。そしてあのマディソン・スクエア・ガーデン公演は、ジョンと私が一緒に演奏した最後のコンサートになった。“Imagine Peace/平和な世界を想像しよう”、“Peace is Power /平和は力だ”、“Power To The People/民衆に力を!”!」

ショーン・オノ・レノンはこう話す。

「このコレクションを纏め、コンサートの音源をリミックスする中で、両親のアーカイヴに残された未発表音源を初めて耳にしたことは、僕にとって本当に衝撃的な経験だった。父が話す音源を聴いたり、父の姿を見たりするのが僕にとってどれほど特別なことか、世間の皆さんは分かっていないのかもしれない。僕は、皆さんにもお馴染みの写真や音声だけを見聞きして育ってきた。だから、初めて出会う素材を見つけることは、僕にとってすごく重要な意味を持っている。それは、父と一緒の時間を過ごせているような気分になれるからだ。僕が11歳のとき、母は『Live in New York City』のアルバムと映像を世に出した。だから僕は、成長期にあのアルバムをよく聴いていた。父の最後のコンサートになったあのライヴは、僕の頭の中で特別な位置を占めている。そういうわけであのライヴに関してはポール・ヒックスやサイモン・ヒルトンと一緒にたくさんの時間をかけて、ライヴ感のある雰囲気を残しつつ、全体の音をできる限りクリーンにする最良のバランスを探った。そして音声の修復を担当したサム・ガノンは、細部にまでこだわった驚異的な仕事をしてくれた。僕らの駆使した技術をすべて明かすつもりはないけれど、ある種の”映画のような魔法”が必要だったとでも言っておこう。とにかく最終的には、あのコンサートをこれまでで最高のサウンドに仕上げられたと思う」

 

Power To The People /パワー・トゥ・ザ・ピープル

『Power To The People』のスーパー・デラックス・エディションは、9枚のCDと3枚のブルーレイ(音源のみ)で構成。それらは銀箔を使用したタイトル部分と、ジョンとヨーコの顔が重なり合うことでダイナミックな3D効果を生み出すレンチキュラー・プリントのカヴァーが特徴的な10インチの特注スリップ・ケースに収納される。

このボックス・セットには、資料性に富んだハードカヴァーのブックも付属。サイモン・ヒルトンがデザインと編集を担当し、詳細な調査の上で作られた204ページのブックは、新旧のインタビューから集められたジョンとヨーコら関係者の証言を通じて、収録楽曲に纏わる歴史をくまなく紐解く内容だ。また、その中には未公開の写真、歌詞、イラスト、テープの箱や関連の品なども掲載される。ほかにもこのパッケージには、新聞印刷風のポスター、ステッカー・シート、VIP用封筒が付属。封筒の中には、本物のような質感と高い保存性を兼ね備えた素材で特別に再現したコンサートのチケット、バックステージ・パス、アフターショー・パスのレプリカが収められる。

 

One To One Benefit Concerts / ワン・トゥ・ワン・コンサート

この『Power To The People』の目玉はなんといっても“ワン・トゥ・ワン・コンサート”の音源であり、このパッケージには昼公演と夜公演の模様が初めて同時収録される。同コンサートは知的障害や発達障害のある子どもたちを支援する目的で、150万ドル(2025年現在の価値に換算すると約1,150万ドル/約16億8,545万円)を超える収益を集めたチャリティー公演だ。それらのトラックはすべてポール・ヒックスとサム・ガノンの手でオリジナルのアナログテープから全面的なリミックスを施され、新たに生まれ変わっている。なお、高解像度での音源のデジタル変換はロブ・スティーブンスが担当し、マスタリングはアビイ・ロード・スタジオでアレックス・ウォートンが手がけた。

それらのライヴ音源は“Afternoon Show/昼公演”と“Evening Show/夜公演”でそれぞれ別々に楽しむこともできるし、2つの公演からベストなパフォーマンスを選んで纏めた“ハイブリッド”を1つのライヴのように聴くこともできるようになっている。

また、CDにはステレオ・ミックスを、ブルーレイ・オーディオにはHDステレオ、没入型の5.1ch HDサラウンド・サウンド、ドルビーアトモスの各ミックスを収録。これまでは、レノンの死後の1986年にリリースされたライヴ盤『Live in New York City』で一部のトラックの古いミックスを聴くことしかできず、そのアルバムも廃盤になって久しかった。

