ストロベリー・スタジオと10ccの誕生秘話

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イングランド、マンチェスターのストックポートの街はポップの発信地としては意外な場所かもしれないが、70年代初め、ストックポートにあるストロベリー・スタジオはイギリスのミニ・モータウンと言ってもおかしくないほど、急速に拡大していた。フレディ&ザ・ドリーマーズのフレディ・ギャリティもそのスタジオがプロデュースしたヒット・バンドのひとつであり、故郷イングランドでの賞味期限がとっくに切れていたフレディ・ギャリティがフランスでミリオン・セラーとなるヒットを出すことになった。お察しのとおり、ザ・ビートルズの傑作「Strawberry Fields Forever」から名をとったストロベリー・スタジオは、学生の頃から一緒に音楽をやってきた4人のマンチェスターのミュージシャンが、60年代に活躍した後、ひとつのユニットに成長していった場所だった。彼らは10ccとして70年代、そしてそれ以降も大成功を収めることになったのだ。そして、10ccの新しい4CDボックス・セット『Before During After: The Story Of 10cc』は、地元のバンドたちと、彼らの偉大な歴史の始まりを明かにする作品だ。

グレアム・グールドマン、エリック・スチュワート、ニール・‘ロル’・クリームとケヴィン・ゴドレイが初めて一緒に演奏したのは、のちにPan Booksのデザイナーとしても活躍することとなるゴドレイ&クリームが、短命だったレーベルとの契約で「I’m Beside Myself」という曲をレコーディングした時だった。フラブジョイ&ランシブル・スプーン名義で(グレアム・グールドマンとエリック・スチュワートがこのセッションで演奏、ケヴィン・ゴドレイとロル。クリームは作曲した)リリースしたシングルで、彼らをイギリスのサイモン&ガーファンクルとして打ち出したが、失敗した。しかしコラボレーションをしていくための基盤をその時に築かれた。

ミュージシャンとしては、1963年の爆発的なシーンの動き受けて、それぞれが様々な方向から集まっていた。グレアム・グールドマンの前のバンドであったザ・ホワールウィンズは、60年代半ばに、アメリカとイギリスでリリースされた、片手で数え切れるぐらいのシングルのひとつのB面曲のためにロル・クリームに助けを求めたが、そのパートナーシップは長く続かなかった。 ザ・ホワールウィンズは地元の Jewish Lads Brigadeのハウス・バンドとなったが、1965年初めに解散。グレアム・グールドマンを含めた数人のメンバーは、ケヴィン・ゴドレイをドラムに迎えてザ・モッキンバーズを結成し、当時毎週マンチェスターから放送されていたBBCの「Top Of The Pops」の前説バンドとして演奏した。グレアム・グールドマンが「For Your Love」を自身のバンドでレコーディングしてみたいと提案したが、レーベルはその案を却下した。しかし、ロンドンのロック・グループ、ザ・ヤードバーズが代わりにこの楽曲をレコーディングし、全英チャートで3位を記録することになる。

デッカ・レコードはすぐにグレアム・グールドマンとソロ契約をし、コニー・フランシスの映画のトラックを作曲、その他にもザ・ホリーズ(「Bus Stop」)、ハーマンズ・ハーミッツ(「No Milk Today」)などの楽曲を制作。ザ・モッキンバーズも数々のシングルを様々なレーベルでリリースし、中にはグレアム・グールドマンがかいた作品もあったが、残念ながら同じように脚光を浴びることはなかった。

エリック・スチュワートは、ウェイン・フォンタナ&ザ・マインドベンダーズのメンバーとして活躍し、「The Game Of Love」は全米チャート1位、全英チャート2位を記録。ウェイン・フォンタナが1965年に辞めると、エリック・スチュワートがヴォーカルも担当して「A Groovy Kind Of Love(邦題:恋はごきげん)」で大成功を収めたが、その後グループの商業的な成績は下り坂になった。同じ頃、グレアム・グールドマンは、アメリカでの出版契約が思うように進まず、ソロ・プロジェクトのザ・グレアム・グールドマン・シングも日の目を見ることなく、1968年3月にベースとしてザ・マインドベンダーズに加入した(最後のシングルのひとつも書き下ろした)。

ザ・モッキンバーズの後、ケヴィン・ゴドレイはロル・クリームとともにCBSから「The Yellow Bellow Room Boom」をリリース。グレアム・グールドマンはいくつかのデモを気に入り、フラブジョイ&ランシブル・スプーンとママレード・レコードの契約に率先してこのペアを巻き込んでいった。

ザ・マインドベンダーズがタンスの肥やしとなり、エリック・スチュワートとグレアム・グールドマンはケヴィン・ゴドレイとロル・クリームを誘い、エリック・スチュワートが当時すでにパートナーとなっていたストロベリー・スタジオで一緒に作品を制作することになった。グレアム・グールドマンはそこでデモを制作し、すぐにこのビジネスに投資をした。アメリカのバブルガム・ポップのマスター、スーパー・Kプロダクションのジェリー・カセネッツとジェフ・カッツに、そのようなスタイルの楽曲を依頼され、グレアム・グールドマンはそこでエリック・スチュワート、ケヴィン・ゴドレイとロル・クリームにそのプロジェクトを自分達でやるべきだと交渉した。ストロベリー・スタジオで3か月に渡って行われたこのプロジェクトは、結果的に様々なアーティストによって歌われた楽曲を生み出していったのだ。

