ドレイク『More Life』:一つの枠に納まらない“”プレイリスト”としての発売と驚くべきサンプリング6例

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一大現象を起こしたアーティストの次の一手はどうすべきか?

2016年にリリースされたドレイクの4枚目のアルバム『Views』は、2か月以上にわたって米チャートの1位に君臨し、それまでの彼の作品中で最も商業的に成功したアルバムになった。シングル「One Dance」は、自身のアーティスト名義リリース作品として初の全米1位を記録、英国ではなんと15週間連続でヒットチャートの王座に居座るなど、全世界15カ国で1位になった。

その翌年、ドレイクはアルバム、ミックステープ、EPのどれでもない”プレイリスト”という形で『More Life』をリリースした (“A Playlist By October Firm”という副題がつけられていた)。音楽的に一つの枠に納まってしまう不安をこの巧みな発想によって開放したこのカナダ人ラッパーは、今や世界的なスケールに至った彼のパッションを思う存分にぶつけることができたのだ。

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22曲を収録し、総尺1時間半以上という『More Life』は、ドレイクの最も発展的かつ多様性のある作品だ。日頃から彼が口にしてやまないロンドンのグライム・シーンに対する熱い思いは、ペッカム出身のラッパー、ギグスが2曲 (ストリートのワルもうなずく「No Long Talk」と「KMT」)で共演するという実を結んだ。加えて、南のギグスと双璧の北ロンドンのスケプタにトラックを丸ごと任せた曲 (「Skepta Interlude」は西海岸とグライムのマッシュアップである) も含まれている。

同じくUKから、R&Bヴォーカリスト、ジョルジャ・スミスも2つの異なるアフリカン・スタイルの作品で参加している。ブラック・コーヒーのプロデュースによる南アフリカ・ハウス・アンセム「Get It Together」と、アフロビートがきらびやかなテイク「Madiba Riddim」がそのトラックだ。

その他、サンファの実に感情豊かなヴォーカル・パフォーマンスをフィーチャーしたムーディーなソウル「4422」。これぞ見事なトラップの典型例といった「Free Smoke」「Fake Love」「Gyalchester」「Portland」。そして「Nothings Into Somethings」「Teenage Fever」、カニエ・ウェストのアシストが光る「Glow」などの目眩がするほどソウルフルなヒップホップ。ドレイクのアルバムがこれほどまでに長く人々の関心を惹きつけてやまない理由はそこにある。

ポップな要素への目配りも一級品レベルだ。「Blem」は、かつて「One Dance」を成功に導いたダンスホール・マジックの一部を上手く再活用しているのだが、「Passionfruit」の素晴らしさは更にその上を行っている。ハウスとダンスホールとの巧みなブレンドにドレイクのレイドバックぶりが見事なヴォーカルをフィーチャーし、シングルとしてリリースされてかなりのヒットを記録したのも納得である。

ドレイクの最近の傾向としてネガティブな内容が目立ち始めてきた (「Can’t Have Everything」のコーダ部で聞ける彼の母親からの息子への忠告はその一例だろう) という印象があったかもしれないが、 全体として『More Life』にはそのタイトルからも察せられる通り、オープンで太陽に包まれるような明るいトーンへの変化が見られる。

2017年3月18日にリリースされた『More Life』は、批評家と一般リスナーの両方から支持されて多くの好意的なレビューを得て、米チャートでは初登場で1位を獲得。ドレイクにとっては珍しいことではないが、またもや新たな快挙を成し遂げたのだった。


『More Life』で使用された驚くべきサンプリング6例

Song: 「KMT」
Sample: 「His World」 (Sonic The Hedgehog)

このプロジェクト全体で最も意外だったサンプルは、有名なビデオゲーム・キャラクターのソニック・ザ・ヘッジホッグだ。90年代の名作ビデオゲームのテーマソング「His World」がトラックにシームレスに織り込まれ、イギリスのグライム・アーティスト、ギグスとのこのコラボレーション作品の効果的なバックドロップになっている。

 

Song: 「Teenage Fever」
Sample: 「If You Had My Love」 (Jennifer Lopez)

2016年12月にドレイクとジェニファー・ロペスの一連の仲睦まじい写真が公になって以降、二人の交際についての噂やコラボレーション作品の可能性についてなど大きな話題になった。しかし実際に実現したコラボレーションはロペスの1999年のヒット曲「If You Had My Love」のリリックのサンプリングのみだった。主人公の心情の背景として曲中かなりの部分を占めるこの箇所は、イギリスの新人ジョルジャ・スミスの物憂げかつソウルフルなヴォーカルによるものだ。

 

Song: 「Glow」
Sample: 「Devotion」 (Earth, Wind And Fire)

ドレイクとカニエ・ウェストのコール・アンド・レスポンスが素晴らしい「Glow」。2分33秒から聞こえるのはアース・ウィンド・アンド・ファイアーの1974年の過小評価気味の中ヒット曲「Devotion」だ。

 

Song: 「Blem」
Sample: 「All Night Long」 (Lionel Richie)

このアフロ・カリビアン風味漂う片思いアンセムで、ドレイクは80年代パーティー・ヒットでライオネル・リッチーの代表曲の一つである「All Night Long」を2通りの異なるスタイルでサンプリングしている。曲の開始後2分地点のヴァース導入部分でドレイクが”Together forever”と歌う短い箇所では、かのヒットチャート王座に君臨した作品をサンプリングしている。そしてトラックがフェイドアウトする直前に同じサンプルが再び登場するのだが、こちらはリッチー本人が歌っているマスターを二次加工してぼかしたサンプルになっている。

 

Song: 「Lose You」
Sample: 「Ignition (Remix)」 (R Kelly)

このトラックのオープニングはカナダの暴走族「サタンズ・チョイス」に関する1965年のアングラ・ドキュメンタリーからのクリップだが、カナダが誇るラッパーのドレイクはその直後のリリックでR・ケリーの「Ignition」をわずかにサンプリングしてみせ、自身のポップ・カルチャーとの親和性を試している。と同時に、彼は「Lose You」をミーク・ミルを非難するトラックに仕立て上げたのだった。物議を醸しているR&B界のスーパースター、R・ケリーにドレイクが敬意を表すのはこの曲だけではない。ラッパーのパーティネクストドアによるヘビーなドライブ感が印象的なスロー・ジャム「Since Way Back」にも、「Clipped Wings」の短いリリックのサンプルが含まれている。

 

Song: 「Get It Together」
Sample: 「Superman」(Black Coffee, featuring Bucie)

ラップとサンプリング には切っても切れない長い歴史があるが、アメリカ中を巻き込んでのEDMのメインストリームへの台頭は、DJとヒップホップ・コミュニティーの間に多くのコラボレーションを生むことになった。ブラック・コーヒーによる2010年のディープ・ハウスのヒット作「Superman」をダイレクトなマスター・サンプルにして波打つようにリズミカルな「Get It Together」は、アルバム収録曲中でも出色の仕上がりだ。ヴォーカルには再度登場のジョルジャ・スミスだ。

Written By Paul Bowler





 

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