オリヴィア・ロドリゴ、英米1位の2ndアルバム『GUTS』全曲歌詞解説

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Olivia Rodrigo - Photo: Nick Walker

2023年9月8日に発売されたオリヴィア・ロドリゴ(Olivia Rodrigo)のセカンド・アルバム『GUTS』。

アルバムが発売されると前作に続き収録曲全てが米Billboard Hot 100のTOP40入りを果たし、デビュー・アルバムから2作連続でTOP40入りという史上初の記録を打ち立てた。

このアルバムについて、日本盤ブックレットの対訳を担当したライター/翻訳家の池城美菜子さんによる『GUTS』収録全曲の歌詞解説を掲載。

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オリヴィア・ロドリゴ『GUTS』の快進撃が止まらない。ビルボードのアルバム・チャート首位登場は予想通りとして、収録された12曲のうち7曲がホット100の20位以内に入っている。デビュー作『SOUR』から2年半、ファンを待たせ過ぎない完ぺきなタイミング。前作の延長戦上にありながらも、本人が「何回も書き直して磨きをかけた」と話す歌詞の成長ぶりに対して、音楽メディア、批評家筋からの評判も高い。

オリヴィアが書く歌詞が凄まじいのは、自分の生活圏内にリスナーを誘うだけでなく、脳内まで招き入れるからだ。本作は、得意の失恋ソングに加え、12才から芸能活動をしている自分の人生をふり返り、『SOUR』の成功で世界的スターになった現状への戸惑いをテーマにした曲が多い。きわめて個人的な体験ではあるが、卓越した比喩と、赤裸々な本音を交互にくり出してだれでも共感できる。

筆者は、本作の日本語対訳を担当した。レコード会社内から歌詞を持ち出せなかったため、2日間会議室に篭って、オリヴィアの作詞能力に感嘆したり、同情したりしながら訳した。かなり年齢差があるのを申し訳ないと思い、友人の娘の、彼女と同じ年のアメリカ人女子がちょうど里帰りしていたため、ディズニー・シーでの待ち時間を使って調査してみた。

彼女はオリヴィアみたいな有名人ではないものの、かなりモテる大学2年生。元カレがネット・ストーカー化したり、関係ない同級生からTikTokを使って心ない噂をイニシャルトークで流されたり。SNS時代の恋愛事情の激しさに、驚いた。20才前後のアーティストたちの話がずいぶんドラマティックであるのは、プライバシーなど構わない情報戦争の中で生きているからだと、少しわかった気がした。それも踏まえて、全曲解説してみよう。

 

1. all-american bi**h

don’t get angry when i’m pissed
i’m the eternal optimist
i scream inside to deal with it like ahhhhh like ahhhhh
all the time
i’m grateful all the time i’m sexy and i’m kind
i’m pretty when i cry
腹が立っても怒りを表さないし
永遠に楽観主義
感情を収めるために心の中で叫ぶだけ アーってね アーーーーって
いつだって 私はいつだって感謝してる セクシーで親切
泣いてるときでさえかわいいの

「オール・アメリカン・ボーイ」もしくは「オール・アメリカン・ガール」は「いかにもアメリカ人っぽい男の子・女の子」というほめ言葉だ。ティーンエイジャーの映画やドラマだと、運動部やチア・リーダーあたりの人気者。オープニングにあたるこの曲で、オリヴィアは自分のアメリカ人らしさを語りながら、「ビッチ」という蔑称で自虐する。人気者にも裏の顔がある、とあっさり教えているのだ。

明るくて、気立てが良くて、映画のギリギリのジョークは気にならないけど、周りの人の機嫌は気になる。元子役のかわいらしさを自覚しながら、どれくらい気を遣っているか吐露しているのだ。ほとんどがポップ・ロックの曲調で軽快なのに、歌詞を聴いていて苦しくなるセカンド・アルバムの本質が詰まった曲だ。

 

2. bad idea right?

oh yes i know that he’s my ex
can’t two people reconnect
the biggest lie i ever said
i just tripped and fell into his bed
my brain goes ahhh  can’t hear my thoughts
ああ うん 元カレだってわかってる
でもふたりの人間がまたつながっても良くない?
今までについた中で最大級の嘘だけど
ちょっとつまずいて彼のベッドに倒れ込んだだけ

デビュー・シングル「drivers license」は、ボーイフレンドの口約束を信じて裏切られた、17才のかわいらしい泣き言だった。それから2年。オリヴィアは元カレに甘えられると、友人たちに嘘をついて会いに行ってヤってしまうダメ女になっていた。なんてこと。

アルバム・タイトルの『ガッツ』は、「Spill your guts (本音をぶちまけろ)」などと使われる「腑 (はらわた)/根性」の意味。彼の元に向かう間の葛藤、自問自答が歌詞になっているうえ、頭の中にある冷静な考えを「アーーッ」で掻き消す様子まで入っている。そう、オリヴィア・ロドリゴは、演技力と歌唱力の両方を兼ね備えた俳優/シンガー・ソングライターなのだ。

