史上最高のトリビュート・アルバム40選

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トリビュート・アルバムは何十年にも渡り、ミュージシャンを鼓舞しファンを楽しませてきた。1950年、初の33回転LPが制作されてから僅か数年後、オスカー・ピーターソンはデューク・エリントンに敬意を示し、全曲が彼の作品から成るアルバムを発表した。その後何千枚ものトリビュート・アルバムが世に出ているが(その内の50枚以上がザ・ビートルズに捧げられたもの)、素晴らしいトリビュート・アルバムではアーティスト達が敬意を表しながら、自分達をインスパイアしてきた音楽を独自のものにしている。

その勢いは留まるところを知らない。例えば2017年には、ジャズ・シンガーのグレゴリー・ポーター(『Nat “King” Cole & Me』)、アフロビート・ドラマーのトニー・アレン(アート・ブレイキーへのトリビュート作『The Source』)、そしてジャズ・ドラマーのルイス・ヘイズ(ホレス・シルヴァーをトリビュートした『Serenade For Horace』)が素晴らしいトリビュート・アルバムを発表している。

ここで史上最高のトリビュート・アルバム40選をご紹介しよう。この他に好きなものがあれば、コメント欄でぜひ聞かせてください。

 

■オスカー・ピーターソン『Plays Duke Ellington』(1952)
デューク・エリントンはカナダ人ピアニスト、オスカー・ピーターソンの音楽ヒーローだった。彼はこの偉大なジャズ・バンド・リーダーへ向けた2枚のトリビュート・アルバム中の最初の1枚を、1952年にヴァーヴ・レコード傘下のクレフ・レコードでレコーディングした。オスカー・ピーターソンが一流作曲家に敬意を表してレコーディングした全アルバム中で、このピアニストが最も“リラックス”出来ているのはデューク・エリントンを解釈した作品だと、ヴァーヴのトップであるノーマン・グランツは言う。ノーマン・グランツ曰く、「エリントンは自身がピアニストであると同時に、現在で最も偉大なジャズ作家でもある。他の作曲家によって書かれた曲は、ジャズの演奏解釈の為に作られたものではない場合が多いが、エリントンは何よりもまずジャズを念頭に書いている」。

ハイライトのひとつに挙げられるのは、「Don’t Get Around Much Anymore」と「Sophisticated Lady」の才気溢れるヴァージョンだ。1952年以来、デューク・エリントンはソニー・スティット、メル・トーメ、そしてミシェル・ペトルチアーニ(1993年にブルーノート・レコードから発表されたアルバム『Promenade With Duke』等、30枚以上ものトリビュート・アルバムを生み出した

■エラ・フィッツジェラルド『Sings The Duke Ellington Song Book』(1957)
オスカー・ピーターソンがインストゥルメンタル作品でデューク・エリントンに敬意を表した一方で、エラ・フィッツジェラルドは、その比類のない声がフィーチャーされたヴァーヴ・レコードの最高傑作で、彼の輝かしい代表作に添えられた言葉の持つ力を最大限に引き出した。それに加えて、ディジー・ガレスピーレイ・ブラウン、そしてハーブ・エリス等ジャズの偉人達がフィーチャーされたその音楽的センスのクオリティは、他には類を見ないようなものだ。

エラ・フィッツジェラルドは素晴らしいトリビュート・アルバムを数多くレコーディングし、自身もたびたび取り上げられてきたが、『Sings The Duke Ellington Song Book』は史上最高のトリビュート・アルバムのひとつであり続ける。

一方、エラ・フィッツジェラルドへのトリビュート作品で優れているのは、ディー・ディー・ブリッジウォーターが1997年にリリースした『Dear Ella』だ。またエラ・フィッツジェラルドのデューク・エリントン・トリビュートの50年後に発表された『We All Love Ella: Celebrating The First Lady Of Song』も、ダイアナ・クラール、k.d.ラング、ナタリー・コール、そしてダイアン・リーヴス等のスター達が、“ジャズの女王”によって有名になった曲を歌う、これまたヴァーヴの逸品だ。またこのアルバムには、エラ・フィッツジェラルドとスティーヴィー・ワンダーによる“ライヴ”・デュエット「You Are The Sunshine Of My Life」のファースト・リリースが収録されていた。

