INXS『Live Baby Live』:バンド絶頂期のウェンブリー公演を収めた伝説的ライヴ盤
1985年のライブ・エイドからちょうど6年後の1991年7月13日、英ロンドンのウェンブリー・スタジアムでは、再び歴史に残るコンサートが開催された。オーストラリアを代表するロック・バンド、INXS(インエクセス)は、彼らのキャリアを象徴する圧巻のステージを披露した。
この日の模様は、コンサート・フィルムとライヴ・アルバム『Live Baby Live』として収録され、壮大なスケールと熱気をそのまま伝える作品として後世に残されることとなった。
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ウェンブリー・スタジアムでの公演当時、INXSはまさにキャリアの絶頂期にあった。その勢いは、1987年に発表したブレイクスルー・アルバム『Kick』によって一気に加速し、1990年の『X』でさらに頂点へと押し上げられた。
洗練されたポップ・センスとロック・サウンドを融合させた『X』は、世界的なマルチプラチナ・セールスを記録し、INXSを世界屈指のロック・バンドへと押し上げる決定打となった。こうして迎えた1991年のウェンブリー公演は、彼らが世界的な人気の波の頂点に立っていたことを象徴する、まさにキャリアを代表するライブとなった。
「あの夜、バンド全員が絶好調だった」
INXSのウェンブリー・スタジアム公演は、1991年に行われた大規模な“Summer XS Tour”の数ある公演の一つに過ぎなかった。しかし、1991年11月11日に発売されたオリジナル版ライヴ・アルバム『Live Baby Live』が証明しているように、この時期のバンドは圧倒的なパフォーマンスを見せていた。
この初版に収録された16曲は、シドニー、ダブリン、リオデジャネイロなど世界各地で行われたライヴから厳選されたもので、当時のINXSに匹敵するバンドは地球上にほとんど存在しなかったことを物語っている。
当時まさに勢いに乗っていたINXSは、同年4月から5月にかけて故郷オーストラリアで凱旋公演を大成功のうちに終えると、その勢いのままヨーロッパへ渡り、6月28日から7月16日まで各地の大型フェスティバルでヘッドライナーを務めた。7月13日のウェンブリー・スタジアム公演には、7万3,791人の観客が詰めかけ、興行収入は142万6,617ポンドを記録。文字どおりのソールドアウト公演となり、INXSがイギリスのみならず世界中でロック界の頂点に君臨していたことをあらためて印象づけた。
実際、その5か月前に開催されたブリット・アワードでは、INXSが“最優秀インターナショナル・グループ賞”を受賞。さらに、フロントマンのマイケル・ハッチェンスは“最優秀インターナショナル男性アーティスト賞”に輝いており、バンドはまさに世界的な絶頂期を迎えていたといえる。
「永遠に記憶に残る夜」
2019年、ベーシストのギャリー・ゲイリー・ビアーズは、このウェンブリー公演時のバンドの充実ぶりと、マイケル・ハッチェンスの圧倒的なカリスマ性について次のように回想している。
「あの夜は、バンド全員が最高の状態だった。マイケルは本当に素晴らしく、魂を込めて歌い、会場にいた一人ひとりに生涯忘れられない夜をプレゼントしてくれた。彼には、どれほど巨大な会場であっても、僕たちが音楽を始めた頃に演奏していたパブのような親密な空間へと変えてしまう、不思議な力があったんだ」
あの夜のINXSには、最高のパフォーマンスが求められていた。それもそのはず、この日のウェンブリー公演には、錚々たる顔ぶれが集結していた。INXSがトリを務める前には、当時人気急上昇中だったインディー・ダンス・バンド、ジーザス・ジョーンズ、アイルランドの人気バンド、ホットハウス・フラワーズ、サンフランシスコ出身のモダン・ロック・バンド、ジェリーフィッシュ、イギリスのソウル・ロック・バンド、ローチフォード、そしてブロンディのフロントウーマンとして知られるデボラ・ハリーがステージを飾った。
