映画『エリック・クラプトン -12小節の人生-』についてのQ&A:クラプトン「僕は関わった全てを駄目にしてきた」

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2018年1月10日の夕方にロンドンのサウスバンクにある英国映画協会にて神のごとく登場したエリック・クラプトンは、スタンディング・オベーションで迎えられた。彼の生涯を明らかにしたドキュメンタリー映画『エリック・クラプトン -12小節の人生-(Life In 12 Bars)』のUKプレミア・スクリーニング後に舞台にあがったエリック・クラプトンは、ゆっくりと動きながら、両腕を大きく広げ、まるで水の上を歩いているかのように見えた。

60年代イギリスのR&Bの筋金入りギター・ヒーローとして活動を始めたころから、メインストリームの世界的スーパースターとして君臨し続ける現在まで、エリック・クラプトンは思いも寄らないクリエイティヴな成功の頂点を登り、同じように極めて深刻な個人的絶望のどん底に沈んでいた。現在72歳、清潔に仕立てられたダークスーツ、淡いシャツとネクタイに身を包んだエリック・クラプトンは、ロックン・ロールのリング・マスター、ジュールズ・ホランドと映画のアメリカ人監督リリ・フィニ・ザナックと共に興味深いQ&Aインタビューに参加してくれたように、率直で飾り気のない一般庶民の魅力と経験豊富な有力者としてのノブリス・オブリージュの精神を兼ね備えていた。

ジュールズ・ホランド、エリック・クラプトン、リリ・フィニ・ザナック、『Eric Clapton: Life In 12 Bars』プレミアにて Credit: @stillmoving 2

ホランド: あなたの一生についての映画を作る案は誰が思いついたのですか?

クラプトン: そうだね、特に目的もないままたくさんのフィルム映像が撮り貯められていたんだ。自分は陽気な性格なので、死ぬ前にその映像で何かやった方がいいだろうと思ったんだ。過去にリリと一緒に働いたこともあり (1991年に彼女が監督した映画『ラッシュ』にエリック・クラプトンがサウンドトラックを提供)、彼女なら信用できると感じたんだ。そこで映画の製作をリリに依頼した。そして僕は関わることなく、ただ流れに任せたんだ。彼女のことを信頼しての行為だね。完成版を見たとき、僕は思ったんだ。これを僕は扱うことができるだろうかと。未だに分からないよ。まるで他の誰かの人生についての映画を見ているようだった。

ホランド: クラプトンは本当に進行を一切任せてくれたのですか?

ザナック: はい、そうです。これを削除して欲しいとか、変更して欲しいとか、ぼやかして欲しいなど、彼からは一度も頼まれたことはありませんでした。何ひとつも。そして、その事に私は非常に心を動かされました。なぜなら幾つかの部分は私ですら観るのが非常に辛いシーンがあるからです。まさに真実で本物の部分が。私が思い切って引き受けたのは、私たちにこの相互信頼があり、現実的なものになると思ったからです。こんなに現実的になるとは思ってもみませんでしたが。

ホランド: 映画の明確さはまるでレンブラントの肖像画のようでした。ディテールがかなり辛辣で、非常に私的でした。その部分は違和感がありましたか? こんなに深く掘り下げたくないと感じた部分などありましたか?

クラプトン: 数ヶ月前にトロントで試写会があるまで、僕は観なかったんだ。僕らは進行に従ってインタビューを行い、そのことについて話をした。僕がそれで大丈夫だったかって? 僕らが何をやってきたかは僕が分かっている。でもこれはリリのプロジェクトだ。そして大きなスクリーンで初めて観たとき僕はこう思ったんだ。スクリーンに映るこの人は誰なんだ? って。

ホランド: あなたがまだとても若かったときに、あなたは大成功を収めています。あなたが世界的な現象であるといつ気付きましたか?

