意外に多いパンクとプログレの共通点:「パンクス対ヒッピー」という作られた神話

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Sham 69 - Photo: Erica Echenberg/Redferns

パンクとプログレッシヴ・ロックが宿命的な敵同士であるという定説は、何十年にもわたって延々と流布されてきた。しかしそれが最初からどうしようもないでたらめだったとしたらどうだろう? マスコミは「1976年がパンク元年」とか「ニュー・ウェイヴのモットーはノー・ヒッピー」と言った書き方をしてきた。しかし70年代後半のロック革命の最前線には、実はプログレッシヴ・ロックの崇拝者がたくさんいた。そして、この2つの世界はあなたが想像する以上に大きく重なり合っていたのである。

とはいえ今から振り返ってみれば、こうした対立図式を作り出す以外に道はなかったのかもしれない。第一世代のパンクスたちが「偶像破壊」や「因習打破」という目標を半分でも達成するためには、ロックの過去を焼き払い、間をつなぐ橋を燃やして背水の陣を敷き、嬉々として灰を踏みつけ、最新の音楽シーンは白紙状態だと宣言するしかなかったのだろう。しかし、だからといって彼らの主張がすべて正当だったとは限らない。

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ジョン・ライドンとプログレ

プログレッシヴ・ロックに対して敵意を燃やすパンク側のヘイト・キャンペーンは、早くから始まっていた。たとえばセックス・ピストルズの初期にジョン・ライドンが最も注目を集めた服のひとつは、ピンク・フロイドのTシャツだった。彼は、Tシャツに印刷されたフロイドのバンド名に「大嫌い(I hate…)」と書き加えていたのである。とはいえハードルが飛躍的に下がった数十年後、彼は『The Quietus』誌の記者ジョン・ドーランに次のように告白している。

「“ピンク・フロイドが嫌い”だなんて言う奴は、ひどいバカに違いない。あのバンドは素晴らしい作品を作ってきた」

セックス・ピストルズ時代にジョニー・ロットンと名乗っていたライドンは、もう少しでフロイドと共演する可能性もあったそうだ。

「フロイドがLAに来た時、『Dark Side Of The Moon』の曲をちょっと歌わないかと誘われたんだ。その時はとんでもなくワクワクしたよ……。もう少しで実現するところだった」

 

ヴァン・ダー・グラフ・ジェネレーターとパンク

とはいえピストルズ全盛期の時期にも、ライドンはプログレッシヴ・ロックの影響を受けたことを既に告白していた。1977年のキャピタル・レディオのインタビューでは、ヴァン・ダー・グラフ・ジェネレーターのピーター・ハミルに対する賞賛の言葉をDJのトミー・ヴァンスに語っている。

「彼は素晴らしい。真のオリジナルで、何年も前から彼が好きだった……彼の曲はどれも大好きだよ」

一方ハミルは1975年に発表したソロ・アルバム『Nadir’s Big Chance』でパンクの到来をかなり驚くべき形で予言していた。

このアルバム『Nadir’s Big Chance』がピストルズのお膳立てをした可能性は高い。前述のインタビューでは、ライドンがこのアルバムにちゃんと言及している。1979年、ライドンが既にパブリック・イメージ・リミテッドでよりアート指向を強めていた頃、ハミルは『Trouser Press』誌のジョン・ヤングにこう語っている。

「ニュー・ウェイヴが始まったとき、僕は鏡に向かってウインクしていたよ」

カリフォルニアのハードコア・ヒーロー、ジェロ・ビアフラ (ザ・デッド・ケネディーズ) もヴァン・ダー・グラフには好意的だった。彼は雑誌“World”のジム・アーヴィンにこう語っている。

「あのバンドは、よりダークなタイプのプログレッシヴ・ロックだった。反抗的な雰囲気があって……。優れたプログレッシヴ・ロックとかスペース・ロックは好きだね。今でもマグマとホークウィンドが大好きだよ」

ホークウィンドは、ピストルズのギタリスト、スティーヴ・ジョーンズにも影響を与えている。

 

UKパンクとプログレッシヴ・ロック

1970年代にセックス・ピストルズの先を行っていたのがザ・ダムドである。このバンドは、1976年にUKパンク初のレコード「New Rose」をリリースしていた。とはいえ2枚目のLP『Music for Pleasure』のレコーディングで、彼らはフロイドのドラマー、ニック・メイソンをプロデューサーとして起用している。ザ・ダムドのギタリスト、ブライアン・ジェームズはNME誌のチャールズ・シャー・マリーに次のように語っていた。