■ダイナ・ワシントン『Dinah Sings Bessie Smith』(1958)
50年代に“ブルースの女王”と呼ばれた女性が、元“ブルースの皇后”ベッシー・スミスに敬意を表するのは極めて当然のこと。このエマーシー・レーベルからの名作に収録されている曲は華やかさに溢れ、バッキング・ミュージシャン(ドラマーのマックス・ローチやトランペッターのクラーク・テリー等)は、「After You’ve Gone」、「Backwater Blues」、それから「Send Me To The ’Lectric Chair」といったナンバーで、エネルギーとリズムを届ける(しかしながら、一回限りのベッシー・スミス・カヴァー中、ニーナ・シモンの歌う「I Want A Little Sugar In My Bowl」に勝るものはない)。

■アニタ・オデイ『Trav’lin’ Light』(1961)
アニタ・オデイがヴァーヴから出したレコードで最も好きなのは、発表の僅か2年前に亡くなった彼女のアイドル、ビリー・ホリデイをトリビュートしたこの作品だと言った。「What A Little Moonlight Can Do」、「Miss Brown To You」、それからタイトル・ソング等の収録曲はとにかく素晴らしく、そこへ最高のコンディションのオデイをサポートする、ギタリストのバーニー・ケッセルやサクソフォニストのベン・ウェブスターといったバッキング・ミュージシャン達の凄腕を足すと、ジャズ界屈指のアルバムが完成する。ビリー・ホリデイはこの他にも、チェット・ベイカーやトニー・ベネット等数多くのトリビュート・レコードで祝福されている。

■スティーヴィー・ワンダー『Tribute To Uncle Ray』(1962)
スティーヴィー・ワンダーレイ・チャールズ・トリビュートは、まさに若さに満ちたタイプの見事な作品だ。「Drown In My Own Tears」、「Hallelujah I Love Her So」、そして「Come Back Baby」といったヒット曲をカヴァーし、モータウンの名高いプロデューサー(そしてスティーヴィー・ワンダーの良き師だった)クラレンス・ポールが、レイ・チャールズの音楽から活気に溢れるヴァージョンを引き出した。ライナーノーツでは、“リトル・スティーヴィー・ワンダー ― タムラの11歳の音楽の天才”によるアルバムと称賛された。スティーヴィー・ワンダー自身もこの後、スタンリー・タレンタイン、ハービー・ハンコックスタンリー・クラーク等ジャズの巨匠達をフィーチャーした、2004年の興味深い作品『Blue Note Plays Stevie Wonder』等数多くのトリビュート・アルバムで取り上げられた。

■ヴァリアス『The Charlie Parker 10th Memorial Concert』(1965)
ライヴ・オマージュといえば、このヴァーヴ・ジャズの名作を越えるものはそうそうないだろう。1965年3月27日にカーネギー・ホールで録られ、伝説のサクソフォニストに敬意を表してレコーディングされた屈指のトリビュート・アルバムとして現在でも知られる。チャーリー・“バード”・パーカーをトリビュートする為に集まったスターは、コールマン・ホーキンスリー・コニッツ、ディジー・ガレスピー、ロイ・エルドリッジ、ケニー・ドーハム等。チャーリー・パーカーは音楽界で最もインスピレーショナルな人物のひとりであり、ソニー・スティット、レッド・ロドニー、アイラ・サリヴァン等がトリビュート・アルバムを発表しており、ごく最近では、ジョー・ロヴァーノがブルーノート・アルバム『Bird Songs』で取り上げている。

■ハリー・ニルソン『Nilsson Sings Newman』(1970)
ハリー・ニルソンは60年代末にこのレコードを発表した時、自分が若きランディ・ニューマンのソングライティングの技術に“畏敬の念を抱いている”ことを認めている。ニルソンの極めて美しいヴォーカルは、ランディ・ニューマンの才気溢れる感傷的で痛烈な歌詞を引き出している。ランディ・ニューマン自身もアルバムでピアノをプレイし、23年後にはハリー・ニルソンへのオマージュとして、トリビュート・アルバム『For The Love Of Harry: Everybody Sings Nilsson』で「Remember (Christmas)」を歌っている。

