映画『サンダーボルツ*』サントラ解説:サン・ラックスによる多種多様なスタイル

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現在公開中の映画、マーベル・シネマティック・ユニバース最新作『サンダーボルツ*』。世間から見放された奴らの人生逆転をかけた敗者復活戦が話題のこの作品のサウンドトラックの聴きどころについて山﨑智之さんに寄稿いただきました。

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アベンジャーズがいない世界

アベンジャーズがいない世界を守るのはハグレ者ヒーロー集団サンダーボルツだ。2025年5月公開の『サンダーボルツ*』で、マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)が新たる世界線へと向かっていく。

バッキー・バーンズ(ウィンター・ソルジャー)、エレーナ・ベロワ(2代目ブラック・ウィドウ)、ジョン・ウォーカー(U.S.エージェント=2代目キャプテン・アメリカ)、エイヴァ・スター(ゴースト)、アレクセイ・ショスタコフ(レッド・ガーディアン)という、MCU過去作に登場してきたヒーロー達。これまでピンで主演を張ったことがない彼らが一致団結して…と思いきや、意見や立場が違っていろいろモメながら悪と戦う。

ニューヨークの旧アベンジャーズ・タワーの高層ビルからトラウマの内的世界まで幅広い世界観、壮大なバトル・アクションから親子の絆までを描く『サンダーボルツ*』ゆえ、その音楽もまたアッパーからダウナーまで起伏に富んだものとなっている。

 

作曲はサン・ラックス

本作の音楽スコアを担当したのはサン・ラックスだ。2008年、ライアン・ロットのソロ・プロジェクトとして始動したこのユニット(2015年からトリオ編成に)は“通常”の音楽アルバムを発表する一方で、『ラブストーリーズ』(2014)『Mean Dreams』(2016)など、映画音楽にも進出していく。

当初は実験性の高い作風でコアな層から支持されてきたサン・ラックスが一躍メインストリームで注目されたのが『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(2022)の音楽担当だった。コメディ/カンフー/ファミリー/マルチバースなどを網羅した同作は音楽もまた多彩なもので、あらゆるスタイルのインストゥルメンタルとデヴィッド・バーン、Mitsuki、ランディ・ニューマン、アンドレ・3000など新旧ゲスト・パフォーマーを加えた縦横無尽のサウンドが映画本編の世界観のイマジネーションをさらに広げることになった。

同作の音楽はアカデミー賞“ベスト・オリジナル・スコア”部門、「This Is A Life」は“ベスト・オリジナル・ソング”部門にノミネートされている。どちらも受賞はならなかったが、映画音楽家としてのサン・ラックスの評価は一気に高まり、次にどんな映画のスコアを手がけるのか?と大きな期待をかけられることになった。そして2025年、彼らは『サンダーボルツ*』で還ってきたのだった。

 

聴き所のツボ

彼らのMCU初参戦となる本作。これまで数多くの作曲家たちが音楽を手がけてきたこのシリーズだが、『アベンジャーズ』(2012)のアラン・シルヴェストリによるヒロイックなオーケストレーションを踏まえながらシーンに合わせて多種多様なスタイルを聴かせる。

サウンドトラック・アルバムは全32曲という構成だが、基本的に同じテーマやパターン(ワグナーでいうライトモティーフ)を踏襲することはなく、それぞれ異なった表情を持った曲調となっている。じっくりと楽曲の起承転結を聴かせるよりも、劇伴音楽としてシーンを盛り上げるためにダイレクトに最重要フレーズへと突入。1〜2分台のコンパクトなナンバーも多いが、聴き所のツボがある。

不穏な展開の予兆といえる「There’s Something Wrong With Me」からスタート、バトル・シーンをより効果的にする「Penthouse Fight」や「Limo Chase」、スリルを高める「Countdown」、ヴァレンティーナ・デ・フォンテーヌCIA長官の陰謀を暗示する「Unimpeachable」など、躍動感に満ちた曲がある一方で、ダークで内省的な曲調でじっくり聴かせるのも本作の特徴だ。

かつてウィンター・ソルジャーとして悪の手先だったバッキー、同じく殺人マシンだったエレーナ、家庭が崩壊して妻子を失ったウォーカーなどの心情は「Forest Memory」や「Walker’s Memory」で描写されているし、本作が初登場となるボブ=セントリーのトラウマが宿る「The Attic」はMCUワールドに深みをもたらすのと同時に、アーティストとしてのサン・ラックスの拡がりを感じさせる。

短めの曲が多いため、たっぷり堪能する前に曲が終わってしまうことも少なくないが、サウンドトラックのラスト3曲「You Can’t Even Save Yourself」「Not Alone」「Thunderbolts*」はいずれも2分後半〜3分前半と(本作では)長い部類に入るナンバーで、『サンダーボルツ*』の世界観を音楽で雄弁に語り尽くし、驚愕のエンディングへと導いていく。

なおサウンドトラック・アルバムには収録されていないがエンド・クレジット、そして映画公開前のトレーラー(予告編)では スターシップの1987年のヒット曲「 Nothing’s Gonna Stop Us Now(愛はとまらない)」が使われている。“俺/私たちを誰も止められない!”という宣言は本作でのサンダーボルツの勢いを表しているが、これからさまざまな波乱が待ち構えていることが示唆されて本作は幕を下ろす。ち

なみにこの「愛はとまらない」は1980年代を代表するポップ/ロック・クラシックスのひとつで、映画『マネキン』(1987)のテーマ曲として使われるなど、懐かしさがこみ上げてくるオールド・ファンもいるだろう。

いよいよMCUは“フェーズ6”に突入。サンダーボルツは『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』(2025)『アベンジャーズ/ドゥームズデイ』(2026)でも重要な役割を果たすことが予想される。その音楽も含め、これからもスーパーヒーロー達に注目だ。

Written by 山﨑 智之


サン・ラックス『サンダーボルツ*(オリジナル・サウンドトラック)』
2025年4月30日配信
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