ジャック・ジョンソン30年のキャリアを振り返る:ハワイ生まれアーティストの変遷と今

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Photo by Tahnei Roy

米ハワイ出身アーティスト、ジャック・ジョンソン(Jack Johnson)についての新作ドキュメンタリー『SURFILMUSIC』が北米で2026年6月から劇場公開、そしてそれに先立ち同映画のサウンドトラックと貴重な初期音源集『4-Tracks』による2枚組作品が5月15日に配信された。

今年でキャリア30年、アルバムデビューから25年となるジャック・ジョンソンについて、彼を追い続けてきた音楽ライターの松永 尚久さんに解説していただきました。

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ハワイ生まれのプロ(直前)サーファー

サーファーたちのメッカとして知られるハワイ・オアフ島のノースショアにて生まれ、高校生時代にはサーファーとしてプロ契約を果たすものの、ケガを理由にリタイア。その後、映像製作の勉強をする傍ら、趣味の延長で音楽を発表したところ、フォーク、ヒップホップ、レゲエ、オルタナティヴなどを融合させたハートウォーミングなアコースティック・サウンド、子守唄のようにそっと囁きかけるような柔らかいヴォーカルが注目を受け、ミュージシャンとしてのキャリアがスタート。

2001年にリリースしたデビュー盤『Brushfire Fairytales』(メジャー流通は翌年)は、サーファーたちの口コミをきっかけにジワジワとセールスを伸ばしていき、ここ日本でも人気を集めたジャック・ジョンソン。

その後リリースした2nd『On and On』も穏やかな波のように徐々に話題が広がっていき、翌年(2003年)には日本の朝霧JAMに登場。その頃から、彼を取り囲むコミュニティは、大きなうねりを持つようになり、2005年にリリースした3rd『In Between Dreams』で、ついに大ブレイク。

全米チャートでトップ3入り、日本でも15万枚におよぶセールスを記録。結果、そのサウンドは<21世紀のサーフ・ミュージック>として認知、さらにハワイで自然と共生するシンプルな(ロハスとも呼ばれる)ライフスタイルも浸透。ジャックの放つ、特別な波動に多くの人が共鳴した。

その後も、リリースしたアルバムはどれも世界のヒットチャートの上位を獲得し、ここ日本では2008年に横浜・赤レンガ倉庫での野外単独公演やFUJI ROCK FESTIVAL’14のヘッドライナー出演など伝説的なステージを数多く開催している。

ジャックの音楽はシンプルなアコースティック・ギターの音色をベースにしていながらも、作品を発表していくごとに変化。2008年にリリースされた4th『Sleep Through the Static』ではエレクトリックなギターを取り入れるなど、作品を発表するごとに徐々に異なる表情や魅力を響かせ、リスナーたちの心を奪い、潤していく。

また、歌詞に関しても愛するファミリーと自然に囲まれたシンプルな生活に根ざしながらも、遠い世界に旅立ってしまった父親への思い、また世界を我が物顔で牛耳ろうとする人物たちへの皮肉など、時代や時間の変遷に沿ったメッセージ性のある歌詞を展開。それら楽曲の数々からは、周囲の波に惑わされることなく、自分の信じるものだけをキャッチしようとするジャックの真摯さが伝わる。

彼の真摯さが伝わる楽曲をきっかけに、同じ感覚を共有、表現するミュージシャンにも注目が波及。90年代より活躍し、ジャックの才能にいち早く着目した存在であるベン・ハーパー、Gラヴは、ともに00年代中盤にリリースしたアルバムがキャリア最高セールスを記録。

また、自身が設立したレーベル「ブラッシュファイアー(Brushfire Record)」からは、ドノヴァン・フランケンレイターやマット・コスタといった<仲間>たちを次々と紹介。さらに、コルビー・キャレイやトリスタン・プリティマンといった女性シンガー・ソングライターもヒットチャート上位に登場するなど、サーフ・ミュージックは大きなムーブメントへと進化していく。

 

ナチュラルな雰囲気と環境保護

さらに日本においてもナチュラルな雰囲気を持つミュージシャンが台頭し、また2005年にスタートし毎年5月に開催されている「グリーンルーム・フェスティバル」を筆頭にジャックの考え・スタイルに通じるフェスも登場するなど、現在も人気を確立している。

だが、ジャックはただシーンを拡大・認知させていただけではない。音楽を通じて、自然や人間がよりよい生活を送るためのアクションを起こしていることでも有名だ。地元・ハワイでは妻のキムとともに「コクア・ハワイ財団(Kōkua Hawaiʻi Foundation)」を設立。子どもたちに向け、農作業などの自然教育活動を積極的に展開している。また、ソーシャル・アクション・ネットワーク「All At Once」も立ち上げ、気候変動対策や環境保護に取り組む。この世界をよりよくするためにできることを、ジャックは追求しているのだ。

 

