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ダフィーの音楽と人生:「ジョジョ」に起用され再注目される00年代を代表するUKソウルの歌姫

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Photo by Lachlan Bailey

2021年12月1日よりNetflixにて第1話~第12話まで全世界独占先行配信が開始されたアニメ「ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン」。このエンディングテーマに英国シンガー・ソングライター、ダフィー(Duffy)の楽曲「Distant Dreamer」が起用され、本楽曲は日本や世界のストリーミングサービスで急上昇を記録している。

では、このダフィーとはどのようなアーティストだったのか? 本人に取材した経験を持つ、音楽ライターの内本順一さんに寄稿いただきました。

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【和訳】Duffy – Distant Dreamer | アニメ「ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン」エンディングテーマ

 

12月1日にNetflixにて第1話から第12話までの全世界独占先行配信がスタートしたアニメ『ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン』。同シリーズは原作者の荒木飛呂彦氏が大の洋楽好きとあって、これまでも洋楽ツウを唸らせる楽曲がエンディングテーマに選ばれてきた。イエスの「Roundabout」、ザ・バングルスの「Walk Like an Egyptian」、パット・メセニー・グループの「Last Train Home」、サベージ・ガーデンの「I Want You」、ジョデシィの「Freek’n You」、エニグマの「Modern Crusaders」……。

ジャンルも年代も様々だが、どれも各物語の世界観にぴたりとハマり、オンエア後にはそれぞれのCD売上やサブスクの再生回数が劇的に伸びたものだった。よって、今作では誰のどの曲が使われるのか、洋楽好きからも注目されていたわけだが、果たして今回起用されたのはイギリスのシンガー・ソングライター、ダフィーの「Distant Dreamer」。2008年に世界11ヵ国で1位を獲得した大ヒット・アルバム『Rockferry』の最後に収められていた味わい深いバラードである。

2008年リリースということは、いまから13年前。当時よく聴いたというひとも、初めて聴くひともいるだろうが、楽曲そのものと音の質が1960年代にイギリスで生まれたノーザン・ソウルの雰囲気を持つもので、初めて聴いたひとであってもどこか懐かしい感覚が呼び起こされるに違いない。

“ダスティ・スプリングフィールドのような極上の苦悩と、シャーリー・バッシーを彷彿とさせる派手な引力、そしてエイミー・ワインハウスを思わせる官能をひとつにした、一度聴いたら絶対に忘れられない声”

これはダフィーのデビュー時にロンドンの夕刊紙「イヴニング・スタンダード」に載った評だが、概ねダフィーのシンガー像を捉えていると言える。補足するなら、ダフィーの歌声は物憂げでありながら情熱が含まれていて、官能を秘めてはいるが同時に純粋であることの強さを感じさせるものでもあった。

その魅力的なビタースウィート・ヴォイスと、60年代にタイムスリップしたかのようにレトロな雰囲気に満ちたソウル・サウンドが理想的に合わさり、2008年リリースのデビュー盤『Rockferry』はこの年UKで最も売れたアルバムに。ブリット・アウォーズでは4部門にノミネートされ、「ベスト・アルバム」を含む3部門で賞を獲得。アメリカでも成功し、グラミー賞では3部門にノミネートされたうち、「ベスト・ポップ・ヴォーカル・アルバム」を受賞した。

Duffy – Warwick Avenue (Live at The BRIT Awards, 2009)

 

本人の言葉で振り返るダフィーの経歴

では、ダフィーとはどんなアーティストで、どのようにして『Rockferry』という傑作が生まれたのか。筆者は『Rockferry』国内盤の発売前にロンドンで対面取材したので、そのときの彼女の言葉を用いながら書いていくとしよう。

ダフィー(本名:Aimee Anne Duffy)は1984年6月23日、英・北ウェールズはグイニッズの漁村ネヴィン(Nefyn)で双子の姉妹の妹として生まれた。10歳のときに両親が離婚すると南西ウェールズのペンブルークシャーに移り住むことになったが、ダフィーはネヴィンでの穏やかな田舎暮らしが人格形成において大きかったと振り返った。

「私はレコード屋もスタバもない環境で、世の中の流行に無関心なまま育った。生まれ育ったネヴィンという村では、クールでいることなんて重要じゃなかった。そもそもクールとはどういうことなのかもよくわからなかった。あたたかな人たちのいる環境で育ち、ただ“いい人生を送る”ことに関心を持っていた。そういう人生観はいまの自分にも残っていて、音楽にもなんらかの形で反映されていると思う」

チェスターの短大に進学し、週に1度はクラブで歌うようになったダフィーは、その後短大を中退してウェールズ語のEPを録音。その頃にラフ・トレード・レーベルの創始者であるジャネット・リーに認められ、ジャネットはダフィーの指導者兼マネージャーになった。ジャネットはダフィーの才能を伸ばせるであろう何人かを彼女に紹介。そのうちのひとりが90年代にスウェードというバンドのギタリストとして活躍したバーナード・バトラーで、バーナードはまずダフィーと共に、アルバムの表題曲となる「Rockferry」を書いた。この曲について、ダフィーはこう話していた。

「“Rockferry”ができた瞬間に、“私の音楽が始まった!”って実感できた。歌詞の内容もあの頃の自分を投影したものだった。ウェールズの田舎からロンドンに出てきて、ボーイフレンドとも別れ、自分の人生の間違いを切り捨て、私は大人になろうとしていた。アルバムの制作は私がいろんなことを学んで成長するための過程であったわけで、“Rockferry”はそのことを象徴している曲」

Duffy – Rockferry

 

