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伝説のコメディ集団「モンティ・パイソン」が生み出した音楽遍歴とオススメのアルバム5選
すべからくコミック・ソングというものは、時代遅れになりやすいものだ。しかしながらモンティ・パイソンが生み出した音楽は、1969年にBBCで『空飛ぶモンティ・パイソン(Monty Python’s Flying Circus)』が初めて放送されてから50年経った今も、ポピュラー・カルチャーの一部となって定着している。
モンティ・パイソンは、エリック・アイドル、マイケル・ペイリン、ジョン・クリーズ、テリー・ギリアム、テリー・ジョーンズ、グレアム・チャップマンが結成したコメディ・グループだった。アイドルは、辛辣な名曲「Always Look On the Bright Side Of Life」を2012年のロンドンオリンピックの閉会式で生演奏したことさえある。
コミック・ソングというのは難しいものだ。初めて耳にする時は面白いかもしれない。しかしあまり何度も聴きすぎるとかえってうんざりしてくるかもしれないし、頭にこびりついたメロディーが鬱陶しくて耳を切り落としたくなるかもしれない。最悪なのは、その曲を吹き込んだ本人たちが自分たちのユーモアに酔いしれるあまり、実のところあまり面白くないギャグだということに気づかないような場合だ。しかもこれは決して珍しい話ではない。
ギャグのもうひとつの問題は、それがすぐに古臭くなってしまうことだ。ウクレレをかき鳴らして1930年代の大スターになったジョージ・フォーンビーや、1950年代にスパイク・ミリガンなどのメンバーが大活躍したザ・グーンズなどは、今も記憶に残っているかもしれない。しかし正直なところ、あなたがザ・グーンズの「Eeh! Ah! Oh! Ooh!」を最後に耳にしたのはいつだろうか?
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従来のコミック・ソングにはなかった要素
しかしモンティ・パイソンは、そうしたコミック・ソングの世界を一変させた。そこで大きな役割を果たしたのが、「The Lumberjack Song (木こりの歌) 」だった。この曲が初めて使われたのは、1969年12月14日に放送された『空飛ぶモンティ・パイソン』の第9回でのことだった。もちろんこの曲にはばかばかしい要素もたっぷり含まれている。たとえば歌詞はこういった具合である。
I cut down trees, I wear high heels / Suspenders and a bra
I wish I’d been a girlie / Just like my dear papa
僕は木を切り、ハイヒールを履く / サスペンダーとブラジャーもつけて
僕も女の子だったらよかったのに / 僕の大好きなパパと同じように
この歌詞のせいで、バックコーラスを務めていた騎馬警官隊は愛想を尽かし、歌うのを途中で止めてしまう。しかしこの曲は、従来のコミック・ソングにはなかった要素も含まれていた。それはすなわちペーソス (哀感) である。
この歌詞を別の角度から見れば、おわかりいただけるだろう。この曲は、自分が本当はやりたくなかったこと、本当はなりたくなかったものに縛られている人たちの声を代弁していたのである。「The Lumberjack Song」が今も不朽の名曲となっているのは、騎馬警官隊のコーラスのおかげで頭にこびりついているという理由だけではない。当時のコメディでは斬新だった人間の本質を描くような描写もその理由のひとつなのである。
アートの域に達したコミック・ソング
モンティ・パイソンが1969年の末に登場したのは意外なことではない。1960年代には、ポップ・ソングがアートの域にまで達していた。それなら、コミック・ソングだってアートになってもいいのではないだろうか? テレビ・シリーズ『空飛ぶモンティ・パイソン』は4シーズンまで放送され、そのあいだにモンティ・パイソンは実に見事な腕前でコミック・ソングを生み出していった。それはテレビで放送されただけでなく、レコードにもなった。彼らが作り出した非常に凝った構成のアルバムは、同時代のロックのコンセプトアルバムと比べても芸術的になんら遜色のないものだ。
活動開始から10年経ったころ、モンティ・パイソンは音楽的な面でピークに到達する。大変な反響を呼んだ1979年の映画『ライフ・オブ・ブライアン』のエンディング・テーマ曲となった「Always Look On The Bright Side Of Life」は、10年間に渡る型破りな活動の中で彼らが学んだすべての要素を凝縮した曲だった。
どんな逆境にもめげず前に進み続けよう、どう見ても勝ち目がない危機に陥っても笑おう。そんなイギリス人の頑固なまでの粘り強さを茶化したこの曲は、モンティ・パイソンが映画の中でターゲットにしていたキリスト教のお説教と同じくらい、生きる上でのメッセージを伝えていたのだ。実にユーモアに富んだこの曲は、「The Lumberjack Song」とのカップリングで1989年のコンピレーション『Monty Python Sings』のプロモ・シングルにもなっている。