■ウィリー・ネルソン『To Lefty From Willie』(1977)
レフティ・フリーゼルはカントリー・ミュージック界いち軽視されてきたソングライターのひとりかも知れない。彼はロイ・オービソンにインスピレーションを与え、パティ・グリフィンとギリアン・ウェルチのお気に入りだ。「彼のことが大好きなんだ」とウィリー・ネルソンは2012年に言っている。「しかし彼の作品を良く知っているのは、俺くらいの年齢の人達だけだろうな。でも若い世代も彼の音楽を知っておくべきだ。俺は‘If You’ve Got the Money’をよく歌っているよ」。この素晴らしいトリビュート・アルバムで、ウィリー・ネルソンは「That’s The Way Love Goes」、「Always Late (With Your Kisses)」、「I Want To Be With You Always」といったレフティ・フリーゼルの優れた曲の良さをしっかりと表現している。

■ジェニファー・ウォーンズ『Famous Blue Raincoat: The Songs Of Leonard Cohen』(1987)
ジェニファー・ウォーンズは、70年代にレナード・コーエンのバッキング・ヴォーカルを務めており、全米アルバム・チャートでトップ100入りを果たしたこのアルバムは、ギタリストのスティーヴィー・レイ・ヴォーンといったスター達の参加が呼びものの、心のこもった感動的な作品だ。ライナーノーツには、フランス人ミュージシャン達によるもの等トリビュート・アルバムで何度か取り上げられている、レナード・コーエンが描いたマンガが挿入され、そこにはトーチが渡される図に“ジェニーがレニーを歌う”というキャプションが付いている。当然のことながら、このふたりのアーティストのカップリングによる『Famous Blue Raincoat』は、これまで発表されてきたレナード・コーエン・トリビュート・アルバム中ベストのもののひとつだ。

■ザ・ブリッジ『A Tribute To Neil Young』(1989)
ドリー・パートン、キャット・スティーヴンズ、J.J.ケイル、ジョン・マーティン等々、70年代に名声を得たシンガー・ソングライターで魅力的なトリビュート・アルバムの対象になっている人は数多くいるが、この時代のスターに捧げられたトリビュート・アルバムで最高のものといったら、ニール・ヤングを讃えたキャロライン・レコードの作品だ。聴きどころはザ・フレーミング・リップス、ピクシーズ、ニック・ケイヴ、そして中でも特に「Computer Age」のソニック・ユース・ヴァージョンだ。

■ヴァリアス『Two Rooms: Celebrating The Songs Of Elton John & Bernie Taupin』(1991)
ケイト・ブッシュの「Rocket Man」のレゲエ調ヴァージョンは、2007年にオブザーバー紙の読者投票で“史上最高のカヴァー”に輝いた。彼女はエルトン・ジョンとバーニー・トーピンの共同ソングライティングに敬意を表する為に、マーキュリー・レコードが集めた多数のスーパースターのひとりだった。シネイド・オコナーの「Sacrifice」は素敵だし、ジョー・コッカー、エリック・クラプトンスティングジョージ・マイケルもまた、この価値あるトリビュートでその才能を活かしている。

■ヴァリアス『Stone Free: Tribute To Jimi Hendrix』(1993)
1970年に、17歳の若さで亡くなったジミ・ヘンドリックスは、エリック・クラプトンやジェフ・ベック等一時代のギタリストを魅了してきたが、このふたりは、伝説のギタリストに敬意を表してレコーディングされたトリビュート・アルバム中、間違いなくベストと言える同作品に登場する。アルバムのハイライトのひとつは、エリック・クラプトンが演奏し、ナイル・ロジャーズと元シックの同僚バーナード・エドワーズとトニー・トンプソンがバックを務める、ジミ・ヘンドリックスの1966年発表曲「Stone Free」だ。スラッシュもまた、ヘンドリックスが在籍していたグループ、バンド・オブ・ジプシーズをバックに従えて登場し、ザ・キュアーは名作「Purple Haze」をカヴァーしている。

■ヴァリアス『If I Were A Carpenter』(1994)
優れた作品を多数残したカーペンターズは、2017年には12枚組LPボックスセット『The Vinyl Collection』で賞賛され、多数のミュージシャンを長年インスパイアし続けた。『If I Were A Carpenter』は、シェリル・クロウ、グラント・リー・バッファロー、ソニック・ユース、ザ・クランベリーズ等々と変化に富んだ内容だが、とても優しさに溢れたアルバムであることもあり、結果的に成功している。

