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Classical Features

トニー・アン来日公演レポート: 星たちが瞬くように─ピアノが描いた360°の宇宙

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自身2度目の来日となったトニー・アン(Tony Ann)。
10月14日(火)の大阪・BIGCAT、そして10月15日(水)の東京・EX THEATER ROPPONGIでの公演は、両日とも満員御礼。大勢のファンが彼の世界に浸り、大成功のうちに幕を閉じた。
感動的な一夜となった10月15日の東京公演のライヴレポートが到着。音楽ライターの落合真理さんによる寄稿。


2025年10月15日、秋の気配が六本木の夜を包み込む頃、小雨に濡れるEX THEATER ROPPONGIの前には長蛇の列ができていた。カナダ出身のピアニスト、トニー・アンによる《Japan Tour 2025》東京スペシャル公演。前日の大阪公演に続き、東京では一夜限りの特別ステージに国内外のファンが詰めかけ、会場は早くから熱気に包まれていた。

トニー・アンは、音楽ユニットのザ・チェインスモーカーズとのコラボレーションやSNSでの「#playthatwordシリーズ」──ファンからのキーワードや数字を即興的に音へと変換する演奏で知られるが、クラシックを基盤にポップ、ジャズ、エレクトロニカを自在に横断するピアノは、感情の風景を自在に描き出す筆のようだ。今回のツアーはアルバム『360°』と『EMOTIONS(DELUXE)』との世界を体現するもので、星座をモチーフにした音の旅をステージ上で展開した(※このたび来日記念として、二つのアルバムをコンパイルした日本独自企画盤『トニー・アン – ジャパン・スペシャル・エディション 2025』がリリースされた)。

 

◆ プロローグ:静寂から流れ出す雨の旋律

場内が暗転し、スクリーンに映し出されたのは雨粒が落ちる映像。

「FUTURE RAIN」、そして「RAIN」で幕が開く。電子的なアンビエント音とピアノの滴るようなフレーズが絡み合い、まるで新しい季節の始まりを告げるようなオープニングだ。照明が青と紫に変わり、会場全体が静かな呼吸を合わせる。音の一粒一粒が空間を濡らし、観客は早くも彼の世界へと引き込まれていった。

©Masanori Doi

 

Tony Ann – RAIN (extended version)

 

◆ Chapter I:感情の記憶をたどる ― EMOTIONS (Deluxe)

第1章 “EMOTIONS (DELUXE)”では、ピアノソロによる4曲が連続して披露された。「TIME」では、軽やかに進むテンポとエキサイティングな流れが、記憶の中の時間をたゆたうように描き出す。続く「REMINISCE」はタイトル通り“追憶”の一曲。淡い旋律の中に、ノスタルジーとわずかな痛みが溶けていた。

「PULSE」では、左手の低音が心臓の鼓動のように響き、そこに右手のフレーズが寄り添う。命のリズムを可視化するような旋律に息を呑む。そして「AWAKENING」。優しくも劇的な展開をもつこの曲で、観客の意識は完全に彼のピアノの中に吸い込まれていった。

日本のファンへの感謝と日本食への愛を語った後、「次の章では今年2月にリリースされたアルバム『360°』からの曲をやります」とMCで語るトニー。その微笑みには、静かな覚悟が宿っていた。

©Masanori Doi

 

Tony Ann – TIME (Live Performance @The Hit Factory)

 

◆ Chapter II:星座たちが語る12の物語 ― 360°

第2章は新作『360°』からの選曲。星座をテーマにしたコンセプト・アルバムの核となるパートだ。最初の「ARIES」では、躍動するリズムと情熱的な旋律が牡羊座のエネルギーを描く。

「TAURUS」では一転して穏やかで安定したトーンへ。優しい黄色の光と深みのある音がホールを満たし、観客はまるで大地に抱かれるような安心感を覚える。

©Masanori Doi

©Masanori Doi

そして「PISCES」。幻想的な春のイメージが広がり、水のきらめきが舞台を漂う。彼のタッチは驚くほど軽やかで、ピアノがまるで水面の上を歩くように響いた。

その後、特別ゲストとしてピアニストのニュウニュウを迎えた「Rush of Life」が披露される。左側にトニー・アンが座り、主旋律をニュウニュウが演奏する二人の対話は、嵐の中に一筋の光を見出すような緊張感をはらみ、観客の拍手は止まらなかった。