「フロイドのいろんなアルバムを聴いて、スタジオの使い方をよく心得ているような感じに聞こえた」

1980年になると、ダムドは紛れもなくプログレッシヴ・ロックっぽい大曲を作るようになっていた。たとえば「Curtain Call」は演奏時間が17分もあった。

ストラングラーズは初期のUKパンク・シーンにどっぷりと浸っていたが、同時期に活躍していた他のバンドよりも少し年上だった (フロントマンのヒュー・コーンウェルは10代の頃にリチャード・トンプソンと同じバンドで演奏していた) 。そのため、70年代初頭のアート・ロックや1960年代のガレージ・サイケ・サウンドを吸収する機会が多くあった。

彼らはファースト・アルバムで既に長大なプログレッシヴ・ロック・パンク組曲「Down in the Sewer」を作り上げていた。それにキーボード奏者のデイヴ・グリーンフィールドの古風なサウンドは、最初からそうした雰囲気を漂わせていた。ベーシストのJ.J.バーネルは、後に『Uncut』誌のニック・ヘイステッドにこう語っている。

「デイヴはドアーズを知らなかった。むしろ彼はプログレッシヴ・ロック好きで、イエスのようなバンドに夢中だった。レイ・マンザレク (ドアーズのキーボード奏者) のように演奏することは、彼にとって妙に自然なことだったんだ」

バズコックスの派生バンドであるポスト・パンクのヒーロー、マガジンもファースト・アルバムはプログレッシヴ・ロックに紙一重のような内容だった。「Burst」、「The Great Beautician in the Sky」、「Parade」といった比較的ロココ調の曲は5分以上もあり、同時代のバンドよりも古き良きロキシー・ミュージックに近く感じられた。

さらにポスト・パンクの象徴的存在であるオルタナティヴTVも、セカンド・アルバム『Vibing Up the Senile Man』では挑戦的なリフと削岩機のようなビートを避け、アヴァン・プログレッシヴ・ロックとしか言いようのない実験的な作風になっていた。現在のストリーミング・サイトはそうした側面を隠そうともせず、このアルバムを単にプログレッシヴ・ロックと分類している。

 

ブロンディとプログレッシヴ・ロック

さらには、古株のミュージシャンが垣根を越えて新しい世代と交流することも珍しくなく、そうした共演はどちらの側にも良い結果をもたらしていた。キング・クリムゾンの中心人物ロバート・フリップは、1978年に大ヒットしたブロンディの『Parallel Lines』に参加し、不気味な曲「Fade Away and Radiate」で彼ならではの流麗なギターを弾いている。1980年、フリップは『ZigZag』誌のクリス・ニーズに次のように語っている。

「ハマースミス・オデオンで、クリス (・スタイン。ブロンディのギタリスト) が出番の2分前に“イギー・ポップが来ましたよ。イギーと“Funtime”を演奏したくないですか?”と言ってきた。こちらは、“その曲は聴いたことがない。コード進行は?”と尋ねた。クリスは“Bb、C、D、それからEを2回”と言って、ステージに上がった。曲を聴いたことがなくてもいい、やってみよう、という感じだった」

 

スティーヴ・ヒレッジ

ピーター・ガブリエルは、70年代後半のソロ作品で既にニュー・ウェイヴからの影響を吸収していた。さらにシャム69のシンガー、ジミー・パーシーのソロ・シングル「Animals Have More Fun/SUS」をプロデュースし、楽曲の共作も手掛けることになった。それによって、このUKパンクのヒーローは突然の変身を遂げた。かつてのバンドがパワー・コード中心だったのに対し、このソロ・シングルはポスト・パンク/アート・ロックが融合したガブリエルの作品に近いサウンドだったのである。

とはいえパーシーがまだシャム69で活動していた時期に、プログレッシヴ・ロックとパンクのつながりを象徴するような出来事が起きていたように思える。1978年のレディング・ロック・フェスティヴァルは、毎年恒例だったイベントでついにパンクやニュー・ウェイヴのアーティストが主流派となった最初の年だった。

3日間のフェスティヴァルの初日には、シャム69の他にザ・ジャム、ペネトレーション、ウルトラヴォックス、レディオ・スターズなどが出演していた。とはいえ観客の中には制御不能のスキンヘッド集団がおり、彼らは目の前を横切る長髪野郎を踏みつけにするという仕事を自ら買って出ていた。

