マイク・ラヴと‘カリフォルニア・ラヴ’の創造

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ブライアン・ウィルソンの天才的な才能は、ビーチ・ボーイズの音楽の中で不可欠な要素だ。それは誰もが認めるところ。それでも、終わりなき夏の日々 ―― そして夏の夜 ―― のロマンティックな物語を描く‘カリフォルニア・ドリーム’が生み出されたとき、非常に大きな役割を果たしたのはマイク・ラヴの見事な歌詞だった。

マイク・ラヴはこう語っている。「僕はチャック・ベリーが大好きでね。チャックの歌詞の作り方、つまり身の回りの暮らしで起こったちょっとしたエピソードを歌詞に仕立て上げるところがとても好きなんだ。僕が歌詞を書き始めたときも、まさにそういうやり方を踏襲した。「Surfing Safari」、「Surfing USA」、「Fun, Fun, Fun」、「I Get Around」 ―― あのあたりの曲の歌詞はすべてそうだね。あの手の曲には、僕らの成長期にカリフォルニアの南部で起きていたいろんな出来事を盛り込んでいるんだ」。

1962年に発表されたビーチ・ボーイズのファースト・アルバム『Surfin Safari』では、マイク・ラヴはアルバム・タイトル曲や「Surfin」、さらには「409」の歌詞を作っている。こうした曲は、1960年代にビーチ・ボーイズがリリースしたヒット曲の多くで基本パターンとなった。歌詞に登場するのはサーフィンと車……そして女の子も少々。

ビーチ・ボーイズの3枚目のアルバム『Surfer Girl』(1963年)には、「Catch A Wave」という曲が収められていた。この曲でマイク・ラヴが作り上げた歌詞は実に見事なものだった。「沖へ出て クルリと振り返って 立ち上がる/浜辺では そういうのが流行ってる/波に乗らなきゃね/そうしたら そこが世界のてっぺんになる」。この歌詞のおかげで、サーフィンは誰にとっても身近なものになった ―― たとえ住んでいる場所がピッツバーグであろうとピーターバラであろうと関係ない。


続くアルバム『Little Deuce Coup』では、ブライアン・ウィルソンとロジャー・クリスティアンが多くの曲を共作している。とはいえ「Be True to Your School」でマイク・ラヴが書いた歌詞は、本当に大勢の人たちの共感を呼んだ。それは、理想の思春期、誰もが夢見るような素敵なハイスクール・ライフを体現するような内容になっていたからである。

5枚目のアルバム『Shut Down Vol.2』で、マイク・ラヴは代表作をふたつ作り上げている。そのふたつは、ブライアン・ウィルソンとマイク・ラヴの独創性の両極端を象徴していた。まず「Fun Fun Fun」は、ありとあらゆる面で完璧な仕上がり。主人公の女の子は父親のフォード・サンダーバードに乗っている。ただし行き先は「図書館じゃない。彼女はパパにそれはやめてとお願いした」。そうして彼女はドライブに出かけ、車は「ハンバーガー・ショップを通り抜けていく」。名曲というものは聴く人の脳裏に素晴らしい視覚的イメージを描き出すが、その点、この曲も例外ではなく、そうしたイメージを沸き立たせてくれる。しかも聴いている分には、これは何の苦労もなく作られた歌詞のように聞こえる。ここにはマイク・ラヴが作った中でも飛び抜けて見事なフレーズが含まれている。「彼女のせいでインディ500がローマの戦車競争のように見えてくる」。

これとはまさに正反対の位置にあるのが、「The Warmth of The Sun(太陽あびて)」だ。ブライアン・ウィルソンとマイク・ラヴはこの曲を早朝に作り始めたが、その日ジョン・F・ケネディ大統領が暗殺されてしまう。この日のうちに曲は完成するが、それはもうジョン・F・ケネディ死亡のニュースを聞いたあとのことだった。この歌詞に付いて、マイク・ラヴは以下のように説明する。「あの曲のメロディは耳にこびりついて離れないような、悲しくて物憂げなものだった。だから歌詞を作ろうとしても、失われた愛のことしか思い浮かばなくてね。たとえば、相手にもう興味が失せてしまって、気持ちも通じ合わなくなるとか……そんな感じだ。けれども僕は、暗い中にも一筋の光明がある歌詞にしたかった。だから、「そう、いろいろ変わってしまって、恋する気持ちはもうないけれど、恋の記憶は太陽のぬくもりのように残り続ける」っていう視点から歌詞を書いてみたんだ。「The Warmth of The Sun」は本当に印象的な作品だと思う……。個人的で感情的な視点から見て、僕の大のお気に入りのひとつだね」。この歌詞の痛切さは、ブライアン・ウィルソンによる完璧なリード・ヴォーカルによってさらに完璧なものになっている。

