ビーチ・ボーイズがポップスに持ち込んだ実験的かつ最高なアレンジの10曲

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Photo: Michael Ochs Archives/Getty Images

先日発売された『The Beach Boys With The Royal Philharmonic Orchestraでさらにビーチ・ボーイズ欲求が高まり、次のリリースまで待ちきれないあなた、過去のビーチ・ボーイズの楽曲の中にその渇望を満たしてくれる瞬間がたっぷりあります。ここにビーチ・ボーイズによる最高のアレンジメント10曲を紹介しよう。


1.「The Surfer Moon」(収録アルバム『Surfer Girl』1963年発売)

このドゥーワップのサーフ・バラードの登場はかなり控えめだったかもしれない。しかしこの曲にはブライアン・ウィルソン初のストリング・アレンジメントが起用されたため、この時期のビーチ・ボーイズの作品としては野心的だった。当時の音楽業界は完全分業制でミュージシャンにとって自分達が作曲したり、プロデュースすることはかなり稀だった。1963年7月16日に「The Surfer Moon」のレコーディングを行った時、ウィルソンは21歳になったばかりだったということを考えると、非常に衝撃的でもある。

つま弾くハープの音で始まる少年の失われたメロディは、わずかに揺らぐストリングスによって強調されており、ウィルソンのトレードマークである甘く切ない、不器用ながらも楽しんで制作する初期の一例となった。

2.「When I Grow Up (To Be A Man) (邦題: パンチで行こう)」(収録アルバム『The Beach Boys Today!』1965年発売)

ハープシコードのラインに合わせたハーモニーと共に始まるこの曲は、豪華なストリングスこそ起用してないものの、ブライアンとバンドを夢中にさせ始めていたそれまでのポップソングの構造により巧妙なアプローチを示しながらビーチ・ボーイズ最高のアレンジメントの初期の形を残している。

独創性にあふれたハープシコードとダブルリードのハーモニカの使用からもわかるようにポップ音楽には珍しい楽器で演奏され、パーカッションは慎重にアレンジメントに組み込まれている感じがある。そして曲が変化しながら突っ走ると同時に、そのハーモニーはリスナーの手を掴んで曲に引きずり込んでいく。丸々2分間、時期尚早なノスタルジアでいっぱいの曲にとっては悪くないのである。

3.「Please Let Me Wonder」(収録アルバム『The Beach Boys Today!』1965年発売)

Pet Sounds』は意外ではなかったはずだ。その前作『The Beach Boys Today!』のB面は、一年後にはグループが再び戻るであろう魅力的で敏感なバラードで全体的に構成されていたからだ。うっとりとデニス・ウィルソンが歌う「In The Back Of My Mind」は、彼らのキャリアの中でもよりどっぷり憂鬱な楽曲かもしれないが、『The Beach Boys Today!』の泣ける曲といえば、「Please Let Me Wonder」である。

迫り来る成人期に対する不安を抑えようとするかのように思われるこの曲は、思慮に富んだ表現方法が与えられている。ブライアンのアレンジメントは自制と繊細さの見本であり、曲の各セクションは新たな要素を導入し、それと共に視聴者たちの心を奪うのである。

4.「Let’s Go Away For A While (邦題: 少しの間)」(収録アルバム『Pet Sounds』1966年発売)

ただの一度もフレーズを繰り返すことなく、さらに曲の冒頭から最後まで頭の中で歌うことが出来るポップなインストゥルメンタルの曲は他にどれほどあるだろうか。ブライアンによると、歌詞を入れることを予定していたが、結果的にインストだけでも良い出来となったため歌詞を入れなかったそうだ。

この時代のビーチ・ボーイズのアレンジは、腕時計職人のように細部に注意を払いながら、古いしきたりに対して型破りでありながらも未熟な態度が相まったフル・オーケストラの絡み合う楽器の編成を起用し始めていた。何よりも「Let’s Go Away For A While」は非常に素晴らしく綺麗な曲だったため、ウィルソンが付け加えることに気が進まなかったのは無理もない。

5.「Don’t Talk (Put Your Head On My Shoulder)」(収録アルバム『Pet Sounds』1966年発売)

バック・ボーカルを入れなかった数少ないビーチ・ボーイズの作品のひとつ「Don’t Talk」では、言葉では伝えることができず苦悩に満ちたウィルソンを感じるだろう。「Listen, listen, listen…」と懇願するあとに、ゆっくりと流れるストリングスが喪失感を埋め、絶望的なサウンドを快く変える。

曲が感傷的になりすぎないようにした重要な要素は、キャロル・ケイの弾くベースである。彼女のウィットに富んだメロディーはこの曲に必要な勢いをもたらした。ブライアン・ウィルソン自身がこのベースラインを弾いてはいないが、それを書いたのはブライアンであり、特に『Pet Sounds』ではビーチ・ボーイズ最高のアレンジメントとなる要だった。

