ザ・ローリング・ストーンズ『Their Satanic Majesties Request』:サイケに挑んだ賛否両論作

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1967年にザ・ローリング・ストーンズの『Their Satanic Majesties Request』をクリスマス・プレゼントとしてもらったファンの多くは、このアルバムを聴いてショックを受けたに違いない。制作中は『Cosmic Christmas』という仮のタイトルが付けられていたこのアルバムは、彼らを世界的に有名にした1964年のデビュー作のブルース風ロックとはまるで違う作品だった。

『Their Satanic Majesties Request』は1967年12月8日にリリースされ、20枚以上あるザ・ローリング・ストーンズのスタジオ・アルバムの中でも珍しく、50年経った今でも最も賛否両論がある作品と言えるかもしれない。

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しかし、この制作中に起こった半分カオスのような状態を考えれば、結果として出来上がった作品は理路整然としているのかもしれない。本作は1967年の2月から10月にかけてレコーディングされたたが、この時期はザ・ローリング・ストーンズのキャリアにおいて騒然としていたのだ。

ミック・ジャガー、キース・リチャーズとブライアン・ジョーンズはそれぞれに事情を抱え、ドラッグで刑事裁判沙汰も起こしていた(バンドはアルバムに収録されていないシングル「We Love You」のPVで直接この件に触れている)。バンドのマネージャーでプロデューサーだったアンドリュー・ルーグ・オールダムも、行き当たりばったりのスケジュールと、西ロンドンのバーンズにあるオリンピック・スタジオにやっとメンバーが現れたと思ったら、大勢の仲間を引き連れていて、クリエイティヴな流れが続かないことに腹を立て、レコーディング中に辞めてしまった。

そんな中、やっとアルバムが完成した。このアルバムはザ・ローリング・ストーンズにとってUKとアメリカで同じトラックリストと同じスリーヴを使用したはじめてのアルバムであった。タイトルは、イギリスのパスポートにかかれている言葉を風刺的に捉えたものだ「Her Britannic Majesty’s Secretary Of State requests and requires…(女王陛下の臣民たる国務大臣は女王の名において要請する…)」。

音楽史にとっても転換期と言える時にアルバムは世に出た。その年、1967年の夏は、ザ・ビートルズのポップ・アートの傑作『Sgt Pepper’s Lonely Hearts Club Band』やジミ・ヘンドリックス・エクスぺリエンスの『Are you Experienced?』、ピンク・フロイドの『The Piper At The Gates Of Dawn(夜明けの口笛吹き)』等が独占していた。世界中のバンドが、ポップ・ミュージックを変えていくこのサイケデリックな革命に参加したがっていたのだ。そして、ザ・ローリング・ストーンズもそんなバンド達と同じなった。

『Their Satanic Majesties Request』は、サイケデリックなサウンドの影響と3Dアートワークが絡まりあったものだ。キース・リチャーズはのちにこう振り返っている。

「あのセットは自分たちで作ったんだ。ニューヨークに行って、3Dで撮れる唯一のカメラを持っていた日本人に全てを託して。ペンキやノコギリ、発泡スチロールとかを使ってね」

10曲が収録されたこのアルバムに、当時のファンは困惑したものだが、時間が経った今はどうだろうか? 楽曲は多岐にわたり、不思議で議論の余地がある曲「Gomper」もあるが、オススメできる楽曲の方が多い。

「Citadel(魔王のお城)」はサイケデリックな小技をやめギターリフがあり、「In Another Land」は、ビル・ワイマンをヴォーカルに迎えたバンド唯一の曲ではないが、彼がスタジオに現れた唯一のメンバーだったある夜にそのクリエイティヴィティと溜まった鬱憤を晴らしたものだ。スモール・フェイセスのスティーヴ・マリオットとロニー・レーンをバック・ミュージシャンに迎え、ビル・ワイマンがイビキをかく音で終わっている。ミック・ジャガーとキース・リチャーズが、彼が寝ている間にレコーディングし、ジョークとして最後に加えたのだ。

「She’s A Rainbow」は甘いコーラスをベースにしたポップ・ソングで、メロトロンにブライアン・ジョーンズ、そしてのちのレッド・ツェッペリンのベーシストとなるジョン・ポール・ジョーンズのストリングスのアレンジメントがフィーチャーされている。

「2,000 Light Years From Home(2000光年のかなたに)」も成功だったし、「The Lantern」は1972年の『Exile On Main St.(メインストリートのならず者)』の「Shine A Light」の前触れと言っていいだろう。

『Their Satanic Majesties Request』は、全英チャートで3位を記録し、今でもチャーミングで珍しい作品とされている。翌年の『Beggars Banquet』では、ザ・ローリング・ストーンズは自身のロックとブルースのルーツに戻ったが、フラワー・パワーへの挑戦は力強く、実のある試みだったと言える。

Written by Martin Chilton


ザ・ローリング・ストーンズ
『Their Satanic Majesties Request 50th Anniversary Special Edition』

発売日:2017年9月22日
日本盤SACD / LP



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