次のアルバム『All Summer Long』には、マイク・ラヴがまたもやパラダイスを描いた傑作「I Get Around」が収められていた。この曲は、ビーチ・ボーイズにとってイギリスのヒット・チャートのトップ10圏内に入った最初のシングルになった。またこのアルバムに収録されていた「All Summer Long」、「Little Honda」、「Don’t Back Down」、「Wendy」といった楽曲群は、このバンドの歌詞の基本となっていた4つの要素をすべてカヴァーしていた。これら4曲の作詞はどれもマイク・ラヴが手がけている。

1965年のアルバム『Beach Boys Today!』が作られたころ、マイク・ラヴとブライアン・ウィルソンは既に20代半ばにさしかかり、それにつれ、歌詞のテーマも少し大人びたものに変わっていた。それは、珠玉の名曲「Please Let Me Wonder」や実に魅力的な「Kiss Me Baby」を聴けばわかる。こうした変化や成熟といったテーマは、「When I Grow Up (To Be A Man)(邦題:パンチで行こう)」で完璧に描かれていた ―― 「僕は 女の子と遊んでたときに求めてたことを/大人の女性にも求めるようになるんだろうか?/すぐに腰を落ち着けるんだろうか? それともまず世界を旅したくなるんだろうか?/今は若くて自由だけど 大人になったらどうなるんだろう?」

同じ1965年、ビーチ・ボーイズはかつてないほど洗練されたアルバム『Summer Days (And Summer Nights)』を発表する。LPのB面は、彼らならではの‘ポケット・シンフォニー’の傑作「California Girls」で幕を開ける ―― ここでは西海岸の明るいお日さまのようなサウンドが全開になっていた。ブライアン・ウィルソンは、見事なオーケストレーションのイントロを天才的な手腕で作り上げている。そして、それに見劣りしない素晴らしい歌詞が続く……。

最先端
あの着こなしは 本当にいい
南部の女の子は 歩き方が素敵
あれを目にすると KOされてしまう

中西部の農家の子は 本当に良い気分にさせてくれる
北部の子は キスの仕方がとてもいい
だからボーイフレンドは 夜 凍えることもない

あの子たちがみんな カリフォルニアに来れたらいいのに
まさに完璧だ。


1966年のアルバム『Pet Sounds』は、ブライアン・ウィルソンとマイク・ラヴの共作コンビがバラバラになり始めた作品だというのが定説だ。しかしながらマイク・ラヴは「Wouldn’t It Be Nice(邦題:素敵じゃないか)」、「I’m Waiting For the Day(邦題:待ったこの日)」、「I Know There’s An Answer(邦題:救いの道)」といった楽曲に作詞で関わっており、この時点でもまだ彼の歌詞が重要な役割を担っていたことがうかがえる。次のアルバム『Smiley Smile』ではマイク・ラヴが作詞した曲がさらに少なくなるが、それでも彼は「Good Vibrations」を手がけている ―― たとえ作詞家としてのマイク・ラヴの作品がこの世にこれ1曲しかなかったとしても、この「Good Vibrations」は’60年代を代表する優れた歌詞のひとつとして歴史に残るはずだ。

1967年に‘サマー・オブ・ラヴ’が到来し、若者の好む音楽としてポップスに取って代わってロックが台頭すると、ビーチ・ボーイズは自分たちがそうした文化の流れと逆行しているように感じ始める。マイク・ラヴとブライアン・ウィルソンはまだ共作をしていたが、次第にビーチ・ボーイズの他のメンバーも歌詞を提供するようになっていった。とはいえ、それからもマイク・ラヴは抜群の歌詞を作っている。その例としては、「Do It Again(邦題:恋のリバイバル)」(『20/20』収録)、「Add Some Music To Your Day」や「Cool, Cool Water」(『Sunflower』収録)、「All This Is That」(『Carl & The Passions』収録)が挙げられる。

人がカリフォルニアのことを考えるたびに、その人の脳裏にはビーチ・ボーイズの曲がBGMとして流れ始めるだろう。そんなとき、頭の中にはマイク・ラヴの歌詞が描き出すイメージも浮かんでくるはずだ。それは、夢と希望が一杯だった時代、太陽が毎日光り輝くように思えた時代を描いた歌詞――「Tシャツ、カットオフ・デニム、サンダル」と一緒に、私たちは一夏ずっと、心の底から楽しんでいたのだ。

Written by Richard Havers


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