レディー・ガガ『Born This Way』:「あなたが強い女性なら、誰かに認めてもらう必要なんてない」

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レディー・ガガ(Lady Gaga)のアルバム『Born This Way』には、3つの懸念ががあった。まず1つには、驚異的な大成功を収めたデビュー・アルバム『The Fame』に続く作品として期待される避けられないプレッシャー。2つ目に、ガガは芝居がかったルックスをしているが、語るに値するような何かを持っていることを証明する必要があった。そして最後に、実験的に挑戦し続ける彼女の姿勢は、新しいはけ口を求めていた。既にやったことをもう一度やるというのは、選択肢にはなかったのだ。

当時の彼女はプロモーションとツアーで多忙を極めていたにも関わらず、アルバムがリリースされる2011年5月23日の1年以上も前に『Born This Way』の楽曲は書き上げられていた。世界中を旅回っていたため細切れのスケジュールしか確保できず、レコーディングは途切れ途切れになったが、旅先で出会った人々をコラボレーターとして招待する機会を得た。彼女は、レッド・ワンやホワイト・シャドウを含むプロデューサーの大部隊を率いていたが、今ではこのような様式はポップ・ミュージックの慣習になっている。


「このアルバムはとてつもなくスケールが大きい」

2010年の後半になると曲のタイトルや、メロディーの一部が小出しにされ、ガガのファンたちは2011年が大きな年になることを確信していた。そして翌年1月の初めに『Born This Way』のキャンペーンが正式に開始された。彼女はビルボード誌の取材でこのように風に語っている。

「このアルバムはとてもスケールの大きい作品。ファンはきっと楽しんでくれると思っています」

翌月2月11日に、ファースト・シングルとしてアルバムのタイトル・トラック「Born This Way」がリリースされたが、マドンナの「Express Yourself」に似ているのではないか、という無益な論争が引き起こされてしまった。確かにこの「Born This Way」はマドンナの「Express Yourself」と同じDNAを共有しているといえるが、ガガの曲が持つエネルギーは別個のもので、力強さもある。そんな論争は楽曲に傷をつけるということはなかった。

この曲に込められた前向きであること、そして自らに自信を持つというメッセージも手助けして、「Born This Way」は全米チャートで1位を獲得した。これは彼女にとって、シングルチャートで1位を取った3曲目のヒット曲になり、同時にあらゆる主要なチャートでトップ10以上を獲得した。この曲は同月、グラミー賞授賞式で披露されたが、それは彼女の最も評価されたパフォーマンスの一つだ。ニック・ナイトが監督したビデオは、ファッション性の高いコンセプトを取り入れて、非常に印象的な視覚的効果を生んでいる。

アルバムの音楽ディレクター、フェルナンド・ガリバイと共に、ガガは『Born This Way』に収録された14曲で新しいサウンドと、わずかな方向転換を見せた。「Born This Way」に続いてシングル・カットされたレッド・ワンとのコラボレーション曲「Judas」は、80年代ポップに逆行して、ヒットするための安全策をとったようなものだったが、その他のものは非常に面白いものになった。

 

ダンス・フロアでも効果を発揮する音楽

当初は「Marry The Night」が『Born This Way』からの最初のシングル曲になるはずだったが、「Marry The Night」は最終的にアルバムからの最後のシングルとして、2011年11月に全世界でリリースされた。この曲を制作する上で、インスピレーションを受けたのはジョルジオ・モロダー、そしてブルース・スプリングスティーン、ミート・ローフやパット・ベネターといったロック・スターたちという、似ても似つかない組み合わせだった。

実際、80年代のメロディック・ロックはアルバムを通して明確にテーマのひとつだ。ガガはそのスタイルが持つ民族的な迫力を、シンセサイザーの多い彼女の音色に巧みに混ぜ合わせた。これによってダンス・フロアで親しまれ続け、彼女がライブやビデオで見せる姿とともに、ラジオでもそのサウンドの力強さは失われていなかった。

『Born This Way』からシングル・カットされたその他の2曲 、「You And I」と「The Edge Of Glory」は、さらにロック・テイストの強い仕上がりになっている。「You And I」にはクイーンのブライアン・メイが参加し、デフ・レパードやシャナイア・トゥエイン、最近ではマルーン5のプロデュースを手がけている音楽プロデューサーのロバート・ジョン・マット・ランジがレディー・ガガと共同プロデュースを行った。

彼らは少しばかりこのトラックのテンポを落として、カントリー・ミュージックの影響が感じられるような取り組みをした(そのカントリー・ミュージックの影響は、2016年のアルバム『Joanne』でさらにすばらしい形で昇華されることになる)。

「The Edge Of Glory」はポップスとロックを見事に融合した1曲になっている。この曲に客演し、サックス・ソロを披露しているのは、ブルース・スプリングスティーンのバック・バンド、Eストリート・バンドに在籍していたことで知られるクラレンス・クレモンズで、これは、今は亡きクレモンズが晩年に招かれたセッションの一つに数えられる。

 

「あなたが強い女性なら、誰かに認めてもらう必要なんてない」

批評家たちは『Born This Way』というアルバムの音楽性をどう表現したらよいのかと戸惑ったが、既存のスタイルを融合するというガガの野心的な試みを概ね支持した。「Government Hooker」は「Born This Way」のようなエネルギーを湛えているが、さらに濃密で、怒りを感じさせるダンス・ナンバー。「Scheibe」では唸るようなシンセサイザーが、親しみ深いレッド・ワンのポップ・コーラスを浮き彫りにしている。「あなたが強い女性なら、誰かに認めてもらう必要なんてない」とガガはこの曲のブリッジでうたっているが、キャリアのこの段階で既に、彼女が”承認”なんてものを必要としていなかったことは明らかだ。

メロディーは、まさにガガが作曲で成功し続ける核心であるが、このアルバムの至るところでも支えとなっていることがわかる。例えば「Highway Unicorn (Road To Love)」はシングル・カットされても申し分ないようなすばらしいリフを誇っている。そして『Born This Way』にはその標準に達していないような曲はほとんどない。

「Heavy Metal Lover」は彼女のダンス・ミュージックのルーツにしっかり支えられていて、その次の曲「Electric Chapel」はビリー・アイドルの20年前の作品を想起させる。「You And I」はエルトン・ジョンとバーニー・トーピンの共作だと言われても違和感を覚えないだろう。連続しているが、それぞれにまったく異なっているこの3曲は、ガガの音楽的な発展を特徴づける、途切れることない創造力、そして彼女の才能を証明するものだ。

リリースからほぼ10年経ち、発表時にかけられていた高い期待から解放され、『Born This Way』はガガの物語を後世に名を残すきっかけとなったアルバムとして見ることが出来る。つまりこのアルバムで、『The Fame』の大成功がまぐれではなかったこと、ガガがいわゆる一発屋ではなかったことを証明した。

人間の精神を祝福した、「Born This Way」=「信じる生き方を貫く」というメッセージはあまりにも単純に理解されているかもしれない。というのも、このアルバムにおいて発展を遂げた彼女の音楽的才能があまりにも目立つからだ。しかしガガが本当に示したかったことは、彼女が自分自身であることを快く感じているということであり、同じように重要なのは、私たち全員もそうありたいということだ。

Written By Mark Elliott



レディー・ガガ『Chromatica』
2020年5月29日発売
CD / iTunes / Apple Music



 

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