ザ・ウェイラーズ「Get Up, Stand Up」解説:来世の幸せを否定し、立ちあがることを求めた楽曲

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Photo: Gijsbert Hanekroot/Redferns

ボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズと名乗る前、ザ・ウェイラーズ名義の時の1973年に発売された「Get Up, Stand Up」が曲が進むにつれて過激に聞こえるのには理由がある。その原因は、60年代から70年代初頭にかけて、ボブ・マーリーの隣にいたボブより10センチほど身長の高い男ピーター・トッシュにある。この曲の共同作曲者であるピーター・トッシュは、メッセージを伝えることにかけては、決して臆病になることはなかった。

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楽曲が生まれたきっかけ

「Get Up, Stand Up」は、ハイチを訪れたボブが島の人々の貧困を目の当たりにしたことをきっかけに書かれたと言われている。ボブのハイチ旅行の詳細について具体的な証拠を見つけるのは簡単ではないが、彼はジャマイカ・キングストンのゲットーで育ったので貧困に無縁ではないこともあり、ボブはこの曲を書くため運命だったのかもしれない。

楽曲が生まれたきっかけが何であれ、ボブのメッセージは明確だ。最初の2節で、彼は人々に、「満たされることを来世まで待つな、この地上で自由となり幸せになるのは権利だ」と説く。神が空から降りてきて世界の問題を解決してくれることを否定するのは、信仰心の厚いシンガーであるボブ・マーリーからすると奇妙に思えるかもしれないが、ボブのラスタ信仰に完全に合致しているのである。ボブの神は雲の上にいるのではなく、エチオピアのハイレ・セラシエ皇帝として地上で我々と共存していたのだ。

天国は「地面の下」にはないと主張する説教師を非難する冒頭の歌詞は、死に対する言及である。天国を見つけるために死ぬ必要はない、地上に作ることができるのだ、と。「Get Up, Stand Up」の後に発売された1974年のアルバム『Natty Dread』収録曲「Talkin’ Blues」では、さらに踏み込んで、「説教師が嘘をついていることがわかったので、教会を爆破したい」とまで語っている。この2曲にはもうひとつ関連性があり、「Talkin’ Blues」では、誰が権利のために外で戦い、誰が家に隠れているのだろうかと疑問を投げかけている。

「Get Up, Stand Up」の3番の歌詞は少し違う。オリジナル盤でピーター・トッシュが歌ったこの曲は、彼の妥協を許さない戦闘的な姿勢を表している。トッシュは、前の詩が示唆したことを綴り、高揚する言葉から力強い論争へと移行する。そして、ニーナ・シモンの「Sinnerman」(別名「Downpresser」)のヴァージョンと同様に、トッシュは抑圧者に直接語りかけ、人々が真実に気づき、その力を行使する準備ができた今、彼ら自身を救うために何ができるかを問うている。ボブの詩は高揚と説明についてであり、ピーターの最後の詩はその精神を行動に移すことについてである。

 

本格的な芸術の基礎

「Get Up, Stand Up」の激しい姿勢は、単に「Talkin’ Blues」の先祖であるだけでなく、1977年の「Exodus」で示されるような黒人の蜂起のような激しい感覚もある(後者の歌詞の多くは「Get Up, Stand Up」にしっくりとくるものである)。その意味で、「Get Up, Stand Up」はボブのキャリアの礎となるものだった。

1973年10月にリリースされたザ・ウェイラーズのセカンド・アルバム『Burnin’』は非常に評判が良く、前作『Catch A Fire』の素晴らしさがまぐれではないことを証明するものだった。それまでほとんどの音楽評論家や業界関係者にとってジャマイカ音楽は真剣な芸術の土台ではなく、せいぜい目新しいヒットの源泉ぐらいだと見ていたが、「Get Up, Stand Up」を聞けばウェイラーズのメッセージの真剣さに疑いの余地はない。アイランド・レコーズはこの曲をシングルとしてリリースしたが、その後、トッシュとウェイラーが脱退し、オリジナルのウェイラーズにとって事実上最後のリリースとなった。

歌いづがれる名曲

しかしながら「Get Up, Stand Up」はまだその役目を終えてはいなかった。ピーター・トッシュは1976年のソロ第2作『Equal Rights』でこの曲にたち戻り、翌年のバニー・ウェイラーによるソロ第2作『Protest』でもスリリングなファンキー・ヴァージョンを披露している。UKのレゲエ・ファンク・グループ、チェッカーズは『Check Us Out』(1976年)で驚異的なダンスフロアの再現をし、同年にはレゲエのスーパースター、ビッグ・ユースとデニス・ブラウンがビブラフォンを使ってデュエット・リメイクしている。

この曲は、必要なときに戻ってくるアンセムになった。ブルース・スプリングスティーン、ユッスー・ンドゥール、トレイシー・チャップマン、ピーター・ガブリエル、スティングが1988年のアムネスティ・インターナショナルのためのチャリティーで演奏。

元ドアーズのジョン・デンズモアとロビー・クリーガーが結成したグループ、バッツバンドが1975年にセカンド・アルバムでもカバーし、アメリカのパンクバンド、ダウン・バイ・ローは1993年に逮捕されたヴァージョンを制作。ハンブル・パイのスティーブ・マリオットは1989年にカバーし、ローリング・ストーンズはA Bigger Bangツアーで演奏している。

ボブ・マーリーもこの曲に返り咲いた。「Get Up, Stand Up」は、1975年に彼がブレイクしたアルバム『Live!』の中でも重要な曲である。1973年にカリフォルニア州サウサリートのレコード・プラントで録音された素晴らしいライブ盤が発掘され、1991年にリリースされたアルバム『Talkin’ Blues』にも収録。

また、2003年にリリースされた『Live At The Roxy from 1976』の過激なメドレーにもこの曲が入っている。Thievery CorporationとAshley Beedleによるリミックスも公式リリースに収録されており、後者はボブのアンセムと次世代のアンセムをミックスした「Stand Up Jamrock」として発表している。

1984年のベスト盤『Legend』のおかげで、行動への呼びかけは当初ザ・ウェイラーズが考えていた以上の聴衆に届いた。克服すべき抑圧と勝ち取るべき闘争がある限り、それは共鳴し続けるだろう。

Written By Ian McCann


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