大ヒットしたデビュー・アルバム

そんな「Rockferry」は本国UKで先行シングルとして発表され、人々にダフィーの世界観を最初に印象付けた曲。そして、その曲の持つムードがアルバム全体を覆うドリーミーで映像的なサウンドを呼び込むこととなった。つまり、その曲を共作してプロデュースも手掛けたバーナード・バトラーこそがダフィーを成功に導いたキー・パーソンであり、アルバムではほかに「Serious」「Syrup & Honey」、そして『ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン』で流れている「Distant Dreamer」を共作&プロデュースした。

だが、彼女を世界的に有名にした大ヒット・シングルは、バーナードではなくスティーヴ・ブッカー(ナタリー・インブルーリア、シュガーベイブスほか)が曲を書いてプロデュースした「Mercy」だった。日本でもFMラジオ局で頻繁に流れていたこの曲は、実はアルバム『Rockferry』を完成させるための最後の1ピース(最後に書かれた曲)であり、落ち着いたスロー曲ばかりが並ぶアルバムにおいての唯一のダンスナンバーだった。

Duffy – Mercy (Live at Café de Paris, 2010)

 

エイミー、ダフィー、アデル

60年代的な鍵盤音に「イエー・イエー・イエー」という覚えやすいフレーズが乗って始まるキャッチーなこの曲は、その約1年半前に世に出てヒットしたエイミー・ワインハウスの「Rehab」(こちらは「ノー・ノー・ノー」だ)の路線を行くものでもあり、一部のメディアはエイミーとダフィーを「レトロソウルの歌姫」として一括りにした。

また、いまや大歌手としての地位を完全に築いたアデルのデビュー・アルバム『19』が出たのが『Rockferry』と同じ2008年(『Rockferry』の2カ月前)で、エイミー・ワインハウスによって火のついたレトロな趣のある英国産フィメール・ソウルがダフィーとアデルの登場で大きな潮流になったと、そんなふうにも言われていた。そのことについて言葉を求めると、ダフィーはこう話したものだ。

「レトロというと“以前あったもの”の再現といったニュアンスになるけど、自分のやっているのは私にとっての現代的な音楽であり、こういう音楽をやること自体がエキサイティングで革新的なこと。だから、そうね、レトロと言わずにノスタルジックと言われたほうが、趣味がいい感じがする」

「そもそも私は自分をソウルのシンガーだとも思ってない」

『Rockferry』はダフィーが19歳のときに制作がスタートし、述べたようにバーナード・バトラーがベースとなる世界観をダフィーと共に作り上げ、その後ジミー・ホガース(コリーヌ・ベイリー・レイ、ジェイムス・ブラントほか)、エグ・ホワイト(デュア・リパ、カイリー・ミノーグほか)、スティーヴ・ブッカーとも共作しながら3年半以上かけて完成させたアルバムだった。それはウェールズの漁村で育った純粋な女の子が、音楽で生きていくことを決意し、アーティストとして確固たる個性を築き、夢と希望を持って自身の未来を見つめていた、そういう作品でもあった。

そしてバーナード・バトラーとの共作による「Distant Dreamer」は先にも書いた通り、そのアルバムの最後に収められていたバラード曲。アルバム1曲目の「Rockferry」が彼女の自伝的な歌詞だとするなら、最後の「Distant Dreamer」は“頭のなかは希望でいっぱい。私は遥か遠くの夢を追いかけるドリーマー”というふうに常に未来を見ている自分を歌った曲だった。

 

活動休止

ダフィーは2009年3月に日本公演を行なった後、2010年の暮れにはアルバート・ハモンドを共作者及びプロデューサーに迎えた2ndアルバム『Endlessly』を発表。本国UKではチャート9位を記録したが、ポップ性の増したそのアルバムは『Rockferry』ほどの世界観の統一はなく、日本盤は発売されなかった。そして翌2011年、彼女は突然、音楽活動の無期限休止を発表した。何故だろう?と当時は不思議だったのだが、理由は昨年(2020年)、彼女自身がSNSで明らかにした。レイプ被害に遭い、心に重い傷を負ったのだ。

エイミー・ワインハウスは27歳で他界したが、死後もカリスマ性が衰えることはなく、残した作品は今も聴かれ続けている。アデルは先頃6年ぶりのアルバムを発表し、英米共に初登場1位を獲得するなど絶好調だ。そんななかダフィーは10年ちょっと前の辛い事件から活動をストップせざるをえなくなり、長い間孤独な日々を過ごしたわけだが(現在は回復に向かっているとのこと)、13年前に大ヒットしたアルバム『Rockferry』がUKの音楽史~ソウルポップ史のなかで極めて重要な作品であることをもう一度我々は認識し直す必要があるし、国外でも絶大な人気を持つアニメ『ジョジョの奇妙な冒険』のエンディングテーマ起用がそのきっかけになれば彼女も救われるかもしれない。

「人生が大変になっても、もう十分だと思っても、私は遠くの星に希望を持ち続ける」

コロナ禍でまだ先の見え辛い2021年の暮れ、ダフィーの魅力的な声でそう歌われる「Distant Dreamer」が、13年前よりもっと深く心に沁みる。

Written By 内本順一



ダフィー『Rockferry』
2008年3月3日発売
iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music


(c)LUCKY LAND COMMUNICATIONS集英社・ジョジョの奇妙な冒険SO製作委員会

アニメ「ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン」情報

2021年12月1日よりNetflixにて第1話~第12話まで 全世界独占先行配信開始

<放送情報>
2022年1月7日よりテレビ放送開始予定
TOKYO MX:毎週金曜 24:30 ~
MBS:毎週金曜 26:55 ~
BS11:毎週金曜 24:30 ~

2022年1月22日(土)よりテレビ放送開始予定
アニマックス:毎週土曜 20:00~

アニメ「ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン」公式サイト

https://jojo-portal.com/anime/so/





 

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