ブライアン・アダムス、25回目の武道館公演ライヴレポ:63歳とは思えない圧巻の歌唱力を見せた一夜

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All Photo by Masanori Doi

2023年3月4日から来日公演が行われたブライアン・アダムス(Bryan Adams)。洋楽アーティストではエリック・クラプトンに次ぐ25回目となったブライアンによる3月7日の日本武道館公演について、日本のブライアン・アダムス研究の第一人者である安川達也さんにレポート頂きました。

また、武道館公演のプレイリストが公開されているApple Music / Spotify

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「足りないものはロックだ」

3月7日、日本武道館、19時9分。喜劇俳優ジョン・グリーズの“説教”が会場に鳴り響く。「神は天と地を創造し人間を創造したけれど何かが足りなかった」。痛快な最新作『So Happy It Hurts』屈指のロックンロールナンバー「Kick Ass」に誘うアルバム同様の演出を目の当たりにして会場のボルテージが一気に上がる。教示(翻訳字幕付き)が次々とモニターに映し出される。「そう足りないものはロックだ」。ステージに5人のメンバーのシルエットが浮かび上がり、真っ赤なスポットライトを浴びた主人公ブライアン・アダムスが叫ぶ。「ギターが必要だ!そして、ドラム、ベース、ピアノを用意しろ。あとはいかしたロックバンドがあればいい。Let’s Go!!」。ブライアンは『Get Up』(2016年)頃からメインギターとして愛用しているギブソンのヴィンテージES-295をかき鳴らす。全員がブルージーンズ&ブラックシャツ。It’s Time To Rock and Roll!

ブライアン・アダムスの7年ぶりとなるジャパン・ツアーは初日の仙台(2日)、大阪(6日)を経て東京・日本武道館に到達し、鳴り止まない大歓声と「Kick Ass!」の大合唱のなか幕を開けた。1983年の初来日から40年目、13度目となるジャパン・ツアーにして最も「らしい」粋なスタートはまさに痛快。右足でしっかりとリズムを取りながら、弾き手を上下に大きくストロークするスタイルは不変。20代の頃と変わらない勢いのあるパフォーマンスに触れていると、80年代の音楽誌インタビュー(*)を想い出す。「あなたの音楽をひとくちで表現すると?」と質問されたブライアンはあの時点でこんなふうに答えていた。「僕の音楽はKick Ass Rock’n Rollじゃないかな(笑)」(*『サウンド&レコーディング・マガジン』 リットーミュージック刊 1985年1月号より引用)。

 

「25回目のブドーカン」

ブライアンがギルドのアコギで軽快に演奏する5曲目の「Shine A Light」。コロナ禍で来日が実現しなかった同名ツアーの演出を追体験するかのように客席のあちこちからスマホのライトが照らされる。まるで会場全体でブライアンの武道館帰還を祝すかのようだ。会場を見渡しながら笑顔のブライアンが呼応する。「今夜は25回目のブドーカンのコンサート。えーと、(横にいる)キースは23,24回目ぐらいかな?」。ブライアンのアナウンス通り日本武道館での公演回数はこの夜で25回となった。

同会場の洋楽アーティスト歴代公演記録は2位(1位は4月に100回目を数える予定のエリック・クラプトン)。1983年の初来日公演を経て、『Reckless』を抱えた1985年以降、ブライアンが武道館で演奏しないジャパン・ツアーは皆無だ(1989年東京ドームのフェスは除く)。ブライアンの日本ファンにとって武道館はまさに“聖地“。実際に数多くの名演、名場面が生まれ、音源化・映像化されているパフォーマンスも少なくない。2000年夏の伝説となった3ピース武道館ステージはアーティストとして在り方を体現した生涯No.1ライヴのひとつにあげているほどだ(『Live At The Budokan』として映像作品化)。

