シティ・ポップの中心人物、Night Tempoが目指す“ネオ昭和”の世界とメジャーオリジナルアルバム

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2021年12月1日に発売となった音楽プロデューサー/DJのNight Tempoによる初のメジャーオリジナルアルバム『Ladies In The City』。シティ・ポップのリバイバルヒットの中心自分である彼や新作について、音楽ジャーナリストの柴 那典さんがインタビュー&寄稿いただきました。

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「昭和の音楽でLAの2000人が合唱する不思議な世界線に僕らは生きています」

2021年11月、その言葉と共にNight Tempoがツイッターに公開した動画は、かなり衝撃的なものだった。

場所はカリフォルニア州ロサンゼルスにある2400人キャパのクラブ/ライブハウス、The Novo。2008年にClub Nokiaとしてオープンし、2013年にはデビュー当時のアリアナ・グランデが、2015年には初のアメリカ公演を行ったBTSがステージに立った由緒正しいベニューである。

Night Tempoは、そのThe Novoで11月20日、21日と2日間の公演を開催。動画には満員のオーディエンスを前に泰葉の「フライディ・チャイナタウン」をかけて大盛り上がりになっている様子が切り取られている。

同じく、松原みき「真夜中のドア〜stay with me」も大合唱の熱狂を呼んでいた。

 

シティ・ポップの中心人物Night Tempo

ジャパニーズ・シティポップが海外で人気を呼んでいる――。そういう言説を耳にした人は少なくないだろう。竹内まりや「プラスティック・ラブ」への注目をきっかけに、2017年頃からアメリカやアジアの音楽ファンを中心に巻き起こってきた新たな潮流は、たびたびメディアにも紹介されてきた。

その現場のど真ん中でシーンを開拓してきたDJ/プロデューサーが、Night Tempoだ。韓国に生まれソウルに拠点を置いて音楽活動を繰り広げてきた彼は、2010年代半ばからMACROSS 82-99、Yung Baeらとフューチャー・ファンクと呼ばれるムーブメントを形成。Soundcloudを中心にしたインターネット上でのコミュニティから頭角を現した彼は、2019年からはシティポップや80年代アイドル歌謡を発掘し公式リエディットする「昭和グルーヴ」シリーズをスタートし、フジロック・フェスティバルへの出演も実現するなど、日本でも幅広い世代から脚光を浴びてきた。

 

本人が語る新作アルバム

そんなNight Tempoが満を持して完成させたのが初のメジャーオリジナルアルバム『Ladies In The City』。野宮真貴、BONNIE PINK、道重さゆみ、上坂すみれなど10名のゲストボーカリストを迎え、ひとつのコンセプトをもとに全曲書き下ろしのナンバーを揃えた一枚だ。アルバムのテーマは、タイトルにもある通り「都市に暮らす女性」。Night Tempoは新作のアイディアのスタート地点について、こう語る。

「まずはテーマがあって、その世界観にあわせて作りたい音楽を作っていきました。コンセプトとしては、女性の声を借りて女性の普段の物語を描くということ。今までの社会では功績が全部男性のものになってきたけれど、文化の中心にはいつも女性がいたと思うんです」

アルバムのモチーフになっているのは、80年代から90年代にかけての日本の都市のムードだ。音楽だけでなくドラマやファッションなど昭和の日本の消費文化全般を深く掘り進めているNight Tempo。単に「昭和の音楽をリエディットする」だけでなく、そのムードや背景にある時代感を汲み取って自分だけのオリジナルの音楽を作ろうという試みが結実している。

「影響があったと思うのは、日本のトレンディドラマですね。最近、コロナで空いた時間にトレンディドラマを観たらハマってしまって。今のような息苦しい時代に、こういう空気、こういう世界を思い出すことができたら嬉しいんじゃないかなって。だから、今よく言われているようなシティポップとは、ちょっと違うんです。同じ“シティ”ではあるんですけれど、僕が扱っているシティは派手ではなくて。渋谷系のあたりの音を現代的に解析したようなところもあります」

ダフト・パンクをルーツに掲げ、DJやリミックスにおいてはフューチャーファンクのサウンドを得意にしてきたNight Tempo。オリジナル作となるアルバムでは、ハウスも含めたより幅広いテイストのクラブ・ミュージックのサウンドを手掛けている。“渋谷系”という言葉も“シティポップ”と同じく解釈が様々にわかれる言葉ではあるが、曲調全般には90年代の渋谷にあったクラブカルチャーに通じる匂いがある。

