スティングの遊び心溢れる『Brand New Day』と自信が漲る『Sacred Love』

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20世紀が終わろうとしていたころ、世界中は何か新しいものを迎える心構えをしていた。それが何かを知る人はいなかったが、ノストラダムスによる予言では数世紀前から1999年に世界は滅びると言われてきた。コンピューターは2000年問題で誤作動を起こすとされ(Y2K問題とも呼ばれた)、それが人類の終焉の兆しだと言われていたのだ。

だがその中でスティングは楽天的な様子だった。それだけではない。多くの人が世界を揺るがすような破滅を恐れる中で、スティングは進化し続ける彼自身のサウンドに最新技術を嬉々として取り入れていった。彼自身にとって90年代最後かつ20世紀最後となったアルバムで彼は、ゲイリー・ニューマンとのコラボレーションで知られるキッパー・エルドリッジをプロデューサーに迎えた。同作にはほとばしるエネルギーと、これまでの彼の魅力に新たに加わった電子音楽への関心が感じ取れる。並のミュージシャンたちが苦戦する中で、スティングはいとも簡単に全く異なる影響源から彼ならではのアルバムを作り上げてしまう。そうして完成した威風堂々たる現代的アルバムをローリング・ストーン誌はこう評した「キャリアを重ねてからも新しいことに取り組み続けているからこそのサウンドである。飽きを感じさせない」。

題名からも読み取れる通り、『Brand New Day』は明るいアルバムで、光と空間の広がりを感じさせる。同作はスティングが一から再出発をした作品ではなく、過去を踏襲しつつ進化した作品だ。1985年の『The Dream of the Blue Turtles(邦題:ブルー・タートルの夢)』から続くワールド・ミュージックからの影響に加え、同作では色濃い東洋的な緊張感がキッパー・エルドリッジの生み出す電子音に自然と調和している。また、この『Brand New Day』からは『Ten Summoner’s Tales』で溢れていた遊び心も感じられる。『Brand New Day』は太陽が照りつけるはるか遠い島々のビーチのイメージを喚起させるという意味でも、スティングにとって初めてのアルバムと見做されている。

それもこれも、メロディとワールド・ミュージック、そして現代的なビートをうまく混在させるスティングの技によるところが大きい。アルジェリアの歌手、シェブ・マミとデュエットして英米でトップ20に入るヒット・シングルとなった「Desert Rose」はその好例だ。非常に喚情的な同曲は、アルバムのハイライトである「After the Rain Has Fallen」(スティングらしいサビの盛り上がりは、これを新世紀の「If I Ever Lose My Faith in You」とでも称すべき1曲にしている)と並んで彼のソロ作でも際立った楽曲となった。

 

シングルに採用されたこれら一連の楽曲のほかに『Brand New Day』にはスティングならではのスタイリッシュな佳曲が並んでいる。例えばボサノヴァにひねりを加えた「Big Lie, Small World」「Fill Her Up」といったトラックがこれに該当しよう。このうち「Fill Her Up」は冒頭こそカントリー風の曲調だが、途中でゴスペルのコーラスが入り、展開が変わっていく。そして「Perfect Love… Gone Wrong」は『Ten Summoner’s Tales』収録の「She’s Too Good for Me」を想起させる皮肉っぽい1曲で、スティングには珍しくラップを取り入れている。だが、当時のMTVの流行りだったマッチョなイメージのラップに真っ向から勝負するのではなく、フランスの女性ラッパー、Sté Strauszに印象的なパートを任せている。

もしもローリング・ストーン誌が『Brand New Day』を「1987年の『…Nothing Like the Sun』以来、最もスタイリッシュでまとまりのいいスティングのアルバムだ」と評していたら、彼らは2003年のアルバム『Sacred Love』に使うそれ以上の褒め言葉がなくなっていただろう。実際、同誌はスティングにとって2000年代に入って初のアルバムとなる『Sacred Love』を「ゴードン・サムナー(スティング)が最高の名シンガー・ソングライターだと改めて感じさせる鮮烈かつ絢爛な作品」と絶賛している。

『Brand New Day』に続くスタジオ・アルバムとなった『Sacred Love』は、スティングの自信が全編に漲るアルバムだ。同作にも自身の過去への尊重が見て取れるが、彼はそれを新たに作り変えることも憚らなかった。形式だけをみれば『Sacred Love』は『…Nothing Like the Sun』に似て、アルバム全体が一体となって流れていくような作品だ。一方で、スティングは「Whenever I Say Your Name」のような曲では未来を見据えていた。同曲は『Mercury Falling』所収の「Let Your Soul Be Your Pilot」を改変したような楽曲で、ゴスペルのコーラスがR&Bシンガーのメアリー・J・ブライジによる激しいゲスト・ヴォーカルに置き換わっている。

スティングは自身のソロ・アーティストとしてのキャリアを通してコラボレーションを積極的に行ってきたが、『Sacred Love』からはゲスト・ミュージシャン/シンガーに対する彼の度量の広さがとりわけ顕著に感じられる。フラメンコ・ギタリストのヴィセンテ・アミーゴが参加した「Send Your Love」、ラヴィ・シャンカールの娘であるアヌーシュカ・シャンカールをフィーチャーした「The Book of My Life」はその一例で、これらのトラックで、彼はゲストの最高のパフォーマンスを引き出しつつ、彼ら独自の色で自身の作品を染めさせてもいるのだ。

『Sacred Love』でもキッパーの電子的なビートが全体の土台となり、コーネリアスやウィル・アイ・アムといったアーティストがリミックスを制作する豊かな素材になった。そんな同作は約30年のキャリアを重ねた当時のスティングが、音楽家として最も脂の乗った状態にあったことを証明している。ローリング・ストーン誌は当時の彼について「広く世界に向けられた意識と、イギリス人らしいクールな慎み深さが同居している」と畏怖の念を表した。さらに同誌はスティングの仕事を「至って知性的で、音楽に野心的」なポール・サイモンやジョニ・ミッチェルの作曲になぞらえてもいる。彼らは境界線を敷くことを否定している点で似ているといえる。また、常に進化を続け、これからも進化し続けるスティングにそうしたアーティストは重なっているのだ。

Written By Sam Armstrong



スティング『Brand New Day』


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