ガーシュウィンに捧げたトニー・ベネットとダイアナ・クラールによる永遠の輝き

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ジョージ・ガーシュウィンの音楽はトニー・ベネットの中でも特別な存在である。ニューヨーク生まれのトニーにとって初めての商業デビューとなったシングルは1949年、彼が23歳の時に、ジョー・バーリという当時のステージ・ネームの元、レスリーという小さなインディー・レーベルからリリースされたジョージ・ガーシュウィンの不朽の名曲「Fascinating Rhythm」のカヴァーだった。

12年前に亡くなっていたアメリカが誇る偉大な作曲家のひとりが手掛けたこの楽曲でデビューするということの重要性はトニー・ベネットにもわかっていた。1998年に出版された彼の回顧録の中でこう記している「私のレコーディング・キャリアの出発点において、ジョージ・ガーシュウィンの楽曲を歌えたことを誇りに思っています。まさに、頂点からの始まりでした」。そして今、彼はダイアナ・クラールと共にレコーディングした最新アルバム『Love Is Here To Stay』全編において、人々に崇拝される作曲家、ジョージ・ガーシュウィンの作品を改めてとりあげている。

92歳のイタリア系アメリカ人歌手で、本名アントニー・ドミニク・ベネデットと、複数のグラミー受賞歴を誇るカナダ出身のジャズ・シンガー、ダイアナ・クラークn二人は今作によって、ジョージ・ガーシュウィンの音楽が21世紀においても色褪せることなく、永遠の輝きを放っていることを再確認しているだけではなく、存命ならば2018年9月28日に120歳になっていた偉大なる作曲家の誕生日を祝福している。

ダイアナ・クラールとトニー・ベネットは36歳の年の差がありながらも、古くからの友人である。2000年に二人が初めて一緒にツアーした当時、バンクーバー出身のダイアナ・クラールは35歳で、彼女のキャリアにおいて勢い付いていた時期であり、トニー・ベネットーは75歳だった。その一年後、彼らは初めてスタジオで共演し、スターたちが顔をずらりと顔を並べたトニー・ベネットのデュエット・アルバム『Playin’ With My Friends: Bennett Sings The Blues』のオープニングを飾る快活なスタンダート楽曲「Alright, Okay, You Win」をレコーディングした。

今作のプロモーション時に、トニー・ベネットは筆者に「彼女はすごい才能だよ。とにかくすごいんだ。彼女の歌は素晴らしく奥深く、美しいピアノも弾くしね。彼女がパフォーマンスを始めた途端にみんな彼女の虜になる」と語りながら、この若き共演スターに溢れんばかりの賛辞を送っていた。17年という年月を経て、このアルバムのために2人が再び共演するにあたり、才能溢れるジャズ・ピアニストでもあるダイアナ・クラールは、ベースにピーター・ワシントン、ドラムにケニー・ワシントンというトリオと2人のシンガーを率いるニューヨーク生まれの有能なピアニスト、ビル・チャーラップ(トニー・ベネットのファンにとっては、2015年のアルバム『The Silver Lining: The Songs Of Jerome Kern』でもお馴染みの)に鍵盤を委ね、歌うことだけに専念した。

アルバム『Love Is Here To Stay』は、ジョージ・ガーシュウィンと彼の兄で作詞家のアイラと共作した(今作収録の12曲中、10曲は彼との共作である)「’S Wonderful」で幕を開ける。非凡なるダンサーのフレッド・アステアが主演を務めた1927年のミュージカル『パリの恋人(Funny Face)』で初めて演奏されたこの楽曲は、トリオがスウィングのグルーヴに入る前に、ビル・チャーラップが奏でるキラキラとしたメロディー・ラインで始まる。ダイアナ・クラールは、2011年に発表した彼女のアルバム『The Look of Love』にもボサノヴァ風にアレンジを施したこの曲を収録しているが、今作でのパフォーマンスはより陽気な雰囲気に包まれ、2人のシンガーは快活なリズムに乗って、お互いを褒め称えるフレーズを歌い合っている。今作に収録されている「My One And Only」「Somebody Loves Me」(これら2曲でのみ、ダイアナ・クラールが歌い出しを担っている)、そして非常に美しい「Nice Work If You Can Get It」においても、同様にトニー・ベネットとダイアナ・クラールが会話のような歌を交わし、間違いなく今作の中でも傑出した出来栄えであると言える。

トニー・ベネットが1949年に初めてレコーディングして以来、彼の定番レパートリーのとなっている(1959年のカウント・ベイシーとのコラボ・ライヴ作品『In Person!』でも歌っていた)「Fascinating Rhythm」ではテンポが上がる。この楽曲では、熱の込もったブルージーなクライマックスを迎える前に、遊び心に溢れるアレンジで、ダイアナ・クラールと共に心から楽しそうに歌い上げている。そこから、1922年にジョージ・ガーシュウィンがキャピトル・レコードの共同設立者でもあるジョージ・”バディ”・デシルバと共作した軽快なテンポの「Do It Again」で急激に雰囲気は変わるが、ビル・チャーラップの味わい深いピアノが光るこの曲もまた、今作で注目すべき1曲と言える。2人の歌手がお互いの強みを発揮し、とてもリラックスした中で最高のパフォーマンスを繰り広げているのは明らかである。ダイアナ・クラールの甘くスムーズなトーンと、トニー・ベネットの年月を重ねたバリトンとのコントラストが際立ち、私たちを楽しませてくれる。トニー・ベネットの声は、近年ハスキーさを増しているが、その説得力は一向に衰えていない。アルバム『Love Is Here To Stay』には2つのソロ楽曲も収録されている。ダイアナ・クラールは心の中を映し出すかのような「But Not For Me」で彼女のバラード歌手としての成熟度を披露し、トニー・ベネットは1993年のアルバム『Steppin’ Out』にも収録した「Who Cares」で今作を締め括っている。1931年に生まれた愛を包み込むような表情豊かな賛歌であるこの楽曲は、ビル・チャーラップの栓を開けたばかりのシャンパンのように弾けるピアノに乗って、生き生きとした表情を呈している。しかしながら、これらのソロ楽曲は、現代におけるジャズ・デュエットの極致とも言えるこのアルバムのコラボレーション作品としての本質を決して損なっていない。

アルバム『Love Is Here To Stay』は天才作曲家、ジョージ・ガーシュウィンが遺した不朽の音楽を讃える作品であると同時に、100歳の誕生日まであと8年に迫り、素晴らしい生命力と歌声で私たちを魅了し続けるトニー・ベネットの長きに渡る芸術性を祝う作品である。「一生歌っていたい」と、彼は1979年のインタビューに答えていた。当時は希望的観測かのように思われていたかもしれないが、彼が未だ衰えることなくパフォーマンスを続けていることを考えれば、夢を実現していると言える。事実、彼は今ここに君臨している。

Written By Charles Waring



トニー・ベネット&ダイアナ・クラール
『Love Is Here to Stay』
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