「今回はオリジナル曲でもサンプリングっぽい音を出したかったので、いろんな機材を使ったり、セルフサンプリングをやったりして音の雰囲気を作っていきました。ビートに関しても、今まではフューチャーファンクっぽい四つ打ちが多かったんですけれど、今回はいろんなジャンルを“Night Tempo化”したというのがポイントだと思います。音楽を詳しく聴いている人は『これはアシッドじゃない、ディープ・ハウスじゃない、シティポップじゃない』って言うと思うかもしれないんですけれど、僕はそういうジャンルそのものをやりたいわけではなくて。それ風のサウンドを作りたかったというのがあります」

 

ゲストボーカリストについて

世代を超えた面々が集まったゲストボーカリスト陣に関しても、Night Tempo自らがセレクトしていったという。道重さゆみ、上坂すみれ、山本彩など豪華な面々が集ったが、基準になったのは「声」だった。

「ボーカリストのみなさんは、声にキャラクター性がとてもあるんです。特徴のある声で、曲の雰囲気を彩ることができる。有名かどうかとか、売れるからどうかではなく、ただ自分が好きな声をリサーチして選んだ感じです。実際のところ、僕は2000年代以降の日本の音楽に詳しくないので、どれくらい有名か、どれくらい豪華なのか、よくわからない方もいて。でも、ほとんどの方がオファーを受け入れてくださって、スムーズに決まりました」

野宮真貴とBONNIE PINKの参加も大きなポイントだろう。両者は、それぞれが歌う「Tokyo Rouge」と「Wonderland」という曲で作詞も担当している。

「都会のお洒落なイメージと言ったら、まず野宮真貴さんが思い浮かぶ。世界観を説明するために、すごくわかりやすいボーカリストの方でした。曲を作るにあたっては野宮さんが自分の世界観に似合う歌詞を書いていただいて。すごく考えがあうし、仕事をしやすかったです。BONNIE PINKさんもすごくプロフェッショナルな方でした。曲の雰囲気と世界観を説明したら、それに合わせて不思議の国のアリスを恋愛の話にして歌詞を作るというアイディアをいただいて。そういう発想も都会的だと思ったし、今回のアルバムは女性の感性がいちばん重要だったので。そういう意味でもよかったです」

ちなみに、「Wonderland (feat. BONNIE PINK)」はLAでのライブでもいち早く披露され、この曲のオーディエンスの反応も上々だったようだ。

刀根麻理子と国分友里恵という、80年代から活躍してきたシンガーを迎えているのもアルバムの大きなポイントだ。

「刀根麻理子さんって、80年代後半の曲が多いんで、もともと曲がユーロディスコみたいなところがあって、フューチャーファンクっぽいんです。たとえば『BROKEN EYES』とか、サンプリングのネタになっている曲も多い。なので、定番のフューチャーファンクを歌っていただいたんですけれど、やはり本家は違うなって思いました。国分友里恵さんは、やはりシティポップのリバイバルの中で再評価されていて。すでに人気もあるし『Relief 72 hours』っていうアルバムがとても有名になっている。それで、ヴェイパーウェイヴっぽいニュアンス、レトロポップのニュアンスを持つ外国人の目線からのシティポップを作ろうと思いました。ローファイなサウンドで曲を作ったんですけれど、そういうサウンドにボーカルがすごく合うんです。やっぱり本家は違うなって思いました」

2022年1月から2月にかけてには、『Night Tempo presents ザ・昭和グルーヴ・ツアー 2022』と銘打った来日ツアーが開催される。2年ぶりとなる来日公演は、彼の追求する“ネオ昭和”の世界を堪能できる場になるはずだ。この先に向けてどんなことを考えているか?と問いかけると「まだまだやりたいことはいっぱいある」と自信たっぷりに答えてくれた。

「今はまだ、やりたいことのうち、ちょっと見せたぐらいだと思います。曲を作るのは当然だし、もっとカテゴリーなしで、ボーダーなしで、作りたいものを自由にどんどん作っていきたい。そうすれば、きっとわかってくれる人も多くなってくると思います」

Written By 柴 那典



Night Tempo『Ladies In The City』
2021年12月1日発売
CD / iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music



 

 

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