■ヴァリアス『No Prima Donna: The Songs Of Van Morrison』(1994)
ベルファスト生まれのヴァン・モリソンに敬意を表する為に、ポリドールはさまざまなタイプのミュージシャンを招集した(俳優のリーアム・ニーソンと共に)。リーアム・ニーソンはヴァン・モリソンのポエム調「Coney Island」のスポークン・ワード・ヴァージョンをレコーディングした一方、シネイド・オコナーは「You Make Me Feel So Free」に繊細なタッチをもたらした。またヴァン・モリソンの娘シャナもアルバムで歌い、ヴァン・モリソンのファンであるエルヴィス・コステロは「Full Force Gale」を独自のスタイルで表現している。

■ヴァリアス『Beat The Retreat: Songs By Richard Thompson』(1995)
リチャード・トンプソンは最も独創的な現役ソングライターである為、1995年にキャピトル・レコードからリリースされた、彼の痛烈で巧みな曲にリアルなイマジネーションを与えたカヴァー収録の本作が、これまでレコーディングされてきたベスト・トリビュート・アルバムの中で傑出しているのも頷ける。R.E.M.は「Wall Of Death」をカヴァーし、ロス・ロボスは「Down Where The Drunkards Roll」で抜きん出ている。ショーン・コルヴィンとラウドン・ウェインライトは「A Heart Needs A Home」で素敵なデュエットを披露し、フォークの巨匠ジューン・テイバーは「Beat The Retreat」の解釈に優雅さと気品をもたらした。ベーシストのダニー・トンプソン、ギタリストのマーティン・カーシー、そしてデヴィッド・リンドレーといった優れたミュージシャン達がテイバーをサポートしている。

■ヴァリアス『Encomium: A Tribute To Led Zeppelin』(1995)
KISS等のメタル・スター達や、ファッツ・ドミノやバディ・ホリーといったロックの先駆者達、あるいはクルト・ヴァイルといったアヴァンギャルド作家等と、トリビュート・アルバムにはさまざまな人々へ捧げられたものがあり、その幅の広さには実に驚かされるが、その全てに共通して流れているのは、取り上げられたアーティストのもつ、未来のミュージシャン達をインスパイアする能力だ。フーティー・アンド・ザ・ブロウフィッシュ、デュラン・デュラン、そしてシェリル・クロウが、レッド・ツェッペリンに敬意を表したこのアルバムに参加し、レッド・ツェッペリンの創設メンバーのロバート・プラントもまたゲストとして登場し、1975年作品「Down By The Seaside」でトーリ・エイモスとデュエットしている。

■ヴァリアス『Chuck B Covered: A Tribute To Chuck Berry』(1998)
このロックン・ロールの創始者のひとりは、優れたトリビュート・アルバムを受けるに値する人物だ。チェス・レコードのスターであるチャック・ベリーを、ユニバーサル ミュージックの子会社ヒップオーが祝福した、この作品に収録された14トラックには、リンダ・ロンシュタット(「Back In The USA」)、ジェリー・リー・ルイス(「Sweet Little Sixteen」)、ロッド・スチュワート(元々は1974年アルバム『Smiler』用にレコーディングされた「Sweet Little Rock’n’Roller」)等、非凡な音楽家達がフィーチャーされていた。しかしハイライトのひとつとして挙げられるのは、エミルー・ハリスの「You Never Can Tell」の活気に溢れたヴァージョンだ。ベートーベンなんて掛けている場合じゃないぜ。チャック・ベリーのトリビュートが街にやって来た。

■ヴァリアス『Return Of The Grievous Angel: A Tribute To Gram Parsons』(1999)
26歳の若さで亡くなったグラム・パーソンズは、カントリー・ミュージシャンの先駆者であり、この素敵な1999年トリビュートを共同プロデュースするのに、彼の元シンガー・パートナーのエミルー・ハリスは、まさにうってつけの人物だった。彼女はハイライトのひとつであるベックとのデュエット「Sin City」で歌っている。またギリアン・ウェルチによる「Hickory Wind」の素晴らしいヴァージョンも収録されている。その他の参加者は、エルヴィス・コステロ、スティーヴ・アール、カウボーイ・ジャンキーズ等々。

 