 

3. vampire

the way you sold me for parts
as you sunk your teeth into me, oh bloodsucker, famefucker
bleeding me dry like a goddamn vampire
あなたが小出しに私を売るやり方ときたら
私に牙を食い込ませながら
ああ 吸血者 売名野郎
最低な吸血鬼みたいに私の生き血を吸う

本作のリード・シングル。ネガティヴな出来事でさえ、売名行為のため切り売りする相手を囁くような歌声で糾弾するオリヴィア。相手は明らかに男性なのに、深読みして歌詞のクレジットで少し揉めたテイラー・スウィフトに当てた曲、と書くメディアが後を絶たなかった。オリヴィアは米Rolling Stoneのインタビューで「私は誰とも揉めてませんよ」と不仲説をやんわりと否定、英Guardian紙では「(テイラーのことだと)取る人がいたのは、ほんとうにびっくりました)」と牽制している。

『SOUR』の収録曲のいくつかがテイラーの曲との類似性をネットで指摘され続けた結果、どうやら両陣営同士が話し合い、3曲にテイラーの名前がソングライターとしてクレジットされるようになったのだ(当然、印税が入る)。スウィフティーを自認していたオリヴィアは、たくさんいる音楽的なテイラー・スウィフト・チルドレンのなかでもっとも才能豊かである。

 

4. lacy

smart sexy lacy
i’m losing it lately
i feel your compliments like bullets on skin
賢くてセクシー レースみたい
この頃 調子が狂ってる
あなたの褒め言葉が弾丸みたいに肌に刺さる

気になってしかたがない女の子について歌ったバラッドである。憧れが高じて恋愛に近い感情を抱くガールクラッシュの曲だが、後半になって相手を嫌うところまで書いていて生々しい。アメリカでは対象を特定しようとする動きもあるが、大学で取っているポエトリーのクラスでの習作を曲にしたそう。

 

5. ballad of a homeschooled girl

i stumbled over all my words
i made it weird, i made it worse each time i step outside
it’s social suicide
話すときは口籠もりがち
妙な空気にして
さらに悪化させる
外出するたびにね
これって社会的な自殺行為

共感性羞恥。パンキッシュなポップ・ロックに載せて、詳細に自分のコミュ障ぶりを叫ぶので、こちらはやるせない思いで下を向いてしまう。場所に溶け込もうとして、微妙な空気にしてしまう。派手にジョークを外す。12才から芸能活動をしていたオリヴィアは、ふつうの学校生活を送らず、家や仕事の待ち時間に学ぶホーム・スクーリングのせいだ、と自己分析する。

「気に入った男子は全員ゲイだし」というラインは切実だけれど、笑ってしまう。外見に恵まれた人が集まる場所、業界の「あるある」だから。泣き笑いのユーモアを歌詞にさせたら、オリヴィアの右に出る人はそうそういない。

 

6. making the bed

well sometimes i feel like i don’t wanna be where i am
getting drunk at a club with my fair weather friends
push away all the people who know me the best
but it’s me who’s been making the bed
時々ここには居たくないって感じてしまう
都合がいいときだけの友だちとクラブで酔っ払って
私をよく理解してる人たちをみんな遠ざけてしまう
でも そのベッドを整えてるのは私自身

朝、起き抜けにシーツを整えるベッド・メイキングと、悪夢のような現状を整えたのはほかならぬ自分自身、と対比させてさすがだ。「fair weather friends」は直訳だと「天気がいいときだけの友人」になるが、状況が変わるとパッと離れていく人たちを指す常套句である。

全体にソング・ライティングのスキルが上がっている本作のなかでも、このミッド・テンポのバラッドがとくに冴えている。とんでもない倍率のディズニー・チャンネルのオーディションを勝ち抜き、主演作がヒットして‥という人生を歩んでいるオリヴィアだが、「こんな女の子でいるのにすっかり疲れてる (i’m so tired of being the girl that i am)」のが現状なのだ。

 

7. logical

two plus two equals five
and i’m the love of your life
cuz if rain don’t pour and sun don’t shine
then changing you is possible
no, love is never logical
2足す2が5なら
私はあなたの本命だし
雨は降らなくて 陽も差さないなら
あなたを変えることだって可能
でも違う 愛って非合理的なんだよね

不誠実な年上の男性への恨み節がつまった、失恋ソング。何がどうなっても相手は変わらないし、自分は本命にはなれない、と歌いながら、かなりひきずっている。恋愛は理屈ではない、という普遍の真理がテーマだ。

人気シリーズのリメイク、『ハイスクール・ミュージカル:ザ・ミュージカル』の成功は、主演のオリヴィアをはじめ、キャストたちの歌唱力と音楽的知識の幅広さだと言われる。そのポップ・ミュージックへの深い理解がよく出た曲だろう。

 

8. get him back!