モンティ・パイソンがコメディに与えた影響は、もはや誰にも否定できない。現代のコント番組、風刺映画、アナーキーなコメディアンは、すべてモンティ・パイソンの驚くほどモダンな作品の影響下にある。とはいえ、彼らが音楽の世界にもかなりの貢献をしていることを忘れてはいけない。
モンティ・パイソンは、現在ティム・ミンチンやビル・ベイリーのようなコメディアンが作っている洗練されたコミック・ソングの基本形を確立した。1990年代に人気を博した『ザ・シンプソンズ』も、その流れの中にある。そして『サウスパーク』を作り出したトレイ・パーカーとマット・ストーンも、2011年に傑作ミュージカル『ブック・オブ・モルモン』を上演している。
モンティ・パイソンは正しかった。人生はかなりバカバカしい出来事に満ちていて、死によって引導を渡される。しかしドタバタと試行錯誤を続けていても、モンティ・パイソンのおかげで人は笑い続けていられる。それゆえ、彼らの曲は何10年もの長きにもわたって人々のあいだで親しまれてきたのだ。
聴いておくべきモンティ・パイソンのアルバム5選
『Monty Python’s Previous Record』 (1972年)
モンティ・パイソンは、1970年に『Monty Python’s Flying Circus』とシンプルに銘打ったレコードを出した。これはコントを集めたコンピレーションだった。その翌年に出た『Another Monty Python Record』には「Spam Song」という1分間の短いコントが収められており、そこでは缶詰スパムのすばらしさがコーラス・スタイルで歌われていた。モンティ・パイソンの3枚目のアルバムとなったのが、1972年の『Monty Python’s Previous Record』である。
ここには「Money Song」が収録されている。強欲さをインチキ臭く讃えるこの歌 (It’s accountancy that makes the world go round / 会計士がいなければ世界は回らない” は、モンティ・パイソンのメンバーがその後も度々口パクで歌うことになった。このアルバムには「The Dennis Moore」も4ヴァージョン収められている。これは『Robinhood』のテーマソングに合わせて、カウボーイ映画スターのデニス・ムーアの活躍が歌われる曲だった。「Yangtse Song」の歌詞はアルバムの内ジャケットに印刷されている。テリー・ギリアムがデザインしたアルバム・ジャケットは、とてつもなく長い腕がぐるぐるとアルバムに巻きついているという図案になっていた。
・お薦めのトラック「Money Song」
『Live At Drury Lane』(1974年)
1973年のアルバム『The Monty Python Matching Tie And Handkerchief』はコント中心のアルバムだったが、ここにはオーストラリアを茶化したエリック・アイドルの作品「Bruces’Philosophers Song (Bruces’Song) 」が収められていた。このあとモンティ・パイソンは、初めてのコンセプト・アルバム『Live At Drury Lane』を1974年に発表する。ここには有名な「Parrot Sketch」が収められているほか、元ボンゾ・ドッグ・バンドのニール・イネスが参加し、彼のレパートリーである「How Sweet to Be An Idiot」を「Idiot Song」のタイトルで披露している。
このアルバムには、有名な「Liberty Bell」も収録されていた。とはいえ『Live At Drury Lane』で最も有名な曲は、「The Lumberjack Song」の元気ハツラツとしたヴァージョンである。ここではイントロでマイケル・ペイリンがあの名セリフを口にしている。
「I never wanted to do this for a living…I always wanted to be…a lumberjack / 僕はこんなことで生計を立てたくなかった……ずっと前からなりたかったんだ……木こりに!」
・お薦めのトラック「Idiot Song」
『The Album Of The Soundtrack Of The Trailer Of The Film Of Monty Python And The Holy Grail』 (1975年)
『The Album Of the Soundtrack Of The Trailer Of The Film of Monty Python And The Holy Grail』は、映画『モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル(Monty Python And The Holy Grail)』のサウンドトラック盤である。モンティ・パイソンが映画のサウンドトラック・アルバムを出すのは、これが初めてのことだった。