「ブドーカン、帰ってきました!アリガトー」。初武道館公演では会場を揺るがす大合唱となった1985年夏の初の全米No.1バラード「Heaven」を歌い出す。もう君たちの歌だから、そんなふうに客席にマイクを向ける、そして自然と巻き起こる大合唱。何度も観た美しい光景。筆者は、『18 Til I Die』ツアーでステージ真後ろに設置された特設席で運良くライヴを体験することが出来たが、ステージ側から見る武道館の景色には驚いた。1、2階席が壁のようにそそり立ち今にも人が降ってくるような錯覚。巨大なすり鉢の中にいるようで、自然なエコーが終始発生しているのがよく分かる。アーティストがよく口にする「武道館の迫力のある一体感」には思わず納得。ブライアンはこの渦のど真ん中に25回立ち続けたことになる。ちなみに相棒キースも25回その場にいたことをフォローさせてもらう(武道館はキース皆勤)。

 

63歳とは思えない圧巻の歌唱力

ブライアンの中音域ハスキーな歌声、ハイトーンになった瞬間にクリアになる独特な歌声は今夜も衰えしらずのようだ。到底63歳とは思えない次元を遥かに超えた圧巻の歌唱力はもはや驚愕に値する。非凡なヴォーカル・パフォーマンスを最大限に引き出す演奏も秀逸。2010年代に入ってからの顕著な余分な飾りを一切削ぎ落としたライヴ・アレンジが本ツアーでも冴え渡り、CD時代の全15曲75分の大作『Waking Up The Neighbours』(1991年)以降の楽曲も必要以上の間奏とアウトロをカットしたことでライヴ全体にスピード感が増し、約2時間強のなかで全29曲、40年を超えるキャリアをほぼ総括する様相だ。

『So Happy It Hurts』ワールド・ツアーは2022年1月から始まりヨーロッパ各国、カナダを周りすでに1年を経ていることもありステージのチームワークも鉄壁。盟友キース・スコットの臨機応変のリード、スライド・ギター・ワークはまさに円熟。右腕となって久しいゲイリー・ブライトの鍵盤の響きはこの夜も抜群だ。そして特筆はリズム隊。終始安定したベースを奏でていたソロモン・ウォーカーは2000年代にモリッシーのバンドにいた逸材で『Shine A Light』(2019年)のツアーからの参加なのでブライアン・バンドのメンバーとしては本邦初のお披露目となった。

ドラムはパット・スチュワード。往年のファンには『Reckless』ツアー(1985年)以来の再会となったが、タイトでエネルギッシュなドラミングは健在だ。この日も会場が一体となったアンセム「Summer Of ’69」は、彼のドラム・ワークじゃなければレコーディングが成立しなかったことはのちにブライアンも公言している。『Reckless』ツアーの再現となった「Kids Wanna Rock」「It’s Only Love」連続演奏。しっくりとくるリズムにセピアの記憶を呼び起こすような感覚に陥った観客は間違いなく“Summer Of ’85“世代だろう。

この日、唯一の起用となったストラトキャスターに持ち替えて奏でたのは「Run To You」。演奏ハイライトはタメを置きスポットを浴びながら奏でる鉄板の演出。この夜最も大きな歓声のなかに、疾走感を抱えたマイナーギターの音色が駆け抜けるシーンは何度体験しても鳥肌が止まない。本ツアーの楽しみのひとつでもある会場リクエストに即興で応えた「This Time」は1985年の武道館はステージを降りて客席のなかで歌っていた。キー合わせに少し苦戦した久々のフルバンドによる重厚な「Into The Fire」は、1988年の武道館ではダブルアンコールで弾き語り、拍手が止むことがなかった……数々の名シーンが時を超えて25回目の武道館ステージに溶け込んでいくようだ。

ハイライトで演奏された「So Happy It Hurts」は、パンデミックやロックダウンによってライヴ活動停止を余儀なくなれ、自発性奪われたことで生まれた特別な曲。誰もが飛び乗って行ける自由の象徴としてアルバム・ジャケットにも描かれたユーズド・カーは本ツアーのメインビジュアルだ。人生における多くの儚いものに触れながら本当の幸せを求めたこの曲の最も重要な部分は人との繋がりだった。国境も時代も超え同じ空気を共有する観客との楽しい時間を噛みしめるかのように、ラストの「Straight From The Heart」「All For Love」の大合唱を浴びるブライアンは最高の笑顔を浮かべていた。「ドーモアリガト、トーキョー!」。

