【独占インタビュー】テリー・ホールがザ・スペシャルズ新作『Encore』を語る

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2009年、2トーンの代表格バンド、ザ・スペシャルズはバンドのデビュー30周年を記念して再結成を果たし、各地で絶賛されたツアーを敢行した。大きな注目を集めた彼らの再結成はかくして大成功を収めたが、そこからニューアルバム『Encore』発売に至るまで実に10年もの月日がかかった。

1998年の『Guilty ‘til Proved Innocent!』以来の新作となったこのアルバムは、1981年の夏の終わりに伝説的シングル「Ghost Town」が全英チャート1位した後にザ・スペシャルズを一度脱退したオリジナルのヴォーカリスト、テリー・ホールが復帰したという点においても重要作と言える。テリー・ホールはuDiscoverの取材にこう語っている。

5、6年くらい前から新作については話し始めていたんだが、その頃はメンバーがそれぞれの活動に専念してた。そんな中、昨年全米ツアーに出た時に、カリフォルニアでのプリテンダーズとの素晴らしいライヴなんかもあったんだが、バンドが音がすごく良くなっていたんだ。だからメンバー全員がツアー後に、スタジオ入りしてデモを録音してみてもいいんじゃないかって思ったんだ。俺たちは皆クリエイティヴなモードに入っていたね。そこから勢いに乗って、制作を続けたのさ」

今回の再結成において、バンド創始者であるジェリー・ダマーズの参加はなかったが、新作『Encore』はバンドのオリジナル・ギタリスト兼ヴォーカルのリンバル・ゴールディング、ベーシストのホレス・パンターらが参加している他、PJ ハーヴェイのドラマーであるケンドリック・ローが2015年に他界したジョン・ブラッドバリーに代わりにドラムを担当している。さらに、そこにオーシャン・カラー・シーンのギタリストであるスティーヴ・クラドックとキーボーディストのニコライ・トープ・ラーセンが加わり、現在のザ・スペシャルズのラインナップが完成した。

バンドは自身の歴史の重さを十分に自覚している。ザ・スペシャルズの前身となるコベントリー・オートマチックスは1977年に結成し、2トーンとして知られていくレゲエ、スカ、パンクを融合させたサウンドのパイオニアとして著しい成功を収めていった。

バンドの最初の2作のアルバム、『The Specials』と『More Specials』は共にゴールド認定され、全英1位を獲得した「Too Much Too Young」と前述の「Ghost Town」の2曲を含め、彼らのシングルは7曲連続で全英TOP10入りを果たした。サッチャー首相政権下の、もの悲しくも印象的な失業者への賛歌である「Ghost Town」は、ザ・スペシャルズの代表曲として知られている。

左からホレス・パンター、リンバル・ゴールディング、テリー・ホール Photo by Josh Cheuse

新作『Encore』はザ・スペシャルズの評価をさらなる高みへと押し上げた。生々しい、レイプについて歌った「10 Commandments」や、ダブ調の「Vote For Me」、ザ・ヴァレンタインズ「Blam Blam Fever」の力強いカヴァーなど、どの曲もバンドの特徴であるスカを融合させたサウンドを駆使している。一方で、テリー・ホールとレーベルは、薄気味悪い「We Sell Hope」やシックを思わせるファンキーなジ・イコールズの1970年のヒット曲「Black Skin Blue Eyed Boys」カヴァーなど、新鮮なサウンドを取り入れた数曲も収録している。

“俺たちが良いと思えた音を大切にした”

「ひとつのジャンルに固執しないことが重要だったんだ」とテリー・ホールは、アルバム『Encore』の多様性について言及している。

「スカと呼ばれているジャンルに縛られたくなかったんだ。そもそも俺たちをただのスカ・バンドだなんて思ったことすらない。確かに俺たちのデビュー・アルバムにはスカの要素が沢山入っていたことは認める。でも2作目の“More Specials”にはそこまでのスカ要素はなかった。 ‘International Jet Set’や‘Stereotype’みたいな曲を本当にスカだって思うかい?あれらの楽曲はスカとは全く関係ないし、それこそが俺たちが常に進化を遂げているっていう証なんだ。とにかく、新作“Encore”では、流れに身を任せて、俺たちが良いと思えた音を大切にした。だからこのアルバムはすごく自然に出来上がったし、内容にも満足している」

