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スティーヴィー・ワンダーによる未発表EP完全解説:『Songs In The Key Of Life – The EP』

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1976年9月28日に発売されたスティーヴィー・ワンダーの名盤『Songs in the Key of Life』の50周年を記念し、同作のレコーディング・セッションから生まれた未発表音源4曲を収録したEPが2026年9月28日に配信リリースされた。

このEPと収録楽曲の完全解説を音楽ライターの林 剛さんに寄稿いただきました。

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一家に一枚、50周年を迎えた名盤

去る8月、黒人女性を主な読者とするライフスタイル誌/メディアの「ESSENCE」が、ウェブ企画として「史上最高のR&Bソング50選」を発表した。ヒット・チャートで上位をマークした曲だけでなく、シングル・ヒットはしていなくても人気の高いディープ・カッツ(日本でいう“隠れ名曲”)も含めてブラック・コミュニティで長く愛されてきた曲を選んだランキングだ。

その頂点に立ったのが、スティーヴィー・ワンダーの「As」(邦題「永遠の誓い」)だった。ハービー・ハンコックのエレクトリック・ピアノも軽やかに響く究極のラヴ・ソングで、ソウルやR&Bにとどまらず、ジャズやポップスのアーティストによるカヴァーも数多い。

その「As」を収めたのが、タムラ(モータウン)から1976年にリリースされ、今年で発売50周年を迎えたアルバム『Songs In The Key of Life』である。LP2枚に4曲入りの7インチEPを加えた作品。

70年代のスティーヴィーといえば、ポリフォニック・アナログ・シンセサイザー「TONTO」を開発したマルコム・セシル&ロバート・マーゴレフの力を借りて、『Talking Book』(1972年)、『Innervisions』(1973年)、『Fulfillingness’ First Finale』(1974年)という、いわゆる“3部作”(1972年の『Music of My Mind』を含めて“4部作”と捉えることもある)を発表。シンセサイザーを含む鍵盤楽器を駆使しながら、音楽表現の幅を広げていった。いわゆるニュー・ソウルの文脈でも高く評価されるこれら“3部作”を生み出してなお創作意欲は尽きず、計21曲というボリュームの大作を完成させてしまったのだから恐れ入る。

件のランキングで「As」が1位に選ばれたことからも、収録曲のクオリティの高さは推して知るべし。デューク・エリントンに捧げた「Sir Duke」、クラヴィネットがエッジーなグルーヴを生む「I Wish」、ドネル・ジョーンズやルーサー・ヴァンドロスなどのカヴァーでも知られるラヴ・バラード「Knocks Me Off My Feet」、クーリオとL.V.のリメイクで再評価された「Pastime Paradise」、巧みな転調やロニー・フォスターのオルガン・ソロが印象的な「Summer Soft」、愛娘アイシャ・ザキアの誕生を喜ぶ「Isn’t She Lovely」、黒人をはじめとする人種的マイノリティが各界の先駆者であったことを称える賛歌「Black Man」、ドロシー・アシュビーの美麗なハープが響く「If It’s Magic」、ラテン・グルーヴの情熱的なディスコ・ダンサー「Another Star」など。

ソウル、ファンク、ゴスペル、ジャズ、ラテンなど様々な音楽を織り交ぜ、人種差別や社会の不条理にも目を向けながら広い意味での愛を歌ったキャッチーな曲が次々と登場する宝石箱のようなアルバムだ。当時の黒人家庭では“一家に一枚”というほどの定番だったとも言われている。

 

急に公開された4つの未公開音源

ただし、アルバムの収録曲はレコーディング・セッションから生まれた曲の一部にすぎない。関連セッションには数十曲、あるいは数百曲に及ぶともされる未発表音源があると言われてきた。しかし、それらの未発表音源が公式に日の目を見ることはなかった。未発表音源の発掘作業が盛んなモータウンにおいても、スティーヴィーに関しては60年代の未発表音源が一部日の目を見た程度で、70年代の未発表音源が公式に公開された例はほとんどない。コンピレーションでも70年代以降の楽曲使用が制限されるなど、厳格に管理されてきた。

ところが、『Songs In The Key of Life』が発売50周年を迎えた今年、オリジナル・アルバムのリリース日にあたる9月28日に、同作のセッションで制作/録音されながら未発表となった4曲が、EP『Songs In The Key of Life – The EP』として、米西部時間午前4時54分(日本時間20時54分)にサプライズ配信された。

