1,600枚超の油絵で完成したビートルズの「I’m Only Sleeping」MV。手掛けたアーティストが語る

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Painting by Em Cooper, Courtesy of Jelly UK

ザ・ビートルズ(The Beatles)が残した音楽的遺産は、いまだにポピュラー音楽の歴史にそびえ立っているが、視覚的遺産についてはどうだろう?

『Pepper’s Lonely Hearts Club Band』のカウンターカルチャー的コラージュから「Yellow Submarine」のシュールな冒険旅行まで、ザ・ビートルズの作品は映画、アニメーション、グラフィック・デザインなどあらゆるものに影響を与えてきた。

故に『Revolver』の収録曲「I’m Only Sleeping」のための新たなビジュアルの制作を依頼された時、それは大きな重責を担うことを意味する。

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1,600枚を超える油絵

2024年のグラミー賞で“最優秀ミュージック・ビデオ賞”にノミネートされているザ・ビートルズの「I’m Only Sleeping」のミュージック・ビデオを手掛けた英映像作家でアニメーターのエム・クーパーは、同ビデオの制作を振り返りこう語っている。

「おじけづきそうでした。彼らの遺産はとてつもなく大きく、これまでも多くの作品でアニメーションを起用してきましたから」

エム・クーパーは、独特の手描きの油絵のようなアニメーション・スタイルで、アート界に自らの居場所を切り開いてきた。それがユニバーサル ミュージック レコーディングスのソフィー・ヒルトンとアップル・コアのジョナサン・クライドの目に留まり、今回の魅力的なオファーが届いたのだ。

「すぐにこの曲を聴くと、“Revolver”を聴いていた子供の頃の記憶が甦ってきました。その後10分間、何度も何度も聴き直すうちに、映画全体のほぼ完全なビジョンが浮かんできたんです。曲に合わせて、私の頭の中で絵の具が滝のように流れ、変形し、形を変えていくようでした。翌朝、私は紙切れに眠っているジョン・レノンの油絵を描きました。結局、その絵が足掛かりとなり、制作が始まったんです」

そうして夢と覚醒の狭間にある空間を捉えた、非常に魅力的で刺激的なビジュアルが生まれた。エム・クーパーは何ヶ月もかけて1コマ1コマを手描きし、その結果生まれた1,600枚を超える油絵は、現在ザ・ビートルズのアーカイヴに保管されている。

 

ベッドで寝返りを打つジョン・レノン

エム・クーパーは、ザ・ビートルズの記録保管人として知られるエイドリアン・ウィンターと密接に連携し、有名なキャヴァーン・クラブでの初期の演奏映像や、バンドが1965年にシェイ・スタジアムで行った公演の映像など、彼女の絵の参考となる資料を入手した。アニメーションに要求される膨大なペインティング作業もさることながら、クーパーが直面した最大の難関は、ビデオの冒頭を飾る重要なショットである、ベッドで寝返りを打つジョン・レノンを捉えることだった。

「あのショットの参考映像がなかったので、5回くらい試行錯誤したと思います。あのショットの1秒1秒が油絵8枚分だとして、それを5回繰り返すとなると相当な量なんです(笑)」

ジョン・レノンの顔のディテールを熟知しているかと尋ねられると、彼女はこう答えた。

「彼の顔は、本当によく熟知しています。誰かの顔を何度も何度も描くと、不思議な感覚に襲われるものです。その人のことをよく知っているような、その人の顔に奇妙な親近感を覚えるんです」

彼女の絵の自然な流動性を見れば、彼女が映画における“動き”を理解していることも明白だ。彼女は、絵を描き始める前、実写映画の監督を目指していたという。

「王立美術院に在学当時、かなり後半になってから、物事の外見を映すことに偏った傾向があるフィルム・カメラを使うだけでは、多くの限界があることに気づいたんです。そして、より真実味のある人生の内面表現に近づく新たな方法として、油絵のアニメーションを試すようになりました」

ザ・ビートルズの曲はどれもが解剖され、議論され、ファンにとってさまざまな意味を持つが、エム・クーパーはすぐに「I’m Only Sleeping」の哲学的な本質に惹かれたという。

Cooper in her studio – Courtesy of Jelly UK

 

1枚の油絵は8分の1秒

彼女の選んだメディアは、肉体的にも創造的にも多くの労力が要求される一方で、それでも一日の終わりには締め切りに追われる。

「時間に追われながら仕事をすることで、エネルギーを維持することができます。私の絵のストロークは少し速くなり、時には少し自由になります。1コマ1コマを大事にしすぎると、この一枚の絵はほんの8分の1秒でしかないことを忘れてしまいますから(笑)」

この野心的なビジュアルを完成させるまでには、アップル・コアのジョナサン・クライド、制作会社ジェリーのスー・ロックリンとローラ・トーマス、ユニバーサル・ミュージック・レコーディングスのクリエイティブ・スタジオ・ディレクター、ソフィー・ヒルトンから成るプロデュース・チームとの共同作業が不可欠だった。

60年近く前の曲に新しいビジュアルを制作することの重要性について尋ねられたソフィー・ヒルトンは、次のように答えた。

「ザ・ビートルズが初めてシーンに登場した当時と比べ、現代において私たちは耳で聴くのと同じくらい目でも音楽を消費しています。ザ・ビートルズのような大物バンドのミュージック・ビデオを探求する名誉を与えられたということは、スマホで音楽やメディアを消費する新しい世代が、YouTubeやTikTokなどを通じて他の方法では知り得なかった曲やアーティストに出会うことを意味します。これらの世界的に影響力を持つ、社会の一部となったアーティストのための視覚的なサポートは、今まで以上に重要なのです。同様に、ザ・ビートルズのように崇敬されるアーティストの責任と才能に見合ったエム(・クーパー)のようなアーティストを選ぶことも重要です」

エム・クーパーはこう付け加える。

「“I’m Only Sleeping”は、時代を超越した曲だと感じています。1966年当時と同じように、今にも通じる曲だと思います。連続的なアウトプットや自己評価ではなく、休息や自発的な創造的漂流に向かう呼びかけは、共鳴を生むメッセージのように感じられるのです。そしておそらくさらに重要なのは、この曲の根底には平和へのメッセージがあるということです」

Written By Laura Stavropoulos



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