このコンサートから抜粋された素材は、ケヴィン・マクドナルドとサム・ライス=エドワーズが監督した新作ドキュメンタリー映画『One To One: John & Yoko』にも使用されている。ショーン・オノ・レノンもエグゼクティヴ・プロデューサーとして携わり、高い評価を受けたこの映画は今年に入って米国で劇場公開されたばかり。この秋にはHBO Maxでストリーミング配信もされる予定だ(日本未公開)。

また、リミックス・修復・再編集を施された同コンサートの映像も、サイモン・ヒルトン監督/ベン・ウェインライト=ピアース編集による『Power To The People』として来年に公開される予定となっている。

さらにこの”ワン・トゥ・ワン・コンサート”は、ボックス・セット以外にもさまざまなフォーマットで商品化される。例えば高音質の4LPデラックス・コレクターズ・エディションでは、180グラム重量盤のブラック・ヴァイナル4枚に昼公演と夜公演の両方を収録。このセットでは12インチの頑丈な蓋身式ボックスに、ライス・ペーパーを使用したインナー・スリーヴや、8ページのブックレットも収められる。銀箔を使用したタイトル部分やレンチキュラー・プリントのカヴァーなどの仕様のほか、コンサートのチケットやパス類のレプリカを収めたVIP用封筒とポスターが付属する点はボックス・セットと同様である。

2CDデラックス・エディションは、ジョンとヨーコの顔のレンチキュラー・プリントをあしらった3面見開きのデジスリーヴ仕様で、20ページのブックレットも付属。このほか、2公演のベストなパフォーマンスを纏めた”ハイブリッド・コンサート”単独でも商品化され、高音質の180グラム重量盤ブラック・ヴァイナル仕様の2LP、トランスペアレント・グリーン・ヴァイナル仕様の限定盤2LP、そして1CDの各種が発売される。なお、アナログ盤の各エディションには、8ページ/12インチのブックレットや、ヴィジュアルと文字で当時の背景を伝える6面折りの新聞印刷風ポスター、そしてカラーのポストカード2枚が付属する。

 

Come Together / カム・トゥゲザー

『Power To The People』の発売に先立って、新たにリミックスを施された「Come Together」の未発表パフォーマンスが公開されている。これは、1日2公演が行われた”ワン・トゥ・ワン・コンサート”の2公演目である夜のステージの演奏だ。ジョンとヨーコはバックにエレファンツ・メモリーの面々とドラマーのジム・ケルトナーを従え、ザ・ビートルズの『Abbey Road』に収録された名曲を熱演したのである。

 

New York City / ニューヨーク・シティ

『Power To The People』のスーパー・デラックス・エディションにはコンサート音源のほかに、ニューヨークに移住したばかりの時期のジョンとヨーコの活動を纏めた“聴くタイム・カプセル”といえるようなトラック群も収められている。

彼らはそのころ、イングランドはアスコットの邸宅であるティッテンハースト・パークから、マンハッタンはグリニッジ・ヴィレッジのバンク・ストリート105番地にある小さなアパートへと移ってきたのだ。ここに収録されているのは、社会不安が広がり、ベトナム戦争への反戦運動が激化した時代に彼らが生み出した音楽の数々だ。

中でも当時の2人のレコーディング活動から生まれた最重要作といえば、政治性を前面に押し出した1972年のヒット作『Sometime in New York City』であろう。同作はジョンとヨーコがケルトナーや、反体制的なストリート・ロック・バンドとしてニューヨーク随一の存在だったエレファンツ・メモリーの面々とともに録音した1作。この特別なコレクションでは、そのすべての収録曲が一から全面的にリミックスされている。そうすることで「Attica State」、「Angela」、「New York City」、「Born in a Prison 」など、人びとの心を動かす名曲群の魅力を抑え込んでいた過剰なサウンド・メイクを一新。これらのトラックは再編成され、新たな命を吹き込まれ、アルティメイト・ミックスとして完全に生まれ変わった。『New York City』と題されたそれらのトラック群の中には、「John Sinclair」と「Sunday Bloody Sunday(血まみれの日曜日)」のエクステンデッド・ヴァージョンも含まれている。