フレディ・ギャリティのヒットとなった「Susan’s Tuba」は名声あるアーティストに提供したアイディアのひとつだったが、ケヴィン・ゴドレイは他にもリード・ヴォーカルを提供し、中にはカスナット&カッツ・ファイタースクアドロンの「When He Comes」、そしてグレアム・グールドマンと彼のボスたちの作曲のクレジットがついた、シルヴァー・フリートの「Come On Plane」が含まれている。グレアム・グールドマンは、オハイオ・エキスプレスのバブルガム・ヒット「Sausalito (Is The Place To Go)」も作曲して歌い、他にもマンチェスター・フットボール・クラブにも楽曲を提供した。

安定した収入を得られるようになり、ストロベリー・スタジオの環境をさらに整えようとしたところから10ccの歴史は始まったのだ。

グレアム・グールドマンはニューヨークに戻り、より密にジェリー・カセネッツとジェフ・カッツと活動することになったので残された3名が実験を続け、ドラムがヘヴィーな「Neanderthal Man」をホットレッグス名義でリリース、意外にもヒット曲となり、1970年の夏に全英チャート2位を記録。大西洋も渡り、全米シングル・チャートでも22位にランクイン、ヨーロッパ中でもそれなりにヒットした。

次にリリースした「Lady Sadie」とそれを含むアルバム『Thinks: School Stinks』は同じように成功はしなかったものの、まだ勢いが残っていたホットレッグスは、ムーディー・ブルースのツアーの前座を務めることとなり、このためにグレアム・グールドマンはイギリスに帰国したのだ。

1971年2月、ゴドレイ&クリームはポール・サイモンの「Cecilia」をカヴァーしてザ・ニュー・ウェイヴ・バンドとしてシングルをリリース、そこにはハーマンズ・ハーミッツの元メンバーをギターに迎えた。

他のミュージシャンのレコードのための制作が続き、ニール・セダカの2枚のアルバムにも大きな貢献をしたが、そこで悟りが開けたト3名は、再び帰国したグレアム・グールドマンとともに、他の人の作品を作るのではなく、それぞれのメンバーが貢献し、自分たちの持っているエネルギーを注いで、コラボレーションによるプロジェクトをやっていこうと決意した。

エリック・スチュワートとグレアム・グールドマンの共作「Waterfall」を1972年初めにアップル・レコードに送ったが、それに対する返事はなかなか来なかった。待ちに待った返答が来た時には、「Waterffall」や50年代の模倣作「Donna」のデモがすでにDJジョナサン・キングの手元に届いており、それを聞いたジョナサン・キングは早速自身のレーベルとの契約を成立させ、グループを10ccと名付けたのだ。1972年9月28日、10ccは『Top Of The Pops』に初出演、そしてそれは「Donna」の飛躍の始まりだったのだ。

10ccのキャリアの形成を形成したストロベリー・スタジオの歴史をカヴァーした4CD Box『Before During After: The Story Of 10cc』。フル・トラックリストは下記。

CD1: The Best Of 10cc
‘Rubber Bullets’
‘Donna ‘
‘Silly Love’
‘The Dean And I’
‘Life Is A Minestrone’
‘The Wall Street Shuffle’
‘Art For Art’s Sake’
‘I’m Mandy Fly Me’
‘Good Morning Judge’
‘The Things We Do for Love’
‘Dreadlock Holiday’
‘I’m Not in Love’

CD2: What We Did Next: Post 10cc
Godley And Crème: ‘Under Your Thumb’
Godley And Crème: ‘An Englishman In New York’
Godley And Crème: ‘Cry’
Godley And Crème: ‘Wedding Bells’
Graham Gouldman: ‘Sunburn’
Wax: ‘Bridge To Your Heart’
Wax: ‘Right Between The Eyes’
Eric Stewart: ‘The Ritual Parts 1-2-3’
Paul McCartney: ‘Pretty Little Head’
Art Of Noise: ‘Metaphor On The Floor (Plan 138)’ [mix by Ollie J]
Art Of Noise: ‘Metaphor On The Floor’
GG06: ‘Hooligan Crane’
GG06: ‘Son Of Man’
Kevin Godley: ‘Confessions’
Kevin Godley/Luke Mornay: ‘Expecting A Message’
Producers: ‘Man On The Moon’
Producers: ‘Every Single Night In Jamaica’

CD3: And Friends
Ohio Express: ‘Sausalito (Is the Place To Go)’
Peter Cowap: ‘Tampa, Florida’
Garden Odyssey: ‘Have You Ever Been to Georgia?’
Tristar Airbus: ‘Travellin’ Man’
Peter Cowap: ‘Crickets’
Festival: ‘Today’
Doctor Father: ‘Umbopo’
Peter Cowap: ‘Safari’
Grumble: ‘Da Doo Ron Ron’
Garden Odyssey: ‘The Joker’
Manchester City FC: ‘Funky City’
Peter Cowap: ‘The Man With The Golden Gun’
Doctor Father: ‘Roll On’
Peter Cowap: ‘Wicked Melinda’
Tristar Airbus: ‘Willie Morgan’
Grumble: ‘Pig Bin An’ Gone’
Festival: ‘Warm Me’
Peter Cowap: ‘Oh Solomon’
Manchester City FC: ‘Boys In Blue’
Crazy Elephant: ‘There Ain’t No Umbopo’

CD4: Before 10cc: The Early Years
The Mindbenders: ‘A Groovy Kind Of Love’
The Mindbenders: ‘One More Time’
Graham Gouldman: ‘Bus Stop’
Graham Gouldman: ‘No Milk Today’
Graham Gouldman: ‘For Your Love’
Hotlegs: ‘Neanderthal Man’
Hotlegs: ‘Desperate Dan’
Rameses: ‘Life Child’
Rameses: ‘Quasar One’
Neil Sedaka: ‘That’s When the Music Takes Me’
Neil Sedaka: ‘Solitaire’

Written by Mark Elliott


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