ラン・ラン最新インタビュー:新作『ピアノ・ブック2』に込めたピアニストを志す若者へのメッセージ

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©SonjaMueller

世界の第一線で活躍を続けるピアニスト、ラン・ラン。2026年2月6日ミラノ・コルティナ2026冬季オリンピックの開会式に出演し、演奏を披露することも決定。長年のパートナーであるメゾソプラノ歌手、チェチーリア・バルトリとの共演が予定されており、注目を集めている。

そんなラン・ランの最新作『ピアノ・ブック2』はピアノ初心者から経験者まで、あらゆるレベルのピアニストに向けて選曲されたアルバムだ。ラン・ランが『ピアノ・ブック2』に込めた想いやピアニストを志す若い世代へのメッセージとは?音楽ライター・高坂はる香さんによるインタビュー。


—アルバム〈ピアノ・ブック2〉で選んだ楽曲には、ラン・ランさんご自身の子供の頃の思い出とつながったものも多いそうですね。

はい、メンデルスゾーンの「春の歌」やベートーヴェンのロンド・ア・カプリッチョ「なくした小銭への怒り」、子供の頃に多くの人が弾くブルクミュラーの「アラベスク」など、私が“ミニチュアの傑作”と呼んでいる小品を集めました。

ピアノの初心者が弾くやさしい曲も収録しているのは、こうした作品こそ、ただ弾かれるだけでなく、ちゃんとした表現とともに演奏されるべきだと思っているからです。子供の頃は私も音楽的に上手に弾くことはなかなかできませんでした。だからこそ、良いお手本を示したいですね。

—特に思い出のある曲はありますか?

ベートーヴェンの「なくした小銭への怒り」ですね!まずタイトルからおもしろいですけれど。子供の頃の私はこの曲を弾く時、ベートーヴェンは一体どこで小銭をなくしたのだろう、その小銭を探して警察に行ったのかな? 果たして小銭は彼のものに戻ったのか、それとも誰かに取られてしまったのか……結局どうなったんだろう?と、頭の中でこの「なくした小銭」の行方について延々と考えていました(笑)。

—結末は演奏する時によって変わるとか?

そういうことです(笑)。大いに私の空想を刺激してくれる作品でしたね。
他に、子供時代の記憶の一部といえるほどの思い出があるのが、中国のゲーム「黒神話:悟空」の音楽です。実はこれは1980年代半ば、中国のテレビシリーズ「西遊記」の主題歌として流れていた曲なんです。そんな40年前の曲が、2024年に大ヒットしたRPGで使われ、また一気に知られるようになりました。

—どんな思い出があるのですか?

とってもいい記憶と結びついていますよ。というのもこれを聴くと、ピアノの練習が終わってテレビを見る時間がきた!という嬉しい気持ちを思い出すからです(笑)。
ピアノ音楽は多様で、クラシックだけでもたくさんの作品があり、さらに全てのジャンルとなればそれは膨大です。今回は久石譲やモリコーネ、日本のアニメ「NARUTO-ナルト-」の主題歌、ミュージカル映画「ラ・ラ・ランド」の音楽なども収録しています。

これらにはリストやショパンのようなロマン派風のアレンジを加え、クラシックの曲と順番を混ぜて並べることで、クラシックと今の音楽を繋げたいと思いました。
今の若い世代はピアノを習うとき、必ずしもモーツァルトから始めるわけではありません。インターネット上でアニメやゲームの曲から音楽に出会い、ピアノを弾き始めるという人もとても多くなりました。全く別の時代なのです。そんな今、ピアノが21世紀に生きる誰にとっても楽しめるものだと伝えたいという想いで、私のお気に入りの作品を選びました。

—ラン・ランさんは、こうした親しみやすいアルバムをリリースすることもあれば、J.S.バッハの「ゴルドベルク変奏曲」という高い山に登るような難しいレパートリーに取り組まれることもあります。どんな意識をもってこうした両方の活動をされているのでしょうか。