 

THE EVOLUTION DOCUMENTARY&THE ELEMENTS MIXES
エヴォリューション・ドキュメンタリー&エレメンツ・ミックス

そして『New York City』の各曲を深掘りするために作られたのが、本コレクションに収録される”エヴォリューション・ドキュメンタリー”だ。サム・ガノンがさまざまな音源を組み合わせて作り上げたこのユニークなトラックでは、デモ段階からマスター音源が完成するまでの各曲の変遷をデモ音源、リハーサル音源、アウトテイク、マルチトラックの詳細な検証、スタジオでの会話などを通じて細かく辿っていく。

また、4トラックのエレメンツ・ミックスは、オーケストラ・アレンジを際立たせ、より明瞭で広がりのある音場に配置することで、これまで聴こえなかった細部まで鮮明に再現したもの。特に5.1ch サラウンド・サウンドとドルビーアトモスでは、その効果が顕著に表れる。つまりこれは、素晴らしいオーケストラ・アレンジを独立した形で提示することで、これまで楽曲全体の中に埋もれてしまっていた細部をまったく新しい形で発見してもらうことを目指したトラックなのだ。

 

STUDIO JAM / スタジオ・ジャム

『Power To The People』には、このほかに宅録音源やスタジオでのジャム・セッションなどの未発表音源を収めたディスクが“Studio Jam/スタジオ・ジャム”、“Live Jam1/ライヴ・ジャム1”、“Live Jam2/ライヴ・ジャム2”、“Home Jam/ホーム・ジャム”という分かりやすい副題でいくつか収められている。

このうち“Studio Jam/スタジオ・ジャム”は、『Sometime In New York City』の制作期間中にレコード・プラント・スタジオで録音された音源を集めたもの。ジョンとヨーコはケルトナーやエレファンツ・メモリーの面々とともに、アルバム収録曲のレコーディングの合間を縫って16曲の名ロックンロール・ナンバーを自由に演奏・録音していたのだ。それゆえこの”スタジオ・ジャム”は、ミュージシャンたちがテイクの合間にテープを回したまま演奏を楽しむ様子を垣間見られる興味深い記録であり、ジョンが1975年に発表した名作『Rock ‘n’ Roll』へとつながる貴重な音源ともいえる。

 

Live Jam / ライヴ・ジャム

“Live Jam”の名を冠した2枚のディスクには、全面的なリミックスを施されたライヴ・パフォーマンスの数々が収められている。言うなれば、『Sometime In New York City』の一部を構成していた1972年のLP『Live Jam』の拡張版といえる内容である。オリジナルの『Live Jam』には、1969年にライシアム劇場で行われたUNICEF主催のチャリティー・コンサート“ピース・アンド・ラヴ・フォー・クリスマス”(ジョージ・ハリスン、エリック・クラプトン、クラウス・フォアマンら、スターたちが多数出演)で録音された「Cold Turkey」と「Don’t Worry Kyoko」、そしてジョンとヨーコがフランク・ザッパ率いるマザーズ・オブ・インヴェンションとともに4曲を披露した1971年のフィルモア・イースト公演の録音が収められていた。

一方、“Live Jam2”のディスクは、ジョンとヨーコの率いるプラスティック・オノ・バンドが、デヴィッド・ピール&ロウアー・イースト・サイドと共演した際の演奏で幕を開ける。彼らは1971年12月10日、ミシガン州アナーバーのクリスラー・アリーナで開催されたジョン・シンクレア・フリーダム・ラリー(マリファナ所持で10年の刑を宣告された政治活動家、ジョン・シンクレアの釈放を訴えるイベント)に出演。そこで翌年に『Sometime In New York City』に収録されることとなる「Attica State」(この日がライヴ初披露だった)、「The Luck of the Irish」、「Sisters, O Sisters」、「John Sinclair」をシンプルなアレンジで演奏していた。

また、ジョンとヨーコは1971年12月17日、アッティカ刑務所暴動の犠牲者の遺族を支援するため、ニューヨークのハーレムにあるアポロ・シアターでアコースティック・セットのパフォーマンスを披露。「Sisters, O Sisters」やアコースティック・ギターの伴奏による感動的な演奏となった「Imagine」と並んでこの日も取り上げられた「Attica State」は、その悲劇(1971年9月9日〜13日)が起きた数週間後のジョンの誕生日(1971年10月9日)にジョンとヨーコの2人が作曲した1曲だった。

