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クリス・ステイプルトンがいかにして『Traveller』と共にシーンに登場したか

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クリス・ステイプルトン(Chris Stapleton)のアルバム『Traveller』には、現代のカントリー・ミュージック界屈指の素晴らしいデビュー・アルバムとして評価されるに足る本物の風格が漂っている。クリス・ステイプルトンは文字通り自分の持てるすべてを、2015年5月5日にリリースされたこのアルバムに注ぎ込んだ。収録曲全14曲のうち、12曲を自ら書き、エレクトリック・ギター、アコースティック・ギター、マンドリン、パーカッションをプレイし、リード・ヴォーカリストを務め、ハーモニー部分もすべて自分で担当した。「これ以上俺を表現することはできないってくらいやり尽くしました」と彼は言う。

『Traveller』が世に出た時、クリス・ステイプルトンは37歳だったが、ナッシュヴィルのミュージシャン界隈では彼はよく知られた存在だった。このケンタッキー生まれのミュージシャンは、本作で大ブレイクを果たす以前に、ひと通りの人生経験を積んでいる。

「ちょっとだけカレッジに行ったんですが、俺にはどうも合わなくて、結局中退したんです。そこからあちこちのバーでプレイしてるうちに、金がなくなっちゃったんで、ちゃんとした仕事に就くことにしたんです」

以来、これまでの15年間はカントリー系アーティストたちに自作の曲を提供し、トーマス・レットの「Crash And Burn」 やジョージ・ストレイトの「You Don’t Know What You’re Missing」といったヒットも飛ばしてきた。

また、それに加えてクリス・ステイプルトンはアンジェリーナ・プレスリーやヴィンス・ギルのバッキング・ヴォーカルも務めたことがあり、グラミー賞に3度ノミネートされた実績を持つブルーグラス・バンド、ザ・スティールドライヴァーズの一員でもあった(2008年から 2010年まで)。

とは言え、彼自身に自分の名前で成功したいと言う野心と、それに足る才能があったことは紛れもない事実であり、このどっしりと逞しくかつ激情に溢れた心揺さぶる『Traveller』で遂にそのチャンスを掴んだというわけだ。同じケンタッキー生まれのソングライター、リー・トーマス・ミラーと共にペンを振るった「Whiskey And You」はひりつくような疼きを覚える名曲で、一方「Parachute」やパワー・バラード「Fire Away」は彼のハスキー・ヴォイスからほとばしるエナジーがジュージューと音を立てている。

Chris Stapleton – Fire Away (Official Video)

アルバムに収録されている2曲のカヴァーは、まさしくカントリー・ミュージック界が誇る歴史的名曲だ。ディーン・ディロンとリンダ・ハーグローヴによる 「Tennessee Whiskey」は、恐らく最も知られているのはロマンティックとも言っていいジョージ・ジョーンズのヴァージョンだが、クリス・ステイプルトンはあえて大胆な仕立て直しを施した。彼のブルージーなヴァージョンはまさしく25年もののシングルモルトのような、粗野で素朴な味わいだ。

Chris Stapleton – Tennessee Whiskey (Austin City Limits Performance)

もうひとつのカヴァー曲は更に粗削りな「Was It 26」で、原曲を書いたのはアラン・ジャクソンの「Midnight In Montgomery」を書いたドン・サンプソンである。ドン・サンプソンが後にクリス・ステイプルトンに語ったところによれば、この曲の歌詞が唐突に頭の中で湧き上がってきたので、咄嗟に手近にあったピザハットの紙ナプキンに書き留めたのだそうだ。

これだけ格上の面々と並んでも、クリス・ステイプルトン自身の作家としてのスキルは少しも見劣りすることはない。彼は自分のルールは「ムダな贅肉を一切削ぎ落として、自分の言わんとしていることの一番核心的な部分に到達する」ことだと言い、そのフォーミュラを、自分の父親を讃える優しく感動的なバラード「Daddy Doesn’t Pray Anymore」にも当てはめている。この曲の歌詞には無駄な言葉はひとつとして出てこない。そしてアルバムの最後を締めくくるトラック 「Sometimes I Cry」は、最高にソウルフルなカントリー・ミュージックだ。

Chris Stapleton – Sometimes I Cry (Behind The Scenes/Live)

『Traveller』にはカントリー・ミュージックの過去の時代の雰囲気がある。これはひとつにはギタリストのデイヴ・コブによる素晴らしいプロダクション・ワークの賜物だ。彼はスターギル・シンプソンの『Metamodern Sounds In Country Music』の影の立役者であり、ジェイソン・イズベルの『Southeastern』でも粗削りで生々しいカントリー・サウンドを引き出した。

デイヴ・コブによれば、クリス・ステイプルトンとは最初からコラボレイターとしてたいそうウマが合ったのだそうだ。

「俺たちには共通の悪癖が沢山あるんです。ギターとか車とか、あれやこれやね。一緒に何曲か演ってみたところで、ユニバーサル ミュージック グループ・ナッシュヴィルが興味を示してスタジオに入らせてくれて、そこで6曲録ったんです。その6曲をミックスする頃にはもうアルバム1枚分の音源を録り終りました。まるで火が点いたみたいな勢いでね」

他にも作品全体の質向上に貢献したファクターがある。アルバムにゴージャスなハーモニーを加えているのはクリスの妻、モーガン・ステイプルトンで、更に「Outlaw State Of Mind」と「Nobody To Blame」ではとびきり上等なハーモニカ・プレイが聴ける。そのマウス・オルガン[訳注:ハーモニカの別名]を担当しているのが、ウィリー・ネルソンと数々の傑作アルバムを作ってきたミッキー・ラファエルだと言われれば、実に納得のクオリティだ。

『Traveller』は既にダブル・プラチナムを獲得し、クリス・ステイプルトンに2つのグラミー賞と5つのカントリー・ミュージック・アソシエーション賞をもたらした。

「俺は大人のリスナーにじっくり腰を据えて聴いてもらえるレコードを作りたかったんです」

クリス・ ステイプルトンはこのアルバムについてそう語る。その目標は間違いなく果たされたと言っていい。『Traveller』は21世紀の大人たちのためのカントリー・ミュージックであり、批評家にもファンにも愛されるアルバムだ。

Written By Martin Chilton


クリス・ステイプルトン『Traveller』

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