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ベックが語る7年ぶりの新作『Ride Lonesome』:「音楽は“呪文を唱えるようなものだ”」

ベック(BECK)が、2026年9月18日に7年ぶりのニュー・アルバム『Ride Lonesome』をリリースした。グラミー賞を受賞した2019年の『Hyperspace』以来となるこの新作アルバムでは、ベック自身がプロデューサーを務め、長年のコラボレーターであるナイジェル・ゴッドリッチがミックスを手がけている。
この新作についてのベックが語るオフィシャル・インタビューを掲載。インタビュアーはつやちゃんです。
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前作『Hyperspace』(2019年11月22日リリース)から7年が経ちました。その間には他のアーティストの作品への参加や多種多様なライブなど幅広く活動されていましたが、アルバムリリースを急ぐのではなく、多岐に渡る活動に注力していた理由を教えてください。
ベック:僕は自宅にスタジオを持っているんです。他にやるべき事がない日は、たいていスタジオにこもっています。この20年間でその習慣が乱されたのは、おそらくコロナ禍の時くらいでしょう。でもその時でさえ、僕は常に何かを作っていました。ポール・マッカートニーと曲を作ったり、ゴリラズと共演したりとかね。ハインズやナタリー・バーグマン、ラヒルといった他のアーティストの作品に客演したりもしましたね。
僕は常に音楽を作っているんです。毎週のようにスタジオに入って、何かしらのプロジェクトを進めています。常に複数のプロジェクトが同時進行している状態ですね。そして時間が経つにつれて――それが数年かかることもありますが――ある種のものが形を成して、アルバムになったり、シングルやEPになったりするんです。言うなれば、音楽の工場のようなものですね。
例えば、今年のバレンタイン・デーに『Everybody’s Gotta Learn Sometime』という作品をリリースしました。あれは僕が長年書き溜めてきたラブソングを掘り起こして、さらに数曲追加して、未発表曲も見つけて、1ヶ月ほど集中して仕上げた小さなアルバムでした。
そんな風に、プロジェクトを一つ選んで、それが形になるまで没頭する。実際、今動いているプロジェクトや、やりたいと思っているプロジェクトは山ほどあるんです。結局のところ、特定の何かにどれだけの時間とエネルギーを注げるか、という時間の問題なのだと思います。
今作『Ride Lonesome』を聴いていると、「喪失のあとも世界と関係を結び直していくこと」がテーマのように感じ、最終的にポジティブな印象を受けました。ご自身では、この作品を一言で表すとどんなアルバムだと思いますか?
ベック:そうですね……“黄昏時のアルバム(a twilight album)”でしょうか。一日の終わりに向かっていくような。自分の内面を見つめ、人生や自分の今の立ち位置について考える、そんな時間帯のイメージです。夜へと向かっていく時間。夜というのは、内省し、自分の内側へと深く潜っていく時間だと思うんです。
これは、適切な言葉を選びきれませんが、“清算(reckoning)”に近いものかもしれません。自分が今どこにいて、何を経験してきて、これからどこへ向かうのか。それらすべてを受け止める瞬間です。大激変のあとに、散らばった破片をすべて拾い集め、それらを元通りに修復できるのか、あるいはゼロからやり直さなければならないのかを確かめる……そんな感覚です。だから、とても内省的で、瞑想的で、エモーショナルな作品だと言えますね。
今作の曲名を並べていくと、アルバム一枚が長編物語のようなストーリーを持っています。<逃げる→夜へ入る→言葉を失う→傷つく→別れる→愛を探す→終わりを受け入れる→愛とは何か問い直す→光の向こうへ>、というような。当初から、そのようなストーリーを描いていこうという構想があったのでしょうか。
ベック:制作中は、その時々でアルバムの幕開けにふさわしいと思う曲はいくつか入れ替わりましたが、作っている間中ずっと、「Beyond The Light」が最後の曲になるということだけは確信していました。これがアルバムのエンディングだと。そうした目指すべき楽曲が決まると、他の曲たちをどう導けばいいかが見えてきます。そこに向かっているのだと分かっているからです。そうなると他の曲たちも、どうやってその最後の曲にたどり着くのかという物語を、無意識のうちに助けてくれるようになります。
一貫性のあるアルバムとして作品を捉えるとき、一曲一曲がアルバム全体の雰囲気にどう寄与するかを考えます。それぞれの曲が、大きなムードの中に、新たな色彩や情緒をどう添えられるかを。そして、その大きな流れに寄与しないものは、少しずつ削ぎ落としていきます。
レコードを作るとき、特に今回のような作品を作るときにいつも考えているのは、音楽は“呪文を唱えるようなものだ”ということです。もし音楽的、あるいは歌詞の面でその呪文を解いてしまうようなものがあれば、それは取り除かなければなりません。逆に、その呪文を維持し、聴き手をその場所に留まらせ、音楽が作り出す世界に陶酔させてくれるものがあれば、それこそが、残すべきものなんです。いいアルバムというのは一つの呪文のようなもので、聴き手に、その魔法にかけられていたいと思わせるものなのです。
今作ではジョーイ・ワロンカーやスモーキー・ホーメル、ナイジェル・ゴドリッチといったこれまで長く信頼関係を築いてきた人たちと再び制作されています。人選にはどのような狙いがあったのでしょうか?
