オリヴィア・ディーンとは? 2025年UKネオ・ソウル/R&Bシーンから世界に羽ばたく新鋭

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Photo : Lola Mansell

昨年のサマソニで初来日したイギリス出身のシンガーソングライター、オリヴィア・ディーン(Olivia Dean)がニュー・アルバム『The Art Of Loving』を2025年9月26日にリリースした。

同作からの先行シングル「Man I Need」が全英シングルチャート2位、SptofyのGlobalチャートでは4位を記録している彼女について、ライターのセメントTHINGさんに寄稿いただきました。

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その経歴と歌うきっかけ

世界が注目するイギリスのシンガーソングライター、オリヴィア・ディーン。デビューからわずか7年でSpotifyの月間リスナー数は2,500万人を突破し、コーチェラやグラストンベリーといった世界的フェスにも出演するなど、着実にキャリアを重ねてきた。さらにサム・フェンダーとはコラボ曲を発表し、サブリナ・カーペンターのツアーではオープニングアクトに選ばれるなど、名だたるアーティストからも高い評価を受けている。

そして、その人気はアジアにも広まりつつある。BLACKPINKのロゼがSNSで楽曲を使用し、NewJeansのハニがカバーを披露するなど、K-POPスターたちからの支持が相次いでいるのだ。また日本でもサマーソニック2024への初出演、そして東京での単独公演が大きな話題となった。

そんなオリヴィアは待望の2ndアルバム『The Art of Loving』を9月26日にリリースしたばかり。伝説的なブラック・フェミニスト、ベル・フックスの著作(とそれへの応答として制作されたミカリーン・トーマスの展示)に着想を得て、「愛」というテーマを繊細に掘り下げた一作だ。

前作よりさらに成熟し深みを増したその表現は、すでに海外メディアからの絶賛を集めている

この若き才能を生んだ背景とは、いったいどんなものなのだろう?

1999年にジャマイカ系ガイアナ人の母とイギリス人の父との間に生まれたオリヴィアは、ロンドン北東部のハイアムズ・パークで育った。両親は二人とも大の音楽ファンで、なんと彼女のミドルネーム「ローリン」は、ローリン・ヒルにちなんでいるそう。そのローリンはもちろん、アル・グリーンからキャロル・キングまで、いろんな音楽があふれる環境で彼女は歌手への夢を膨らませていった。

15歳の時、オリヴィアはアデルやブラック・ミディなどを輩出した芸術系の高校、ブリット・スクールに入学。当初は演劇専攻だったが、転向して作曲を始める。卒業コンサートでいまのマネージャーの目に留まり、ドラムンベースバンド・ルディメンタルのバックシンガーのオーディションを紹介され合格。2019年には彼らの楽曲のゲストボーカルに抜擢される。

同年、オリヴィアはデビューEP『OK Love You Bye』をリリース。まったくの新人の作品ながら数百万回再生を達成するヒットとなる。これをきっかけに、彼女はレコード会社との契約を獲得することになった。

 

どんな楽曲でどんなサウンド?

だがなぜ、オリヴィアは異例の速さでリスナーを魅了することができたのだろう?

まずあげられるのが楽曲の圧倒的な耳馴染みのよさだ。アレサ・フランクリンなどクラシックなソウルに学んだオリヴィアだが、そのメロディやアレンジはポップでキャッチー。それは彼女がシュープリームスなど、親しみやすくきらびやかなモータウン・サウンドを愛聴してきたのも大きいのだろう。

(映像がシュープリームスへのオマージュになっている)

ここでオリヴィアの代表曲「Dive」を聞いてみよう。ゴージャスなホーンセクションに甘美なハーモニー。そこに明るいメロディが乗り、一聴して心を奪う華やかな楽曲に仕上がっている。ソウルフルな歌唱とリッチなサウンドが溶け合う、モダンなモータウン解釈といった趣のポップ・ソウルだ。

そのようにしてオリヴィアは、いくつものジャンルを組み合わせ、彼女なりのユニークなサウンドを作り上げてきた。「UFO」ではエレクトロニカとフォークの融合に挑戦。「Danger」では愛するラヴァーズ・ロックの影響を打ち出し、「Nice to Each Other」においては爽やかなギター・ポップを披露している。

 

UKソウルからの影響

ヴィンテージ・ソウル/R&Bを作風の基本としつつも、ポップやロックなど他のジャンルからの影響もさらりと取り入れる。その枠にとらわれない軽やかで心地よいサウンドが、配信時代のリスナーの心をすぐ掴んだのも納得だ。

