『ブレードランナー』や『炎のランナー』で知られる作曲家ヴァンゲリス逝去。その功績を辿る

Published on

Vangelis - Photo: Rob Verhorst/Redferns

名作映画『ブレードランナー』や『炎のランナー』などのサウンドトラックを担当したシンセサイザーを駆使するギリシャの作曲家・音楽家、ヴァンゲリス(Vangelis)が2022年5月17日に79歳で逝去した。ヴァンゲリスの代理人によると、病気のため治療を受けていた彼はフランスの病院で亡くなったという。

ヴァンゲリスは1981年に公開された『炎のランナー』のサウンドトラックでアカデミー賞作曲賞を受賞。その高揚感あふれるピアノのモチーフは世界的に有名になり、全米チャートで1位を獲得し、付属のサウンドトラック・アルバムも発売された。また、アフロディテス・チャイルドというグループでも成功を収めた。

<関連記事>
【追悼】ヴァンゲリスのベスト・ソング20
ヴァンゲリスが手掛けた映画『1492 コロンブス』サウンドトラック
ギリシャ時代のヴァンゲリスとRCAからの3作目『Spiral』

その生涯

1943年にエヴァンゲロス・オディセアス・パパタナシウとして生まれたヴァンゲリスは、早くから音楽に興味を持ち、鍋を叩いたり、釘や眼鏡などの物を両親のピアノの弦に固定して出す音の実験に取り組んでいた。Space Rocksで彼は幼少期をこう振り返っている。

「(私の音楽と)共感覚はクロスオーバーしているかもしれません。子供の頃、何かの匂いを嗅いで、『これは何の音だろう』って考えたり。あるいは、何かを聞いて『この食べ物は何だろう』と考えたり。また、人間は皆、自分の音を持っていて、誰かを見ると、その人の音がわかったんです」

彼は正式な音楽教育を受けていなかったが、ギリシャの民謡や正教会の合唱曲の音色を吸収したことで、アーティストとしての創造性を育むことになった。地元のロックバンドで活動を始めたヴァンゲリスだったが、1967年、ギリシャでクーデターにより軍事政権が発足したことで、25歳でパリに脱出した。

その頃、ヴァンゲリスは電子シンセサイザーという新しい分野に魅了され、彼のトレードマークとなった豊かなメロディーを創り出すことになり、デミス・ルソス(ベース、アコースティックギター、エレクトリックギター、ボーカル)、ルーカス・シデラス(ドラムス、ボーカル)、シルバー・クルリス(ギター)という、ギリシャ出身のメンバーで構成されたプログレッシブロックバンド、アフロディテス・チャイルドを1967年に結成。

彼らは当初、「Rain and Tears」「End of the World」「I Want to Live」「It’s Five O’Clock」などのヒットシングルでヨーロッパにて成功を収めたが、最も影響力のあるアルバム『666』を1972年にリリースした直後にバンドの活動停止。この作品は、史上最も進歩的またはサイケなアルバムとして多くのリストに掲載されることになった。

また、1970年から1971年にかけて『666』を制作していたころ、ヴァンゲリスと作詞家のコスタス・フェリスはパリでサルバドール・ダリに出会っている。その後、フェリスは広報担当者に、この偉大なシュールレアリストと連絡を取り、プロモーションのために何らかのコラボレーションができないか、と頼むことにした。ダリはバンドが作業していたエウロパ・ソノールにあったスタジオに訪ね、80分のアルバム全曲を聴き、このアルバムを「石の音楽(a music of stone)」と言って大絶賛したこともあった。

1970年代初頭のヨーロッパのプログレッシブ・ロック・シーンで成功を収めたものの、ヴァンゲリスは周囲からの期待に応えられず、ロンドンに自分で作った録音スタジオにほとんど引きこもっていた。1976年、ナショナル・ロック・スター誌の取材に対し、彼はアフロディテス・チャイルドを脱退した理由を「ナンバーワン・ヒットが多すぎたからだ」と語っている。

 

映画音楽での開花

1924年に行われたパリ・オリンピックでの英国人ランナーたちの勝利を描いた映画『炎のランナー』のスコアを書いたのもロンドンだった。特にサントラ・アルバムの1曲目に収録された「Chariots Of Fire」での脈打つシンセサイザーのビートと高鳴るメロディーは、浜辺を走る選手たちのスローモーションのオープニングシーンを非現代的なものとし、映画におけるスポーツ描写の手本ともなった。

ヴァンゲリスはこの作品でアカデミー賞作曲賞を受賞し、何週間もチャート上位を占めたこの曲は、熱心なアマチュアランナーだった父親へのオマージュでもあったと語っている。しかしながら彼は、この映画による絶大な人気に対して少しばかり否定的でもあった。実際、1985年にSPIN誌が報じたところによると、彼は受賞したアカデミー賞のトロフィーを手に取ることさえしなかったという。

「Chariots Of Fire」の成功以外にも、同郷のコスタ=ガヴラス監督の『ミッシング』やリドリー・スコット監督の近未来SF『ブレードランナー』など、大作映画の音楽を多数手がけた。

ジョン・アンド・ヴァンゲリスでの活動

ヴァンゲリスは映画音楽以外にも様々な活動を行い、イエスのリード・シンガー、ジョン・アンダーソンとのデュオ「ジョン・アンド・ヴァンゲリス」も結成。

アンダーソンとヴァンゲリスは、1980年に発売したアルバム『Short Stories』を皮切りに、合計4枚のアルバムを制作。ヴァンゲリスは一時期、イエスのリック・ウェイクマンの後任としてオーディションを受けたことがある(最終的にはパトリック・モラズがその座についた)。また、ジョン・アンダーソンはヴァンゲリスのアルバム『Heaven and Hell』の「So Long Ago So Clear」にボーカルで参加している。

ヴァンゲリスは2021年に最後のスタジオ・アルバム『Juno to Jupiter』をデッカからリリース。このアルバムは、NASAの木星探査機ジュノーにインスパイアされたものだった。

ヴァンゲリスはそのキャリアを通して、彼のサウンドを天界にフォーカスしていた。彼は1985年にSPIN誌にこう語っている。

「作品のバランスを崩すと、簡単に”製品”になってしまう。音楽は単なるエンターテインメント以上のものなのをわかってほしい。人間の大切な所有物なんです」

また、2016年にVIMAgazinoにはこう語っている。

「音楽は神的なものです。世界を形作る巨大な力なんだ」

Written By Tim Peacock



 

Share this story

Don't Miss

{"vars":{"account":"UA-90870517-1"},"triggers":{"trackPageview":{"on":"visible","request":"pageview"}}}
モバイルバージョンを終了