ベック:彼らとは、長い時間をかけて育んできた深い絆があります。それに、この種の音楽を作るにあたって、彼らは最高峰のアーティストだと思っています。僕たちが一緒にプレイするときに生まれる化学反応や繋がり、エモーションは、時を経てもずっと続いているんです。
僕自身、彼らと一緒に仕事をするときには、「今回は一体どんなものが生まれるんだろう?」とワクワクします。どんなバンドでもそうですが、個性のぶつかり合い、力の組み合わせがあります。彼らが集まったときに何が起こるかは、本当に興味深いですね。彼らは、僕がやろうとしていることに心から共鳴してくれます。僕が目指している場所に曲をたどり着かせるために、その形を整えるのを助けてくれるんです。たとえ彼らが僕の予期しなかった方向へ何かを持っていったとしても、彼ら自身の卓越したセンスと美学があるから、それは常に興味深く、僕がやっていることに深みを与えてくれます。
子どもの頃に音楽を始めたいと思ったとき、ザ・ビートルズでもニルヴァーナでもトーキング・ヘッズでも、憧れのバンドを見て「あの中に入れたらどんなに素晴らしいだろう」と想像しますよね。僕たちがバンドを組むのは、自分たちなりの「魔法のような人々の集まり」を求めているからだと思うんです。僕はソロ・アーティストですが、こうした非常に長く続く音楽的な関係に恵まれてきました。
ジョーイなんて、僕の最初のアルバムが出たときからずっと一緒にプレイしています。僕の最初のジャパン・ツアー、確か川崎での公演だったと思いますが、あの時も彼がドラムを叩いていました。僕たちは一緒に試練をくぐり抜けてきましたし、音楽的にも共に成長してきた。例えるなら、数本の木を植えたら、それらが寄り添うように育って、独特な形を作り上げていくような感じでしょうか。分かりますか? 長い時間をかけて変化していくそのプロセスは、本当に魅力的なものだと思います。みんな忙しいから、放っておけばあっという間に10年くらい経って、気づけば「久しく一緒にアルバムを作っていないね」なんてことになる。だからこそ、意識的にその関係を繋ぎ止めておくことも大切なんです。
キャリアを重ねた今、「新しいことをやること」と「自分らしさを深めること」の割合は、どのように考えていますか?
ベック:僕は常に新しいことに取り組んでいます。リリースしていない音楽もたくさんありますし、あらゆるジャンルの音楽を作っています。みんなが想像もつかないようなことだってやっているんですよ。
でも最終的に一つのアルバムとしてまとめるときは、その作品を中心に作り上げたい宇宙、つまり音楽的な世界観を一つ選ぶようにしています。それが表面的なスタイルだとしたら、アルバムの本当の核、魂となるのは「曲」そのものです。ですから僕は、スタイルがどうあるべきかといったことにはあまり固執していません。それよりも、その曲がいい曲であること、誰かに歌ってあげたくなるような、あるいは何度も何度も繰り返し聴きたくなるような曲にすることに、より多くのエネルギーを注いでいます。
もちろん、毎回そんな曲が書けるわけではありませんが、あちこちに数曲でも、人々にとって意味を持ち、人生の一部として吸収されるような曲があればいいと願っています。僕自身、他の誰かが作った曲が自分自身の人生における音楽の星座の一部になっていることがたくさんありますから。誰の人生にも、自分自身の人生に寄り添い、それを支えてくれるような自分だけの音楽の正典があるものです。
今回の曲たちに関しては、人間関係の複雑さや感情、そして誰かと繋がろうとすることの切なさや、その中で生まれる高揚感や喪失感を描きたいと思いました。それは人類が何世紀にもわたって作り出してきた音楽の、最も本質的な部分です。心の痛みや喪失に向き合おうとすること。音楽において最も多くの人が訪れてきた領域だと思います。「音楽を使って、これ以上何が表現できるのか?」と思うかもしれません。けれど、やはりそれについて語るべきことが尽きることは、決してない。喪失や失恋、あるいは、人生のどこか壊れてしまったような、危機的な瞬間に向き合うこと。そういったことについて語るべき言葉は、いつだって尽きることがないのです。
最後に日本のファンへのメッセージをいただけますか。
ベック:もちろん。数年前、日本に行って一人でアコースティック・ライヴをすることができました。ちょうどこのアルバムに取り掛かろうとしていた頃です。今回の曲たちは、ある種、瞑想的な性質を持っていて、深く自分を見つめ直し、言葉にするのが難しい感情を表現しようとしています。
僕はこれまでの人生で、その時々の異なるステージにおいて何度も日本を訪れてきました。日本にいるとき、あるいは日本を訪れるたびに、そして日本を去るときにはいつも感じるのですが、自分の人生を何か澄んだレンズで覗き込めるようになったような、そんな清々しい気持ちになれるんです。
そういった意味で、日本は僕にとって常にインスピレーションを与えてくれる場所でした。数年前のライブのときも、『Sea Change』の曲を演奏しながら、「実は、これらの曲の多くは日本で書かれたんだ」と話したのを覚えています。当時、僕は長いジャパン・ツアーの最中でした。あのアルバムの曲たちが持っていたシンプルさや透明感は、日本という場所が持つ空気が僕をそういう精神状態にしてくれたからこそ生まれたのだと思います。
また日本へ行って皆さんの前で演奏できる日を楽しみにしています。あそこで自分の音楽を奏でることには、特別な繋がりを感じているんです。僕は日本から本当に多くのインスピレーションを受け取ってきました。この新作が皆さんの心に届き、安らぎやカタルシス、あるいは、皆さんが今必要としている何かを与えられることを願っています。
Interviewed By つやちゃん
新作アルバム

ベック『Ride Lonesome』
2026年9月18日発売
CD&LP / iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music
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