しかし、デヴィッド・マレット監督によって近年修復されたコンサート映画『Live Baby Live』と、その21曲を収録したライヴ音源が鮮やかに物語るように、INXSが期待を裏切ることは決してなかった。約7万4,000人の大観衆を前にしても、ドラマーのジョン・ファリスがオープニング曲「Guns In The Sky」のマシンのように正確なビートを叩き始め、メンバー全員がそこへ完璧に呼応した瞬間から、バンドは最後まで一切勢いを失うことなく、圧巻のステージを繰り広げた。
「絶頂期にあった世界最大級のセンセーションのひとつ」
この夜のセットリストは、『Kick』と『X』の2作品を中心に構成されていた。「New Sensation」では、スタジアムを埋め尽くした大観衆が一体となって体を揺らし、ブルースを基調としたしなやかなロック・ナンバー「Mystify」では、大合唱となったサビがウェンブリーに響き渡った。
続いては、『X』から6曲が立て続けに披露されるハイライトへ。緊張感を湛えた抑制の効いた演奏で始まる「The Stairs」が徐々に熱量を高めると、ワウ・ギターが印象的な「Know The Difference」へとなだれ込み、さらにスケール感あふれる「Disappear」では、会場からひときわ大きな歓声が巻き起こった。
INXSは実に巧みな構成で、終盤まで代表曲の数々を温存していた。クライマックスでは、「Bitter Tears」「Suicide Blonde」、そして彼らのブレイクのきっかけとなった「What You Need」を、これまで以上にダイナミックでエネルギッシュなアレンジで披露。「What You Need」では、マイケル・ハッチェンスと観客による長いコール&レスポンスが繰り広げられ、ライヴは最高潮の盛り上がりを見せた。
終始クールで堂々としたステージングを貫いていたマイケルだったが、この夜、バンドに注がれた観客の圧倒的な愛情には胸を打たれたようだ。「Suicide Blonde」が終わると、感極まった声でこう語りかけた。
「なんてこった。まるでイングランド中のみんながここに集まってるみたいじゃないか!」
アンコールも圧巻だった。「Need You Tonight」、胸を締めつけるような名バラード「Never Tear Us Apart」、そして約7分に及ぶ「Devil Inside」が続き、旧ウェンブリー・スタジアムの象徴でもあったツイン・タワーが揺れるかと思うほどの熱狂でライヴは幕を閉じた。
2020年7月、INXSはこの歴史的な公演から29周年を記念し、『Live Baby Live』に収録された「What You Need」のライヴ・パフォーマンス映像を公開。バンドの絶頂期を刻んだ伝説の一夜を、あらためて世界中のファンと分かち合った。
同公演でINXSがステージを降りる頃には、その場にいた誰もが、エグゼクティブ・ミュージック・プロデューサーのジャイルズ・マーティンが後に語った「絶頂期にあった世界最高峰のライヴ・バンドの一つを目撃した」という言葉に異論を唱えることはなかっただろう。
その後もINXSは、『Welcome To Wherever You Are』や『Full Moon, Dirty Hearts』といった優れたアルバムを発表し、なお多くの名曲を生み出していく。しかし、バンド自身にとっても、『Live Baby Live』は二度と訪れることのないキャリアの頂点を記録した作品となった。
2019年、ギタリストのティム・ファリスは当時をこう振り返っている。
「僕らはただ、オーストラリアから来た6人の男だった。でもウェンブリー・スタジアムを、いつものパブでのライヴと同じ感覚で演奏したんだ」
さらに彼は、その夜の成功の理由について次のように語っている。
「PAと少しの照明だけを持ち込んで、とにかく全力で演奏した。花道もなければ、バック・シンガーも、小道具も、グランドピアノもない。いたのは僕ら6人だけ。それなのに、観客は熱狂したんだ。それだけで十分だったんだよ」
Written By Tim Peacock
INXS『Live Baby Live』
1991年11月11日発売
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