その少し前に、来年発表予定とされる新作への収録が予告されていたとはいえ、配信は突然だった。“午前4時54分”という中途半端なタイミングでのリリースは、レコーディングに参加したベーシストのネイザン・ワッツがセッション終了の合図で「Fo’FiftyFo!」と叫んだことに由来するそうだ。4曲という構成は、オリジナル・アルバムに付属した7インチEPが4曲入りだったことに準じているのかもしれない。

公開された4曲は、どれも素晴らしい。なにしろ黄金期の名作『Songs In The Key of Life』のセッションから生まれた音源だ。これらの曲が仮にアルバムに収録されていたら、さらにブラッシュアップされていたとも思うが、今回は当時アルバムの録音とミックスを担当していたジョン・フィッシュバックとゲイリー・O・アダンテ(ゲイリー・オラザバル)が新たにミックスを手掛けたという。

そうして50年近い時を経て解き放たれた音源は、当時のスタジオの空気が真空パックされていたかのようで、1976年にタイムスリップした感覚に陥る。スティーヴィーも「この曲を聴くと、僕自身もあの頃に戻ることができる」と話す。一部の曲は過去のライヴで披露されていたりするが、スタジオ録音の音源としては、リアルタイムでアルバムを聴いていた世代も、当時まだ生まれていなかった世代も初めて耳にするもので、未発表音源の公式リリースがほとんどなかったスティーヴィーだけに感慨はひとしおだ。

4曲とも、作詞・作曲・プロデュース、ヴォーカル/バック・ヴォーカルはスティーヴィーで、演奏陣は『Songs In The Key of Life』のセッションに参加したミュージシャンが中心。いずれにも70年代以降のスティーヴィーを特徴づけるシグニチャーが刻まれている。楽曲の情報は、現時点ではサブスクリプション・サーヴィスで公開されているクレジット+αといった程度で、以下、推測の域を出ない点もあるが、1曲ずつ紹介していく。

 

1. It’s Easier

スティーヴィーがドラム・マシン、ローズ(エレクトリック・ピアノ)、パーカッションを演奏し、ベースをネイザン・ワッツ、エレクトリック・ギターをマイケル・センベロが担う。スティーヴィーによるドラム・マシンとローズ、ワッツのベースがグルーヴの軸をなす、ファンクの推進力をもったリズミカルなナンバー。アルバム収録曲「Ordinary Pain」へと繋がっていくような感触もあり、ワッツのベースラインは「As」にも通じている。

歌の内容は、「地獄にいた方がマシ」というくらい失恋で傷ついた主人公が、友人の紹介で「愛の医師」(恋愛の達人)を訪ね、アドバイスを受けるというもの。そこで言われたのは、「泣きたい気持ちで過ごすより、愛に別れを告げたほうが楽だ」と。つまり、物事に執着し続けるより、手放すほうが楽なのだという格言だ。終盤ではスタジオでの会話が聞こえ、ローズの軽やかなフレーズでカットアウトして終わる。

 

2. My Life Story of Love

公開された4曲のなかでも、ひときわキャッチーな曲。一時期ライヴで「Garden Of Love」というタイトルで披露されていたこともある。これは、スティーヴィーらしい魅惑的なコード進行が際立つメロウ・チューン。ドラムはスティーヴィーで、ローズはグレッグ・フィリンゲインズ、パーカッションはレイモンド・パウンズとクレジットされている。

今回公開された音源では唯一の共作曲で、作詞を手掛けたスーゼイ・グリーンは、70年代中期にシュプリームスに加入したメンバーとして知られるが、本曲を書いた時点ではスティーヴィーのバック・コーラス隊/バンド=ワンダーラヴの一員であった。

スーゼイは、ワンダーラヴの同僚であったデニース・ウィリアムスの「Free」(1976年)をネイザン・ワッツらと共作したほか、スティーヴィーとのコンビではマイケル・ジャクソンの『Off The Wall』収録曲「I Can’t Help It」も共作。

「I Can’t Help It」は、もともと『Songs In The Key of Life』のために書かれたとされ、最終的にはグレッグ・フィリンゲインズのシンセやエレピを纏ってマイケルが歌うことになった。つまり、本曲「My Life Story of Love」とマイケルの「I Can’t Help It」は、ともに『Songs In The Key of Life』の制作過程で生まれたもので、いわば姉妹曲といったところ。叶わぬ愛を“僕の愛の人生の物語”として描き、それでも愛を育もうとする切なくも前向きなラヴ・ソングだ。