テリー・ホール「お互いをわかり合って、助け合おうとするっていうのが一番さ」Photo by Josh Cheuse

また、「Concrete Jungle」や「Doesnt Make It Alright」、「Ghost Town」などのザ・スペシャルズの初期の代表曲が人種差別を掘り下げているように、新作『Encore』でも現代における様々なトピックを冷静な目線で標的にしている。

中でも、リンバル・ゴールディングが痛烈な移民問題について書いた「B.L.M」(Black Lives Matter“黒人の命も大切だ”という国際的社会運動を歌った)や、テリー・ホールが書いた読んで字の如くの「The Life And Times (Of A Man Called Depression)」などがハイライトとなる楽曲と言えよう。後者は、テリー・ホールが長年苦しんでいる自身のメンタルヘルスについて赤裸々に歌っているものである。

「俺は長年鬱に苦しんでいたが、正式にそう診断されたのは11年前のことだった」と彼は驚くほど率直に語る。「ジンとウォッカに溺れて、子供みたいにジアゼパムを手放せないような、とにかく悍ましい状態だった。今はそんな危機的状態からは脱せていると願うよ。世界に目を向けた時、そこには問題だらけなんだが、音楽をやっている一番のメリットは、それを分かち合って、お互いを助け合うことなんだと思っている。特にメンタルヘルスは沈黙の病なんだ。本当に悪化するまではそれとはわからないすごく難しい病気で、今だにどこまでが正常で、どこからが病気だっていうのが明らかにされていないんだ。俺自身は、音楽を通してそれについて伝えられることがすごく幸運だと思っているし、自分にとってそれを表現するのはすごく大切なんだ」

“世の中で今起こっていることに意識を向けてもらいたいんだ”

良い傾向としては、80年代にはネヴィル・ステイプルズ、リンヴァル・ゴールディングらと結成したファン・ボーイ・スリーでさらなる商業的成功を収めたテリー・ホールは、ザ・スペシャズでの活動に関しても前向きになっていた。

「そう、確実に今の方がいい。以前はもっと葛藤があった。アーティスティックな意味では、(葛藤は)あった方がいいのかもしれないが、やはりそれが最悪な状況を生むことがあった。バンドをやっている以上、メンバーと四六時中一緒に過ごさなければならないのは当然で、そんな仲間がいるのは素晴らしいことなんだが、たまにはお互いから距離を置くことも必要なんだ。昔はそれができてなかった。今は俺たちが何か一緒にやりたい時だけ集まって、それ以外の時はそれぞれの人生を生きているんだ。その方がよっぽど健康的だからね」

テリー・ホール「一緒にやりたい時だけ集まって、あとはそれぞれの人生を生きればいい」Photo by Josh Cheuse

新作『Encore』をきっかけに、ザ・スペシャルズは再び長い時間を共に過ごすことになる。3月のヨーロッパでの短期ツアーを経て、アイルランドとUKを巡る大規模なツアーが411日のダブリンから開幕する予定だが、この公演は現時点で既にソールドアウトしている。 このツアーでは、バンドの新曲に加え、彼らが「Ghost Town」と共に解散したあの頃から驚くほど変わらない現代の政治的情勢の中で、全く色褪せることのない名曲の数々が演奏される予定だ。

「最初の2作からの楽曲が未だにここまで現代の問題と直結しているのはとても悲しいことなんだ」とテリー・ホールは語る。「当時の俺たちがその不正について叫んでいたのは、子供だったから。今は、怒りもありながら、もっと大人の視点で、人々に今自分たちの周りで起きていることについて気付かせたいからなんだ。でも同時に俺たちの音楽が古くさくなっていないっていうのは嬉しいことでもある。傲慢だと思われたくはないが、俺たちは時代を超越した重要な音楽を作ってきたと思う。だから新しい世代のファンも引き続きついてきてもらいたい」

Written by Tim Peacock



ザ・スペシャルズ『Encore』  

  

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