2011年にロンドンで開催されたクイーン回顧展でのブライアン・メイ・インタビュー

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2011年2月25日にロンドン東部にあるトゥルーマン・ブリュワリーで開催されたクイーン結成40周年を記念した回顧展「Stormtrooper In Stilettos」。2018年秋に公開となった映画『ボヘミアン・ラプソディ』の大ヒットを記念して、当時、回顧展用に行われたクイーンのブライアン・メイのインタビューと展示の様子を公開します。後に『ボヘミアン・ラプソディ』となる映画は制作進行中、彼が自分を演じる役者についても語っています。(ロジャーのインタビューはこちら)。


 

今回の回顧展は貴重な素材が満載された素晴らしい展覧会ですが、ご自身で拝見してどんな気持ちになられましたか?
感情的に大きく動揺したよ。フレディの写真はいつも目にしているから、それには慣れているし、フレディはいなくなったものの僕らの心の中に常に存在して、それは僕らの日常生活の一部、それも喜ぶべき生活の一部となっている。ところがあの展覧会に足を踏み入れたときに、あの頃の現実がまざまざと甦ってきたんだ。写真の中には当時すごく親しかった人たち、今はもうこの世にいない人たちが映っていて、あの時の記憶が鮮明に甦ってきたんだ。それと自分たちの姿、まるで子供だよね。若いころの気持ちを思い出した。痛々しい体験もあった。自分たちが成し遂げた業績を誇りに感じているものの、初期の自分たちをあれほど細かく目にするのは恥ずかしい体験でもあるね。

日本ではクイーンの楽曲を使った新しいCMが出来たり、過去作品の再発によって新しいファンも増えていると思うのですが、日本というのはあなたにとってどんな存在ですか?具体的な思い出はありますか?
日本のファンというのは、クイーンにとって非常に特別な存在なんだ。それは永久に変わらない。クイーンに心を開いてくれた最初の国だったから、その事実は絶対に忘れないよ。初来日の時なんて、神様みたいな待遇を受けた。またはビートルズみたいな(笑)。それは僕らにとって全くの新しい体験であり大きな驚きだった。それに日本のファンの寛大さには心動かされた。僕らは日本や日本の文化と常につながってるんだという気持ちがある。ファンとは一緒に成長してきたし、とても特別な関係を保ちながら成長してきたと思う。そんな気持ちが僕の書いた「手をとりあって」という曲にはこめられているんだよ。僕らと日本のファンの関係が常にあるんだ。その関係を今でも強く感じているよ。

 

クイーンのサウンドというのは、様々な要素があって一つのカテゴリーに入れられないものですが、あのサウンドはどうやって生まれたのですか?
意図的というよりは、本能的だった、というのが答えだろうね。子供のころに様々な音楽を吸収したんだ。音楽文化が変化を遂げた時代に育ったのが幸運だったと思う。子供のころ聞いた音楽は、クラシックが少々、イギリス風ミュージカルとでも言うのかな、ジョージ・ホーンビーとか、ビッグバンド・ジャズとか、両親が聞いていたからね。それに加え僕らはロックン・ロールにも触れた。バディー・ホリーリトル・リチャードやエルヴィスを初めて聞いた時のことを今でも覚えているよ。これって驚くべきミックスだよね。そんな時代だったんだ。あんな時代は二度と訪れないと思うよ。ああいった音楽をスポンジのように吸収していたし、自分自身を表現しようとしたときに、それが自然とわき出てきたんだと思う。凄く雑多でカラフルなミックスなんだ。それに僕ら自由だった。ロックに形式は必要ないと感じたんだ。自分が望むなら何を持ち込んでもOKって思ったんだ。そうやってカテゴリーできないクイーンの音楽ができあがったんだよ。

いま振り返ってみると、自分でも不思議に思えるんだ。危険なこともやっていたなぁとも思う。僕らはジョージ・ホーンビーなどを持ち込んだ音楽をなぜロックと思っていたのか、多分それは本能的だったとしか言えない。僕らが自分たちの音楽にこめていた気持ちというのは、ロック音楽がやっているような直截的なものだったんだ。僕らの前の世代のやっていたこととは、とても違っていた。にもかかわらずその前世代の音楽を自分たちも取り入れられるとも思った。なぜかそれが上手くいったんだ。