ジャック・ジョンソンと映像

そんな彼のこれまでの軌跡を辿るような自伝的ドキュメンタリー映画『SURFILMUSIC』が完成した。自身の表現や生活の軸となる、サーフィン、フィルム、ミュージックを掛け合わせたタイトルだ。

プロサーファーとしてのキャリアに見切りをつけ、ミュージシャンとしての活動をスタートさせるまでの間は、映像作家になることを目指していたジャック。1998年には、カリフォルニアで現在ではサーフ・ムービーの多くを手がけ、ジャックのミュージック・ヴィデオも多数制作しているマロイ兄弟(エメット、クリス、キース、ダン)と共に映像集団「The Moonshine Conspiracy」を結成。

最初のサーフ映画『シッカー・ザン・ウォーター』 では、ケリー・スレイターやロブ・マチャドなど、世界を代表するトップ・サーファーたちの華麗なテクニックだけではなく、彼らの人生観も鮮やかに描き、アメリカを代表するサーフ誌『Surfer』では最優秀ビデオ賞も獲得。現在では20世紀最後の伝説サーフ・フィルムとして語り継がれる作品となっている。

その後もインドネシア・スマトラ島でのサーフ・トリップをとらえた『セプテンバー・セッションズ』(2000年・ちなみにこの2作品は現在4Kリマスターされ、各種ビデオ・オン・デマンド・プラットフォーム[VOD]で配信中だ)。そのほか、ジャックの父親も登場している『A Brokedown Melody』(2004年)、海洋プラスティックの行き着く先を追った『The Smog of the Sea』(2017年)など、自身の活動やライフスタイルを表現する作品を多数発表している。

それら作品は、サーフィンがただのスポーツではなく人間の根源と見つめあうことができるスピリチュアルで特別な体験であることが伝わると同時に、音楽同様ハートウォーミングなジャックの姿も感じることができる内容に。『SURFILMUSIC』は、サーフィンをベースにしながらも、よりジャックの人生・人柄にフォーカスした内容になっているようだ。

 

最新ドキュメンタリーと新曲

エメット・マロイが監督、2026年3月に開催されたSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)でプレミア上映されたドキュメンタリー。

ティーンエイジのサーフィンに熱中してきた時代から、さまざまな仲間たちと出会い、映像、音楽の道へ進み、やがて何万人ものオーディエンスの前でパフォーマンスするほどの人気を獲得するまでの軌跡を、ケリー・スレイターやロブ・マチャドなどの伝説のサーファーから、ベン・ハーパー、Gラヴ、さらに妻のキムまで、さまざまな関係者たちのインタビューを交えながらたどっていく内容。

挫折や葛藤を乗り越えて、愛する自然や人々と囲まれて暮らす現在の暮らしの喜び、またなぜ多くの人をひきつける音楽を作り続けられるのかという本質にも触れられる作品になっているのだと思われる。

また、このドキュメンタリーの公開にあわせてサウンドトラックが先行リリース。長年ジャックの音楽に親しんできたというスイス発のインスト・バンドであるエルマノス・グティエレス、さらに『In Between Dreams』などを手がけたマリオ・カルダート・ジュニアが制作に参加し完成したアルバム。

先行トラックとして2025年11月に公開された「Hold On To The Light」は、写真アルバムのように過去を懐かしく振り返りながらも、そこに固執するのではなく常に新しい光や波を探し続けるジャックの生き方を投影したような、心にしみるアコースティック・ソング。名曲「Better Together」の流れをくむ内容だ。

続いて発表された「Drink The Water」は、デビュー作に収録された楽曲を再構築させたもの。塩辛い海水が口に入ってしまうのも気にせずに最高の波を探し求める姿を、緩急のあるサウンド・グルーヴで表現している楽曲。エルマノス・グティエレスの演奏が加わったことにより、よりサイケデリック感というか、波のチューブに入った瞬間の不思議なエコーが伝わるような仕上がりになっている。本作は、書き下ろしの新曲のほか、過去の楽曲を再録したもので構成されている。

また、この『SURFILMUSIC』は2枚組構成になっており、ディスク2には初期のジャックの楽曲をそのまま閉じこめた『4-Tracks』を収録。先行公開された「Rodeo Clowns」(ジャックがGラヴに提供した1997年発表曲)を筆頭に、ライヴでお馴染みの名曲の数々のより生々しい鼓動を感じることができる。

まもなく30年を迎えるジャックの音楽キャリアを振り返ると同時に、今後も人生というサーフ・トリップをエンジョイしていく姿を感じられるアルバム。これまでジャックの音楽に親しんできたリスナーはもちろん、煩わしいものや出来事を抱えている人にとっても、この作品は人生でフォーカスすべきものは何かを教えてくれるはず。また、まもなく(アメリカでは6月)公開されるという映画でも美しい映像を交えて、そのメッセージを届けてくれるのではないだろうか。

Written By 松永 尚久



ジャック・ジョンソン『SURFILMUSIC (Soundtrack & 4-Tracks)』
2026年5月15日発売
CD&LP / iTunes Stores /Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music 



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