ここには「Camelot Song」「Arthur’s Song」「Run Away Song」といった曲が収められており、イギリスのアルバム・チャートで最高45位に到達している。ニール・イネスは、1970年にエリック・アイドルのコメディ番組『Rutland Weekend Television』に参加してから、エリック・アイドルの仕事に関わるようになった。
このアルバムでも、イネスは重要な役割を果たしている。彼はモンティ・パイソンと組むのが大好きだと語っており、彼らの強みを次のように説明している。
「いつだってモンティ・パイソンは、人間が知的であると同時に ―― 大馬鹿者だと考えているんだ!」
2006年には、映画『モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル』とこのアルバムをもとにしたスピンオフ・ミュージカル『モンティ・パイソンのスパマロット(Spamalot)』も作られている。
・お薦めのトラック「Camelot song」
『The Meaning Of Life (人生狂騒曲) 』 (1983年)
コンピレーション・アルバム2枚と映画『ライフ・オブ・ブライアン』のサウンドトラック・アルバムを発表したあと、モンティ・パイソンは1983年に映画『人生狂騒曲(Monty Python’s The Meaning Of Life) 』 (監督はテリー・ジョーンズ) をヒットさせ、それに続いて同名のアルバム『Monty Python’s The Meaning Of Life』をリリースした。
皮肉っぽいタイトル曲はアイドルがデタラメなフランス訛りで歌っている。それに続く「Every Sperm Is Sacred」は、生殖行為についてのカトリック教会の教えを風刺した曲だった。この曲は1983年のBAFTAミュージック・アワードの最優秀映画オリジナル・ソング部門にノミネートされている。この曲では作詞をペイリンとジョーンズ、作曲をアンドレ・ジャクミンとデヴィッド・ハウマンが担当している。
「”Every Sperm is Sacred”はミュージカルの曲であり、賛美歌であり、ライオネル・バート風のミュージカルでもある。ただしライオネル・バート風のミュージカルをおちょくっているわけではない」とジョーンズは語っている。
「Accountancy Shanty」では、金融アドバイザーが皮肉のターゲットになっている。一方「Galaxy Song」は、アイドルとジョン・デュ・プレ (ポップバンド、モダン・ロマンスのメンバー) の共作曲だった。また「Penis Song (The Not Noël Coward Song) 」には、「性的に露骨な歌詞」という警告が付記されていた。ちなみに2006年のリイシューCD には、「Fat Song (Deleted Intro To Mr Creosote Sketch) 」などのボーナストラックが追加されている。
・お薦めのトラック「Every Sperm Is Sacred」
『Monty Python Sings (Again) 』 (2014年)
これまで30年のあいだに、モンティ・パイソンのコンピレーション・アルバムは何枚も発売されてきた。2014年の『Monty Python Sings (Again) 』は、その中でも特に優れた作品集のひとつに数えられる。ここではアイドルとジャクミンがプロデューサーを務めており、過去のモンティ・パイソンの人気曲がリマスタリングされ、曲順を変えて並べられている。さらに未発表曲も6曲収録されており、そのうちのひとつ「The Silly Walk Song」はこの年ロンドンのO2アリーナで行われた再結成ライヴのために書き下ろされた新曲だった。
このアルバムの中でも特に抜群の内容になっていたのが「Lousy Song」である。これは、1980年に『Monty Python’s Contractual Obligation Album』のレコーディング・セッションで録音された音源だった。曲作りと演奏は、アイドルとグレアム・チャップマンが担当していた。「モンティ・パイソンのコントの中で完全に即興だったのは、僕が覚えている限りではこれだけだ」とアイドルは語っている。
ここでは、アイドルが曲を演奏しているあいだにチャップマンがスタジオに入ってきて、曲を口汚く罵り始める。「本当に最低だな……めちゃくちゃひどい」というチャップマンに、アイドルはこう返す。「どうもありがとう」。まさにコメディの永遠の傑作である。
・お薦めのトラック「Lousy Song」
Written By Sam Armstrong
モンティ・パイソン『Monty Python Sings Again』