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『アイリッシュマン』のテーマ曲を手掛けるロビー・ロバートソンが語るスコセッシや曲作り、そして裏社会との関係

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Photo: Silvia Grav, courtesy of the artist

2019年9月20日に最新ソロ・アルバム『Sinematic』をリリースしたロビー・ロバートソン。彼がテーマ曲を手掛けた映画『アイリッシュマン』が、11月27日よりNetflixで独占配信されている(配信サイトはこちら)。元ザ・バンドのギタリスト兼ソングライターであるロビー・ロバートソンは、この映画に出演する豪華な俳優陣の関係性と、かつて彼が自然な一体感を感じていたザ・バンドのメンバー間の繋がりには類似点があると考えている。

 

「曲の中で誰が何のキャラクターを演じるのか、キャスティングしているかのような気分でした」

LAでuDiscoverの独占インタビューに応じてくれたロビー・ロバートソンは、過去に10作品以上もの映画でコラボレーションしてきたマーティン・スコセッシ監督と再び一緒に仕事ができることをとても喜んでいる様子だった。

「マーティンは映画“アイリッシュマン”のためにとてつもない俳優陣を引っ張り出してきたんです。ロバート・デ・ニーロ、アル・パチーノ、そしてジョー・ペシといった錚々たる顔ぶれが勢揃いするのは見事なものです。彼らには独自の関係性と仕事のやり方があって、それはザ・バンドが、かつてメンバー全員が曲づくりに密接に関わっていた音楽的組織のようなものだった時のことを思い起こさせてくれました」

「彼らはまるで、個々がそれぞれ違うキャラクターを演じている劇団のようでした。そして、それは私がザ・バンドのメンバーについて長年感じていたことでした。ザ・バンドでは私はそれぞれの曲の中で誰が何のキャラクターを演じるのか、キャスティングしているかのような気分だったんです。“アイリッシュマン”もそれに似ている気がします。この映画に出演している俳優陣の演技力に疑いの余地はなく、全員が同等レベルの能力を持っていて、他のメンバーのやることを尊重しているという点においてね」

『アイリッシュマン』最終予告編

 

「裏社会にはつながりがあった」

映画『アイリッシュマン』は、暗殺された裏社会のボス、ジミー・ホッファの物語で、チャールズ・ブラントが2004年に発表したノンフィクション作品『アイリッシュマン(原題:I Heard You Paint Houses)』を原作としている。ロビー・ロバートソンは、彼の父で、プロのギャンブラーだったアレキサンダー・デイヴィッド・クレガーマンの闇の過去についての知識も伴い、この映画のストーリーに共鳴したという。

「物心ついた時から、私の人生は裏社会での遍歴と連結していました。そして私の父や家族もそうでした。それから音楽をやるようになって、私たちはとてもいかがわしい人物が出入りする場所でもよくライヴをやっていました。彼らとは顔見知りで、友人でもありましたが、彼らの多くは泥棒だったり、裏社会を転々としている人々でした」

彼はそこで裏社会を生き抜いていく術を学んだという。

「その道のルールを理解しなければなりません。その道に精通し、いつ足を洗うべきかを判断しなければならないのです。あの当時は、私たちが取引していたうわべだけの世界について考えてはいなかった。それは私のキャリア初期のロニー・ホーキンスやザ・ホークスとの活動にも当てはまることで、彼らはルーレット・レコードに所属していたんですが、その会社のボスがモーリス・レヴィという、裏社会では有名な人物でした。裏社会はどこにでも蔓延していて、いまだに存在している。そのギャングの世界を描いた映画の仕事をしてしまった今、私はどうしたらいいかな?」

とロビー・ロバートソンは笑い混じりに付け加えた。

「ロバート・デ・ニーロやアル・パチーノ、ジョー・ペシに音楽についてたくさん話をした」

映画『アイリッシュマン』のスコア制作は、かつてないチャレンジだった。ロビー・ロバートソンと監督のマーティン・スコセッシは、この物語の舞台となる何十年も前の時代に見合った音や雰囲気を見つけ出そうとしていた。時代を超越したクオリティをもたらすロビー・ロバートソンのテーマ曲に加え、ランドール・ポスターが音楽監修を務めたサウンドトラックには、グレン・ミラーの「Tuxedo Junction」やスマイリー・ルイスの「I Hear You Knockin」、そしてファッツ・ドミノの「The Fat Man」など、名曲の数々が収録されている。

Robbie Robertson – Theme for The Irishman | The Irishman OST

 

ロビー・ロバートソンはこの映画の制作過程をみることができたのだろうか?

