フィル・コリンズの手助けで制作しABBAのソロして最も成功したフリーダの『Something’s Going On』

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世界最大のグループだったABBAでの活動が終了し、次に何をするか当時のフリーダに迷いがあったとしても、ニューウェイヴとポップのハイブリッド作品『Something’s Going On』ではそれを微塵も感じることはなかった。1982年9月にリリースされた本作品は、結果的にABBA解散後のどのメンバーのプロジェクトよりも成功した作品になった。

『Something’s Going On』はフリーダの3枚目のソロ・アルバムで、初めて全曲英語で収録され、200万枚近くものセールスをあげたのだが、この作品では彼女に力を借した人がいた。その人とはフィル・コリンズ。彼が制作にひと工夫を付け足し、フリーダのレーベルであるポーラー・ミュージックは、有名なライターたちに楽曲を提供してもらうよう呼びかけたのだ。


ドナ・サマーがもともとレコーディングしたコンテンポラリー・ディスコのジョルジオ・モロダーとピート・ベロッテの「To Turn The Stone」から、オスカー候補スティーヴン・ビショップの「Tell Me It’s Over」、ジム・ラファティの純粋ぶった軽快な「I See Red」まで、『Something’s Going On』はまとまりのある11曲が収録され、どの曲もシングルになり得る粒ぞろいの楽曲だった。

アルバムの制作のために選ばれた楽曲の中で、1982年の2月と3月を通じてストックホルムで録音されたラス・バラードによる「I Know There’s Something Going On」はヒットとなった。集中的な大規模なプロモーションの結果として、このシングルはヨーロッパ諸国で当たり、全米チャートでも13位を獲得した。イギリスのみそこまで高くない43位というチャートだったが、アルバム自体はTOP20入りをはたした。「I Know There’s Something Going On」は当時のポップとロックが完璧に融合されており、そこに胸を焦がすようなヴォーカルとキャッチーなメロディがのり、昼間のラジオでローテーション入りしていた。

しかし、『Something’s Going On』の全てをひとつのカテゴリーにまとめるのは、多様性を無視することになるだろう。「Strangers」はオリヴィア・ニュートン・ジョンが当時レコーディングしていたかのような優しいバラードで、古き良きABBAのサウンドに近い。「Threnody」はドロシー・パーカーの詩をロクセットのペール・ゲッスルの曲に合わせ、まるでスティーヴィー・ニックスが書き下ろした叙事詩のようだ。ブライアン・フェリーロキシー・ミュージックの『Flesh + Blood』のセッションのデモを提供し、そのデモは「The Way You Do」となって収録された。軽快だが衝動的なバラードで、ブライアン・フェリーにもロキシー・ミュージックにもないようが楽曲だ。

フリーダはこのアルバムで確かな声を発し、ABBAで歌っていたような楽曲や制作のスタイルから明らかに遠ざかったものにしたかったことがわかる。フィル・コリンズとコラボレートしようというのも彼女の選択だった。フリーダは、その前年にリリースされたフィル・コリンズのアルバム『Face Value』が大好きだったと言われている。『Something’s Going On』の名作バラード「You Know What I Mean」はフリーダがカヴァーし、アルバムの最後から2番目の曲となった。そしてアルバム最後の曲「Here We’ll Stay」は、1980年のユーロヴィジョン・ソング・コンテストのイギリス予選で歌われた楽曲だった。惜しくもイギリス代表曲には選ばれなかった曲を、フリーダと(クレジットされていないが)フィル・コリンズが、新たにパワー・ポップのアンセムにしたのだ。目を閉じればまるでビー・ジーズのようであり、フィル・コリンズのドラムとアース、ウィンド&ファイアのホーン・セクションが効果的な融合を生み、「Here We’ll Stay」はアルバムの最高の曲のひとつであり、最後を飾るにふさわしい楽曲になった。

『Something’s Going On』は成り行き任せなことはひとつもなく、素晴らしいシンガーが、さらに楽しみながら自分の領域を押し広めていることがわかるサウンドだ。ポップ・アルバムであることは間違いないが、その幅広い範囲の中で、ワイルドに実験をしている作品でもある。ABBAとの過酷な仕事を何年も経験し、離婚によってその章は幕を閉じた。フリーダは過去の栄光を再度辿っても満足していたかもしれないが、『Something’s Going On』は世界でもメジャーな女性スターが欠如している中でのフリーダの挑戦だった。デボラ・ハリーのブロンディは解散し、シーナ・イーストンやオリヴィア・ニュートン・ジョンは物足りない見られていた当時は、可能性は無限にあったのだ。

『Something’s Going On』は素晴らしいセールスを記録し、評論家の反応も好意的なものばかりだった。フリーダがそのまま世界的な大スターへと変貌しなかったのは、当時の女性アーティストが置かれていた状況について考えるべきであろう。しかしアルバムは今日でも彼女のポップの傑作として世に名を刻んでいる。

Written by Mark Elliott



 

フリーダ・リングスタッド『Something’s Going On』

    

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