ロイエル・オーティスとは?:2020年代インディー・ポップ界トップランナーを彩る3つの側面

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2025年のフジロックフェスティバルで初来日を果たしたロイエル・マデルとオーティス・パヴロヴィッチによるオーストラリア出身のデュオ、ロイエル・オーティス(Royel Otis)。

2024年のオーストラリア最大級の音楽祭、ARIAアワードでは最多ノミネート・アーティストとして大きな注目を集め、“最優秀ロック・アルバム”や“最優秀グループ”など、計4部門を受賞、2025年でも4部門のノミネートされている。

2026年2月16日には東京・豊洲PITで初の単独公演が決定し、2月13日にはセカンド・アルバム『hickey』が日本限定ミニマガジン付きの独自企画盤として発売されていることも決定している。彼らの経歴や音楽性について、音楽ライター/ジャーナリストとして活躍されている粉川しのさんに寄稿いただきました。

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豪シドニー出身の大注目のインディーポップ・デュオ、ロイエル・オーティスが2月に待望の再来日を果たす。昨年フジロックの初来日ステージでの、煌めくポップとざらつくロックが、甘酸っぱいメロディとノイジーな疾走感が、リラックスした空気とメランコリーに浸された喪失感がゴチャ混ぜになった彼らのパフォーマンスに、瞬間ノックアウトされたファンも多いはず。

ロイエル・オーティスの魅力は実に多面的であり、デビュー以来何曲もヒットを飛ばし、2020年代のインディー・ポップ界隈のトップランナーとなった彼らが、どうにもその界隈の枠に収まりづらいのもまた、幾つものジャンルやムードが錯綜する彼らの表現の醍醐味なのだ。

ここでは改めて3つの側面からロイエル・オーティスの魅力を、彼らがオンリーワンである所以を紐解いてみることにしよう。

 

① 60年代から2010年代まで詰め込んだ、インディーポップの宝箱

ロイエル・オーティスは2019年、ロイエル・マッデルとオーティス・パヴロヴィッチによってオーストラリアのシドニーで結成されたデュオ。オーティスがメイン・ボーカル兼ギターで、ロイエルがギター兼サブ・ボーカルという役割分担で、曲は二人の共作。ライブではドラマーとキーボードがサポートで入るが、基本的にベースレスの変則編成からなるユニットだ。

彼らは2024年にデビュー・アルバム『PRATTS & PAIN』をリリースしているが、それ以前のEP、例えば『Bar n Grill』(2022)や『Sofa Kings』(2023)の段階で既にインディーとしては破格の大ヒットを飛ばしており、『Bar n Grill』収録のとびきりジャングリーな「Oysters in My Pocket」は、バイラルで記録的なスリーパーヒットと化しており、今日までにSpotifyで2億3千万回を超える再生回数を叩き出している代表曲だ。

そんな「Oysters in My Pocket」や、根底に気怠いR&Bが流れる「Sofa King」、これぞ80Sギタポ!なリリカルなギターが弾ける「I Wanna Dance With You」、はたまたダウナーなベースが這うNW調の「Razor Teeth」etc.、初期のナンバーを数曲聴いただけでも、ロイエル・オーティスがいかに広範囲な時代のインディー/オルタナティヴから影響を受けたバンドであるかが理解できるはず。

「ギターのトーンに関しては常にザ・キュアーとザ・スミスを参考にしていて、ドラムマシンとドラムビートはニュー・オーダーを参考にしている」とロイエルが言うように、ロイエル・オーティスの基本は80SのUKインディー、特にNWだが、同時にMGMTやザ・ドラムス、ガールズといった00年代USインディー、特にドリーム・ポップとの相似形も疑いようがなく刻まれている。前述の「Sofa King」のように、2010年代のインディー・ポップが避けては通れなかったオルタナR&Bの影響も色濃い。

また、彼らが育ったのが美しいビーチで知られる海沿いの街、バイロン・ベイであるのもリンクしているのか、サーフ・ポップも見逃せないエッセンスの一つだ。何しろ彼らにはモロにビーチ・ボーイズをオマージュしたナンバー、その名も「Going Kokomo」があるくらいだ。

ロイエル・オーティスを聴いていると、熟練(?)のインディーリスナーであれば必ずグッとくる瞬間が用意されているが、それは彼らの音楽が60年代から2010年代までの様々な時代から、キラキラと輝くインディーポップのエッセンスを拾い集めてきて詰め込んだ、宝箱のようなものだからだろう。

 

② インディーの枠を超えていくポップのデュアルな訴求力

今思えばロイエル・オーティスのデビュー・アルバム『PRATTS & PAIN』は、彼らのその宝箱を開けて中身を全部取り出し、整理し直したようなアルバムだった。

ウェット・レッグやフォンテインズD.C.といった、2020年代のトップ・バンドを手掛けてきたダン・キャリーをプロデューサーに迎えた同作は、必然的にオルタナティヴ・ロック志向を強め、彼らのモザイク状態だったサウンドをビルドアップする方向へと進んだ。