■B.B.キング『Let The Good Times Roll: The Music Of Louis Jordan』(1999)
B.B.キングのような偉大な人物が、他のミュージシャンにまるごと捧げたアルバムをレコーディングした場合、その人が特別な人だったのだと思うだろう。“ジュークボックスの王様”だった8年間(1943-1950)で、ルイ・ジョーダンの曲はR&Bチャートの第一位に連続113週留まった。彼は「Is You Is or Is You Ain’t My Baby」、「Caldonia」、「Choo Choo Ch’Boogie」等、ナンバー・ワン・ヒットを18曲とトップ10ヒットを54曲生んだが、上述の3曲は全てキングによって見事に作り変えられた。彼はユニバーサルのMCAレーベルに対し、次のようなことを語っている:「ルイ・ジョーダンは俺の主なインスピレーションだったので、彼の音楽をまるごと一枚レコーディングすることが出来て非常に嬉しかった。彼は俺にフレージングについて、物凄く色々なことを教えてくれたスーパー・ミュージシャンだった」。B.B.キングの愛によって、ルイ・ジョーダンが望める最高のリビュート・アルバムが誕生した。

■ヴァリアス・アーティスト『Stoned Immaculate: The Music Of The Doors』
異彩を放つドアーズが取り上げられたトリビュート・アルバムは、グループの存命メンバーがプレイし、ジム・モリソンがフィーチャーされ死後に発表された曲が収録された、非常に稀なタイプの作品だ。(亡きシンガーはジョン・リー・フッカーとのコレボレーション曲「Roadhouse Blues」に登場)。ベテランのボー・ディドリーもまた、ストーン・テンプル・パイロッツやクリード等の若手ロック・アーティスト達と共にこのレコードに登場する。

■ヴァリアス・アーティスト『Timeless』(2001)
ハンク・ウィリアムズへのトリビュート・アルバムは数多く発表されてきたが、このカントリー・ミュージックの達人は、オールスターが集結した作品に値する人物であり、それはボブ・ディランキース・リチャーズ、トム・ペティ、マーク・ノップラー等のカヴァーによる、『Timeless』という屈指のトリビュート・アルバムで叶えられた。ジョニー・キャッシュは、「I Dreamed About Mama Last Night」を取り上げてグラミー賞にノミネートされた。しかし特に注目すべきは、若手ミュージシャンがハンク・ウィリアムズに敬意を表した作品だ。余計なものが削ぎ落とされたベックの「Your Cheatin’ Heart」と、ライアン・アダムスの「Lovesick Blues」の厭世的なヴァージョンは、話題をさらった。

■ヴァリアス・アーティスト『A Tribute To Townes Van Zandt』(2001)
テキサス州出身の吟遊詩人が、52歳で死去したその4年後、ガイ・クラーク、ナンシー・グリフィス、スティーヴ・アール、エミルー・ハリス、そしてウィリー・ネルソン等多数のカントリー・ミュージックの偉人達が、辛辣なリリシズムの名人によるこの見事な曲集で、彼に敬意を表した。スティーヴ・アールは後に、このソングライターをトリビュートした自らのダブル・アルバムをレコーディングしている。

■ヴァリアス・アーティスト『This Is Where I Belong: The Songs Of Ray Davies & The Kinks』(2002)
ザ・キンクスは、戦後最も影響力のあるブリティッシュ・ロック・バンドのひとつだった。極めて才能のあるソングライターである、ザ・キンクスのメイン・メンバーのレイ・デイヴィスは、ジム・ピットがプロデュースしたこのアルバムに参加し、「Waterloo Sunset」でブラーのデーモン・アルバーンとデュエットを披露している。「Muswell Hillbilly」のティム・オブライエン・ヴァージョンは素敵だし、レイ・デイヴィスがシンガーのアストラッド・ジルベルトを思いながら書いたとされるボサノヴァ・ナンバー「No Return」の、ベベウ・ジルベルト・ヴァージョンもまた際立っている。

 

