ウィーザーの6枚/6色の『Weezer』:カラー・アルバムを形作った意外な影響源たち

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ウィーザー(Weezer)はそのキャリアを通じて、表向きはすべて『Weezer』だがジャケットの色の名前で呼称される“カラー・アルバム”をいくつも発表してきた。そしてそれらは、オルタナティヴ・ロック界のヒーローである彼らの進化の過程をたどる道しるべとして機能している。

バンドはグランジ全盛の1994年にデビュー・アルバム(通称“ブルー・アルバム”)を大ヒットさせ、世間におけるナード・ロック(オタク・ロック)の地位を確立。2001年の“グリーン・アルバム”ではシンプルなサウンドを志向し、2008年の“レッド・アルバム”ではリード・ヴォーカルの仕事を各メンバーで分担するなど新たな方向性を模索した。

2016年の“ホワイト・アルバム”では地元ロサンゼルスの伝統に目を向け、“オルタナ界のビーチ・ボーイズ”へと変貌。全編カヴァーで構成された2019年の“ティール・アルバム(青緑色)”では、グループを形作った影響源を明かした。さらにTVオン・ザ・レディオのデヴィッド・シーテックをプロデューサーに迎えた同年の“ブラック・アルバム”では、ルーツであるロックを離れ、ダンス・グルーヴや純度の高いポップを鳴らした。

上述の“ティール・アルバム”に収録されたブラック・サバスやエレクトリック・ライト・オーケストラらの楽曲のカヴァーは、ウィーザーの面々を突き動かした影響源の一部を明らかにしていた。他方、彼らがそうした“カラー・アルバム”のヒントにしてきた要素の中には、あまり知られていないものも少なからずある。

この6枚の『Weezer』がセットになったアナログボックス『The Weezer Coloring Book』が2026年6月26日に発売されることを記念して、今回の記事では青から黒まで色とりどりの作品群のあちこちに取り込まれてきた知られざる影響源をいくつか紹介しよう。

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KISS

火吹きなどロック界で神格化されたキッスの劇的なパフォーマンスは一見、オタクっぽさに誇りを持つウィーザーのナード・ロックの対極にあるように思える。だが実際のところ、立派な胸毛を見せつけスタジアムの舞台を踏み鳴らすキッスは、リーダーのリヴァース・クオモに多大な影響を与えていた。子どものころにキッスの5枚目のアルバム『Rock And Roll Over(地獄のロックファイアー)』を聴いた彼は大きな衝撃を受け、その瞬間に音楽で生きていくことを決意したのだ。

「あのレコードは僕の人生の基盤になったと言っていい」

彼はウィーザーのバイオグラフィー本『River’s Edge』の中でそう認めている。伝えられるところによれば、彼がギターで最初に覚えた曲はキッスの「Cold Gin」だった。

その後、彼は14歳のとき、最初のバンドであるフューリーを結成。彼の弟のリーヴスや、のちナーフ・ハーダーの一員となるジャスティン・フィッシャーを含むこのグループでは、キッスのカヴァーばかり演奏していたという。そして“ブルー・アルバム”収録の「In the Garage」の中で、クオモは誇らしげにこう歌ったのだった。

I’ve got posters on the wall/My favorite rock group, Kiss
I’ve got Ace Frehley, I’ve got Peter Criss
Waiting there for me
壁にはポスターを貼ってある大好きなロック・バンドのキッス
エース・フレーリーやピーター・クリスのポスターが
そこで僕を待っている

 

ルイス・キャロルの『ジャバウォックの詩』

19世紀イギリスのファンタジー作家であるルイス・キャロルは、『不思議の国のアリス』や『鏡の国のアリス』における超現実的な世界観でよく知られる。そしてこれらの奇抜な書物はジェファーソン・エアプレインの「White Rabbit」をはじめ、トリップ感満載のサイケデリックな作品群に影響を与えたとされる。

『ジャバウォックの詩』は、その『鏡の国のアリス』にキャロルが登場させた不条理詩であり、そこには”gimble”、”frabjous”、”frumious”、”bandersnatch”といった造語も使用されている(60年代のサイケ・ロック・バンド、フルーミアス・バンダースナッチの名前はこれらから採られている)。

