Columns
ジョン・バティステがピアノでつなぐモーツァルトとモンク:“バティステ・ピアノ・シリーズ”3作を語る

音楽への深い愛情、音楽に没頭する喜び、音楽の伝統への溢れんばかりの敬意。その三拍子を兼ね備えるマルチ・ミュージシャンがジョン・バティステだ。5月に行われた歌いまくり・踊りまくりの来日公演の熱狂も記憶に新しいところだが、このたび登場するアルバムはそれとは好対照というべき、ソロ・ピアノによる作品群。
モーツァルトの楽曲を再解釈した『Black Mozart』、セロニアス・モンクの楽曲を再解釈した『Monk Meditations』、『Monk Movements』の3作が、全米クラシック・チャート1位を獲得した『Beethoven Blues』に続く“バティステ・ピアノ・シリーズ”として連続リリースされる。
年間最優秀アルバム賞や年間最優秀レコード賞を含むグラミー賞の通算8冠に加え、アカデミー賞、エミー賞、ゴールデン・グローブ賞など数々の賞も手中に収め、2025年のスーパーボウルでは国歌斉唱も務めた彼が、あえて自身の原点であるピアノの独奏にフォーカスして作りあげたアルバムたち。まず、バティステ・ピアノ・シリーズ開始のきっかけについて話をきいた。
音楽ジャーナリスト・原田和典さんによるインタビュー。
<関連記事>
・ジョン・バティステ関連記事一覧
・来日公演レポ【前編】:“自由”を体現した圧巻のフルバンド公演
・来日公演レポ【後編】:会場を祝祭空間へ変えたニューオーリンズ流パフォーマンス
ピアノからモーツァルトとの対話へ
「ピアノをソロで演奏すること、敬愛する作曲家の作品を演奏すること。その両方とも僕には欠かせないものだ。ソロ・ピアノに関しては、自分の心の中から作り出される宇宙そのものだと感じている。それに僕は多くの作曲家を敬愛している。ピアノに関しても、楽曲の解釈に関しても、もちろん自分自身の楽曲に関してもどんどん追求していきたいと思っているし、いろんな楽曲を入り口として、多くの方と交流できたらという思いで始めたのがバティステ・ピアノ・シリーズだね」
そのピアノ・シリーズの第2弾としてリリースされるのが『Black Mozart』だ。今年で生誕270周年を迎えるモーツァルトのキャッチーな旋律が、ごく自然にジャズ、ラグタイム、ブルースなどと手を結んで、とけあっているのが愉しい。
「モーツァルトの音楽は、本当にあらゆるところ、あらゆる人生の場面において存在しているように思う。人間が生まれた時から亡くなるまで、例えば学校を卒業して、結婚して、祝い事があって・・・そういう時間の中に常にモーツァルトの音楽がある印象を僕は持つ。
音楽というものを通じて、時代を超えて(歴史的な楽曲と)“対話”をして、そこに自分なりの創意を付け加えることは、僕が子供の頃から取り組んでみたかったことなんだ。演奏に関しては、モーツァルトの楽曲の本質のようなものを守り、継続させながら、いかに発展させ、自由に取り組んでいくかということを最も心がけた。
メロディ的にもハーモニー的にも変化させていきたいとは思っても、“ここは変えちゃいけないだろう”という、守らなければいけない核のようなものが原曲にはある。演奏しながら、どうしたら一番いいバランスになるだろうかと考えた。料理のレシピと一緒だよ。味見しながら、もっとおいしくしたいと料理を作っていく感じかな」
シンガー、ギタリストとしても才能を発揮する彼だが、ピアノへの思いは特別であるという。
「ピアノは10歳の頃から弾いている、僕のふるさとと呼べるような楽器。自分がアーティストとして成長していくうえにおいて常に主要な楽器であることは今後も変わらないし、人生を通じて関係を持ち続けたいと願っている。だからこのピアノ・シリーズは自分にとって、家に帰るようなものでもあるんだ。そして、自分の枠をさらに広げていくためにも、今、ピアノに戻ってみるということも大事なんじゃないかとも考えている。
僕はピアノを始める前からいろんな楽器を独学で演奏してはいたけれど、ピアノに関してはクラシックを通じて学んだと思う。最初のクラシック体験はバッハで、彼の曲を演奏するコンテストに出場していたこともあるよ。
それと同時に、やはり自分はニューオリンズの生まれなので、街にいっぱいあるジャズクラブやジュークジョイントでジャズの演奏も並行して続けていた感じだね」
もちろんジャズとクラシック以外にも、数えきれないほどの音楽が彼の中に波打っている。
「ジャズやクラシックだけじゃなくて、子供の頃からヒップホップやゲーム音楽は大好きだったし、年上のいとこの影響でドラムマシンとかシーケンサーを使った音楽にも親しんでいた。
母や祖父母が好きな1960年代、70年代のソウル・ミュージック、ゴスペル、R&Bなども聴いていたし、姉がバウンスやヒップホップが大好きだったので、DJジュビリーやリル・ウェインの音楽にも親しんだ。僕は彼と後に共演することになるけれどね。
あとはレジェンド的な存在であるソウルジャ・スリムとか、そういったすべてが自分の音楽を作っていると思う」
モンクの魅力を二つの作品で表現
そして、ピアノ・シリーズの第3弾、第4弾として『Monk Meditations』、『Monk Movements』が登場する。過去「Green Chimneys」や「Ask Me Now」といったモンク・ナンバーをカヴァーしてきたジョンが送り出す、いわば新境地である。