■ヴァリアス・アーティスト『Enjoy Every Sandwich: The Songs Of Warren Zevon』(2004)
今は亡きウォーレン・ジヴォンは、個性的でオフビートなソングライターだった。このトリビュート・アルバムのタイトルは、彼が肺癌と診断された後に、人生の儚さについて何かメッセージはあるかと、問われた時の言葉からの引用だ:「サンドウィッチひとつひとつを楽しむこと」と彼は答えている。敬意を表するミュージシャン陣の顔ぶれは、ジャクソン・ブラウン、ドン・ヘンリー、ライ・クーダー、ボブ・ディラン等と非常に興味深く、ここに俳優のビリー・ボブ・ソーントンも参加している。またブルース・スプリングスティーンは「My Ride Is Here」の素晴らしいライヴ・ヴァージョンを提供している。

■ヴァリアス・アーティスト『Killer Queen: A Tribute To Queen』(2005)
比類のないロック・レジェンド達へのトリビュートで、ブライアン・メイのブルース・ソング「Sleeping On The Sidewalk」は、ロス・ロボスによって美しくカヴァーされている。クイーンは多くのトリビュート・アーティストやバンドのファンを魅了してきたが、そのひとりであるジョス・ストーンは、ブライアン・メイ、フレディ・マーキュリー、デヴィッド・ボウイが書いた1981年のナンバー「Under Pressure」に、何か新しいものを足している。

 

■ヴァリアス・アーティスト『A Case For Case: A Tribute To The Songs Of Peter Case』(2006)
この作曲家がプロデューサーのT-ボーン・バーネットと、過小評価されているミュージシャンについて話をした時、彼はピーター・ケイスに言及し、こう述べた:「ピーター・ケイスは本当に最も華々しく、とてつもない作曲家であり、素晴らしいストーリーテラーであり好人物だ」。2006年、48曲収録の3枚組トリビュート・アルバムで、彼の作品を演奏する為にジョー・エリー、モーリン・オコナー、そしてヘイズ・カール等さまざまな分野のミュージシャンが集結した。この素晴らしい曲を聴けば、ブルース・スプリングスティーンもまたピーター・ケイスのソングライティングの大ファンであり、『A Case For Case』が、史上最高のトリビュート・アルバムのひとつとして名を連ねる理由が理解出来るだろう。

■ヴァリアス・アーティスト『A Tribute To Joni Mitchell』(2007)
ジョニ・ミッチェルは、史上最高のシンガー・ソングライターのひとりだが、その彼女に敬意を表する為に、ジェームス・テイラー(「Rain」)やエルヴィス・コステロ(「Edith And The Kingpin」)といった優れたトップ・パフォーマー達が、2007年に集結した。またプリンスは、その独特のスタイルでジョニ・ミッチェルの傑作「A Case Of You」の印象的なヴァージョンを発表した。

■ヴァリアス・アーティスト『Broken Hearts & Dirty Windows: Songs Of John Prine』(2010)
ジョン・プラインのソングライティングは、ボブ・ディランやクリス・クリストファーソンといった著名な人達に崇拝されているが、この2010年トリビュートが一風変わっていたのは、トリビュートのホスト役に選出されたアーティストに、このソングライターと同世代の人がひとりもいなかった点だ。トリビュートしているのは、ドライヴ・バイ・トラッカーズ、マイ・モーニング・ジャケット、ジャスティン・タウンズ・アール、そしてオールド・クロウ・メディスン・ショウ等々。(またカントリー・ミュージシャンのジェフリー・フーコーによる、プラインのソングラーティングをトリビュートした魅力的なソロ・アルバムもある)。

■ウィリー・ネルソン、ウィントン・マルサリス&ノラ・ジョーンズ『Here We Go Again: Celebrating The Genius Of Ray Charles』(2011)
これは明らかに参加者全員が報酬目的ではなく、好きで取り組んだ仕事だった。ウィリー・ネルソン、ノラ・ジョーンズ、それからウィントン・マルサリスが同じステージに立ったら、最近記憶している中で最高のトリビュート・アルバムを、誰もがきっと期待するだろう。そしてこの素晴らしいミュージシャン達は、その期待を裏切らなかった。2009年2月にニューヨークのジャズ・アット・リンカーン・センターでライヴ・レコーディングされたアルバムには、ウィルソン・マルサリスのオリジナル・アレンジメントがフィーチャーされている。トリオはチャールズの偉大な作品を、ゴスペル、バップ、R&B、ワルツ、そしてスウィングと、バラエティー豊かなスタイルで表現し、その全てが喜びに満ち溢れていた。