「マーティン・スコセッシは、いつも私に、どこかの段階で撮影を見にきて欲しいと言います。ですから、私は彼が作る作品の撮影には毎回顔を出しているんです。ロバート・デ・ニーロやアル・パチーノ、ジョー・ペシと音楽についてたくさん話をしましたが、この映画の要となる人物はやはりマーティンでした。彼が宇宙の中心にいて、この世界にある素材を誰よりもよくわかっていた。私は彼の素材を活かすための直感を心から信頼しているんです」

この映画の音楽制作は、ロビー・ロバートソンの6作目のソロ・アルバム『Sinematic』の曲づくりをはじめ、その他のプロジェクトにも影響を及ぼした。このアルバムのオープニング・トラックで、ヴァン・モリソンとのデュエット曲「I Hear You Paint Houses」は『アイリッシュマン』とそのの原作本のタイトルからインスパイアされたもので、ギャングの殺し屋の仕事についておもしろおかしく歌っているものだ。

「ウォーミングアップして、あの曲を書き上げた」

「映画“アイリッシュマン”の仕事の話が持ち上がった時、映画の台本が届く前に、私はまずチャールズ・ブラントの原作を読んでウォーミングアップしていました。映画の音楽制作を進める傍、ある日新曲を書き上げました。それからヴァン・モリソンが数日こっちに訪ねてきている時にその曲‘I Hear You Paint Houses’を聴かせたら、彼が“気に入った”って言ってくれたので、一緒にやることになったんです」

I Hear You Paint Houses

 

ヴァン・モリソンは、1976年のザ・バンドとマーティン・スコセッシの記憶に残るコンサート・フィルム『ラスト・ワルツ』の中でも傑出したパフォーマーの1人として登場していた。

「私がヴァンに初めて出会ったのは1969年でした。それから彼がウッドストックへ越してきたので、よく会ってはいましたが、2人ともライヴ活動が忙しくてなかなかゆっくりとは過ごせませんでした。それでも時間がある時には、一緒に曲を作ったりしていた。そうして出来上がったのが、ザ・バンドのアルバム『Cahoots』に収録されていて、1971年にレコーディングした‘4% Pantomime’で、収録されたものとは別のテイクも私はすごく気に入っています。とっさの思い付きで、ある日の午後に彼と一緒に曲を書いて、その夜にはレコーディングを行いました。今の2人は歳を重ねて少しは進化したかもしれません。あの頃よりは成長して、少しは賢くなっているといいのですが…。でも2人ともいい感じで進化はしていると思いますよ。彼は長年の親友なんです」

4% Pantomime (Remastered)

 

「ザ・バンドのために書いた曲の多くは、その出所がわからない」

凄腕ベテラン・ドラマーのジム・ケルトナーをゲストに迎え、全13曲を収録したソロ・アルバム『Sinematic』では、ロビー・ロバートソンが15歳の頃からプロとして始めた曲作りを今なお楽しんでいるのが見え隠れしている。

「ソングライティングの楽しさと神秘は、自分が張ったアンテナで思い描いていた何かを受信できるかどうかにあるんです。ザ・バンドのために私が書いた曲の多くは、その出所がわからない。長年曲作りをしてきましたが、この“Sinematic”に収録されている曲を書いていた時も、自分ではどんな曲が出来上がるのか全くわかっていませんでした」

このアルバムにゲストとして迎えたもう1人の人物に、2019年2月にデビュー・アルバム『Tales Of America』をリリースした若きシンガーソングライター、J.S. オンダラがいる。

