U2『October』解説:「U2はまだちゃんと産声を上げてもいない気がするんだ」(by ボノ)

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U2のデビュー作『Boy』の発表から12ヶ月間は、控えめに言ったとしても、実に波乱に富んだ1年であった。ロナルド・レーガンが米国の大統領となり、イランの米大使館人質事件は解決、その後レーガン自身が狙撃され、教皇ヨハネ・パウロ2世も狙撃の標的に。そして衝撃的なことに、ジョン・レノンが凶弾に倒れた。

英国中の怒りの導火線に火を付けたのは、ブリクストンの暴動だ。スティーヴ・マックイーンや、メイ・ウエスト、ボブ・マーリーといった文化的アイコンがこの世を去った一方、ザ・ローリング・ストーンズはツアーに邁進。その間、始めはナッソーのコンパス・ポイントで、続いてダブリンのウィンドミル・レーン・スタジオで、アイルランド人の男達4人が、敢えてロック界の第一勢力入りを狙いに行くという事業に取り掛かっていた。

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2枚目のジンクスを打ち破った「Fire」

1981年前半、アルバム『Boy』を引っ提げて、ノリッジからノーサンプトン、マンチェスター、グラスゴーまで、全英の大学ホールを巡った後、ヨーロッパ大陸に渡ってツアーを行ったU2。途中、人気音楽番組『オールド・グレイ・ホイッスル・テスト』出演のためにロンドンに急遽戻った彼らは、その後大西洋を横断し、大規模な米国ツアーへと向かった。

この『Boy』ツアーは6月のロンドン・ハマースミス・パレス公演で幕を閉じるが、彼らはその前にアイランドのボスであるクリス・ブラックウェルの歓待を受け、彼が所有するコンパス・ポイント・スタジオの設備を使って新曲「Fire」を録音。これがやがて、U2の2作目を下支えする楽曲となる。

2枚目のアルバム『October(邦題:アイリッシュ・オクトーバー)』で彼らは、自分達がデビュー作だけの一発屋ではないことを証明するという通常の課題だけでなく、締め切りが迫り来る中で新たな作品を創造するという、具体的なプレッシャーに立ち向かっていた。ボノが最初に書いた新曲の歌詞が紛失に遭ったため、ウィンドミル・レーン・スタジオでプロデューサーのスティーヴ・リリーホワイトがレコーディングの準備をしている傍ら、彼は歌詞を書き直さなくてはならなかったのである。

新作の序奏となった「Fire」は大きな注目を集め、話題の的となった。故郷アイルランドで初のヒットとなったこのシングルは、トップ5入りを達成。また全英チャートでも、U2にとって初めてのトップ40入りを果たした。8月、控えめながらも全英トップ40入りした際には、エレイン・ペイジとエディ・グラントの間に順位を挟まれるという、何とも違和感のある光景が繰り広げられている。

本作からの2枚目のシングルであり、アルバムの冒頭を飾る「Gloria」は、アルバム発売の1週前にリリース。同曲のラテン語のサビによって、アルバムが強い宗教的なテーマを持つことが予告されていただけでなく、バンドのソングライティングの成熟度や演奏力の向上がそこで示されていた。

緊張感漲るパーカッションが特徴的な「I  Threw A Brick Through A Window(ブリック・スルー・ア・ウィンドウ)」や、切迫感に満ちた「Rejoice」は、抑制が効いたほぼインストの「Scarlet」や、胸を打つピアノ・バラード調の表題曲「October」と対照を成すことで、巧みにバランスを取り合っている。

商業的成功と、当時のボノのコメント

『Boy』は全英チャートで最高位52位と、英国のメインストリームのリスナーをかすっただけであったが、『October』は、発売前からU2が精力的にUKツアーを行っていたことにより弾みが付き、全英11位を記録。続いてヨーロッパ・ツアーを行った後、彼らは再び米国へと渡ったが、全米チャートでは前作『Boy』の最高位63位を下回る104位という結果になった。ロンドンのライシアム・シアターで2夜のクリスマス公演を行うため、バンドは全米ツアーを一旦中断。その後、1982年初めにアメリカに猛攻撃をかけ、やがて訪れる大躍進の基礎を築くことになる。USツアー中、ボノはNME誌にこう語っている。

「僕らは皆、自分達が何者か分かっている。このバンドが持っているものは、すごく特別なんだ。サウンドはある意味古典的かもしれないけれど、当然、僕ら独自のものだ。僕らの鳴らす音は、他のどのバンドにも似ていない。僕らの曲は誰とも違う、そこにはスピリチュアルな感情が込められているんだ。僕がロックン・ロール界で尊敬している人は誰もいない。気づくと僕は……年がら年中、こういうことを回りくどく話しているよね」

「U2は、まだちゃんと産声を上げてもいない気がするんだ。僕は21歳、ラリーは20歳になったばかりでね。これまでの2年間、僕らはものすごく大規模なビジネスの責任者を務め、死ぬかと思うほど必死に働いてきた。その経験の対価が、今ようやく形になり始めているんだ。僕はまだ学んでいる途中なんだよ」

Written by Paul Sexton



U2『October』
1981年10月12日発売
CD / iTunes / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music



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