デビュー当時の写真 (C) Douglas Puddifoot

ロジャーがイギリスの雑誌「Qマガジン」で、クイーンを題材にした伝記映画であなたを演じるのは誰がふさわしいか?という質問に、「ジョニー・デップかブラッド・ピットじゃないのかな」と応えたようですが、あなたを演じるのはご自身では誰が良いと思いますか?(編註:2018年に『ボヘミアン・ラプソディ』として公開される映画は当時制作が進行中。フレディを演じるのはサシャ・バロン・コーエンだと報じられていたが、他のメンバーを演じる役者は決まっていなかった)
(笑)。ジーン・ハックマンかな。僕の一番のお気に入り俳優なんだ。彼が大好きだから、彼に演じてもらいたい。実はブラッド・ピットが僕を演じたいと言ってくれたんだが、断ったんだ。あなたは誰がふさわしいと思う?

難しいですね。
コリン・ファースなんて良いかも。でも最近凄く有名になったからなぁ。

映画でブライアンを演じたのはイギリス人俳優のグウィリム・リーとなった (C) 2018 Twentieth Century Fox

今回の回顧展のタイトル「Stormtrooper In Stilettos」は楽曲「She Makes Me」のサブ・タイトルですが、なぜこれを回顧展のタイトルに選ばれたのですか?
単なるイメージだね。「She Makes Me」にサブ・タイトルをつけるのは、そもそもロジャーの発案だったんだ。「この曲凄く気に入ってるんよ、ビートも最高。でもタイトルが今一つだよね」って。1975年のことだったかな。「Stormtrooper In Stilettos」のほうが良いんじゃないかって。それで僕らもじゃあ、その呼び方もアリなんじゃないの。ってことになってサブタイトルをつけたんだ。

これを今回の回顧展のタイトルに選んだ理由があるとすれば、クイーンとして被ったベールの裏側を見せる、という意味だね。クイーンのメンバーとしてやってきたことがどんな事だったのかを、初めて公開するという意味でね。「Stormtrooper In Stilettos」という言葉には、並行する二つの意味があるんだ。僕らの音楽はラウドでパワーのある音楽だけど、繊細なアイデアを音楽で表現しようともしている。「Killer Queen」や「Good Company」がロック・ナンバーであるのか、その応えはノーであるかもしれない。でもこれが僕たちクイーンなんだよ。だから「Stormtrooper In Stilettoes」はクイーンの中にあるパラドックスな矛盾を象徴しているんだ。

 

クイーンは結成40年。そのうちの20年をフレディなしでやってきたわけですが、続けてこられたのはなぜだと思いますか?
確かにフロントマン不在でバンドを20年も続けてこられたのは奇跡みたいなものだね。理由は自分でもわからない。クイーンというバンドはどこかに強力な精神的勢力によって動かされているのではないかな。僕とロジャーは目に見えない勢力に抵抗しようとする時があるんだ。というのも、他のことができなくなってしまうからね。それと同時に自分たちが作ったバンドや音楽を誇りに思っている。だから可能なかぎり、自分たちの作り上げたこの渦の一部になろうとしているんだ。

クイーンというバンドは、常に不思議な存在だったし、これからもそうあり続けると思う。それに僕には別の人生もある。動物愛護の活動では人間が動物を扱う姿勢を変えようと時間をかけてキャンペーンしてきた。それは僕の人生において大きな課題なんだ。それと大学に戻り天文物理学の博士号もとって、今は天文学のプロジェクトにも関わっている。立体写真や歴史などにも関心がある。本も書いたり、本当に多くのことを手がけている。でも、クイーンで何かあった時には、他の全てを中断して駆けつけるんだ。ロジャーだって同じだよ、今だにクイーンは僕らの人生の中心なんだ。

フレディの思い出で印象に残っているエピソードを教えていただけますか?
彼はとっても短気でね。勿論、良い点も沢山あったけれど、どんな人間でも完璧ではないよね。我慢することができなかった。ファンにサインを求められると、「ファック・オフ!うるさい、あっち行け、ダーリン!!」って具合さ(笑)。「インタビュー??冗談だろ!!」とかね。「だって今インタビューして声を使ったら、喋ったことで喉を使って、後で満足に歌えないだろう」っていう風に、凄く仕事に専念した人間だったんだ。「敗者には時間はわけられない」とよく言ってもいたね。それらがフレディの一部でもあった。「自分が何者か分かっている、何になりたいかもわかっている」という言葉も覚えている。その道の妨げになるものは、彼は嫌ったんだ。それは僕にとっては良いお手本だった。というのは、僕を含めた多くの人は、他人を喜ばせよう、好かれようと望みながら生きている。頼まれたから断れない、断ったら罪悪感に苛まれる。でも、フレディはそんな事は一切考えなかった。フレディは自分の目標に向かってまっしぐらで、その為の事しかしなかった。そこから学ぶことは大きいと思う。今だにそんな彼から影響をうけているよ。電話がかかってきて「あれをやってくれないか」と頼まれると「そうだね、大丈夫だよ」って返事をする。でも電話を切った後で、「またへとへとになるんだ、なんで断れなかったんだろう」って後悔するんだよ。NOと言うことを学ばなくちゃね。もちろん「ファック・オフ」と言うのではなく丁寧にね。今だに、それを学んでいる最中なんだ。