i wanna key his car
i wanna make him lunch
i wanna break his heart
then be the one to stitch it up
彼の車の鍵を預かって
ランチを作って
彼を傷つけたい
その傷を癒すのも私で

サード・シングルは、ラップ・ロックだ。夏から翌春までしか持たなかった元カレとの復縁を願いつつ、よりを戻したら復讐すると宣言する、勇ましいラヴソング。「オリヴィア・ロドリゴってあまりいい相手と巡り合ってないのでは?」と勘ぐってもしまう。理由は、短所も長所も多くて、激しい相手を選びがちだから。

この年代らしく、親の存在も見え隠れする。「but I’m my father’s daughter(でも私はお父さんの娘だから)」と自分を励ますオリヴィア。歌詞の対訳では「でも私はお父さんにきちんと育てられたから」と意訳したが、フィリピン系アメリカ人のお父さんが目的を果たすタイプ、とも取れる。相手のお母さんにも会いに行って、「あなたの息子さんって最低ですよ、って言うんだ」とも歌っている。怖い。

 

9. love is embarrassing

and now it don’t mean a thing
god, love’s fucking embarrassing
just watch as i crucify myself
for some weird second string
今ではどうでもいいし
ああ 恋愛ってめちゃくちゃ恥ずかしいよね
苦しむ自分を見てるしかない
 補欠の負け犬野郎のために

曲調、歌い方、言葉の選び方。テイラー・スウィフト・チルドレンであるのが、はっきり出ている曲である。自らの音楽性を指して、「大好きなロックやフォークの要素が入ったポップ」と言っているが、いい意味で演技がかっているのも彼女の良さだ。

 

10. the grudge

and i fantasize about a time you’re a little fucking sorry
and i try to understand why you would do this all to me
you must be insecure, you must be so unhappy
and i know in my heart
hurt people hurt people
あなたが惨めだったときの様子を想像する
それでなぜあんなことをしたのか理解しようとする
自信がなかったはずとか すごく不幸だったはずとか
だって私はよくわかってるから
傷ついてる人こそほかの人を傷つけるって

恋愛依存症気味で周りにいたら少し厄介なタイプだろうな、という印象を与えつつ、オリヴィアを応援したくなるのは、歌詞の行間から優しい性格がこぼれているからだ。

「恨み」とのそのものずばりのタイトルで、過去の出来事をあれこれ分析する、失恋から立ち直る過程でやりがちな経験を語る。そして、「あれほどひどいことができるのは、自分もひどいことをされたから(hurt people hurt people)」との優しい結論を導き出すのだ。

 

11. pretty isn’t pretty

when pretty isn’t pretty enough
what do you do
and everybody’s keeping it up
so you think it’s you
i could change up my body and change up my face
もっとかわいくなりたかったら
どうすればいいの
みんながレべルを上げていくから
自分が悪いのだと思ってしまう
体型をもっと変えられるし 顔だって改良できる

影響を受けたアーティストにビヨンセもあげているオリヴィア。サウンドは似ていないが、この曲はビヨンセが10年前にリリースした「Pretty Hurts」の続編に聴こえる。

ビヨンセの曲は、美人コンテストで人に外見を判定される辛さがテーマだったが、YouTubeやSNS時代のオリヴィアはわざわざコンテストに出場しなくても、自分にダメ出しできてしまう。洪水のような情報のなかで、「もっときれいになれるはず」と絶望するのは、多くの人が共感できるはず。「顔だって改良できる」という箇所は、整形が当たり前になっている事実をやんわりと突いている。

 

12. teenage dream

i’ll blow out the candles
happy birthday to me
got your whole life ahead of you
you’re only 19
but i fear that they already got all the best parts of me
and i’m sorry that
i couldn’t always be your teenage dream
キャンドルの火を消す
自分にお誕生日おめでとう
人生はこれからだね
まだ19歳なんだから
でも私の一番いい部分を出し尽くしたかもしれないって怖いんだ
それからごめんなさい
みんなの夢のティーンエイジャーではないときもあったよね

オリヴィアは2023年2月3日に20才になったから、去年の誕生日に書かれた曲だ。19才で、自分の人生のピークはもう過ぎたのではないか、と訝しんでいて辛い。また、デビューアルバムの歌詞を巡って騒動が起きたことを、ファンに謝ってもいる。

 

以上、12曲。プロデュースは全曲が盟友のダン・ニグロ。「logical」と「the grudge」はダン・ニグロの友人でもあるライアン・リンヴィルが、「get him back!」は、アレキサンダー23とイアン・カークパトリックがが加わっている。曲作りの制作過程を聞かれ、「歌詞を中心に曲を組み立てる」と語っていたオリヴィアが希望する通りの、カスタム・メイドなアルバムなのだ。ぜひ、歌詞を味わいながら2023年の話題作を楽しんでほしい。

Written By 池城 美菜子



オリヴィア・ロドリゴ『GUTS』
2023年9月8日発売
LP&カセットiTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music


オリヴィア・ロドリゴ『SOUR』
2021年5月21日発売
CD / iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music




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