6.「Cabin Essence」(収録アルバム『The Smile Sessions』1966年制作、2011年発売)

『SMiLE』の壮大な熱意を包含する曲「Cabin Essence」は、カリフォルニアの緑に囲まれた西の平原に向かうアメリカの移住に関係したメッセージによって形成されている。

軽快で田舎風のバンジョーがリードするアメリカーナから、気がふれたかのようなチェロによるカオティックなワルツへと方向を変える4つのパートで構成されたこの組曲は、バロック音楽をテーマにした分野へとハンドルを切り、ファズ・ベースとブズーキ (ギリシャの弦楽器) によるうねるようなサイケリックのハーモニーと共に終わる。

その間ずっと、ブライアンは選りすぐりの鉄道員たちを連想させるパーカッション、シンコペーションのボーカル・ラインなどある種の革新的なテクニックを使い、他の誰からもかけ離れたビーチ・ボーイズ最高のアレンジメントを際立たせた。

7.「Good Vibrations」(シングル盤、1967年発売)

「Good Vibrations」はこの曲がどれだけ独特なのかすぐに忘れてしまうほど、非常に優れた親しみのある曲である。ビーチ・ボーイズは『Pet Sounds』リリース後、最高の状態で活動を行っていた。ブライアン・ウィルソンは、セッションで曲に取り掛かり始め、彼が満足するまで作業を続けるという快適な状態を与えられていた。

我々が耳にし、好んでいるバージョンは、4つのスタジオにて12回もレコーディングを行った成果であり、6つの異なるセクションを効果的に切り貼りされた作品だ。そして、その時点で彼らの何でもありの熱意の証拠ともいえるこの曲は、ビーチ・ボーイズの決定的な曲のひとつとなった。

新鮮な心で聴いてみて欲しい。歌詞を支える不気味な桟橋の隅っこにあるオルガンは、聞こえたり、聞こえなかったりしながら、まるで自分なりの考えがあるようでもある。パーカッション、かき鳴らすチェロ、幻の電子テルミンによって引き起こされる大胆なコーラス、最後のセクションに導く心細いカウボーイの口笛、それら全てが再びキャロル・ケイのために書かれたベースラインによってまとまるのである。

8.「Til I Die」(収録アルバム『Surf’s Up』1971年発売)

70年代の始めまでに、ブライアンはバンドにおいて積極的な関わりを持たなくなっていたものの、彼にはまだ見事なサウンドを生み出す才能があった。「Til I Die」は、ブライアンのむき出しの自伝的な曲であり、当時の状況を変えようと試みるというよりはむしろ、“自分が死ぬまで続けるであろう事” として受動的に受け入れているのだ。

ムーグのシンセサイザー、ビブラホン、オルガンを特色とする陰気に渦巻くアレンジメントで、サウンドの表現方法は楽曲のテーマと一致した。彼らの直感的な空間の活用によって、60年代中盤のビーチ・ボーイズ最高のアレンジメントが特徴付けられたところに、ウィルソンは音のレイヤーを積み重ね、悲しげな音楽的風景を作り出した。

9.「Cuddle Up」(収録アルバム『Carl & The Passions – So Tough』1972年発売)

「Barbara」や未だ未発表の「I’ve Got A Friend」といった当時の他のバラードに調子を合わせて、「Cuddle Up」はシンプルなピアノ中心でスタートするデニス・ウィルソンの曲だ。しかしコーラスが入ってくると、デニスは高まる感情的な激しさと調和させながら、絶えず上昇するストリングの渦で自身を取り囲んだ。

「Cuddle Up」は感情的な弱点を攻撃する前に、かなり美しく、哀愁を帯びたインストゥルメンタルのフレーズへと流れ込む。1970年の『Sunflower』に収録された「Forever」のような曲と併せて、ブライアンの創作力をスタジオで共有しなかった可能性があるものの、70年代のビーチ・ボーイズ最高のアレンジメントを作る才能がデニスにあったことをこの曲は証明している。

10.「Lady Lynda (邦題:秋風のリンダ)」(収録アルバム『LA (ライト・アルバム) 1979年発売)

ビーチ・ボーイズがクラシック音楽に最も真面目に手を出した一曲は、妻に対する賛辞としてバッハのカンタータ第147番「主よ人の望みの喜びよ」のフレーズを引用したギタリストのアル・ジャーディンによるものであった。

デニス・ウィルソンの助けによって、アル・ジャーディンはハプシコードのイントロと共に心地よいアレンジメントを完成させることができた。グループのポップな過去は過ぎ去ったかのように見えた時にリリースされたにも関わらず、このシングルは全英チャートで第6位を記録した。

Written By Jamie Atkins


ビーチ・ボーイズ『The Beach Boys with the Royal Philharmonic Orchestra』
品番:UICY-15747  *日本盤のみSHM-CD仕様

   


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