さらに数十年後にこの詩は、ウィーザーの“ホワイト・アルバム”に収録された力強いパワー・ポップ・ナンバー「L.A. Girlz」にも影響を与えた。クオモは同曲のコーラス・パートでこう歌うのである。

L.A. girls, please act your age
You treat me like I have the plague
It’s the gyre and gimble in the wabe
LAの少女たち、年相応に振る舞いなよ
僕がペストにかかっているような扱いじゃないか
これじゃ’wabe’の中の’gyre’と’gimble’だ

お察しの通り、最後の一節はキャロルの奇妙な詩を基にしている。

 

チャットモンチー

チャットモンチーは日本の女性3人組オルタナティヴ・ロック・バンドだ。彼女たちは母国の音楽シーンにおいては2000年代から2010年代にかけて大きなインパクトを残したが、ウィーザーの母国アメリカではほとんど名を知られていない。だが米国でどれだけ知名度が低かったとしても、クオモはパワー・ポップの影響を受けたそのシンプルなサウンドに目をつけた。

そしていつだって明け透けなクオモは、Facebookにおけるウィーザーのファン・クラブのグループにて、“ホワイト・アルバム”収録の「Do You Wanna Get High?」のコード進行の一部をチャットモンチーの「シャングリラ」から拝借したことを明かしている。

 

レフト・バンク

ウィーザーの「Summer Elaine And Drunk Dori」は骨太なギターやパワフルなドラム、急な曲調の変化などが特徴の1曲だ。この曲を聴いて、60年代のバンドであるレフト・バンクのハープシコードを取り入れた繊細なバロック・ポップとの関連性に気づくことはなかなかないだろう。

さらに彼によると同曲はデモ段階において「Awaken Early」という名前で呼ばれていたといい、それはレフト・バンクの同ヒット曲の不完全なアナグラムになっていた。

だがウィーザーとチャットモンチーのつながりからも見て取れる通り、“ホワイト・アルバム”を制作していたころのクオモはコード進行の魅力的な楽曲を積極的に探していた――それらを自らの創作の糧にしようとしていたのだ。

ポッドキャスト番組“Song Exploder”のインタビューで当人が明かしたところによれば、“ホワイト・アルバム”に収録されたこの楽曲には、レフト・バンクによる1967年の名バラード「Walk Away Renee(いとしのルネ)」の要素が受け継がれているのだという。

 

バウ・ワウ

楽曲のイメージは、サウンドの雰囲気によって180度違ったものになることがある。“レッド・アルバム”に収録された「Cold Dark World」はその最たる例だ。同曲はマイナー・キーの不吉な響きであるために、その歌詞もストーカーか何かの視点で書かれているようにも思える。だがクオモによれば、歌詞を考えた当初のイメージは違っていたようだ。

彼はラッパーのバウ・ワウがロマンティックな一面を覗かせた2005年のヒット曲「Let Me Hold You」のように、本気で涙を誘う楽曲になることを想定していたというのだ。

しかしその歌詞がウィーザーのベーシストであるスコット・シュライナーが考えた物々しいアレンジと組み合わせられることによって、同曲はどこか不気味だが極めて魅力的な1曲に仕上がった。

 

ABBA

同じく“レッド・アルバム”収録の「Heart Songs」はアコースティック楽器を中心に据えた愛らしい1曲であり、ウィーザー史上屈指に赤裸々で率直な内容でもある。

同曲は、一言で言うとクオモの青春時代を彩ったアーティストたちへのオマージュだ。そしてその最初のヴァースでは、1980年のジョン・レノン殺害事件のショックからリヴァース少年を救ったバンドの1つとして、とあるスウェーデンの4人組の名前が登場する。そのグループについて彼はこう記している。

「間違いなく、音楽史を代表する名グループだ。10歳のときに買ったABBAのレコードは、人生でも一番最初のころに買ったレコードの1つだ。……弟と一緒にレコードに合わせて“SOS”や“Mamma Mia”を歌いながら、部屋中を飛び跳ねたり走り回ったりしていたのを覚えているよ」