Tony Ann – PISCES "The Artist" (Sleep Version) [Official Visualizer]

 

◆ Chapter III:ジャンルを越える遊び心 ― Pop / Covers / Improv

第3章は、トニー・アンのもう一つの顔──「ジャンルレスな探求者」としての側面が光るパート。「Something I Could Never Be」では、トニーのピアノとLA発のシンガー・ソングライター、レイベルとのプレイバック(MV)を巧みに融合。切なさと力強さが共存する曲として観客の心をつかんだ。

©Masanori Doi

続く「The Interstellar Experience」では、映画『インターステラー』の世界観と宇宙空間を思わせる音が会場を包み、まるで銀河を漂うような感覚に。そしてクラシックロックの名曲を大胆にアレンジした「The Final Countdown」が炸裂。鍵盤を叩く指先が炎のように動き、客席からは大きな歓声が沸き起こった。

Tony Ann – The Interstellar Experience

 

◆ Chapter IV:共鳴する魂 ― Tony Ann + ARKAI

クライマックスとなる第4章では、ニューヨークを拠点に活動するヴァイオリンのジョナサン・マイロンとチェロのフィリップ・シーゴグから成るデュオ、ARKAIがステージに登場。ここからは一転、アコースティックで壮大なサウンドスケープが広がった。「LOST」──森の中を彷徨うようなイントロに、ヴァイオリンが光を差し込む。「EUPHORIA」では、3人の息が完全に一体化し、幸福感が波のように押し寄せる。「GRIEF」はタイトル通り、痛みと祈りが交錯する楽曲。静寂と爆発のコントラストが圧巻で、涙を拭う観客の姿も見られた。

©Masanori Doi

そして「ICARUS」。高く舞い上がり、やがて溶けていくような旋律が、人生の儚さと希望を同時に描く。ラストの「DESIRE」では、トニーとARKAIが互いに目を合わせながら音を重ね、ステージ全体が黄金色の光に包まれる。まさに“音で描くエンディング”。演奏を終えると、トニーとジョナサンとフィリップは深く一礼し、「Tokyo, this moment will stay with me forever.(東京、この瞬間は永遠に私の心に残るだろう。)」と語った。その声は静かに、しかし確かに客席の心に届いた。

Tony Ann – ICARUS (feat. ARKAI) – Orchestral Version – Live at The Troubadour

 

音が残した温もり

終演後、観客の表情には涙と笑顔が入り混じっていた。ロビーでは「次はいつ日本に来るんだろう」「彼の音楽は癒されるね」といった声があふれる。トニー・アンの音楽は“心の再生”の体験そのものだった。

静まり返った六本木の夜、誰もがそれぞれの星座の物語を胸に抱きながら帰路についた。その心には、確かに彼の音が灯をともしていた。

©Masanori Doi

Interviewed & Written By  落合真理


TONY ANN JAPAN TOUR 2025
2025/10/15
EX THEATER ROPPONGI

SETLIST
INTRO
1.FUTURE RAIN
2.RAIN
CHAPTER – EMOTIONS (DELUXE)
3.TIME
4.REMINISCE
5.PULSE
6.AWAKENING
CHAPTER – 360°
7.ARIES
8.TAURUS
9.PISCES
9.5  RUSH OF LIFE FEAT. NUI NIU
CHAPTER – Pop Collab / Covers / Improv10.
10.SOMETHING I COULD NEVER BE
11.THE INTERSTELLAR EXPERIENCE
12.THE FINAL COUNTDOWN
CHAPTER – TONY ANN + ARKAI ON STAGE
13.LOST
14.EUPHORIA
15.GRIEF
16.ICARUS
17.DESIRE – PIANO + ARKAI


■リリース情報

トニー・アン / トニー・アン – ジャパン・スペシャル・エディション 2025【来日記念盤】
2025年9月24日 発売
CD

トニー・アン / 360°
2025年2月21日 発売
Apple Music / SpotifyAmazon Music /  iTunes 

トニー・アン / EMOTIONS
2024年5月28日 発売
Apple Music / SpotifyAmazon Music /  iTunes 




 

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