ビリー・ホリデイ『Lady Sings The Blues』

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ダウンビート誌のナット・ヘントフはビリー・ホリデイについてこう書いている。「彼女の歌声を聴くという経験は、分析不可能である―それを感じられるか感じないかのどちらしかない」。そして『Lady Sings The Blues』はそれを証明している。1954年9月にロサンゼルス、そして1956年6月にニューヨーク市にて2日間の2度のセッションでレコーディングされたこの作品ほどの自叙伝は存在しないだろう。

ロサンゼルスで行われたセッションの方が新鮮なサウンドに仕上がっているが、かといってニューヨーク市でのセッションの質が軽減されることは決してない。ヴァーヴの前身のクレフ・レコードから最初発売された時、ダウンビート誌はレヴューで高評価の5つ星をあげている。「I Thought About You」とカップリングされたSPレコード「Love Me Or Leave Me」が発売された時にはダウンビート誌は「肝心なのは、心に浸透していく親密なレディ・デイ(*ビリーの呼称)の存在感だ」と評しているが、それがすべてを物語っている。

キャピトル・スタジオで行われたロサンゼルスのセッションには、ハリー・エディソン(トランペット)、ウィリー・スミス(アルトサックス)、ボビー・タッカー(ピアノ)、バーニー・ケッセル(ギター)、レッド・カレンダー(ベース)、そしてチコ・ハミルトン(ドラム)が参加しており、彼らが作り出す音楽にビリー・ホリデイが優美に飾り付けをしていく。後にファイン・サウンド・スタジオにて行われたニューヨークでのセッションでは、全く違うミュージシャン・メンバーたちが参加し、才能のあるピアニストのウィントン・ケリーとチャーリー・シェイヴァース(トランペット)、トニー・スコット(クラリネット/編曲)、ポール・クイニシェット(テナー・サックス)、ケニー・バレル(ギター)、アーロン・ベル(ベース)、そしてレニー・マクブラウン(ドラム)が演奏している。

「『Lady Sings The Blues』はビリー・ホリデイの自叙伝である…彼女は読者に自分の視点から見るように説得するため、三次元の視点を期待してはいけない。ニューヨーク・ポスト編集長のアシスタントであるウィリアム・ダフィーと共作された本…本の中で彼女はほとんど歌うことについて触れていない。」—ダウンビート誌のレヴューより

『Lady Sings The Blues』が発売された時、1956年11月10日にニューヨーク市カーネギーホールにてコンサートが開かれ、アルバムに収録されている殆どの曲のパフォーマンスと共にアルバムと同じタイトルが付けられた自叙伝からの朗読が披露された。チケットは完売となり、ビリー・ホリデイの声に限界があったにも関わらず、素晴らしいパフォーマンスとなった。それから3年も経たない内に彼女はこの世を去ってしまう。

アルバムのオリジナル・ライナーノーツ

「『Lady Sings The Blues』は勿論アルバムのタイトルであるが、同時にジャズ界にとって大切な書籍のタイトルでもある。ビリー・ホリデイの自叙伝では、レディ・デイがブルースを歌い、自己憐憫に浸ることなく誠実に歌っている。印刷の方もそうでなければならない。なぜなら印刷されたレディ・デイとレコードのレディ・デイの間に大差はないから。ありのままのものであり、何も抑えられていない。‘共感できるメロディをみつけたら、別にそれを展開させる必要はないの’とビリー・ホリデイは書いている。‘ただそれを感じ、そして歌えば、聴いた人も何かを感じるはず。’それはすべてを要約している。アルバムに収録されている曲を、それまでのアルバムと同様に、ビリー・ホリデイが歌い、誰もがそれを感じることができる。ジョニー・マーサーとリチャード・ホワイティングが1937年に書いた「Too Marvelous For Words」やジミー・ヴァン・ヒューゼン/マーサー作曲の「I Thought About You」などの楽しい曲が収録されている。しかしアルバムの殆どはブルース曲だ。タイトル・トラック、非常に感動的な「God Bless the Child」、そして胸が痛むような「Strange Fruit」などが収められている。より商業的な「Love Me or Leave Me」や「Willow Weep for Me」でも同じ感情が込められており、「Trav’lin’ Light」と「Good Morning Heartache」(タイトルがすでに皮肉を含む)では鋭い皮肉が込められている。」

今となっては誰もが知っていることだが、ビリー・ホリデイの人生は苦労が多かった。その事実は自叙伝の中で率直に書かれている。しかし、印刷された言葉は、経験に含まれる機微のすべてを伝えることはできない。だけどビリー・ホリデイがすべてを注ぎ込んでブルースの曲を歌えば、すべての機微が表現される。ひとつ残らず。

Written By Richard Havers


 

♪ プレイリスト『ビリー・ホリデイの20曲


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