60周年を迎えたスコーピオンズの歩みと最新ライヴ盤『Coming Home Live』

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Scorpions_2025_© marc theis

ドイツが世界に誇るハードロック・バンド、スコーピオンズ(Scorpions)。今年結成60周年を迎えた彼らは、2025年7月5日に地元のハノーファー・スタジアムにてジューダス・プリーストとアリス・クーパーをゲストに迎えて初のスタジアム公演を開催し、12月5日にライヴ・アルバム『Coming Home Live(邦題:蠍団の帰還~カミング・ホーム・ライヴ)』として発売された。

UNIVERSAL MUSIC STORE限定で、CDやLPと20cm大のサソリの人形やTシャツとのセットの商品も販売されている(購入はこちら)このアルバムの発売を記念して、音楽評論家の増田勇一さんに寄稿いただきました。

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バンド活動自体が還暦

12月5日に発売されたスコーピオンズのライヴ・アルバム『Coming Home Live(蠍団の帰還~カミング・ホーム・ライヴ)』が好評だ。この作品のアルバム・カヴァーではバンド名のロゴに“60”という数字が組み込まれているが、それが示す通り、バンドは今年、結成60周年を迎えており、去る7月5日には彼らの故郷にあたるドイツはハノーファーのハインツ・フォン・ハイデン・アレーナ(地元のサッカーチーム、ハノーファー96のホームグラウンドにあたり、コンサート開催時の収容規模は約5万人)にて、ジューダス・プリースト、アリス・クーパーをスペシャル・ゲストに迎えながらアニヴァーサリー公演を行なっている。そして今作には、その際に演奏された全曲が漏れなく収録されている。

近年では70年代に生まれたバンドや名盤の多くが50周年を迎えており、ロックの歴史も長くなってきたものだと実感させられる。そこで逆にそうした数字自体があまり驚きを伴わなくなってきつつあるのも事実だが、スコーピオンズの場合、いわばバンドとして還暦を迎えているわけで、改めてその歴史の長さに敬意を払わずにはいられない。一度は引退宣言とその撤回を経てきた彼らではあるが、なにしろ今も現役感たっぷりのライヴ・パフォーマンスを続けているのだから。この『Coming Home Live』からも、そんな彼らならではの説得力を感じずにはいられない。

 

ツェッペリンやディープ・パープルより長い歴史

スコーピオンズがルドルフ・シェンカーにより結成されたのは、単純計算すればわかる通り、1965年のこと。当時はいわゆるマージー・ビートに触発された演奏スタイルで、ルドルフ自身がヴォーカルをとっていたが、兵役に起因するメンバー脱退などを経て、1969年にはフロントマンにクラウス・マイネが、そしてルドルフの実弟にあたるマイケル・シェンカーがリード・ギタリストに迎えられている。

ちなみに1965年はザ・ビートルズの歴史でいえば『Help!』と『Rubber Soul』、1969年は『Yellow Submarine』と『Abbey Road』の発表年にあたる。さらに言えば、レッド・ツェッペリンやディープ・パープル、ブラック・サバスが結成されたのは1968年のことだった。スコーピオンズのデビュー作にあたる『Lonesome Crow』が世に出たのは1972年に入ってからのことだったが、バンドの歴史自体は、そうした英国産ハード・ロックの先駆者たちよりも長いということになる。

 

蠍団とライヴ盤

その長い道程において、スコーピオンズは『Rock Believer』(2022年)に至るまで19作のオリジナル・アルバム、そして今回の『Coming Home Live』も含めて7作のライヴ・アルバムを発表してきた。

ライヴ作品のなかでも名盤との誉れ高い『Tokyo Tapes(蠍団爆発)』(1978年)、『World Wide Live』(1985年)は、このバンドが70年代のうちから日本で人気を博していたこと、80年代に世界的な飛躍を果たしたことを裏付ける歴史的物証でもある。筆者は2007年10月に彼らが来日した際、クラウス・マイネに対面取材しているが、その際に彼は1978年の初来日時を振り返りながら次のように語っていた。

「こうして東京に来られることは、俺たちにとってとても価値のあることだ。このバンドの歴史において、日本という国は常に特別な意味を持ち続けてきたんだ。70年代、初めて日本に来た時、スコーピオンズは“今後が期待される若手バンド”だった(笑)。でも、その日本公演を切っ掛けに、俺たちはインターナショナルなバンドとして歩み始めることになった。世界的なバンドとしてのスコーピオンズの歴史は、1978年のライヴ・アルバム『Tokyo Tapes』から始まったと言っても過言ではないね」

