今年大注目の新人、チャペル・ローンとは?:白塗りの“魔法少女”によるシンデレラストーリー
2024年4月に配信した楽曲「Good Luck, Babe!」が急上昇するとともに、そのルックスの奇抜さやキャラクター、そしてポップな楽曲と歌詞世界が多くの人に評価されているチャペル・ローン(Chappell Roan)。
「Good Luck, Babe!」は米Spotifyの楽曲チャートで1位を獲得し、それに伴い2023年11月に発売した1stアルバム『The Rise and Fall of a Midwest Princess』は発売から約7か月後に全英チャートで1位を獲得した。
この注目される新人アーティストについて、様々なメディアに寄稿される辰巳JUNKさんに解説いただきました。
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音楽界で奇跡のシンデレラストーリーが生まれている。顔面白塗りの26歳歌手、チャペル・ローンが、前代未聞の急上昇を遂げているのだ。
アメリカでのチャペルのストリーミング再生数は、 2024年初頭250万程度だったものの、4月に新曲「Good Luck, Babe!」を出してコーチェラ・フェスティバルに出演すると人気が爆発していき、6月には6,800万再生に到達。つまり、半年間で27倍もの需要増加を達成したのだ。「Good Luck, Babe!」が北米のSpotify首位に届いた8月には、世界最大級のフェス、ロラパルーザにて、昼間ステージにもかかわらず歴代最大規模とされる大トリ級の観衆 を集めてみせた。
アーティストからの支持
「チャペル・ローンのような真の才能が世の中で認められて幸いです」エルトン・ジョン
「チャペル・ローンは素晴らしい。彼女の名曲は1つじゃありません。7つもあるんです 」アデル
「チャペル・ローンのキャリアは長持ちすると思います。賢そうですし、センスがあって、さまざまな芸術をうまく活かしていて、自分らしさを貫いている」 チャーリーXCX
チャペル・ローンのブレイクは、特殊な熱風だ。レトロな魅力とパワフルな歌唱力も持つためリスナーの年齢層が広く、評価もすこぶる高い。ブレイク組のなかでも際立っているのは、アーティストからの支持の厚さだ。アリアナ・グランデやサブリナ・カーペンター、レディー・ガガ、blink-182、SZAなど、幅広いスターが称賛を寄せている。
ドラァグクイーンの別人格/役柄
チャペルは、伝統的なポップスターとは異なるパフォーマーだ。「フェミニン旋風」と題された楽曲「Femininomenon」が示すように、主に女性同士の赤裸々な性愛を歌うクィア・アーティスト 。なにより、芸名であるチャペル・ローンという存在は、ドラァグクイーンの別人格、つまり役柄なのだ。
ユーモラスで誇張的な表現の数々は、本人の素直な感情というより、演技とされている。「ステージで変身する」コンセプトであるため、米ドラマ『シークレット・アイドル ハンナ・モンタナ』に例えられているが、 日本で説明するなら、魔法少女に近いかもしれない。
チャペル・ローンの人生は、デビューアルバム『The Rise and Fall of a Midwest Princess』(「中西部のお姫様の盛衰」)の下地になっている。「Red Wine Supernova」のミュージックビデオで示唆されるように、本名ケイリー・ローズ・アムスタッツとして生まれ育った場所は、中西部ミズーリ州の保守的な町だった。中学生のころには、ポップスターに憧れて歌手を目指しながら、自分らしさをおさえていたという。
10代でYouTubeに投稿したバラード「Die Young」がきっかけとなって大手レーベルと契約にこぎつけたチャペルは、2018年、ロサンゼルスへと引っ越した。真の転機は21歳のとき。地元の大人から「悪魔の街」と教えられていたハリウッドのゲイクラブに足を踏み入れ、生まれ変わるかのような衝撃に包まれたのだという。こうして、意気投合したプロデューサー、ダン・ニグロとともに「Pink Pony Club」を制作。クラブでの体験をもとにしているが、南部出身者を主人公にした創作となっている。
And I heard that there’s a special place
Where boys and girls can all be queens every single day