私はいつも西洋クラシックの音楽家として、常に新しい何かを探し、冒険をしたいと思っています。聴衆もそういう新しい体験を必要としていると感じています。しかし同時に、私がクラシックを演奏するときには、確かな音楽性、しっかりとした演奏が求められることはずっと変わりません。

音楽の土台となる部分をおろそかにし、ベースを失ってしまったら、私のクラシックピアニストとしてのキャリアは1年後には終わっているでしょう。この数年でも、かつて名前をよく見た人気ピアニストがどれだけ姿を消してしまったでしょうか。それは彼らがクラシックのコアなファンを失ってしまったからに他なりません。

自分の核であるクラシックの演奏活動に向き合う姿勢には、非常に気を配るべきだと思います。だからこそ私は毎年ヨーロッパでたくさんの舞台に立ち、特にドイツやオーストリアといった西洋クラシックの伝統の中心にあった国々の文化に触れ、より近づくことを試み続けているのです。

特にこの4、5年はかなり長い時間をヨーロッパで過すようになったことで、バッハやベートーヴェン、ブラームス、モーツァルトをはじめとする音楽の伝統と文化の理解がより深まっているように感じます。

—ご自身のこれまでのキャリアを振り返ったうえで、ピアニストの道を夢見ている若い人に伝えたいことはありますか?

私が何かを演奏するときは、いつも心から楽しんでいます。この気持ちこそが私の原動力です。いつもそんなに演奏旅行ばかりしていて大丈夫か、疲れたり飽きたりしないのかとよく聞かれます。

実際のところ、この2日に1回旅をしながらコンサートをする生活はハードではありますが、飽きることは絶対にありません。音楽は私に元気をくれるからです。
他の人にとってはわかりませんが、私からすれば、音楽家以上に楽しい仕事は見つけられません。

もちろん簡単なことばかりではありませんが……そもそもこの世の中で簡単なことばかりの仕事なんてありませんよね!?たとえ練習が大変でも、それは受け入れるべきことです。それを越えたところに、音楽への情熱を人と分かち合うという最高に楽しい時間が待っているのですから。

AIやソーシャルメディアが普及してきた現代社会では、そうして生の感情を分かちあえるクラシックの演奏は、これまで以上に重要な役割を果たすようになると思います。

—ラン・ランさんには息子さんがいらっしゃいますね。ではお子さんにもピアニストになることを勧めますか?

ピアノはまだちゃんと勉強していませんが、ドラムを叩くのが大好きで、すでに良い先生のもとでレッスンを受けていますよ!いつも両親のピアノを聴いているから、逆に違う楽器に触れたいのかもしれません。

もう少し経ったら一緒にピアノの前に座って、彼の気持ちを確かめてみようかなとは思っていますけれど。まだ4歳半ですし、才能があるかという話をするには早いと思いますが、確かに音楽を愛していることは伝わってきます。ただすごく活発で、走り回ることが大好き、自由を好むタイプだから、長い時間練習することは苦手かもしれません。

絵は大好きで、描いているときは長い時間集中しているんですけれどね。アートに興味があることは確かなので、これからどんなことをやりたがるのか、見守って行こうと思います。プレッシャーはかけません(笑)!

—楽器で一緒にセッションすることはあるのですか?

妻が一緒に演奏していることがありますよ。私はどちらかというと、彼を毎日外に連れ出して、ボールを蹴ったり、蝶を追いかけたりして遊ばせることを積極的にやっています。そうして外で活動することで、人間らしく成長してほしいと思っているので。

演奏旅行がなく家にいられるときは、練習もせず、ただ彼と遊んでいます。というのも私がピアノを弾き始めると、息子は「練習しないで!!」「ピアノはいつも仕事のときに弾けるでしょ!!」と叫び出すんです。

だから素直に言うことを聞いて、ずっと遊んでいます(笑)。息子と一緒にいると、まるで自分の子供時代をもう一度過ごしているような気分になれるのです。

Interviewed & Written by 高坂はる香


■リリース情報

ラン・ラン / ピアノ・ブック 2
2025年10月17日 発売
CD /
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