また、ごく最近になって改めて彼から話を聞く機会を得たが、彼の中で『World Wide Live』の記憶は、1983年にカリフォルニア州サンバーナディーノで開催された巨大野外フェス、『US Festival 83』の記憶と重なるところがあるのだそうだ。実際のところ同作に収録されているライヴ音源は1984年から1985年にかけてのワールド・ツアーの際、欧米各地で収録されたものだが、1983年5月に行なわれた同フェスへの出演が、自身にとってのワールドワイドな成功劇を象徴するものとして鮮烈な記憶になっているのだろう。

僕は幸運にも同フェスを現地で観る機会に恵まれ、当然ながらスコーピオンズのステージも目撃している。彼らはその前年にあたる1982年9月に三度目の来日公演を実施し、東京、京都、福岡、大阪、名古屋の各都市で計8公演を行なっている。その際の、まさしく全身全霊という言葉が似つかわしいライヴ・パフォーマンスも素晴らしかったが、『US Festival 83』においての彼らは、その来日時以上にグレードアップされ、アリーナ/スタジアム級のバンドとしてのスケール感を身に着けていた。

しかも彼らの出演したヘヴィ・メタル・デイはクワイエット・ライオット、モトリー・クルー、オジー・オズボーン、ジューダス・プリースト、トライアンフ、スコーピオンズ、そしてヴァン・ヘイレン(以上、実際の出演順)という超豪華な出演ラインナップ。この顔ぶれのなかでヘッドライナーのひとつ前という重要なポジションを務めた彼らは、35万人もの大観衆を熱狂させている。

ちなみにヴァン・ヘイレンにとって同フェスへの出演は、1983年におけるアメリカでの唯一のライヴの機会となり(同年1~2月には南米ツアーを実施)、この年の後半は翌年1月に世に出ることになる『1984』の制作に費やされている。そしてオジー・オズボーンにとってはこの時が新ギタリスト、ジェイク・E・リーのお披露目の機会となった。ジューダス・プリーストは『Screaming For Vengeance』(1982年)と『Defenders Of The Faith』(1984年)の間の年ということになる。時期的なことを考えても、北米におけるメタル隆盛期の入口となったのがこのフェスだったと言っても過言ではないだろう。

その『US Festival 83』で同じステージに立ったジューダス・プリースト、オジー・オズボーンに対して、クラウスは「同じ時代を生き抜いてきた同志たち」といった想いを抱いているという。そして皮肉なことに彼らの60周年記念公演がハノーファーで行なわれていたのと同じ7月5日、イギリスのバーミンガムでは『Back to the Beginning』と銘打たれたスタジアム公演が行なわれ、ブラック・サバスとオジーが自らの歴史に終止符を打ち、オジーにとってはそれが生涯最後のステージとなってしまった。

ふたつの歴史的公演の開催日が重なったのは当然ながらあくまで偶然のことであり、クラウス自身も「できることなら私自身もオジーたちのもとに駆け付けたかった。ただ、あの日は自分たちのライヴをやりつつも気持ちをバーミンガムに向けていた」と振り返り、サバスと同様にバーミンガム出身のジューダス・プリーストが、スコーピオンズの公演に予定通り出演したこと(当然ながらそれが先に決まっていたわけだが)について感謝の言葉を口にしていた。

 

60周年の凱旋ライヴ

そして今作『Coming Home Live』はドイツのアルバム・チャートで2位を獲得するなど、快調な滑り出しを見せており、バンドは2026年も60周年記念のツアーを展開していく。現在のところ発表済みなのは3月下旬から7月末にかけての欧州ツアーのスケジュールのみだが、日本に対して特別な感情を抱き続けてきた彼らだけに、この国への再上陸についても当然考えていることだろう。

そういえば筆者は2007年の来日取材時、ちょうどそれが『Tokyo Tapes』の発売30周年を翌年に控えていた時期だったこともあり、日本でふたたびライヴ・アルバムを録ってはどうかと提案したことがある。その際、クラウスは「素晴らしいアイディアだね。あの時と同じように中野サンプラザホールで録音できたら最高だ」と語っていた。残念ながら今のところその提案は採用されていないままだし、中野サンプラザホール自体も閉館してしまったが(とはいえ今現在、解体工事および再開発の計画は一旦白紙となっているとのこと)、この先それが実現する可能性はゼロではないはずだ。

ちなみにクラウス自身は「これまでの歴史の長さを踏まえれば、この先の活動年数が限られているのは考えなくてもわかることだ。ただ、ルドルフは早くも『次は70周年だ!』と言い始めているけどね(笑)」と語っていた。そして実際、『Coming Home Live』に詰め込まれたエネルギーに触れると、それも夢物語ではないんじゃないかと思えてくる。この先も、蠍団の動きから目を離さずにおきたいところだ。

Written By 増田 勇一



スコーピオンズ『Coming Home Live』
2025年12月5日発売
CD・LP / iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music




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