■ヴァリアス・アーティスト『Chimes Of Freedom: The Songs Of Bob Dylan Honouring 50 Years Of Amnesty International』(2012)
ボブ・ディランの過去のカタログに合うミュージシャンはわずかだが、それが、このノーベル賞受賞者へのトリビュート・アルバムが3ダース以上存在する理由だろう。この『Chimes Of Freedom: The Songs Of Bob Dylan Honouring 50 Years Of Amnesty International』はピート・タウンゼント、アデル、スティーヴ・アール、ジギー・マリー、マルーン5クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジブライアン・フェリーやマイリー・サイラスなどのアーティストらが彼の曲をカヴァーした75曲を収録したアルバムである。

■ヴァリアス・アーティスト『The Music Is You:A Tribute To John Denver』
ジョン・デンバーというと、その花柄のカウボーイ・シャツ、嬉しそうな笑み、ボブカット、そして金属製フレームの眼鏡を思い浮かべるかも知れないが、彼はアメリカだけで、4枚のプラチナと12枚のゴールド・アルバムを獲得した、非常に有能なソングライターでもあった。彼の『Greatest Hits』アルバムはチャートに175週留まった。この2013年トリビュート・アルバムには、ルシンダ・ウィリアムスといったカントリー・ミュージックのスター達がフィーチャーされ、若手インディ・ロック・ミュージシャン達が「Take Me Home Country Roads」や「Leaving On A Jet Plane」等デンバーの名作の魅力を十二分に引き出している。

■ドクター・ジョン『Ske-Dat-De-Dat: The Spirit Of Satch』(2014)
ルイ・“サッチモ”・アームストロングのトリビュート・アルバムは、ヴォーカル・グループのマンハッタン・トランスファーが手掛けたもの等々、多数存在するが、彼に敬意を表した屈指のトリビュート・アルバムといったら、ドクター・ジョン(マック・レベナック)が2014年に発表し、その洒落たピアノと豊かな声を通して、ブルース、ソウル、ゴスペル、それからたくさんのジャズが生み出された賑やかな本作だ。この13曲の演奏中に感じられる楽しさは、ニューオーリンズ音楽の本質であり、ゲストとして素晴らしい人々が顔を出す。テレンス・ブランチャードの魅力的なトランペットの演奏は、「Wrap Your Troubles In Dreams」を輝かせている。

■ヴァリアス・アーティスト『Looking Into You: A Tribute To Jackson Browne』(2014)
ジャクソン・ブラウンは、現代を代表するパワルフルでエモーショナルな曲を幾つか書いているが、4年前、ブルース・スプリングスティーンや今は亡きジミー・ラフェイヴといったスター達によって、その中の23曲に、新たな視点と愛情のこもった表現方法がもたされた。さまざまな女性シンガーが表現するブラウンの作品を聴くのもまた、好奇心を掻き立てられる。サラ・ワトキンス(「Your Bright Baby Blues」の見事なヴァージョンを披露)、ボニー・レイット、それからショーン・コルヴィンはみんなオリジナルに何かを足しているが、ハイライトはルシンダ・ウィリアムスで、そのひりひりするような悲しい声により、「The Pretender」は憧れと敗北の哀歌に仕上がっている(“偽善者の為に祈ろう/初めはとても若く強かったものの/諦めてしまった彼等の為に”)。

 

■ヴァリアス・アーテイスト『Joy Of Living: A Tribute To Ewan MacColl』(2015)
フォーク・シンガーのイワン・マッコールのバック・カタログは、この21人の異なるタイプのシンガーによって讃えられている。中でもポール・ブキャナンは、「The First Time Ever I Saw Your Face」をカヴァーするという大変な任務を引き受けている。スティーヴ・アールは激しい「Dirty Old Town」を提供し、スコットランド人フォーク・シンガーのディック・ゴーハムは、感動的な「Jamie Foyers」でいつもの魅力的な無骨さ全開だ。

■ヴァリアス・アーティスト『God Don’t Never Change: The Songs Of Blind Willie Johnson』(2016)
ブラインド・ウィリー・ジョンソン(1945年に48歳で死亡)は、シネイド・オコナーやマリア・マッキーといった現代スター達をインスパイアした、初期ブルース・アーティストだ。彼のコレクションは地味かも知れないが、それでもトム・ウェイツ(「The Soul Of A Man」と「John The Revelator」)の2曲のお陰もあり、本作はベスト・トリビュート・アルバムのひとつにランクインしている。またルシンダ・ウィリアムスはタイトル・トラックと、ダグ・ペティボンの素晴らしいスライド・ギターがフィーチャーされた「It’s Nobody’s Fault But Mine」の強烈なカヴァーに、自身のパワーと激しさを足している。