ただこの多様なサウンドを消化し、自分なりのソウル・ミュージックを構築しようとするオリヴィアの姿勢が、1980年代後半~90年代の「UKソウル」の衣鉢を継いでいることも指摘しておきたい。

ジャマイカなど西インド諸島のルーツをもつ人々が活躍し、USからの影響も受けてきたイギリスのシーン。そんな背景をもつUKのミュージシャンたちは、レゲエやファンク、ヒップホップなどを再解釈し、「UKソウル」と呼ばれるサウンドを生みだした。

戦後にイギリスへ移住した、“ウィンドラッシュ世代”の移民一世の祖母を持つオリヴィア。彼女は自曲「Carmen」でスティールパンを使い、自身のルーツと祖母の人生を美しく祝福してみせた。社会と個人の歴史が交差する場所から、自分らしい音を奏でる彼女の存在は、UKソウルの現在地を示しているといえるのかもしれない。

 

ヒット曲「Man I Need」と歌詞

ここまでオリヴィアのサウンド面に注目してきたが、等身大の自分らしさを打ち出した歌詞もまた、彼女の楽曲の重要なポイントだ。

女性平等党の副党首を務めた法廷弁護士の母を持ち、自分は「筋金入りのフェミニスト」だと言い切るオリヴィア。そんな彼女の歌詞は、若い女性として直面する人生の悩みに向き合い、自分の感情や欲望をはっきり表現するものだ。ロンドンっ子らしいさばけた調子で語られるその内容は、驚くほど率直で、裏表のない風通しの良さが感じられる。

ちなみに恐れず自分をさらけだしていく姿勢は、エイミー・ワインハウスから大きく影響を受けたとのこと。エイミーがそうであったように、オリヴィアもまた、フィルターなしのリアルな女性の心情を、表現へ落とし込むスキルの持ち主なのだ。

ヒット中の最新シングル「Man I Need」は、まさにそんな彼女の魅力が、ぎゅっと詰まった一曲になっている。

マイケル・ジャクソンやティアーズ・フォー・フィアーズから影響を受けた、80年代風のドラマチックなシンセとピアノにのせて彼女が歌うのは、恋人へのはっきりとした要求だ。

曲のなかで、彼女はこう訴える。《さあ、チャンスは与えた/だからもう、臆病になるのはやめて/私に話しかけてみて/私に『あなたこそ必要な人』って思わせて》オリヴィアの言葉を借りれば、これは「自分がどのように愛されるべきかを理解し、それを恐れずに求めること」を歌った曲なのだ。

ダンサブルなビートに乗って、恋に落ちる直前の高揚感を鮮烈に描き出す。そこからは自信に満ちた現代的な女性像と同時に、人生や恋愛に対する前向きな希望さえも感じられる。その突き抜けたポジティブな態度こそ、この曲がいまリスナーたちから熱い共感の声を集めている理由なのだろう。

 

ファッション界や映像業界からの注目

豊かな文化的背景を反映させた楽曲でいまの女性のリアルを表現、その知名度を拡大させているオリヴィア。そんな彼女の確固たる存在感には、ファッション界からも熱視線が注がれている。

CHANELはデビュー・アルバム発売前にオリヴィアアンバサダーに早々と指名。そのアルバムのツアー時にはAdidas Originalsと組んでカプセルコレクションを発表。今年に入ってBURBERRYのフレグランス「Her」のキャンペーンモデルにも就任している。

映像方面も同様だ。Netflixのヒットドラマ『HEARTSTOPPER ハートストッパー』では「Dive」が、HBOの人気シリーズ続編『AND JUST LIKE THAT… / セックス・アンド・ザ・シティ新章』では「The Hardest Part」が、それぞれ印象的に使用されている。

また映画『ブリジット・ジョーンズの日記 サイテー最高な私の今』には、オリヴィアが作品を象徴する一曲として、「It Isn’t Perfect, But It Might Be」を書き下ろした。

ありのままの自分を誠実に歌い上げ、世界の共感を集める新世代の歌姫、オリヴィア・ディーン。ソーシャルメディア全盛の時代だからこそ、彼女のあたたかく人間味あふれる「ソウル」は、ますますその輝きを増していくはずだ。

Written By セメントTHING


オリヴィア・ディーン『The Art Of Loving
2025年9月26日発売
CD / LP / カラーLP / iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music



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