「彼は独自のサウンドの持ち主で、その歌声に惹かれました。ユニバーサル・ミュージックで働いている娘のアレクサンドラが “彼のことを気に入るかもしれないよ。アフリカからミネソタまでやって来たすごくおもしろいエピソードの持ち主で、ボブ・ディランやザ・バンドのことを話しているんだ” って彼のことを教えてくれたんです。彼の経歴は確かにおもしろかったんですが、何よりも彼の音楽がとても魅力的でした。そして人間としても素晴らしい人物でもありました」

J.S. オンダラは、シチズン・コープとフランス人ミュージシャンのFrédéric Yonnetをフィーチャリングした真情溢れる「Once Were Brothers」でその歌声を披露しており、この曲は先日トロント国際映画祭にてプレミア上映され、今後一般公開が予定されているマーティン・スコセッシ製作指揮による、ザ・バンドの新たなドキュメンタリー映画『Once Were Brothers: Robbie Robertson and The Band』のテーマ曲にもなっている。

Once Were Brothers

 

アルバム『Sinematic』に収録されている楽曲のアートワークはロビー・ロバートソン自身が手掛けている。

「私はアートをつくるのが大好きなんです。そして、ある日突然、映画“アイリッシュマン”の音楽が、私自身のアルバムのアートワークや新作ドキュメンタリー映画にも繋がって、この3つのプロジェクトが同時にぐるぐるとまわり始めて、それは今まで味わったことのない素晴らしい感覚でした」

ロビー・ロバートソンは自身の初期の芸術的感性が、トロント郊外のカナダ最大の先住民族保護区“シックスネーションズ”で生まれ育ったイロクォイ族とモーホーク族の血を受け継ぐ彼の母ローズマリー・ドリー・クライスラーから多大な影響を受けていることを語る。

「母は物事を見る目をあって、物事の捉え方や受けとめ方が印象的でした。私の感性は、母が生まれ育った、文化や環境が他とは異なるシックスネーションズで生活していた時に育まれたものです。複雑な心境もありますが、母の親族や友人、そして愛する人々は不等に扱われていながらも、その与えられた命に心から感謝していました」

ロビー・ロバートソンは、いつの時代も、より豊かな経験を追い求める探求者であり続ける。彼は15歳の頃、移動遊園地で働いたことがあったが、そこでもまた恐ろしい人物と接触していたそうだ。

「まだ幼かった私には、とても危険な経験でした。若い頃は、向こう見ずなものです。でも同時に彼らのジプシー精神への憧れもありました。若き日の私にはとても興味深かった。現実と非現実の境目がどこかわからないような移動遊園地と共に街に現れて、またそれを持ってどこかへ行ってしまう。そんな放浪し続ける生活スタイルがどこか魅力的で、結局私はそれを音楽を通して経験するようになったんです」

76歳になった今なお、ロビー・ロバートソンによる音楽の旅は、世界中の音楽ファンの生活を豊かなものにし続ける。

Written By Martin Chilton



ロビー・ロバートソン『Sinematic』
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CD / LP / iTunes

 


アイリッシュマン』オリジナル・サウンドトラック
好評配信中

『アイリッシュマン』予告編 – ロバート・デ・ニーロ、アル・パチーノ、ジョー・ペシ出演、マーティン・スコセッシ監督 – Netflix

 

映画『アイリッシュマン』
ロバート・デ・ニーロ、アル・パチーノ、ジョー・ペシ出演、マーティン・スコセッシ監督で贈る大作『アイリッシュマン』。20世紀の名立たる悪人たちと関係していた元軍人の暗殺者フランク・シーラン。彼の視点から描かれるのは、今なお未解決とされる労働組合指導者ジミー・ホッファの失踪事件。巨大な組織犯罪と、その背後でうごめく権力争いや政権との繋がり…。第二次世界大戦後のアメリカの闇の歴史を、数十年にわたって紐解いていく。

 


 

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