ファンの気持ちを十分に理解するブライアンと、彼の音楽を十二分に理解する日本のファン。目には見えない信頼関係はステージと客席のキャッチボールとなって会場を一体化させてきたが、この夜はまたひとつ目に見えない絆を紡いだようだ。終演後のサイン会では興奮したファンが各々の想いを口にしていたが、ブライアンも嬉しさを隠し切れないでいたようだ。「忘れられないスペシャルな夜だったよ」。ジャパン・ツアーの最終地は8日の名古屋。It’s time to rock and roll again!

<ブライアン・アダムスSet List 東京・日本武道館:2023年3月7日

01. Kick Ass『So Happy It Hutrs』(2022)
02. Can’t Stop This Thing We Started『Waking Up the Neighbours』(1991)
03. Somebody from『Reckless』(1984)
04. One Night Love Affair『Reckless』(1984)
05. Shine A Light『Shine A Light』(2019)
06. Heaven 『Reckless』(1984)
07. Go Down Rockin’ 『Get Up』(2015)
08. It’s Only Love『Reckless』(1984)
09. Kids Wanna Rock『Reckless』(1984)
10. When You Love Someone『MTV Unplugged』(1997)
11. You Belong to Me『Get Up』(2015)
12. I’ve Been Looking For You『So Happy It Hutrs』(2022)
13. The Only Thing That Looks Good On Me Is You『18 Til I Die』(1996)
14. Here I Am (Acoustic)『Spirit: Stallion of The Cimarron』(2002)
15. When You’re Gone (Solo Acoustic)『On a Day Like Today』(1998)
16. (Everything I Do)  I Do It For You『Waking Up the Neighbours』(1991)
17. Back To You『MTV Unplugged』(1997)
18. 18 Til I Die『18 Til I Die』(1996)
19. Summer Of ’69『Reckless』(1984)
20. This Time『Cuts Like A Knife』(1983)*Request
21. Into The Fire『Into The Fire』(1987)*Request
22. Let’s Make A Night To Remember『18 Til I Die』(1996)*Request
23. Take Me Back『Cuts Like A Knife』(1983)*Request
24. Cuts Like A Knife『Cuts Like A Knife』(1983)
25. So Happy It Hurts『So Happy It Hutrs』(2022)
26. Run to You『Reckless』(1984)
27. Straight From The Heart (Acoustic)『Cuts Like A Knife』(1983)
28. All For Love(1993)

ブライアン・アダムス 日本武道館 公演記録

<Reckless Tour=World Wide In ‘85>1985年10月30日 10月31日 11月1日
<Into The Fire Tour>1988年2月5日 2月6日 2月7日 2月9日 2月10日
<Waking Up The World Tour>1992年3月6日 1993年2月8日
<So Far So Good World Tour>1994年2月18日 2月19日 2月20日
<18 Til I Die World Tour>1997年3月5日 3月6日 3月15日 3月16日
<The Best Of Me Japan Tour >2000年6月15日 6月16日
<Room Service Tour>2005年4月23日 4月27日
<Japan Tour 2012>2012年2月15日 2月16日
<Get Up Tour 2016>2016年1月24日
<So Happy It Hurts Tour>2023年3月7日

Written By 安川達也 / All Photo by Masanori Doi


ブライアン・アダムス武道館公演プレイリスト公開中

Apple Music / Spotify

ブライアン・アダムス2023年来日公演日程

3月4日(宮城 仙台サンプラザホール)
3月6日(大阪 大阪城ホール)
3月7日(東京 日本武道館)
3月8日(愛知 Zepp Nagoya)
来日公演公式サイト




 

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