 

3. I Can See the Sun In Late December

「12月の終わりにも僕には太陽が見える」と歌う。日照時間の少ない12月に見る太陽は、暗い世の中にも希望を見出すことに重なる。さらに、盲目である彼が“見える”と歌うことで、その言葉は実に深く響く。どこか物悲しさを湛えながら、それでも希望を感じさせる歌だ。

そのリリックが示唆する通り、もともとは“3部作”のひとつ『Innervisions』のために書かれた曲であることを、スティーヴィー本人が2017年に明かしている。NPR(米国公共放送NPRに加盟するラジオ)でのインタヴューによれば、『Innervisions』のセッションで録音を済ませ、アルバムに収録するつもりだったという。

ドイツのミュージック・ラーデン(Musikladen)が運営するYouTubeチャンネルでは、1974年に同国のテレビ音楽シリーズ「Beat-Workshop」でライヴ演奏した映像も公開されている。だが、曲は宙に浮き、ロバータ・フラックが1975年のアルバム『Feel Like Makin’ Love』で歌うことになった。ロバータのヴァージョンは12分を超える長尺版で、ハリー・ウィテカーとの共同アレンジによる組曲風の仕上がり。

一方、今回公開されたスティーヴィー版は4分台で、ロバータ版と比較すると、尺も含めて引き締まった印象を受ける。演奏は、スティーヴィーがドラムとエレピ、アコースティック・ギターがベン・ブリッジズ、ベースがネイザン・ワッツ、パーカッションがレイモンド・パウンズ。その顔ぶれからすると、『Songs In The Key of Life』のセッション時に新たに録り直したのではないかと推測する。スティーヴィーは、2025年に他界したロバータ・フラックの葬式でも演奏。両者にとって思い入れのある曲だったのだろう。

 

4. I’m Into Livin’

スティーヴィーのファンク・サイドを好むリスナーには歓迎される一曲だろう。モーグ・ベースが印象的なミディアム・テンポのファンクで、スティーヴィーは当時発売されて間もないヤマハのポリフォニック・アナログ・シンセサイザー「GX-1」(『Songs In The Key of Life』では「Saturn」などで聴ける)も使っているのではないかとされている。

エンジニアのジョン・フィッシュバックが操るドラム・マシン、ジム・ホーンのサックスも鮮やかで、空気感は70年代だが、シンセを駆使した革新的なサウンドは現代にも新しく響く。

サビのパートは紛れもなくスティーヴィー節。そこでスティーヴィーの歌にレスポンスする女声コーラスには、ワンダーラヴのシャーリー・ブリューワー、デニース・ウィリアムス、そして当時モータウンから「Don’t Leave Me This Way」(1976年)の大ヒットを飛ばしたテルマ・ヒューストンの名前がクレジットされている。「君の愛のために生きる」と歌う、官能と献身が入りまじる生命力に溢れたラヴ・ソングだ。

 

「これほど素晴らしい曲を、なぜボツにしたのか?」という声もあがる。だが、最終的に『Songs In The Key of Life』に収録されたのは、何十曲、あるいは何百曲の候補の中から選りすぐられた最高峰の名曲たち。今回公開された4曲を“ボツにした”というよりは、突出して出来のいい曲を“選んだ”と考えるほうが実情に近いのかもしれない。それでも、膨大に存在するとみられる未発表音源から蔵出しされた4曲は、当時アルバムに収録されていても不思議ではない、完成度の高い楽曲であることは間違いない。

既報のとおり、本作の50周年を記念するツアーが、今年10月から12月にかけて、英国を含むヨーロッパと米国で行われる。そして来年2027年には、2005年の『A Time To Love』以来となるオリジナル・アルバム(タイトルは『Through The Eyes Of Wonder』だと予告されている)の発表も予定されている。この流れで来日公演が実現すれば…と、ファンの多くが待ち望んでいるはず。可能なら、まだ眠っているはずの音源を集めたアルバム化にも期待したい。

Written By uDiscover Team


スティーヴィー・ワンダー 『Songs In The Key Of Life – The EP』
2026年9月28日発売
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スティーヴィー・ワンダー『Songs In The Key Of Life』スティーヴィー・ワンダー 『Songs In The Key Of Life』
1976年9月28日発売
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