LAには特別な場所があるって聞いた
男の子も女の子もみんな いつでもクイーンになれるんだって
(「Pink Pony Club」)
苦難からの成功
2020年、チャペルに苦難が訪れる。「California」で歌われているように、リリースした楽曲が不発に終わり、レーベルをクビになってしまったのだ。同じ週、4年半つきあった彼氏とも破局し、お金も尽き、失意のなか地元に帰った。しかし、オリヴィア・ロドリゴとのタッグで大成功していたダンから励ましを受けたことで、ドーナツショップの店員やベビーシッターとして働きながら、インディアーティストとして創作をつづけていった(参考:オリヴィア・ロドリゴが持つ5つの音楽的魅力:グラミー主要4部門ノミネート)。
チャペル・ローン像が確立されたのはこの頃だ。女性とのデートも未体験だった立場で同性愛への憧れをつづった「Naked in Manhattan」によって、セクシャリティ表現を明確化した。友人と製作した「My Kink is Karma」のミュージックビデオには、今ではおなじみの白塗りドラァグクイーン姿で登場している。この別人格は、内気な本人とは異なり、性的な表現も恐れない自信家だそうだ。
チャペルの人気は、じわじわと上がっていた。前出「Pink Pony Club」の口コミが広がっていっていたのだ。2023年、ダンのレーベルと契約してツアーに出ると、各地で熱狂を巻き起こしていった。
初期のレディー・ガガとも比較されるチャペルのショーは、ドレスコードの設定、地元ドラァグクイーンの出演など、観客の自由で創造的な盛りあがりが重視されている。オリヴィアとのデュエットも話題になったチアリーディングソング「HOT TO GO!」 は、観客と盛り上がるため制作されたライブアンセムだ。
「Good Luck, Babe!」の大ヒットとチャペル旋風
Well, good luck, babe (Well, good luck)
You’d have to stop the world just to stop the feeling
グッドラック、ベイブ! せいぜい頑張って!
世界を止めなきゃその感情だって止まらない
(「Good Luck, Babe!」)
こうして、2024年、チャペル旋風が起こった。前述の新曲「Good Luck, Babe!」が大ヒットしたことで、前年秋に発表されていた1stアルバム『The Rise and Fall of a Midwest Princess』も上昇。楽曲単位ではなくアルバムとおして聴くリスナーが多かったため、 米Billboard HOT100に合計7曲がランクインする偉業を達成した。
スターダムを決定づけた大ヒット「Good Luck, Babe!」は、チャペル・ローンの新たな時代を示している。これまで以上に爽快なポップアンセムなのだ。同時に、複雑な作品でもある。チャペルが怒りにまかせて3分で書きあげた というだけあり、幸せな歌詞ではない。同性愛者であることを隠そうとしている破局相手に対して憤る、捨て台詞のような内容と考えられる。
痛ましい傷心と不条理への怒りがいりまじるこの失恋ソングは、切迫した歌唱によって高揚の頂点へと至る。キャッチーでありながら、チャペルの繊細かつ広大なボーカル表現能力を知らしめる一曲だ。
新感覚ポップスターとして、ファッションやトークも注目の的になっている。フェスでプロレスラーや全身緑塗りの自由の女神の仮装を行い、老舗テレビ番組には鳥人間のような姿で出演。彼女のギャグに笑いすぎた司会者が番組進行不可能な状態になるなど、独自の個性を発信中だ。
現在、ダン・ニグロと制作中の2ndアルバムは、ダンス色が強いと予告されている 。進化をつづけるドラァグ・ポップスター、チャペル・ローンの上昇を見逃さないようにしよう。
Written By 辰巳JUNK
チャペル・ローン「Good Luck, Babe!」
2024年4月5日配信
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チャペル・ローン『The Rise and Fall of a Midwest Princess』
2024年4月5日配信
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