今回再発された作品の中で日本盤のみボーナス・トラックで「手をとりあって」や「I Was Born To Love You」が入っています。この曲を選んだ理由は?
日本のレコード会社からこの2曲をボーナス・トラックに使いたいという要望がきたんだ。それでOKしたよ。

「手をとりあって」については先ほど説明していただきましたが「I Was Born To Love You」はいかがですか?
その曲も僕にとっては特別な曲なんだ。オリジナルはフレディのソロ曲で、彼一人で仕上げた曲なんだ。壮大さをもった、本能的に書きあげたような素晴らしい曲だ。名曲だよ。アルバム『Made In Heaven』を制作している時に、僕はこの曲を選んだ。その理由は、この曲をクイーンとして完成させることが、残された僕らにとっては挑戦すべきことではないかと感じたんだ。この曲を僕ら全員やったらどうなるか、どんな気持ちになるだろうって。僕は何カ月も費やして、オリジナルのヴォーカルやその他のヴォーカルをよりぬいて、僕らの演奏と合わせたんだ。この曲を注意深く聞いてもらうと、僕らがまるで楽しくスタジオで演奏し楽しんでいるような音が聞こえてくると思う。でも、もちろんそれは現実には起ってはいない。「I Was Born To Love You」はクイーンの曲としては、現実ではなくファンタシーなんだ。最後にフレディの笑い声が入っているけど、あれは現実じゃない。彼が他界したあとに僕が作り上げたものなんだ。クイーンとしての曲の出来にはとても誇りに思っている。まるで実際に僕らがスタジオでセッションしているみたいに聞こえるので。とっても好きな曲だよ。

 

日本に戻ってライブをする予定はありますか?
可能性はいつだってあるけれど、リード・ヴォーカリストという問題があるんだ。フレディを誰かと交換することなんてできないからね。それに対処する方法はいくつかあると思うけどね、難しいよね。ライブの可能性はいつだってある、きっと方法は見つかるはずだ。日本にも行ってライブがやりたい、いつもそれについては話あっている。

ポール・ロジャースとまた一緒にやる可能性はありますか?それがなかったとしたら、他の音楽プロジェクトを何かやっていらっしゃいますか?
ポールとはもう一緒にやらないと思う。とても良い経験だったけど、ポールはまたソロに専念する時期だと感じたし、僕らも自分たちのやるべきことに戻る時期だと感じたんだ。友人ではあるけど、これから一緒にツアーすることはないと思う。可能なことは全て試してみたんだ。南アフリカのライヴでその幕は降りた。あの時に、来るところまで来た、という気持ちになったんだ。言葉であの気持ちを説明するのは難しいね。

 

最近はケリー・エリスと言う女性アーチストをプロデュースして『Anthems』というアルバムが発売になったんだ。この後にはロイヤル・アルバート・ホールで2度コンサートをやることになっていて、僕も出演するんだ。そしてバンド・メンバーを集めて1カ月ほどの全英ツアーをやる予定だ。サウンドはクイーンとは全然違ってオーケストラが主体のロックだね。今のところ僕はこのプロジェクトを優先しているんだ。素晴らしい声をもった女性を発見できたんだ。彼女は僕の作曲やプロデュースという音楽制作の意欲を高めてくれたんだ。ケリー・エリスとブライアン・メイという名義で日本に行ってライブをやることになるかもしれないよ。


回顧展「Stormtrooper In Stilettos」の様子



映画『ボヘミアン・ラプソディ』サウンドトラック

2枚組LP  2月8日発売

映画『ボヘミアン・ラプソディ』大ヒット公開中
配給:20世紀フォックス映画
© 2018 Twentieth Century Fox
映画公式サイト

 

 

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