「僕がセロニアス・モンクにインスパイアされてきた理由は大きく二つある。一つ目は彼の音楽が複雑さと、誰が聴いても受け入れられるであろうフレンドリーで開放的なところを併せ持っている点。そのオープンなところに特化したのが『Monk Movements』だ。
そしてもう一つ、モンクの音楽には非常に深く、スピリチュアルな、自然を感じさせるところがある。その部分を題材にしたのが『Monk Meditations』だ。こちらのジャケットには、先日京都を訪れたときに撮った桜の花の写真が使われているよ。
モンクの音楽を起点に自分のものを作ろうと考えたとき、二種のアルバムに取り組むことができたのは光栄だった。モンクは音の響きをとても重視していて、オーバートーン(倍音)を用いた表現にも数多く取り組んできた。僕もそのテクニックを、とくに『Monk Meditations』では取り入れている。また、『Monk Movements』では、ある種、ちょっと抽象的な曲の作り方もしている。
あるテーマ・メロディに基づいて、その瞬間に自分が反応して、偶発的に曲を作りあげていく方法といえばいいかな。セロニアス・モンクとジョン・バティステの中間地点にあるような音楽を作れたらという思いもあった」
ピアノでジャンルと時代を越えていく
椅子に座り直したジョンは、スタインウェイ・ピアノで「Reflections」を奏で始めた。モンクが1952年に初録音したナンバーだが(プレスティッジ盤『Thelonious Monk Trio』)、1コーラス目の最後のフレーズを繰り返し、徐々に変化させていくと、ジョン・バティステ・ワールドが鮮やかに浮かびあがってくる。
「“Reflections”はシンコペーションにヴィジョン(展望)やドラマ性がある。そしてメロディやフレーズが瞑想的だ。そのメディテーション的な要素をさらに拡げて解釈した感じだね。
『Monk Movements』も『Monk Meditations』も、モンクの楽曲と、彼にインスパイアされた自作がミックスされている。僕は18歳から19歳の誕生日までの間、セロニアス・モンクだけを聴いていたんだ。
とにかく彼の音楽を吸収して理解したいという気持ちがあって、モンクに浸っていた。19歳の時に作ったセカンド・アルバムには、前作とは明らかな変化が自分でも感じられた。その経験がある種、僕の音楽的DNAを形成したんだと思う。また今回のプロジェクトでは、自分が初めて作ったオリジナル曲“Red Beans”も再演している」
「Red Beans」といえば、ジョンが2006年に発表した『Live In New York: At The Rubin Museum Of Art』に入っていたナンバーではないか。歴史的な巨匠の音楽と向かい合い、過去の自分の楽曲にも意気込み新たに取り組みつつ、未来へと向かう彼の姿勢が選曲からも見えてくる。
実演を含む楽しい時はあっという間だ。ジャンルや時代を横断するバティステ・ピアノ・シリーズの楽しみ方のコツはなんだろう?最後に尋ねてみた。
「このピアノ・シリーズでは、時代を超えて音楽と対話している。ピアノの音色の美しさはジャンルを超えるはずだ。ジャズでもクラシックでも、どんな音楽でも、ピアノのサウンドからは演奏家の魂が聴こえてくると僕は感じている。ジャズやクラシックに親しんでこなかった人にも聴いてほしいし、それらがピアノの音色で演奏されることによって、とても親しみやすいものになっているんじゃないかな。
僕はまだ知らない人や、まだ会っていない人のことも含めて大好きだ。それを日本のファミリーである皆さんにもぜひお伝えしたいと思う」
Interviewed & Written by 原田和典
ジョン・バティステ『Black Mozart』
2026年8月14日(金)発売
CD / iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music

ジョン・バティステ『Monk Meditations』
2026年8月14日(金)発売
CD / iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music

ジョン・バティステ『Monk Movements』
2026年8月14日(金)発売
CD / iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music
- ジョン・バティステ アーティスト・ページ
- ジョン・バティステ 来日公演レポ(前編):“自由”を体現した圧巻のフルバンド公演
- ジョン・バティステ、グラミー最多受賞後の最新アルバムについて語る
- 『ソウルフル・ワールド』レビュー: 演奏全てが素晴らしい映画
- ジョン・バティステとは?『ソウルフル・ワールド』に抜擢された若き音楽家の経歴
- ジョン・バティステが語るアルバム『We Are』と黒人音楽や家族からの影響
- ジョン・バティステが語る『We Are』と音楽での抗議活動





