クラプトン: 1971年にデレク・アンド・ザ・ドミノスが解散した頃。ザ・ドミノスと呼んでいた私のバンドの全てから僕は手を引こうとしていた。今でも幾ら稼いだのか、幾ら使ったのかもわからない。僕は意図的に知ろうとしなかった。なぜなら僕は労働者階級の少年だったからさ。まるで僕の人生は、ブルース音楽を聴き始めた時から、曖昧さと神話がすべてだったんだ。僕は成功しそうに見え始めたものに関わる全てのことをダメにしてきたんだ。

ホランド: あなたはグループを転々としてきました。あなたが素晴らしいと彼らが気付いた瞬間には、あなたは去っていました。あなたは次の音楽的なものを探していたのでしょうか? もしくは破壊的行動をしてしまうのは、慎重に考えた上でのことだったのでしょうか?

クラプトン: よく考えた上での行動だったと思う。その時は分からなかったかもしれないが。無意識でそうしていたんだ。

ザナック: また、いつでもセルアウトとして見られた時でもありました。ヤードバーズがポップ・ヒットを望んでいた時など。エリックは彼自身がやりたかった音楽に対して忠実でありたかった。多くの場合、こういった逃避は何かを破壊しようとはしていません。エリックはヒット曲が欲しくなかったのです。

クラプトン: なるほど(笑)。確かに、僕が聴いていた音楽に対する忠誠心に基づいているね。僕はそれが本当に価値のあるものになるまで、驚異的な成功にあまり興味がなかった。例えばレイ・チャールズ、彼は大成功を収め、満足していたが、どうやったらそうなるのか僕にはよく理解できないね。

エリック・クラプトンとリリ・フィニ・ザナック、『Eric Clapton: Life In 12 Bars』プレヴューにて Credit: @stillmoving 2

ホーランド: しかし、あなたには常に多くのファンがいました。あなたがヤードバードに在籍していたとき、あなたのサインをもらおうと皆が列を成していたんですよ。

クラプトン: 間違いなく僕は二重人格者だと思う。悪くないと思うが、そこにはないかのように振る舞うのが好きなんだ。ライヴでプレイしたとしよう。僕は誰も見えないし、それで構わないと思っている。もし観客席の誰かと目が合ったら、大抵はいびきをかいてる奴だろう。

ホランド: (この映画を作っている間)こんなにも違う髪型をしている男を今までみたことがないとあなたは言っていましたね。

ザナック: 映画冒頭に流れるあのモンタージュはエリックの人生の大半を占める髪型の壮麗さのせいよ。ほとんどの男性はずっと同じ髪型で、もしかすると60年代、もしくは70年代にはもう少し長かったでしょう。

クラプトン: 今晩、もしくは以前に映画を観た中で「クリームは大きな間違いだった。あんなバンドなどなければ良かったんだ」と僕が言うシーンがあるんだ。今は、あの頃の全部のバンドに僕は残っていれば良かったのにと思ったね。

ザナック: そのシーンは少し入れました。なぜなら私が観たときに、これよりも酔っ払える人などいないわと私が思ったからです。

クラプトン: ひとつだけ非常に嫌な演出があるんだ。インタビューで、僕の人生はどうかと男に聞かれ、父親になる話をされるシーンがあるんだ。なのに僕はひどく酔っ払ってるんだよ。あれは非常に不愉快だね。

ホランド: ギタープレイヤーにならなかったら、あなたは何をしていたと思いますか?

クラプトン: レンガ職人か左官だろうね。少しの間だけ、祖父の仕事を手伝ったことがあるんだ。彼はとても厳しくて立派だった。一度も値上げせず、一生の間ずっと同じ値段で働いてきた。そして彼は優れた職人でもあった。それは僕が観察するにはとても重要なことだった。その教えをどこにでも活かせたから。彼は僕にとても厳しかった。だから、僕は常に思っていた。もし音楽で食っていけなかったら… あのビルの現場で一生に一度の時間を過ごしたから。

Written by David Sinclair



『エリック・クラプトン -12小節の人生-』

2018年11月23日公開
日本公式サイト

映画『エリック・クラプトン~12小節の人生~』予告編

『Life In 12 Bars (Original Motion Picture Soundtrack)』

2018年6月8日発売、CD2枚組
価格:2,980円+税、品番:UICY-15738/9
日本盤:SHM-CD、解説・歌詞対訳付

  

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