「『PRATTS & PAIN』は少しダークだった」と言っていたのはロイエルだが、例えば同作からシングルカットされた「Foam」を聴けばそれは明らかだろう。

ダークで凝縮感のある『PRATTS & PAIN』も悪くはないのだが、ロイエル・オーティスというユニットのポップの持ち味を抑制してしまった感も否めない。彼らにもその自覚はあったようで、最新作『hickey』では軌道修正が図られ、『Bar n Grill』や『Sofa Kings』の頃の自分たちを見つめ直したポップ作になった。

「『hickey』はライブでオーディエンスにどう伝わるか、たとえば『ここのパートはフェスで盛り上がりそう』とか、そういうことをこれまでよりも考えて作っていた」そうで、実際に同作はあちこちにフックが仕込まれた最高のキラーチューン揃いの一作で、「car」や「moody」を筆頭に前作以上に多くの人に聴かれ、ファン・コミュニティをさらに拡大させることに成功した。

『hickey』を提げてのツアーは各地でソールドアウト続出、今やロイエル・オーティスの受容はインディーポップ・バンドのそれをはみ出しつつある。そう、これが二つ目のポイントで、彼らはインディーとメジャーの境界線を気づいたら超えていたユニットなのだ。

ロイエル・オーティスの『hickey』は、原点回帰のインディー・ポップ作でありながら、前述のように彼らがインディーの枠を大きく踏み越えていくきっかけを作ったアルバムだ。時代を超えたインディー・ポップのエッセンスのモザイク感覚はそのままに、モザイクの素材一つ一つが磨かれ、よりクリアな輝きを放ち始めた……とでも言うべきか。

この変化を生み出した最大の要因は、曲作りに外部のクリエイターが多数参加し、プロデュースのみならずソングライティングでも共作が実現したことだろう。しかもブレイク・スラトキン、オメル・フェンディ、エイミー・アレンといった同作に集結したブレーンは、チャーリーXCXやサブリナ・カーペンター、ハリー・スタイルズらと仕事をしてきた、メジャー・ポップの錚々たるクリエイターたちだ。

もともとポテンシャルは十分だったロイエル・オーティスのポップが、インディーからメジャーへと同作で緩やかにかたちを変えていったのは必然だったのかもしれない。

また、『hickey』のリリースと前後して彼らのブレイクの大きな原動力となったのが、2曲のカバー曲――ソフィー・エリス・ベクスターの「Murder On The Dancefloor」とクランベリーズの「Linger」――のバイラルヒットだったというのも見逃せない点だろう。

どちらもラジオ局の企画物のライブ・セッションとしてレコーディングされたものだが、「Linger」の再生回数は既に2億3千万回を突破、彼らに初のビルボードTOP100入りの称号をもたらすに至った。

2000年代ディスコポップの名曲として近年リバイバル中の「Murder On The Dancefloor」と、90年代オルタナティブの中で最もポップに寄った名曲と言っていい「Linger」という絶妙のラインも、ガチガチのインディー・ピュアリストであったなら選ばないもので、この軽やかなバランス感覚は、例えばThe 1975あたりと近いものがある。

 

③ 無頓着にアイコニック

一方、ロイエル・オーティスとThe 1975のような2010年代のクロスオーバー・バンドには明らかな違いがあって、それはThe 1975がエゴマニアックなマティ・ヒーリーのパーソナリティと深く結びついた、超自覚的なポップの越境者だったのに対し、ロイエル・オーティスはとことん無自覚に、自然にやっているという点だろう。彼らは超えるべき境界自体が曖昧になりつつある、極めて2020年代的な存在であるからだ。

Netflix制作のジュブナイル・ドラマに出てきそうなルックスの持ち主であるロイエルと、カラフルな前髪で常に顔が隠れているオーティスの並びはアイコニックだが、コンセプチュアルにバシッとキメるタイプのそれではなく、日常の延長線上の無頓着な格好良さであるのも、「共感」が大きなポイントになるZ世代のリスナーを惹きつけるものになっている。

ロイエル・オーティスの佇まいが格好付けない格好良さ、というトレンドと合致していることは、アグリー・クールの代表格として大人気のスニーカー・ブランド、サロモンとコラボしているあたりにも象徴的だろう。

ロイエル・オーティスの無自覚にアイコニックで、共感を呼ぶ飾らない性質は、声を上擦らせてガムシャラに歌い、2本のギターの役割分担もすっ飛ばして競うように掻き鳴らすライブのエネルギーにも、そして大事な何かを「失う」という情景の数々を、赤裸々な痛みに乗せて描く歌詞世界にも共通するものだ。

もったいぶったレトリックはいらない。ロイエル・オーティスは今この瞬間のライブの楽しさも、癒えない失恋の哀しみも、これからも何かを失い続けるという予感すらも、全部リアルに等身大に、全部かき集めて輝かせてみせる。彼らのインディー・ポップはインディーを超え、気づいた時には私たちの日常に寄り添うポップになっていたのだ。

Written By 粉川しの


ロイエル・オーティス『hickey』
2025年5月9日発売
iTunes Store / Apple Music / SpotifyAmazon Music / YouTube Music

日本限定盤:2026年2月13日発売



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