偶然にも、そのころパーシーはスティーヴ・ヒレッジと意外な成り行きで知り合っていた。UKの音楽新聞がふたりの対談をセッティングしていたのである。編集者のほうは、この顔合わせが喧嘩腰のやりとりになることを期待していた。しかし実際に会ってみれば正反対の展開となり、ふたりはお互いを認め合う仲になった。

やがてパーシーは、シャム69のレディングでのステージに参加しないかとヒレッジを招待した。サイケデリックなバンド、ゴングのリード・ギタリストであり、かなりトリップ気味のソロ・アーティストでもあるヒレッジは、ファッションもヘアスタイルもまさにヒッピーそのものだった。シャム69が自分たちの代表曲「If the Kids are United」を魅力的なくらい調子外れに演奏する中、ヒレッジは鋭いギター・フレーズを弾き始めた。その光景は、ステージに押し寄せる群衆にはっきりとしたメッセージを伝えていた。

 

ネオ・プログレッシヴ・ロック

「パンクス対ヒッピー」という作られた神話にはこれでピリオドが打たれるはずだったが、一度流布したデマを鎮めることは難しい。その後のヒレッジは、シンプル・マインズ、ロビン・ヒッチコック、リアル・ライフといった数々のニュー・ウェイヴ・アーティストのプロデュースまで手がけていた。数十年後、彼はRecord Collector誌のマルコム・ドームのインタビューに答えて次のように振り返っている。

「私は多くのパンク・ミュージシャンがサイケデリックな音楽に影響を受けていたことを理解していたし、彼らがやっている活動にも敬意を払っていた。両方の側がそういう態度だったんだ。たとえば、初めてジョニー・ロットンに会った時、彼は近づいてきて私を指差して……“Flying Teapot” (ゴングの名盤の題名) を口にした。そうして親指を立てて“最高!”という仕草をしてくれたんだ」

1980年代初頭には、どうにも避けられない流れが始まった。英国の一部の子供たちは自分より年上の兄や姉が持っていたキャメルやジェントル・ジャイアントのレコードを聴いて育っていた。彼らはやがてマリリオン、トゥウェルフス・ナイト、IQといったバンドを結成し、プログレッシヴ・ロックからの影響をポスト・パンクの鋭い音作りと融合させた。そして「ネオ・プログレッシヴ・ロック」という注目すべきサブジャンルを作り出したのである。

とはいえパンクが存在する以前から、そうしたつながりは存在していた。そのひとつの例が、プロト・パンクの巨匠ルー・リードの1972年のソロ・デビュー作だ。この作品では、イエスのリック・ウェイクマンとスティーヴ・ハウがバックの演奏を務めている。

 

ラモーンズのプログレッシヴ・ロック

そして、いわゆる「パンク・ロック」がラモーンズから始まったという点に誰もが同意するのなら、「パンク対プログレッシヴ・ロック」という対立図式はそもそも存在しなかったことになる (ちなみに、あのバンドは長髪のルックスを決して捨てなかった) 。

別に筆者は、ラモーンズが得意の3コードにとどまらず、複雑な変拍子やモーグ・シンセのファンファーレに手を染めていたと言いたいわけではない。しかしジョーイ・ラモーンの死後、興味深い歴史の断片が浮かび上がってきたのである。

2013年、ジョーイが個人的に所有していたレコード・コレクションがオークションにかけられた。そのコレクションは、彼が何年もかけて購入した約100枚ものレコードで構成されていた。その中にはニュー・ウェイヴやパンクはほとんど見当たらなかった。その一方で、イエス、ジェネシス、エマーソン・レイク&パーマーの名盤や、エルトン・ジョンの『Goodbye Yellow Brick Road』のようなアート・ポップの傑作が含まれていたのである。

こういう話を知ると、ジョーイがイエス「Roundabout」に合わせてヘッドバンギングするところや11分に渡るエルトン・ジョンの「Funeral for a Friend/Love Lies Bleeding」でシンセのオーケストラをエア指揮する姿を思わず想像したくなってしまう。

これはマスコミの言説に騙されて反プログレッシヴ・ロック的な態度をとるようになった熱烈なパンク・ファンには気に入らない話かもしれない。しかし事実を否定することはできない。イエスの『Tales from Topographic Oceans (海洋地形学の物語)』とラモーンズの『Rockaway Beach』を隔てる壁など、存在しないも同然なのだ。

Written By Jim Allen



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