初来日が決定したルーシー・デイカスの経歴:ソロとボーイジーニアスでの活躍とその軌跡

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Lucy Dacus - Photo: Shervin Lainez

ボーイジーニアスのメンバーでもあるルーシー・デイカス(Lucy Dacus)が、2025年3月28日に最新のソロ・アルバム『Forever is a Feeling』をリリースし、全英5位、全米では16位を記録している。

2026年2月18日に東京・Zepp Shinjukuにて初の来日公演が決定している彼女の魅力について、音楽ライターの清水祐也(Monchicon!)さんに寄稿いただきました。

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ジュリアンと交際を発表したルーシー・デイカス

テイラー・スウィフトのアルバム『THE TORTURED POETS DEPARTMENT』のタイトル曲で、テイラーは当時交際していたThe 1975のマティ・ヒーリーに向けて「あなたはルーシーに、わたしがいなくなったら自殺するって言ったよね」と歌っている。

その“ルーシー”こそが、2024年のグラミー賞でボーイジーニアスのメンバーとして“ベスト・オルタナティヴ・アルバム”を含む3部門を受賞したことも記憶に新しい、シンガー・ソングライターのルーシー・デイカスだ。そんな彼女が今年の3月、同じくボーイジーニアスのメンバーであるジュリアン・ベイカーとの交際を認めたことは、多くのファンやクィア・コミュニティから、驚きと祝福をもって迎えられることになった。

ふたりが出会ったのは今から10年前、2016年の1月。ワシントンのライヴハウスの控え室にやってきたジュリアンは、その日共演するルーシーがヘンリー・ジェイムズの小説『ある婦人の肖像』を読んでいるのを見て、「わたしたちはきっと友達になる」と思ったという。するとルーシーはその本の後ろの空白のページを破り、メール・アドレスを書いてジュリアンに手渡すと、それ以来ふたりはお互いに好きな本を薦めたり、長文を送り合う仲になったのだ。

 

ソロでのデビューとボーイジーニアス

1995年にヴァージニア州リッチモンド郊外の町で生まれ、音楽教師でピアニストだった母親に育てられたルーシーは、2016年に地元の友人の大学のプロジェクトとしてファースト・アルバム『No Burden』を発表。ニューヨークの人気インディー・レーベルであるマタドールと契約すると、キリスト教との決別や、祖母との別れを赤裸々に描いた2018年の自伝的なセカンド・アルバム『Historian』で、一躍注目を浴びることになる。

そんなルーシーが、当時ツアーで共演することの多かった同世代のシンガー・ソングライターであるフィービー・ブリジャーズ、そしてレーベル・メイトのジュリアン・ベイカーと結成したのが、“インディー・ロック界のスーパーグループ”と呼ばれるボーイジーニアスだ。

往年のスーパーグループ、クロスビー、スティルス&ナッシュのファースト・アルバムを模したジャケットに包まれた彼女たちのファーストEP『boygenius』は、3人がお互いに2曲ずつを持ち寄ったもので、グループの成功と共に、メンバーそれぞれの活動にもスポットが当てられることになる。

そんな中、2021年にリリースされたルーシーのサード・アルバム『Home Video』、とりわけリード・シングルだった「Thumbs」は、リスナーに大きな衝撃を与えることになった。そこでは長年疎遠だった父親が訪ねてくることに怯える友人を見て、その父親の目を親指で潰してしまいたいという、激しい怒りが歌われていたのだ。ルーシー自身もまた、生まれてまもなく現在の両親に引き取られた養子であり、友人の姿を自分自身と重ね合わせていたのかもしれない。

このアルバムにはフィービーとジュリアンも参加しており、変わらぬ3人の絆が確認できたが、それが見事に結実したのが、2023年にメジャーからリリースされたボーイジーニアスのファースト・アルバム『The Record』だ。

自分と同じように実父との確執を抱えていたフィービーに向けて、ルーシーが“あなたに先立つ父親に感謝したい/彼に先立つ母親にも/彼らがいなかったら、あなたがいなかったらわたしはどうなっていただろう?”と歌う「Without You Without Them」で幕を開けるこのアルバムは、お互いのソロ曲を集めたEPから一転、メンバー3人の共作が増え、ビルボードで初登場4位を記録。

同年11月にはティモシー・シャラメと共にテレビ番組『サタデー・ナイト・ライブ』にゲスト出演するなど、大きな成功を収めることになる。

 

バンドの活動休止とメジャーソロ1st

しかし先述したグラミー授賞式の直前に、グループは当面の活動休止を宣言。フィービーが沈黙を守り続ける中、トーレスことマッケンジー・スコットとのカントリー・デュオ(Julien Baker & TORRES)を始動させたジュリアンに続いて、ルーシーが今年の3月にリリースしたのが、メジャー移籍第1弾となる最新作『Forever Is A Feeling』だ。

アラバマ・シェイクスの『Sound & Color』などで知られるブレイク・ミルズをプロデューサーに招き、ハープやチェレスタといった楽器による、クラシカルな装飾が施された本作。いつになくロマンティックなラヴソングが多く含まれているが、それが誰に向けて歌われているのか、今となっては火を見るよりも明らかだろう。

“あなたはわたしの親友だった/わたしの未来の最有力候補になる前は”と歌われる「Best Guess」や、他ならぬテネシー出身のジュリアンをゲスト・ヴォーカルに招き、“西テネシーの最重要指名手配犯を捕まえる”と歌う「Most Wanted Man」など、どの曲もストレートに想いを伝えるルーシーの言葉が印象的だ。

アルバムのラストを飾る「Lost Time」で、ルーシーは “わたしはあなたを愛している/そして知っていながら口にしなかった日々は、失われた時間なんだ”と歌っている。そんな時間を埋め合わせるかのように激しく命を燃やすルーシーだが、それが永遠には続かないことも、彼女は知っているのかもしれない。本作のジャケットには、彼女のもっとも美しい瞬間を閉じ込めたような肖像画が描かれているが、その肖像画は倉庫の奥で、誰の目にも触れずに眠っているのだ。

 

「わたしたちは“アートは録音された作品の中で永遠に生き続ける”と言うけど、それを人が見たり触れたりしなければ、その命は終わったも同然じゃないの?ってね。そんなことをしょっちゅう考えてる」

先日行われたインタビューで、そんな風に語ってくれたルーシー。出世作となった『Historian』のタイトル曲で、愛し合う二人はお互いの歴史家であり、片方がいなくなった時、もう片方にはその人について書かれた、膨大な文章が残されるのだと歌っていた彼女は、本作の「Most Wanted Man」でも、“人生のピークが過ぎたら、あなたについて本を書く時間ができる”と歌っている。人は誰もが、誰かの人生の歴史家なのかもしれない。そんな彼女の歴史の1ページとなるだろう来年2月の初来日公演を、ぜひあなたの心の余白にも書き留めてほしい。

Written By 清水 祐也


ルーシー・デイカス『Forever Is A Feeling: The Archives』
2025年10月10日発売
CD&LP / iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music

<来日公演情報>
2026年2月18日(水)18:00 開場/19:00 開演
東京・Zepp Shinjuku
https://smash-jpn.com/live/?id=4575




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