“Live Jam2”のディスクにはこのほかにも、ジョンとヨーコが「デヴィッド・フロスト・ショー」(バックはプラスティック・オノ・バンド)、「ジェリー・ルイス・マスキュラー・ジストロフィー・テレソン」(バックはエレファンツ・メモリー)でそれぞれテレビ向けのパフォーマンスをした際の音源も収められている。

 

Home Jam / ホーム・ジャム

胸が躍るようなこのコレクションを締めくくる“Home Jam”には、アコースティック・デモや、カヴァー、宅録音源など、飾り気がなく温かみのある33トラックを収録。どれも1971年にジョンが個人用に残していた1/4インチ・テープやカセットの秘蔵音源だ。録音地はニューヨークのセント・レジス・ホテルとミシガン州アナーバーのキャンパス・インのいずれかだが、後者で録られたものの中にはプロテスト・シンガーのフィル・オクスが参加する4つのトラックも含まれている。

ジョンが即興で録音したカヴァー曲には、バディ・ホリー、カール・パーキンス、チャック・ベリー、デュアン・エディ、デイヴ・クラーク・ファイヴ、エルヴィス・プレスリー、エヴァリー・ブラザーズ、リトル・リチャードの楽曲(あるいはそれらのミュージシャンの演奏で有名になった楽曲)などが含まれる。それらは1つのトラックを除き、すべて未発表音源。

 

ニューヨークでのジョンとヨーコ

ジョン・レノンとオノ・ヨーコが1971年にアメリカにやってきたのは、単にザ・ビートルズや英国のマスコミの幻影を振り払うためだけではなかった。彼らはいまにも政治的・文化的な変革を迎えようとしていたその国で、新たなスタートを切ろうとしていたのだ。だが、2人を待ち受けていたのは本人たちが求めていた創作の自由ではなく、長年に亘る監視、政府による嫌がらせ、そして心の苦悩といったものだった。彼らがアメリカで暮らし始めたころの日々は、そうした要素により形作られていったのである。

彼らはニューヨークという街に溢れる活気と進歩的な雰囲気に惹かれ、グリニッジ・ヴィレッジのバンク・ストリート105番地に住み始めた。すると間もなく、ジョンとヨーコは過激な政治活動と前衛芸術に傾倒。2人は活動家たちと連帯し、抗議集会でパフォーマンスを行ったり、自分たちの影響力を利用してフェミニズム・反戦運動・刑務所改革などの活動を後押ししたりするようになった。

歯に衣着せぬ主張を展開し、反体制派との結びつきを強めていたことで、2人はすぐにニクソン政権から目をつけられることになった。1972年の大統領選挙が近づく中、ジョンが若年層の投票者に与える影響を危惧したニクソン大統領とFBI長官のJ・エドガー・フーヴァーは、ジョンを標的とするようになったのだ。そうしてFBIは徹底的な監視を始め、電話を盗聴。夫妻への尾行も行い、数百ページにも及ぶ情報ファイルを纏めた。それだけでなく、米国政府は彼が1968年にイギリスで大麻所持の軽微な罪に問われたことを口実として、ジョンを国外追放しようともしたのである。

一方そのころ、ヨーコも個人的な問題を抱えていた。彼女は元夫であるアンソニー・コックスに連れ去られ行方不明になった娘キョーコを探し、親権を取り戻そうとしていたのだ。しかしコックスはヨーコの知らないところで、アイダホ州のカルト教団の施設に自分と娘の身を隠していた。キョーコに会うことのできない悲しみは、当時の彼女の創作活動と私生活の双方に暗い影を落としていた。

だがこうした騒動の中でも、ジョンとヨーコは演奏と楽曲制作を続けた。そして2人が1972年に発表した『Sometime In New York City』は、彼らの政治観と情熱を色濃く反映したアルバムだった。同作で彼らは人種差別、アッティカ刑務所暴動、アンジェラ・デイヴィスをはじめとする公民権運動家、女性解放運動などさまざまなテーマを取り上げ、明け透けな歌詞と痛烈なウィットで不平等や抑圧に立ち向かったのである。