■ザ・ローリング・ストーンズ『Blue & Lonesome』(2016)
ザ・ストーンズ自身もまた、長い年月の間に魅力的なトリビュート・アルバムを多数発表しているが、その中でも史上最高のトリビュート・アルバムといったら、間違いなくグラミー賞ノミネート作『Blue & Lonesome』だ。これはミック・ジャガー、キース・リチャーズ、チャーリー・ワッツが若い頃にインスパイアされた音楽である、ブルースに対する最近のラヴ・ソングだ。ハーモニカの偉人リトル・ウォルターによって広く知られるようになった「Just Your Fool」のアップビートなカヴァーや、ハウリン・ウルフの「Commit A Crime」の素晴らしいヴァージョンが収録されている。

■ヴァリアス・アーティスト『Gentle Giants: The Songs Of Don Williams』(2017)
カントリー・シンガーのドン・ウィリアムスは、レディ・アンテベラム、ジェイソン・イズベル、アリソン・クラウス等、現代のカントリー・ミュージックの巨匠達がフィーチャーされた、この豪華トリビュート・アルバムが発表され批評家から高い評価を得た直後の、2017年9月に亡くなった。ひときわ際立っている瞬間のひとつとして挙げられるのは、クリス・ステープルトンが生演奏し、妻のモーガンがフューチャーされた「Amanda」のオリジナル・ヴァージョンだ。

■ルイス・ヘイズ『Serenade For Horace』(2017)
ベスト・トリビュート・アルバムの多くには、歴史が染み込んでいるが、これも例外ではない。1956年、ティーンエイジャーのルイス・ヘイズは、著名なハード・バップ・ピアニストであり作曲家のホレス・シルヴァーのところでドラムスをプレイする為に、デトロイトからニューヨークまで旅をし、その年に画期的なアルバム『6 Pieces Of Silver』でプレイすることになった。そのルイス・ヘイズがリーダーを務め、ドン・ウォズが共同プロデュースした、師匠への豪華トリビュート作品『Serenade For Horace』で、彼がブルーノート・レコード・デビューを果たしたのは、実に理想的なことだった。ヴィブラフォニストのスティーヴ・ネルソンが、素晴らしい伴奏で80歳のヘイズを支える。2014年に亡くなったシルヴァー自身も、かつてトリビュート・アルバムにゲスト出演している(ディー・ディー・ブリッジウォーターが1995年にヴァーヴからリリースした『Love And Peace: A Tribute To Horace Silver』)。

■トニー・アレン『A Tribute To Art Blakey』(2017)
このミニ・アルバムは、トニー・アレンの初ブルーノート・レコードだった。フェラ・クティやデーモン・アルバーンとの作品で知られる、このナイジェリア人ドラマーは、ジャズ・メッセンジャーズの代表作「Moanin’」、「A Night In Tunisia」、「Politely」、そして「Drum Thunder Suite」の自身のヴァージョンに、アフロビートを使った脈動するエネルギーをもたらす為に、7人編成バンドを起用している。

■グレゴリー・ポーター『Nat “King” Cole & Me』(2017)
ナット・キング・コールへ捧げられたベスト・トリビュート・アルバムのひとつ『All For You: A Dedication To The Nat “King” Cole Trio』を、1996年にインパルス!からリリースしたダイアナ・クラールの志を継ぐ、この愛情のこもったトリビュートは、グレゴリー・ポーターがロンドン・スタジオ・オーケストラとレコーディングしたもの。ヴィンス・メンドーサの実に見事なアレンジメントは、収録されている名曲の情感を引き出している。ビッグ・バンドの「Ballerina」はエネルギーに満ち溢れ、ポーターの声は「Mona Lisa」の物悲しさを引き出している。このナット・“キング”・コール・トリビュートのレコーディングは、自身が幼い頃に聴いていた曲に対して、敬意を表する為に行なったこともあり、“深く感動的な経験だった”とグレゴリー・ポーターは表現している。

Written By Martin Chilton


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