 

ウィリアム・シェイクスピア『お気に召すまま』

“エイヴォンの吟遊詩人”の異名を持つ不滅の作家シェイクスピアの作品群は、クオモの書く歌詞に長年影響を与えてきた。ウィリアム・シェイクスピアの面影は、ウィーザー関連のカタログのあちこちに見て取れるのである。

例えば「Opening Night」という曲ではシェイクスピアの戯曲の名前がいくつか登場するほか、「Shakespeare Makes Me Happy(シェイクスピアは僕に幸せをくれる)」というリフレインまで歌われる。また、「Inspired」というトラックにも「Till it rhymes like a Shakespeare sonnet(シェイクスピアのソネットのような韻を思い付くまで)」という一節が出てくる。しかしそうした中でもこの『お気に召すまま(As You Like It)』は、クオモの心の中で特別な位置を占めているようだ。

“レッド・アルバム”収録の「The Greatest Man That Ever Lived」で同作においても特に有名な「All the world’s a stage(全てこの世は舞台)」の一節が引用されているのもその1つの証左であるし、“ホワイト・アルバム”の「Thank God For Girls」には“I carved her name into all the trees(彼女の名前をすべての木に刻んだ)”という歌詞もある――その情景はオーランドーが木にロザリンドの名を彫る『お気に召すまま』の1シーンからそのまま採られているかのようだ。

 

ディッセンバーズ・チルドレン

その「Thank God For Girls」について言えば、同曲にヒントを与えたのはシェイクスピアだけではない。シェイクスピアに比べればはるかに近年になって登場したもう1つの影響源とは、サイケデリック・ロック・バンドのディッセンバーズ・チルドレンのサウンドである。

オハイオ出身の彼らの唯一作となった1970年発表のセルフ・タイトル・アルバムは、トリップ感満載の1作だ。時を経た現在では人気のコレクターズ・アイテムとなったが、グループの活動中はほとんど注目されなかった。

だが同作は発表から40年以上を経て、「Thank God For Girls」を通じてメインストリームにひっそりと姿を現した。同曲にはそのアルバムのオープニング・トラックである「Trilogy」の要素が盛り込まれており、それゆえディッセンバーズ・チルドレンのメンバーたちも作曲者にクレジットされている。

 

『ショーシャンクの空に』

映画もウィーザーに影響を与えた要素の1つだが、1994年公開の名作『ショーシャンクの空に』はその代表格と言える。“ブラック・アルバム”収録の2曲には、同作でモーガン・フリーマンが演じたレッドの2つの台詞がそれぞれ登場するのだ。

劇中のとあるシーンでレッドは主人公からの問いに「Maybe it’s because I’m Irish(俺がアイルランド系だからかな)」と皮肉を込めて返すのだが、ウィーザーの「I’m Just Being Honest」にもこの一節が登場する。また、別の場面で彼が言う「Boy found brains he never knew he had(ヤツは自分でも知らなかった才能に目覚めた)」という台詞も「Too Many Thoughts in My Head」に引用されている。

 

メタリカ

クオモは10代のころ、熱心なメタル・マニアだった。そして80年代にメタル・マニアだった人は、もれなくメタリカ・マニアでもあった。だが“ブルー・アルバム”の人気楽曲「Undone (The Sweater Song)」のコード進行がメタリカの「Welcome Home (Sanitarium)」に意図せず酷似していることにクオモが気づいたのは、前者を発表してかなりの時間が経ったあとだったという。

ウィーザーはまた、2021年にリリースされたメタリカのトリビュート・アルバム『The Metallica Blacklist』で「Enter Sandman」をカヴァー。同作は、さまざまなアーティストが“ブラック・アルバム”の愛称で知られるメタリカの1991年作の楽曲を演奏するというコンセプトだった。その点では、ウィーザーの面々が自分たちの2019年作を同じ通称の作品にしたのも、クオモがメタリカを敬愛していることと少しは関係していたに違いない。

Written By Jim Allen



ウィーザー『Colouring Book Box Set』

2026年6月25日発売
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