また、ジョンとヨーコはその全編でリード・ヴォーカルを分け合い、ヨーコは「We’re All Water」や「Sisters, O Sisters」など政治性の強い楽曲を数多く作曲した。ニューヨーク・タイムズ紙を模したそのジャケットには、本物さながらの見出しやコラムもあり、収録曲の中で歌われているテーマに沿った写真も掲載。そのデザインは、世間に情報を提供し、人びとに刺激を与え、対話を促すというアルバムの狙いを明確にしている。そんな『Sometime In New York City』は主にニューヨークのレコード・プラント・スタジオで録音され、ジョンとヨーコのバックは政治的な活動と無骨なサウンドで知られる地元のグループ、エレファンツ・メモリーが務めた。

現実主義のこのグループを構成するのは、アダム・イッポリート(キーボード)、ゲイリー・ヴァン・サイオック(ベース)、リチャード・フランク・ジュニア(ドラム)、ウェイン・”テックス”・ガブリエル(ギター)、スタン・ブロンスタイン(サックス)という面々。彼らはドラマーのジム・ケルトナーとともに、ロック、ソウル、プロテスト・ミュージックが融合した同作を力強くも都会的な演奏で支えた。そしてジョンとヨーコと並ぶアルバムの共同プロデューサーには、前作『Imagine』に引き続きフィル・スペクターが起用された。

1972年8月30日、ジョン・レノン&オノ・ヨーコ/プラスティック・オノ・バンドは、エレファンツ・メモリーの面々をバックに従え、何人かの特別ゲストとともにニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンで歴史的なチャリティー・イベント“ワン・トゥ・ワン・コンサート”を開催した。この日は昼と夜の2公演を合わせて約4万人の観客を動員し、150万ドル(2025年現在の価値に換算するとおよそ1,150万ドル/約16億8,545万円)を超える収益が発生。それらはニューヨークのスタテン島にあるウィローブルック州立学校の生徒たちなど、知的障害や発達障害のある子どもたちの支援に使用された。

ジョンとヨーコがウィローブルックについて知ったのは、ジェラルド・リヴェラによる調査報道を目にしたからだった。そのテレビ報道は、身体的・精神的な障害を持つ子どもたちを苦しめる過酷な環境と、同施設での非倫理的な医療行為を告発していたのである。実に刺激的なステージとなった“ワン・トゥ・ワン・コンサート”では、ジョンとヨーコそれぞれのソロ・アルバムの収録曲や、リリースされたばかりだった新作『Sometime In New York City』の楽曲、ザ・ビートルズの「Come Together」、そして「Imagine」や「Give Peace A Chance」など平和を歌ったアンセムも披露。スティーヴィー・ワンダーらがゲスト出演したこのコンサートは、ザ・ビートルズ解散後にジョン・レノンがフルで行った唯一のライヴにもなった。

1972年後半、ジョン・レノンの在留資格を巡る法廷闘争が長期化の様相を呈すると、彼に対する圧力もさらに高まっていった。彼はその後も数年のあいだ、国外追放の脅威に晒され続けたのである。だがジョンは弁護士のレオン・ワイルズの手を借り、政府の申し立てに反論。1975年になると、ウォーターゲート事件でニクソンが失脚したこともあって潮目が変わり、ジョンは1976年になってようやくアメリカの永住権を付与されたのだった。

1970年代初頭は、ジョンとヨーコにとってきわめて重要な時期だった――当時の2人の日々は、政治活動、徹底的な政府の監視、法廷闘争、それぞれの心の苦痛などに大きな影響を受けていたのである。しかしそんな中でも彼らは、体制に疑問を抱き、自由に自己表現を行い、何より、明るい未来を想像するという使命の下に団結し続けた。この『Power To The People』には、ジョンとヨーコのミュージシャンとしてのキャリア、そして私生活の両面において重要な意味を持つこの時期の2人の歩みが克明に記録されているのだ。

Written By uDiscover Team


ジョン&ヨーコ/プラスティック・オノ・バンド
『Power To The People』
2025年10月10日発売
9CD + 3ブルーレイ / 2CD / 1CD / 4LP / 2LPカラー / 2LP



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